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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

猫ひっかき病

Cat scratch disease

別名
Cat scratch feverCSD
臓器系
感染症全身
科目
PathologyHistopathologyENT
トピック
病理学 C/4:骨髄・リンパ系の非腫瘍性疾患組織病理 H1-013:結核性リンパ節炎病理学 A/34:慢性炎症の病態機序と分類(臓器別例)耳鼻咽喉科 47:頸部腫脹の鑑別診断
鑑別疾患
トキソプラズマ症リンパ腫化膿性リンパ節炎結核
関連疾患
細菌性血管腫症
治療薬
アジスロマイシンドキシサイクリン
原因微生物
Bartonella henselae
症状
発熱リンパ節腫脹丘疹

🧠 全体像は、*Bartonella henselae*が子ネコのひっかき傷・咬傷(ノミが媒介)から接種され、数日で局所の丘疹を作り、1〜3週間かけて所属リンパ節へ登っていくという一本の時間軸で理解する疾患である。核心は宿主の細胞性免疫が病像を丸ごと入れ替えることにあり、免疫正常者では菌はリンパ節で堰き止められ壊死性膿瘍)として自然に治るが、免疫不全者では菌自身が血管内皮の増殖を促すというまったく別の疾患に姿を変える。病理では、中心がせず好中球を主体とする点でと、単一クローンの細胞が節構造を置換しない点でリンパ腫と鑑別する。

病態

flowchart TD
    A["子ネコのひっかき傷・咬傷<br>(ネコノミが媒介)"] --> B["数日で接種部に丘疹"]
    B --> C["1〜3週間で所属リンパ節へ"]
    C --> D["宿主の細胞性免疫は保たれているか"]
    D -->|"保たれている(大半)"| E["リンパ節内に封じ込め<br>壊死性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulomatous lymphadenitis'>肉芽腫性リンパ節炎</span>"]
    D -->|"破綻している<br>(進行したHIV感染症など)"| F["血管内皮の増殖を促す<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacillary angiomatosis'>細菌性血管腫症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Peliosis hepatis'>肝紫斑病</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stellate'>星芒状</span>膿瘍<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comedo necrosis'>中心壊死</span>+好中球、非乾酪性)"]
    G --> H["数週間〜数か月で自然軽快"]

B. henselaeは子ネコに好んで菌血症を起こす細胞内のグラム陰性桿菌で、ネコノミCtenocephalides felis)がネコ間の伝播を担う。ヒトへは引っかき傷・咬傷にノミの糞が紛れ込むことで感染し、接種部に丘疹(水疱・膿疱のこともある)が出た後、1〜2週間で所属リンパ節腫脹が出現する1。腋窩・部・頸部のリンパ節が好発部位で、これは前腕・手のひっかき傷が多いことと対応する。

リンパ節の組織像は経過とともに変化する。初期はにとどまるが、進行するとに縁取られたが形成される——これが「壊死性」と呼ばれる所以である。壊死巣の中心には好中球が主体でし、)でこの壊死巣の中に菌塊が可視化される。

鑑別:リンパ節腫大を来す疾患との違い

リンパ節腫大という共通の見た目のため、はリンパ腫・・化膿性リンパ節炎との鑑別が実務上の問題になる2。壊死の性質と炎症細胞の主役、そして有痛性か無痛性かが鑑別の手がかりになる。

疾患 壊死の性質 炎症・浸潤の主役 手がかり
非乾酪性壊死 好中球(壊死巣中心)+(周囲) ネコの引っかき傷歴、1〜3週の、多くは腋窩・頸部の腫大
結核性リンパ節炎 (細胞輪郭を失った好酸性・壊死) +リンパ球 結核曝露歴、緩徐な増大、・培養陽性
リンパ腫 壊死は目立たないことが多い 単一クローンの細胞が節構造を置換 進行性・無痛性、B症状(発熱・・体重減少)、生検で腫瘍性増殖
明らかな壊死を伴わないことが多い 反応性の+単核球様細胞浸潤 後頸部の無痛性リンパ節腫大、緩徐な経過、単核球様細胞が特徴的
化膿性リンパ節炎 化膿性壊死(膿瘍形成) 好中球主体の 有痛性で発赤・熱感を伴う急性経過、波動を触れることがある

⚠️ 臨床像だけで3者を区別しきれない例では、リンパ節生検が必要になるは曝露歴・血清学・臨床経過で診断がつくことが多く生検は必須ではないが、悪性腫瘍が否定できない場合や結核が疑われる場合は断へ進む。

臨床像

  • 免疫正常者では、接種部の丘疹に続き、腋窩・頸部・鼡径部などの所属リンパ節が有痛性に腫大する。軽度の発熱感を伴うことがある。
  • 90〜95%は無治療で2〜4か月以内に自然軽快するである1

免疫不全者では病像がまったく別物になる。 進行したHIV感染症などT細胞性免疫が破綻した宿主では、菌をリンパ節に封じ込められず、菌自身が血管内皮の産生を刺激して(皮膚の隆起性血管増殖性病変、との鑑別を要する)や(肝・脾の)という進行性の病態に姿を変える。これらは自然軽快せず、長期の抗菌薬治療を要する点でも免疫正常者のと対極にある。

⚠️ 非定型病型を見逃さない。

非定型病型 特徴
Parinaud 眼への直接接種(目をこすった手にネコの分泌物が付着など)による片側性+同側としては最も頻度が高い2
肝脾の 発熱+肝脾腫、画像で多発する低吸収域の
と黄斑部の滲出斑
明らかなリンパ節腫脹を欠き、発熱の原因検索の過程で診断される

最大14%の患者がこのような肝・脾・眼・中枢神経への播種を来す2

診断

  • 血液培養はの高さからにはほぼ陰性となるため、診断の中心は血清学(IgGである。IgGが1:64未満なら現症の可能性は低く、1:64〜1:256はで再検査を要し、1:256を超えれば活動性・最近の感染を強く示唆する2
  • リンパ節・皮膚病変からのPCRも診断に用いられる1
  • リンパ節生検はリンパ腫・結核など悪性腫瘍や他のを除外する必要がある場合に行い、壊死性の所見とでの菌体確認が診断を支持する。

治療

  1. 免疫正常者の局所リンパ節炎は自然軽快するであり、多くは経過観察でよい。アジスロマイシン5日間投与はリンパ節の疼痛・腫大をやや早く軽減させるが、全体を短縮する効果は実証されていない1
  2. 化膿・のリンパ節は、を避けるためではなくを選ぶ。
  3. 眼・肝脾・中枢神経への播種例、あるいは重篤な全身症状を伴う例では、抗菌薬治療(アジスロマイシンなど)を積極的に行う2
  4. 免疫不全者のは自然軽快しないため治療の位置づけが異なるドキシサイクリンまたはアジスロマイシンによる数週間〜数か月の長期治療を要する。

まとめ

  • B. henselaeによる、子ネコのひっかき傷(ノミが媒介)から接種部の丘疹→1〜3週での所属リンパ節腫脹というをたどる疾患である。
  • 病理は非乾酪性の壊死性で、+Langhans巨細胞の、節構造を置換する単一クローン増殖のリンパ腫と鑑別する。
  • 免疫正常者では90〜95%が自然軽快し抗菌薬の効果は限定的だが、免疫不全者ではというまったく別の進行性病態に姿を変える——この宿主による二分が診療の軸である。
  • Parinaud、肝脾炎、といった非定型病型を伴うことがあり、最大14%が主要臓器・眼・中枢神経へ播種する。
  • 診断は血清IgGとPCRが中心で、悪性腫瘍・結核が否定できない場合にのみ生検へ進む。

出典

  1. 1.Cat Scratch Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)免疫正常者の猫ひっかき病は接種部の丘疹が出た後1〜2週間で所属リンパ節腫脹をきたすこと(Pathophysiology節)、90〜95%が2〜4か月で自然軽快すること(Prognosis節)、アジスロマイシン5日間投与でリンパ節の疼痛・腫大は軽減するが罹病期間全体の短縮は実証されていないこと(Treatment節)、非定型病型としてParinaud眼腺症候群・神経網膜炎・肝脾病変・脳症を来しうること(History and Physical・Complications節)、免疫不全宿主では細菌性血管腫症・肝紫斑病という血管増殖性病変に姿を変えること(Pathophysiology・Complications節)、診断は血清抗体検査・PCRが中心であること(Evaluation節)を確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Cat-scratch Disease(American Family Physician・2011)血清IgG抗体価が1:64未満なら現症の可能性は低く、1:64〜1:256は判定不能で再検査を要し、1:256を超えれば活動性・最近の感染を強く示唆すること(Diagnostic Testing節)、鑑別診断の表にリンパ腫・白血病などの悪性腫瘍と非結核性抗酸菌性リンパ節炎を挙げていること(Table 1)、最大14%の患者が肝・脾・眼・中枢神経へ播種すること(Treatment節)、Parinaud眼腺症候群が眼病変として最も頻度が高いこと(Clinical Presentation節)を確認した。閲覧 2026-08-11