疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 肝胆膵 · 疾患

肝紫斑病

Peliosis hepatis

臓器系
肝胆膵感染症
科目
Pathology
トピック
病理学 C/46:肝の循環障害
関連疾患
細菌性血管腫症
治療薬
ドキシサイクリンエリスロマイシン
原因薬剤
オキシメトロンダナゾール
原因微生物
Bartonella henselae
症状
肝腫大腹痛黄疸腹水

🧠 全体像:は、肝のが拡張し血液で満たされたの空間ができるという一つの組織像に、まったく系統の違う2つの原因が収束する病態である。一つはBartonella henselaeによる感染性のもの(の肝への進展)で、免疫不全者に生じ抗菌薬で治る。もう一つはなどアンドロゲンによる薬剤性のもので、原因薬を中止することで軽快する。多くは無症候性で発見されるが、⚠️ によるという致死的な合併症を起こしうる点は共通している。

病態——「類洞が拡張して血液で満たされる」

の病理学的本質は、のが拡張し、血液で満たされたの空間(1mm未満〜数mmの径)がに散在することである1。病態生理は完全には解明されていないが、いくつかの説がある。

  • 傷害説:喫煙などによる()形成がを傷害し、産生阻害を介して血管拡張の調節が破綻する。
  • 炎症説:自己免疫・外傷・薬剤・悪性腫瘍の浸潤が炎症細胞・の放出を招く。
  • 枯渇説:上皮壁のが破壊され、毒性の蓄積を許してしまう1。

💡 「原因は違っても行き着く組織像は同じ」という構図が、やと共通する。 という一つの構造が、感染・薬剤・悪性腫瘍・自己免疫など複数の経路からの負荷を受け止めきれなくなったときに、同じ「拡張」という終着点に至る。

原因——感染性と薬剤性を軸に整理する

原因は多岐にわたり特発性が最多だが、臨床上とくに重要なのは次の2系統である。

系統 原因 機序・背景
感染性 Bartonella henselae(まれにB. quintana) 進行した感染など者に生じる。菌が血管内皮の産生を刺激し、皮膚では、肝・脾ではというを作る2
薬剤性 アンドロゲン(・などの)、経口避妊薬、、、メトトレキサート、 でも肝初回通過を免れるためのというそのものが肝毒性の温床になる3

その他、結核・自体、腎移植後などの移植、、悪性腫瘍の浸潤、自己免疫疾患、X連鎖性ミオチュブラーなどの遺伝性疾患とも関連が報告されている。既知の関連疾患を持つ患者でのは0.2〜22%とされ、性差はなく成人に多いが小児にもみられる1。

⚠️ 感染性と薬剤性は治療の方向性が正反対である。 感染性は抗菌薬を「足す」ことで治療し、薬剤性は原因薬を「引く」ことで治療する。バルトネラ曝露歴(ペット、とくに子ネコとの接触)と・など原因薬の使用歴の両方を必ずする。

症状

多くは無症候性で、腹部画像検査や剖検で発見される1。症候性の場合は次のような所見がありうる。

⚠️ 最も重篤な合併症はによる・肝破裂である。 無症候性のまま経過することが多いだけに、突然ので発見されることがある1。

診断

超音波が初期評価に用いられ、懸念される所見があれば次の選択肢は生検となる1。・では病変内部の血液貯留を反映して・信号強度が不均一な領域として描出される1。

⚠️ 生検自体が出血のリスクを伴う。 血液で満たされた拡張を穿刺することになるため、他の腫瘤性病変(・など)との鑑別で生検が必要になる場合も、出血リスクを念頭に慎重に適応を判断する。

治療

系統 治療
またはドキシサイクリンによる抗菌薬治療で軽快する21
薬剤性(など) 原因薬の中止、またはであれば他剤への変更1

⭐ どちらの系統も、原因への対応だけで自然に退縮しうる。 手術(・塞栓術)はによる大量出血など生命を脅かす合併症を来した場合に限られる。

予後

多くの患者は生涯にわたり無症状のまま経過するが、まれに門脈圧亢進関連の合併症またはにより生命を脅かす転帰をとる1。感染性・薬剤性のいずれも、原因を除去すれば多くは可逆的である。

まとめ

  • は肝のが拡張し血液で満たされたの空間ができる病態で、多くは無症候性のまま発見される。
  • 原因は感染性(Bartonella henselaeによる、免疫不全者のの肝への進展)と薬剤性(などアンドロゲン、経口避妊薬、など)の2系統を軸に整理する。
  • ⚠️ 最も重篤な合併症はによる・肝破裂で、無症候性の経過の中で突然起こりうる。
  • 治療は感染性なら抗菌薬(・ドキシサイクリン)、薬剤性なら原因薬の中止で、いずれも原因への対応だけで自然に退縮しうる。

出典

  1. 1.Peliosis Hepatis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)肝紫斑病が肝の類洞が拡張して毛細血管床の充血と血液で満たされた肝内囊胞を来す血管疾患であること、病態生理として類洞内皮細胞傷害(喫煙による遊離基形成が一酸化窒素産生を阻害し血管拡張障害を来すとする説)・自己免疫や外傷や薬剤や悪性腫瘍浸潤による炎症性サイトカイン放出・グルタチオン枯渇による上皮壁完全性の破壊などの説があること、原因が薬剤性(6-メルカプトプリン、アザチオプリン、メトトレキサート、タモキシフェン)・感染性(結核、HIV、Bacillus感染。バルトネラ肝紫斑病はペットへの曝露歴で疑う)・血液疾患・移植(とくに腎移植後)・悪性腫瘍・自己免疫疾患・X連鎖性ミオチュブラーミオパチーなど多岐にわたり特発性が最多であること、既知の関連疾患を持つ患者での有病率が0.2〜22%で性差なく成人に多いが小児にもみられること、多くは無症候性で腹部画像検査や剖検で偶然発見されること、症候性では右上腹部痛・黄疸・門脈圧亢進所見を来しうること、重篤な合併症として腹腔内出血・肝破裂があること、超音波が初期評価に用いられ懸念所見があれば生検が次の選択肢になること、CT/MRIでは低吸収域と高吸収域が交互する所見や血液貯留を示す所見がみられること、治療が原因薬剤の中止または免疫抑制薬の変更であり、Bacillus性肝紫斑病は適切な条件下での抗菌薬治療に反応すること、多くの患者は生涯無症状のままだが稀に門脈圧亢進関連合併症または腹腔内出血により生命を脅かす転帰をとることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Bacillary Angiomatosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Bartonella henselaeが肝・脾の肝紫斑病(peliosis)を起こすこと、原因菌がBartonella henselaeまたはBartonella quintanaであること、治療の第一選択がマクロライド(エリスロマイシン)またはドキシサイクリンでHIV患者ではCD4数が200/µLを超えた状態が6か月以上持続するまで治療を継続すべきことを確認した。閲覧 2026-08-12
  3. 3.ANADROL-50 (oxymetholone) tablets, for oral use — prescribing information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed)・2012)17α-アルキル化アンドロゲンであるオキシメトロンの米国添付文書の警告に肝紫斑病(peliosis hepatis、肝・脾組織が血液で満たされた嚢胞に置換される病態)・良性/悪性の肝腫瘍が挙げられ、低用量でも胆汁うっ滞性黄疸が起こりうるため定期的な肝機能検査が推奨されることを確認した。閲覧 2026-09-06