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Symptoms · Published

腹水

Ascites

臓器系
消化器
科目
Pathology
トピック
病理学 C/41:虫垂・腹膜の病理病理学 C/46:肝の循環障害病理学 C/50:肝硬変病理 C/51:肝腫瘍・腫瘍様病変
関連疾患
Meigs症候群肝転移癌性腹膜炎拘束型心筋症多中心性Castleman病蛋白漏出性胃腸症門脈圧亢進症
スコア
GELF基準IOTAモデル悪性リスク指数(RMI)

🧠 全体像:腹水の原因を最も精度よく分けるのは「タンパク濃度が高いか低いか()」ではなく、血清と腹水のアルブミン、SAAG)である。SAAGが1.1 g/dL以上なら門脈圧亢進が背景にあり、未満なら門脈圧亢進以外(腫瘍性・炎症性・膵性など)を考える。この1本の軸だけで、肝硬変からがん性腹膜炎まで大半の鑑別が整理できる。

定義と用語の整理

腹水は腹腔内への異常な液体貯留で、〔fluid wave〕)で検出できるのはおおむね1500 mL以上、超音波では100 mL程度から検出できる。数リットルに達すると腹部の著明な膨満を来す。

⚠️ 古典的な「(タンパク低値・非炎症性)/滲出液(タンパク高値・炎症性)」というは、腹水の原因鑑別では精度が低い(正診率は約55%程度にとどまるとされる)。門脈圧亢進でも高タンパクの腹水を来すことがあり、タンパク濃度だけでは肝硬変とを確実に区別できない。現在はSAAGが正本とされる。

SAAG( − 腹水アルブミン) 意味 代表疾患
1.1 g/dL以上(高勾配) 門脈圧亢進 肝硬変心不全、広範な
1.1 g/dL未満(低勾配) 門脈圧亢進以外

病態生理

門脈圧亢進による腹水は、単なる「圧の高さ」だけでは説明できない。が中心的な機序として広く受け入れられている。

flowchart TD
    A["門脈圧亢進<br>肝硬変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Budd-Chiari syndrome'>Budd-Chiari症候群</span>等"] --> B["内臓の動脈血管拡張<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitric oxide, NO'>一酸化窒素</span>が主因"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effective circulating blood volume'>有効循環血液量</span>の相対的な低下"]
    C --> D["レニン-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin'>アンジオテンシン</span>-アルドステロン系<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antidiuretic hormone, ADH'>抗利尿ホルモン</span>の活性化"]
    D --> E["腎でのNa⁺・水の貯留"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased hydrostatic pressure'>静水圧上昇</span>"]
    F --> G["リンパ産生の増加が<br>吸収能を超える"]
    E --> H["腹水"]
    G --> H

💡 肝硬変ではによるの低下も加わり腹水を助長する。ただし腹水の管理はNa制限・利尿薬という「腎でのNa貯留を止める」介入が中心で、アルブミン低下そのものをに補正する意義は限定的である。

低SAAGの腹水は機序が異なり、腹膜面からの滲出()や、膵液・リンパ液の直接的な腹腔内漏出(〔chylous ascites〕)が主体になる。

緊急・見逃してはいけない疾患

⚠️ :外科的に処置すべき原因がないまま腹水に感染が生じる、肝硬変患者にほぼ限定した病態。腹水好中球数250/µL以上で診断し、を待たず経験的抗菌薬を開始する。発熱・腹痛が乏しくても、の徴候があればを行う()。

⚠️ との鑑別:消化管穿孔などによるはSBPと違い外科的が必須で、抗菌薬だけでは救命できない。腹水の多菌種培養・著明な高タンパク・高LDH・低グルコースはSBPでは説明できず、を疑う所見になる(腹膜炎)。

⚠️ 急速な悪化・血性腹水:短期間での急激な腹水の増悪や血性腹水は、の破裂・進行や悪性腫瘍の進展を示唆する。

⚠️ 腹水による:大量腹水が横隔膜を挙上させ、呼吸困難を来すことがある。この場合は原因の鑑別を待たずを検討する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["新規発症の腹水"] --> B["超音波で確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnostic paracentesis'>診断的腹腔穿刺</span><br>SAAG・細胞数・培養・総蛋白を採取"]
    C --> D{"腹水好中球数250/µL以上か"}
    D -->|"はい"| E["感染を疑い経験的抗菌薬<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary peritonitis'>二次性腹膜炎</span>を除外"]
    D -->|"いいえ"| F{"SAAGは1.1 g/dL以上か"}
    F -->|"高勾配"| G["肝疾患・心疾患を検索<br>肝機能、心エコー"]
    F -->|"低勾配"| H["悪性腫瘍・結核・膵疾患を検索<br>細胞診、腹部CT、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amylase'>アミラーゼ</span>"]

対症療法の考え方

門脈圧亢進による腹水は、原因治療(、抗ウイルス療法など)と並行して、腹水そのものへの対症療法が重要な位置を占める。

  1. Na制限+利尿薬:軽度〜中等度の腹水はの併用(比率およそ100:40で開始)が第一選択。
  2. 腹水やの腹水に対して行う。5L以上除去する場合はアルブミン投与(除去1Lあたり6〜8g)でを予防する。
  3. への対応:利尿薬に反応しない、または副作用(腎障害・電解質異常)で増量できない場合は、)やの適応を検討する。

⚠️ 腹水の管理だけを進めて、背景にある肝疾患・心疾患の原因治療を後回しにしない。対症療法は症状緩和であって、疾患そのものの進行を止めるものではない。

まとめ

  • 腹水の鑑別はSAAG()を軸にする。1.1 g/dL以上は門脈圧亢進、未満はそれ以外。
  • 古典的な/滲出液のはSAAGに比べて精度が低く、現在は正本とされない。
  • 門脈圧亢進による腹水は末梢動脈血管拡張→低下→Na・という機序で成立する。
  • は腹水好中球数250/µL以上で診断し、培養を待たず治療する。との鑑別(外科的処置の要否)を誤らない。
  • 対症療法はNa制限・利尿薬が第一選択、・難治性にはアルブミン併用の、さらにを検討する。