疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 肝胆膵 · 病態

結節性再生性過形成

Nodular regenerative hyperplasia

別名
肝結節性再生性過形成NRH
臓器系
肝胆膵消化器
科目
PathologyTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
病理学 C/46:肝の循環障害病態生理学 II-4:肝機能障害(2)病理学 C/51:肝腫瘍・腫瘍様病変
鑑別疾患
肝硬変肝類洞閉塞症候群
続発疾患
門脈圧亢進症
原因薬剤
オキサリプラチンアザチオプリン6-チオグアニントラスツズマブ・エムタンシン
症状
脾腫静脈瘤出血腹水
検査値
血小板数

🧠 全体像:は、肝硬変ではないのに門脈圧亢進が起こる代表的な病態である。を作らないまま、の肝細胞領域と萎縮・されたが交代するが生じ、閉塞したがより上流に抵抗を作ることでの門脈圧亢進が成立する。⚠️ 「線維化がない」ことこそが本質なので、線維化を前提にした肝硬変の診断ロジック(硬度測定・血小板と組み合わせた非侵襲的診断)は当てにならず、を含むが診断の鍵になる。もう一つの顔として、のや後ので見つかり、生涯なにも起こさない例が相当数ある。臨床像は「門脈圧亢進の原因」と「無害な組織学的付随所見」の両極に分かれる。

定義と、名前の位置づけ

(NRH)は、有意な線維化を伴わない肝のと定義される組織学的病変である1。より細かくは、を伴わずに、の肝細胞領域と萎縮・されたが交代する実質の変化を指す2。

⚠️ これは「疾患名」というより「組織所見の名前」である。 歴史的に、・・といった語と並んで、肝硬変によらない門脈圧亢進を指す用語として使われてきた2。2019年、VALDIG(Vascular Liver Disease Interest Group)は「」の語を porto-sinusoidal vascular disorder(PSVD、門脈・血管疾患) へ置き換えることを提案し、でみられる3つの主要組織所見——・・——を1つの枠組みにまとめた1。

⭐ PSVDの枠組みが持つ最大の意義は、「門脈圧亢進の有無を問わない」点にある。 同じ組織学的異常が門脈圧亢進を伴わない患者にも観察されるため、圧亢進の有無ではなく病変そのもので定義し直した3。が「門脈圧亢進の原因」にも「無症候の付随所見」にもなりうるという臨床像の二面性は、この定義の変更に正確に対応している。

用語 何を指すか
(NRH) 線維化を伴わないという組織所見
の閉塞という組織所見
未完成のという組織所見
PSVD 上の3所見を含む・の血管病変を束ねる枠組み。診断にが不可欠3
(INCPH) PSVDに置き換えられつつある旧来の呼称。門脈圧亢進を要件に含む

💡 自施設82例の検討では、PSVDの他の2つの主要病変(・)は同定されなかった1。3所見が常に同居するわけではなく、は単独で存在しうる。

病態:線維化なしに門脈圧が上がる仕組み

主要なと考えられているのは閉塞性の門脈である。が閉塞すると、下流の領域が限局的に虚血に陥って萎縮し、灌流が保たれた領域がに過形成を起こす。この不均一な灌流が「過形成の結節と萎縮したの交代」という組織像を生み、の閉塞そのものがより上流の抵抗を作り(=)、これにによる周囲実質のが重なる2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal venule'>門脈細静脈</span>の閉塞(閉塞性門脈<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microangiopathy'>微小血管障害</span>)"] --> B["下流領域の限局性虚血"]
    B --> C["虚血領域の肝細胞が萎縮"]
    B --> D["灌流が保たれた領域が代償性に過形成"]
    C --> E["過形成結節と萎縮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>された<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocyte cords'>肝細胞索</span>が交代する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='micronodular transformation'>微小結節性変化</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous septa'>線維性隔壁</span>を伴わない)"]
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal venule'>門脈細静脈</span>の閉塞が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>より上流に抵抗を作る"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presinusoidal'>類洞前性</span>の門脈圧亢進"]
    G --> H["脾腫・血小板減少・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophagogastric varices'>食道胃静脈瘤</span>・腹水"]

⭐ であることがに表れる。 肝硬変では抵抗の上昇がに生じるため(HVPG)が門脈圧の上昇をよく反映するが、閉塞がより上流にある本症ではHVPGは軽度上昇にとどまる2。82例の検討でもHVPGの平均は7±4 mmHgであった1。⚠️ HVPGが低いことを「門脈圧亢進がない」と読み替えない。 静脈瘤や脾腫が明らかなのにHVPGが伸びないという組み合わせ自体が、の病態を示唆する手がかりになる。

肝機能は通常保たれる2。これも肝硬変と大きく違う点で、分類のようなの指標ではが測れない。

⚠️ 肝類洞閉塞症候群との書き分け

チオプリン系薬剤の肝毒性として2つが並記されるため混同しやすいが、障害の起点もも別物である。

(SOS/VOD)
傷害の起点 の閉塞(門脈側の微小血管) zone 3の
門脈圧亢進の階層
主な発症状況 長期の薬剤曝露、自己免疫疾患、などを背景に緩徐に成立 の直後(典型は3週間以内)
典型的な臨床像 ・脾腫・血小板減少で気づく。肝機能は保たれる 体重増加・・の3徴
時間軸 慢性 急性

⚠️ の長期は両方を起こしうる。 「6-TGの肝毒性=VOD/SOSと」と並べて覚えたうえで、目の前の患者がどちらの経過をとっているかは急性か慢性かで分ける。SOSの詳細はに譲る。

頻度と背景疾患

⭐ 剖検では2〜3%に見つかるありふれた所見で、そのほとんどは生前に何も起こしていない。 Wanlessの連続剖検2,500例では2.6%に認められたが、生前にがあったのは1例のみであった。日本での577例の剖検肝の検討では2.1%に認められ、生前にを有した例はなかった1。

背景となる病態は多岐にわたり、共通の病因は明らかでない1。

群 具体例
薬剤・毒物 ・などのチオプリン系、、、、、、クロラムブシル、、、の2
免疫不全 感染、2
自己免疫疾患 関節リウマチ、、2
(・・)、、2
消化管疾患 セリアック病、2
その他 嚢胞性線維症、、、臓器移植後の免疫抑制21

⭐ 実際の症例集積では、薬剤が圧倒的に多い。 82例のうち関連病態として最多だったのは・による治療(56%)で、が最も多く13例(28%)が大腸癌に対する療法の既往を持っていた(他に7例、メトトレキサート4例、後の11例)1。⚠️ 既往の13例のうち12例は偶発的に診断されており、多くは臨床的に問題を起こしていない1。

なおの肝毒性としても報告がある。

背景疾患の側から見た頻度としては、インドの患者の1%、イタリアの患者の4%にINCPHが報告されている2。

臨床像

臨床像は「臨床的疑いから診断される群」と「偶発的に診断される群」の2つに大きく分かれる。

82例では、門脈圧亢進の臨床徴候が1つ以上あったのは37例(45%)、まったくの偶発的な診断が27例(33%)であった。偶発例の多くはに対する(15例)や後の(9例)で見つかっている1。診断時の所見は脾腫37%、血小板減少28%、28%、腹水19%であった1。

⭐ 成人早期にで発症するのが古典的な像で、血小板減少と脾腫のために血液内科へ紹介されてから肝疾患が判明することもまれでない2。腹水は消化管出血や感染に続発する一過性の現象として生じることが多く、の肝性脳症を1回以上経験するのは約7〜8%で、大きなと関連する2。は高頻度の合併症である2。

⚠️ 予後は「肝以外」で決まることが多い。 82例の5年肝関連死亡率は5%だったのに対し、5年非肝関連死亡率は20%であった1。偶発診断群は臨床的疑いから診断された群より関連病態を持つ割合が高く(93%対66%、p=0.008)、それでいて肝関併症が少なかった(4%対27%、p=0.01)1。この非対称は、背景疾患のために画像・生検を受ける機会が多い患者ほど無症候のうちに拾われる、という選択の反映として読むのが自然である。

診断:生検とレチクリン染色

⚠️ 診断にはが要る。 PSVDの診断においては不可欠であり3、INCPHが臨床的に疑われた時点でも診断確定にはが必須とされる2。

⭐ さらに重要なのは、HE染色だけでは見逃されることである。 はしばしば軽微な変化で、によって明瞭になる2。Wanlessのスコアリングはこの点をそのまま段階に組み込んでいる1。

Wanlessスコア 所見
0 結節なし
1 で結節を認めるが不明瞭
2 で結節を認め、時に明瞭
3 HE染色で結節が明瞭に見える

⚠️ 「を出していない生検でがなかった」は、否定の根拠にならない。 グレード1〜2の病変はHE染色では見えない。実際の症例集積でもHE染色・・CK7免疫染色を併せて評価している1。

診断の全体像としては、肝硬変・・アルコール性および・・・・などを除外し、画像で門脈・の開存を確認したうえで、生検へ進む2。⚠️ これらの肝疾患やはPSVDに併存しうるため、「他の原因が見つかった=本症ではない」と短絡せず、それぞれの肝障害への寄与を評価する3。画像所見や肝・などの非侵襲的検査は補助として役立つ3。

治療

本症そのものを消退させる治療は確立しておらず、方針は次の3本立てになる。

  • 背景疾患・への対応:関連する薬剤の中止や背景疾患の治療を検討する。
  • 門脈圧亢進の合併症の管理:静脈瘤のスクリーニングと出血予防・止血、腹水の管理は・の管理に準じる。⚠️ 肝機能が保たれていることを「軽症」と読み替えない。 はこの病態の最初の現れ方そのものであり、が良好でも管理を要する。
  • 経過観察:偶発的に見つかり門脈圧亢進の徴候がない例では、肝関併症のが低い1。⚠️ ただし無症候例のを追った研究は乏しく、どの間隔でどこまで追うべきかの根拠は現時点で確立していない。

まとめ

  • は、を伴わずに肝細胞領域と萎縮・されたが交代するで、肝硬変ではないのに門脈圧亢進を起こす代表的な病態である。
  • 機序は閉塞性の門脈による不均一な灌流で、閉塞したがより上流に抵抗を作りの門脈圧亢進を生む。HVPGは軽度上昇にとどまり、肝機能は保たれる。
  • ⚠️ 傷害が起点で・急性経過をとるとは別物。は両方を起こしうるので、急性か慢性かで分ける。
  • 2019年以降、・とともにPSVD(門脈・血管疾患)という枠組みに含められた。PSVDは門脈圧亢進の有無を問わずに定義される。
  • 剖検で2.1〜2.6%に見つかり、その大半は生前無症候。背景は薬剤(・チオプリン系が代表)、免疫不全、自己免疫疾患、など多岐にわたる。
  • 臨床像は「・脾腫・血小板減少で発見される群」と「や移植後で見つかる群」に二分され、後者は肝関併症が少ない(4%対27%)。5年肝関連死亡率5%に対し非肝関連死亡率は20%で、予後は背景疾患が決めることが多い。
  • ⭐ 診断はで、が要る。 グレード1〜2の病変はHE染色では見えず、を出していない生検では否定できない。

出典

  1. 1.Nodular Regenerative Hyperplasia: Report of 82 Patients and Systematic Review of Literature(United European Gastroenterology Journal(Kaze E, Baldin P, Piessevaux H, Dahlqvist G)・2024)全文をPMC(PMC11652323)で閲覧して確認した。結節性再生性過形成が「有意な線維化を伴わない肝の微小結節性変化」と定義される組織学的病変であること、連続剖検シリーズでの頻度が2.1〜2.6%であること(Wanlessの2,500例で2.6%・そのうち生前に食道静脈瘤があったのは1例のみ、Nakamuraの日本での577例で2.1%・生前に食道静脈瘤を有した例はなし)、2019年にVALDIGが「特発性門脈圧亢進症」の語をporto-sinusoidal vascular disease(のちにdisorder, PSVD)へ置き換え、特発性門脈圧亢進症でみられる3つの主要組織所見(結節性再生性過形成・閉塞性門脈血管障害・不完全隔壁線維化)を1つの枠組みにまとめたことを提案したこと、診断にHE染色・レチクリン染色・CK7免疫染色を用いWanlessスコア(0:なし、1:レチクリン染色で結節はあるが不明瞭、2:レチクリン染色で時に明瞭、3:HE染色で明瞭)で評価すること、自施設82例(診断時平均58±14歳)のうち門脈圧亢進の臨床徴候が1つ以上あったのは37例(45%)、偶発的な診断が27例(33%)で偶発例の多くは転移巣に対する肝切除(15例)や肝移植後のプロトコル生検(9例)であったこと、5年肝関連死亡率5%・5年非肝関連死亡率20%であったこと、偶発診断例は臨床的疑いから診断された例より関連病態を持つ割合が高く(93%対66%、p=0.008)肝関連合併症が少なかったこと(4%対27%、p=0.01)、関連病態の最多が免疫抑制薬・抗腫瘍薬による治療(56%)でオキサリプラチンが最も多く13例(28%)がFOLFOX既往であったこと(他にアザチオプリン7例・メトトレキサート4例・肝移植後の免疫抑制薬11例)、診断時に脾腫37%・血小板減少28%・食道静脈瘤28%・腹水19%を認めたこと、肝静脈圧較差の平均が7±4 mmHg(44例)であったこと、自施設例ではPSVDの他の2つの主要病変(閉塞性門脈血管障害・不完全隔壁線維化)が同定されなかったことを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Idiopathic noncirrhotic portal hypertension: current perspectives(Hepatic Medicine: Evidence and Research(Riggio O, Gioia S, Pentassuglio I, Nicoletti V, Valente M, d'Amati G)・2016)全文をPMC(PMC4968980)で閲覧して確認した。特発性非肝硬変性門脈圧亢進症(INCPH)の語が肝門脈硬化症・特発性門脈圧亢進症・不完全隔壁性肝硬変・結節性再生性過形成といった用語を置き換えるものとして提案されたこと、INCPHが**類洞前性**の門脈圧亢進であり門脈・肝静脈が開存し肝硬変の臨床的・組織学的徴候を欠くこと、肝機能は通常保たれ肝静脈圧較差は類洞前性であることに対応して軽度上昇にとどまること、結節性再生性過形成が「線維性隔壁を伴わずに過形成性肝細胞領域と萎縮・圧排された肝細胞索が交代する実質の微小結節性変化」と定義されしばしば軽微でレチクリン染色で明瞭になること、閉塞性の門脈微小血管障害が主要な発症機序でありこれが限局性の虚血性肝障害を介して肝の結節性過形成を生じさせると考えられていること、多くの患者が成人早期に門脈圧亢進の合併症(通常は静脈瘤出血)で発症すること、血小板減少と脾腫のため血液内科へ紹介されることがまれでないこと、腹水は消化管出血や感染に続発する一過性の現象として生じることが多いこと、顕性肝性脳症を1回以上経験するのは約7〜8%で大きな門脈大循環短絡と関連すること、門脈血栓症が高頻度の合併症であること、INCPHが臨床的に疑われた時点で診断確定には肝生検が必須であること、関連疾患としてHIV感染・原発性抗体欠乏症候群・嚢胞性線維症・Turner症候群・骨髄増殖性疾患・リンパ増殖性疾患・関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・全身性硬化症・セリアック病・炎症性腸疾患・血栓性素因が挙げられること、薬剤・毒物としてアザチオプリン・6-チオグアニン・Fowler液のヒ素・オキサリプラチン・ブスルファン・シタラビン・シクロホスファミド・ブレオマイシン・クロラムブシル・ドキソルビシン・カルムスチンが挙げられていること、INCPHの頻度がインドのHIV患者の1%・イタリアの原発性免疫不全患者の4%と報告されていることを確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Porto-sinusoidal vascular disorder(Journal of Hepatology(De Gottardi A, Sempoux C, Berzigotti A)・2022)門脈圧亢進が肝硬変なしに生じうることは確立しており免疫異常・感染症・血栓性素因の患者で報告されてきたが、類洞および門脈域の血管を主に侵す同様の組織学的異常が門脈圧亢進を伴わない患者でも観察されるため、門脈圧亢進の有無を問わず門脈細静脈と類洞を侵す病変群を指してporto-sinusoidal vascular disorder(PSVD)の語が導入されたこと、PSVDの診断に肝生検が不可欠であること、特異的な組織所見が結節性再生性過形成・閉塞性門脈血管障害/門脈狭窄・不完全隔壁線維化/肝硬変であること、アルコール関連および非アルコール性脂肪性肝疾患・ウイルス性肝炎・門脈血栓症がPSVD患者に併存しうるためそれぞれの肝障害への寄与を慎重に評価すべきこと、組織診断と臨床診断基準に加えて画像所見や肝・脾硬度測定などの非侵襲的検査が診断の助けになりうることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03