病態生理学

病態生理学 · 2-4

肝機能障害(2)

Liver dysfunction (2)

応用トピック
肝疾患の皮膚症状急性肝不全と肝性脳症代謝性意識障害肝疾患 症例2肝疾患 症例3肝疾患 症例4肝疾患 症例5
疾患
肝硬変急性肝不全結節性再生性過形成門脈圧亢進症
症状
クモ状血管腫手掌紅斑
スコア
Child-Pugh分類

🧠 肝不全は、肝細胞量のな喪失率ではなく、合成・解毒・代謝機能が生命維持に不足した臨床状態である。 症状は機能喪失からできる:解毒障害と→脳症、合成能低下→凝固系異常、胆汁排泄低下→黄疸、肝硬変による血流障害→。は専門施設で緊急評価し、では原因治療と合併症管理を行いながら移植適応を評価する。

肝不全の捉え方

  • :既知の肝硬変がない患者に、一般に発症26週以内の、INR 1.5以上の凝固異常、肝性脳症を来す。発症速度と原因で経過・予後が大きく異なる。
  • :肝硬変を基盤に、腹水、、などのを来す。感染などを契機にし、へ進み得る。

肝不全の症状(機能喪失から逆算)

flowchart TD
  LF["肝不全・進行肝硬変"] --> PH["1. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal hypertension'>門脈圧亢進症</span><br>CSPHはHVPG 10 mmHg以上"]
  PH --> AS["腹水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portosystemic shunts'>門脈体循環シャント</span>・脾腫・胃<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal varices'>食道静脈瘤</span>"]
  LF --> IC["2. 黄疸(ビリルビン↑)"]
  LF --> CO["3. 再均衡した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemostatic system'>止血系</span>の破綻<br>出血と血栓の両リスク"]
  LF --> HE["4. 肝性脳症<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurotoxin'>神経毒</span>・炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portosystemic shunts'>門脈体循環シャント</span>"]
  LF --> HR["5. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hepatorenal syndrome'>肝腎症候群</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>↓)"]
  LF --> EN["6. 内分泌(エストロゲン↑→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spider angioma'>クモ状血管腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gynecomastia'>女性化乳房</span>(gynecomastia))"]

1. 門脈圧亢進症

  • (HVPG)が5 mmHg超なら、10 mmHg以上なら(CSPH)である。リスクは一般に12 mmHgを超えると高まり、()後の12 mmHg未満は再出血抑制の血行動態目標となる。病因によってHVPGが門脈圧を過小評価し得る。
    • 原因:
      • ()
      • :
      • 肝性/肝硬変(最多)
    • 機序: では収縮、、NO低下などで抵抗が上がる一方、では血管拡張が進み、が低下する。
    • 症状:
      • 腹水(↑+↓)
      • :胃は大量出血源となり、腹壁はとして見える。
      • 脾腫/

2–6

  • 黄疸: ↑(溶血、取込み/抱合↓)/抱合型↑(分泌↓、)。
  • 異常: との両方が変化し、止血は再均衡する。延長だけで出血リスクを判定せず、出血と血栓の両方に注意する。
  • 肝性脳症: 解毒障害とを背景に、感染、消化管出血、便秘、脱水、電解質異常、鎮静薬などを契機としてから昏睡まで来し得る。⚠️ アンモニア高値だけで診断・重症度判定をしない(臨床診断であり、値と症状の重症度は必ずしも相関しない)。治療の中心は誘因の同定・除去であり、薬物治療はが第一選択、反復例には再発予防としてを追加する。
  • (HRS-AKI): 💡 現行はAKIのに基づく「HRS-AKI」という枠組みで捉え、旧来の1型・2型という語は、のに応じてHRS-AKI・HRS-AKD・HRS-へ置き換えられた。2024年の国際腹水クラブ(ICA)とADQIの合同基準では、肝硬変と腹水を背景にAKIを来し(の上昇、または)、臨床的に必要なら適切な容量補充を行っても24時間以内に改善せず、ショック、、閉塞、などAKIの主因として別の説明を強く示す根拠がない場合に診断する。や既存のがあってもHRS-AKIは起こりうる。⚠️ 同合同基準は、診断の要件としてアルブミンを48時間系統的に投与することに反対している——が正常か過剰な患者ではを招き、の開始も遅らせるためである。診断後は(第一選択の)+アルブミンを直ちに開始し、を評価する1。
  • 内分泌: エストロゲン代謝障害(男性)→ 、、。

急性肝不全

  • 原因:
  • に凝固異常と肝性脳症を来し、発症から脳症までの時間は数日から数週まで幅がある。症状・所見は以下を含む。
    • 悪心・嘔吐
    • 重度黄疸
    • 脳症
  • → 移植。

慢性肝不全

  • 原因:
    • 慢性/
    • ()
  • 早期無症状 → 進行で:
    • HCC
    • 敗血症
  • 肝硬変:
    • 構造喪失
  • 分類・評価:Child-PughとMELDは目的が異なる(下記参照)。

肝硬変の主要合併症と管理

⭐ の肝硬変では、どの合併症もまず誘因を探して除去することが治療の土台であり、個々の薬物治療はその上に乗る。

腹水

  • 塩分制限と利尿薬(+の併用)が基本で、体重・電解質・腎機能をみながら調整する。
  • ⚠️ 5 Lを超える(LVP)では、アルブミンを補充する。 用量は米国AASLD 2021が1 Lあたり6〜8 g()2、欧州 2018が1 Lあたり8 gとしている3。補充を怠ると、穿刺による急激な低下()からや低Na血症を誘発し得る。
  • ⚠️ ではを避ける。 でが低下し、腎不全や消化管出血のリスクが上がるためである。
  • 反復・はと評価の対象になる。

特発性細菌性腹膜炎(SBP)

  • (SBP)は、腸内細菌がを越えて腹水へ移行するが本態で、外科的に処置すべき(穿孔・膿瘍など)がないのがとの違いである。
  • ⚠️ 診断は腹水好中球数250/μL以上で行い、を待たずに経験的抗菌薬(など)を開始する。培養が陰性でも好中球数が基準を満たせば同様に治療する4。
  • ⚠️ 腎障害の高リスク例(1 mg/dL超・ 30 mg/dL超・4 mg/dL超のいずれか)ではアルブミンを併用する4。用量は、この適応を確立したにならい診断日に1.5 g/kg、3日目に1.0 g/kgとする。同試験では抗菌薬単独と比べが33%→10%、が29%→10%へ低下した5。を維持し、への進展を防ぐことが機序である。低リスク例へのルーチン投与は推奨されない。
  • ⚠️ 既往例には再発率が高いため、キノロン系(など)によるを行う4。

食道静脈瘤

  • ⚠️ 出血予防()は(・など)または(EVL)のいずれかで行う6。
  • ⚠️ 時は、内視鏡の結果を待たずに(・など)を開始し、緊急、そして予防的抗菌薬(経口またはセフトリアキソン静注)を併用する。 この抗菌薬は単なる感染予防ではなく、そのものを下げる治療である6。
  • ()は+EVLの併用が基本。詳細はを参照。

肝細胞癌のサーベイランス

Child-PughとMELDは目的が違う

指標 何を測るか 主な用途
Child-Pugh ビリルビン・アルブミン・・腹水・脳症の5項目でをA/B/Cに分類 やの概括評価。腹水・脳症の評価に主観性がある
MELD(3.0) ビリルビン・・クレアチニン・Naなどから算出する連続スコア の優先順位付けと短期死亡リスクの予測

💡 両者は目的が異なるため、片方だけで代用できない。は「今どれだけ肝臓が保たれているか」、MELDは「移植をどれだけ急ぐべきか」を表す指標である。

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患

  • ()は、に1つ以上の心代謝危険因子を伴い、量や他の明らかな病因に該当しない病態である。旧称、炎症性病型の旧称NASHは、それぞれ、代謝機能障害関連(MASH)へ更新された。インスリン抵抗性、脂肪酸負荷、、などが相互作用し、MASH、線維化、肝硬変、へ進行し得る。

代謝性肝疾患

疾患 特徴
鉄蓄積 → 肝硬変・糖尿病・・・。=→ROS→線維化
(両の2つのアレルがともに発現し、重症欠損はZZなど欠損アレル2つの組合せで起こる)8;α1-AT↓ → 機能不全蛋白蓄積 → 肺気腫+肝(肝炎→肝硬変→)。PiMM/PiZZ
AR、ATP7B変異()→ 肝炎・肝不全、神経症状、

まとめ

症候 機序 管理の要点
抵抗の上昇と。HVPG 10 mmHg以上がCSPH 腹水・静脈瘤・脾腫の原因になる
腹水 ↑+↓ 塩分制限+・。5 L超のLVPではアルブミンを補充。を避ける
SBP 腸内細菌の腹水への移行 腹水好中球数250/μL以上で培養を待たず抗菌薬。高リスク例はアルブミン併用。既往例は
はまたはEVL。は+緊急内視鏡+予防的抗菌薬
肝性脳症 解毒障害+シャント 誘因の除去が先。が第一選択、反復例にを追加。アンモニア値だけで診断しない
(HRS-AKI) の低下 容量補充後24時間で改善しなければ診断。48時間のアルブミン投与を診断の要件にしない。+アルブミンと移植評価
異常 との両方が変化し再均衡 だけで出血リスクを判定しない
内分泌 エストロゲン代謝障害 ・・
  • は、肝硬変の無い患者のに 1.5以上の凝固異常と肝性脳症を伴う病態で、専門施設で緊急に評価する。
  • はの概括評価、MELD は移植の優先順位と短期死亡予測で、目的が違う。
  • 肝硬変では6か月ごとの超音波(±)でを行う。

出典

  1. 1.Acute kidney injury in patients with cirrhosis: Acute Disease Quality Initiative (ADQI) and International Club of Ascites (ICA) joint multidisciplinary consensus meeting(Journal of Hepatology・2024)全文(PMC11193657のHTML)で確認した。HRS-AKIの新しい診断基準を、a) 腹水を伴う肝硬変、b) 48時間以内の血清クレアチニン0.3 mg/dL以上の上昇、または7日以内に基準値から50%以上の上昇、および/または尿量0.5 mL/kg/時以下が6時間以上、c) 臨床的に必要なら適切な容量補充を行ったうえで24時間以内に血清クレアチニン・尿量が改善しないこと、d) AKIの主因として別の説明を強く示す根拠がないこと、の4項目とする。診断の要件としてアルブミンを48時間系統的に投与することには反対を強く推奨し(grade D)、旧来のHRS 1型・2型の語をHRS-AKI・HRS-AKD・HRS-CKDへ置き換えることを強く推奨する(grade D)。尿細管障害・蛋白尿・既存のCKDがあってもHRS-AKIは起こりうるとする。診断が確定したら直ちに血管収縮薬(第一選択はテルリプレシン)を20〜25%アルブミンと併用して開始し(強い推奨、grade A)、選ばれた患者では血管収縮薬への反応によらず肝移植を根治治療として推奨する閲覧 2026-09-24
  2. 2.Diagnosis, Evaluation, and Management of Ascites, Spontaneous Bacterial Peritonitis and Hepatorenal Syndrome: 2021 Practice Guidance by the American Association for the Study of Liver Diseases(Hepatology(American Association for the Study of Liver Diseases)・2021)誌上版の全文(journals.lww.com 掲載ページのWayback Machine保存版)で確認した。大量腹水穿刺(LVP)を便宜的に5 L超の穿刺と定義し、5 L超のLVPでは穿刺後循環不全の予防にアルブミン投与を推奨すること、その用量は専門家意見に基づき排液1 Lあたり6〜8 gであること、1回の穿刺で8 Lを超えると穿刺後循環不全のリスクが上がりうることを述べている。本ガイダンスには2024年と2025年に正誤表が出ているが、その内容は確認していない閲覧 2026-09-24
  3. 3.EASL Clinical Practice Guidelines for the management of patients with decompensated cirrhosis(European Association for the Study of the Liver・2018)KU Leuvenの機関リポジトリ(Lirias)にあるPDFで確認した。5 Lを超える大量腹水穿刺では排液1 Lあたり8 gのアルブミンで循環血漿量を補うよう推奨し(I;1)、他の血漿増量剤はこの場面では推奨しないとしていること。5 L未満の穿刺では穿刺後循環不全のリスクは低いとしつつ、代替の血漿増量剤への懸念からこうした患者にもアルブミンを用いるのが一般的な合意だとしていること(III;1)閲覧 2026-09-24
  4. 4.Spontaneous Bacterial Peritonitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)SBPの診断基準(腹水好中球数250/μL以上、培養結果を待たず経験的抗菌薬を開始)と、アルブミン併用の適応基準(血清クレアチニン1 mg/dL超・BUN 30 mg/dL超・総ビリルビン4 mg/dL超のいずれか)、既往例へのノルフロキサシン等による二次予防を確認した。なお本文にアルブミンの投与量の記載はない(用量は sort-albumin-sbp-1999 を参照)。閲覧 2026-08-14
  5. 5.Effect of intravenous albumin on renal impairment and mortality in patients with cirrhosis and spontaneous bacterial peritonitis(New England Journal of Medicine・1999)肝硬変+SBPの126例のRCTで、セフォタキシムに加えて診断時に体重1 kgあたり1.5 gのアルブミンを、3日目に1 kgあたり1 gを静注する群では、腎機能障害が33%→10%、院内死亡が29%→10%、3か月死亡が41%→22%へ低下したことを確認した(本文の「診断日1.5 g/kg、3日目1.0 g/kg」の出典)。閲覧 2026-08-14
  6. 6.Esophageal Varices(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)食道静脈瘤の一次予防(非選択的β遮断薬またはEVL)と、急性出血時に血管作動薬+緊急内視鏡+予防的抗菌薬を併用することを確認した。閲覧 2026-08-14
  7. 7.AASLD Practice Guidance on prevention, diagnosis, and treatment of hepatocellular carcinoma(American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD)・2023)肝硬変などのハイリスク集団に対するHCCサーベイランスの間隔(6か月ごとの超音波±AFP)を確認した。閲覧 2026-08-14
  8. 8.Hereditary alpha-1-antitrypsin deficiency and its clinical consequences(Orphanet Journal of Rare Diseases・2008)全文(PMC2441617)で、父母由来の両アレルがともに検出されるため遺伝形式を共優性(codominant)と呼ぶこと、重症欠損の大多数はPI ZZ型であることを確認した。閲覧 2026-09-24