病態生理学

病態生理学 · P-2-6

肝疾患 症例3

Liver disease, Case 3

前提:病態
肝機能障害(1)肝機能障害(2)

🧠 全体像: 眼球のとの強い掻痒で受診した21歳女性。鍵は 714・ 960 U/Lのパターン+抱合型優位の、・・・・陰性で薬物・渡航・性的接触なし・飲酒ごく少量、ANA 1:160、生検のリンパ球・ の組み合わせで、を最も疑う。ただしIgGが測られておらず、生検にも・ロゼット形成の記載が無いので、IAIHG簡易スコアではまだprobable(6点以上)にも届かない。確定にはIgGの測定が要る。

症例提示

21歳の女子学生。大学から帰宅した際に眼球のへ気づき、すぐにGPを受診した。数日前から皮膚のにも気づいていたが、アレルギーのせいだと自己判断していた。訴えはの強い掻痒のみで、他の症状はない。GPは血液・尿検査を依頼した。

:

  • 身長: 171 cm
  • 体重: 58 kg
  • icterus
  • に
  • 腹部は軟で、異常所見や圧痛なし

検査 — 血液:

  • 総bilirubin: 143 μmol/L
  • direct bilirubin: 130 μmol/L
  • AST: 714 U/L
  • ALT: 960 U/L
  • GGT: 201 U
  • albumin 36 g/L
  • PTT: 36.7 s (21.5-34.0 s)

尿:

  • UBG: 高値
  • bilirubin: 陽性

腹部超音波: 異常所見なし

追加では、直近数週間に性的接触なし、薬物使用なし、海外渡航なし、食生活の変化なし、飲酒はごく少量であった。普段は健康的で活動的な生活を送っていると述べた。

: に、好酸球、形質細胞を認める。内にも炎症細胞を認める。と線維化が散在しており、を示唆する。

血清学:

  • CMV: 陰性
  • EBV: 陰性
  • HAV: 陰性
  • HBV: 陰性
  • HCV: 陰性
  • ANA(antinuclear antibody)1:160(80超で異常)

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
714、 960 U/L 著明なで、(肝炎)パターン
総bilirubin 143、direct 130 µmol/L、尿bilirubin陽性、UBG上昇 由来の抱合bilirubin優位高bilirubin血症
1:160(異常) 自己抗体陽性(簡易スコアでは1:80以上なので2点)でを示唆。ただし確定診断は自己抗体単独では行わず、IAIHG簡易スコアのようにIgG()値と所見、の除外を組み合わせて評価する。本症例はIgG値の記載がなく、組織も「典型的」とまでは言えないので、確定にはIgG測定を追加する必要がある1
, , , , すべて陰性 を原因から除外
“性的接触なし、薬物なし、渡航なし、飲酒最小限” 感染性・・アルコール性の原因を支持しない
生検: “のリンパ球/好酸球/” 形質細胞を含むの炎症はに矛盾しない。ただし簡易スコアで「典型的」(2点)とするには、(から小葉へ進展するリンパ球・)・emperipolesis・ロゼット形成がそろう必要があり23、本例の記載にはこれらが無いので「AIHに矛盾しない」(1点)にとどまる。AIHにな組織所見は無く、形質細胞は約3分の1の症例で乏しいか見られず、好酸球もみられうる1。なお2022年の国際AIH病理グループの合意は、emperipolesis とロゼットをAIHに特異的とはみなさず、の性肝炎と軽度を超えるインターフェース活動・小葉炎などで「AIHの可能性が高い」とする別の組織基準を示している(簡易スコアの点数づけは2008年の定義のまま)4
“と線維化”、PTT 36.7 s(軽度延長)、albumin 36 g/L 障害が持続し、線維化が進みつつあることを示す。肝の合成能はふつう/とアルブミンで評価するが、本例は/の記載がなく、PTT()の軽度延長とアルブミンが基準下限付近であることから合成能低下の程度までは言えない

要点整理

  • 診断: 。
  • 障害パターン: 著明なを伴う + 抱合高bilirubin血症。
  • 支持所見: 陽性、生検でののリンパ球・、ウイルス。ただし標準的な診断確度の評価(IAIHG簡易スコア)は・IgG・組織・の除外の4項目の合計で行い2、組織が「矛盾しない」にとどまる本症例では、IgGが未測定のままだと点数が足りない。
    • 本例を簡易スコアに当てはめると: 1:160(2点)+組織は「矛盾しない」(1点)+の除外(2点)=5点で、IgG未測定のままでは probable(6点以上)に届かない。IgGがを超えれば6点(probable)、の1.10倍を超えれば7点(definite)になる1。
  • の根拠: 生活歴と血清学から、ウイルス性・・の可能性は低い。
  • 病態生理: T細胞介在のが肝細胞を攻撃し、慢性炎症から壊死・進行性線維化へ至る。
  • 背景: 若年女性。は女性に多い(男女比3.6対1)5。本人が皮膚のを「アレルギーのせい」と自己判断していたという記載は、アレルギー素因の存在を示すものではない。

出典

  1. 1.Pathology of autoimmune hepatitis(Pathologica・2021)全文(PMC8299324)で確認した。Table I がIAIHG簡易スコア(Hennesらの原著を改変)を転記しており、ANAまたはSMA 1:40以上で1点・1:80以上で2点(抗LKM 1:40以上・抗SLA陽性も2点、自己抗体の合計は最大2点)、IgGは基準上限超で1点・基準上限の1.10倍超で2点、組織は「AIHに矛盾しない」1点・「典型的」2点(肝炎の所見があることが前提)、ウイルス性肝炎の除外で2点、合計6点以上でprobable・7点以上でdefiniteとしている。本文は、AIHに疾患特異的な形態所見は無いこと、門脈域の炎症はリンパ球主体で形質細胞の量はさまざまであり好酸球・好中球もみられうること、形質細胞は典型的とされるが約3分の1の症例では乏しいか見られず診断に十分でも必要でもないことを述べている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Accuracy of the 2008 Simplified Criteria for the Diagnosis of Autoimmune Hepatitis in Children(Pediatric Gastroenterology, Hepatology & Nutrition・2018)IAIHG簡易スコアは自己抗体価・IgG・組織所見・ウイルス肝炎マーカー陰性の4項目(合計最大8点)で構成され、probable基準6点・definite基準7点というカットオフをもつこと。全文(PMC5915689)のTable 1脚注で、組織の「AIHに矛盾しない」はtypicalの所見をすべては満たさないリンパ球浸潤を伴う慢性肝炎像、「typical」はインターフェース肝炎、門脈域から小葉へ進展するリンパ球・リンパ形質細胞浸潤、emperipolesis、ロゼット形成であることを確認した(配点表の本体は画像)。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Evaluation of Histological Criteria and Immunoserological Testing of Simplified Criteria for the Diagnosis of Autoimmune Hepatitis(The Turkish Journal of Gastroenterology・2025)組織所見「typical」の判定基準は、門脈域を越えて実質へ進展するインターフェース肝炎、形質細胞浸潤、rosette形成・emperipolesisであり、これらは自己免疫性肝炎の生検所見として特徴的とされること(ただしrosette・emperipolesisは薬剤性肝障害など他疾患でも一定頻度で見られ特異度は限定的)。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Consensus recommendations for histological criteria of autoimmune hepatitis from the International AIH Pathology Group(Liver International・2022)抄録(Europe PMC)で確認した。国際AIH病理グループの17人の肝病理医が修正デルファイ法で合意した組織基準で、門脈域優位のリンパ形質細胞性肝炎に軽度を超えるインターフェース活動や小葉炎があり他疾患を示す所見が無ければ「AIHの可能性が高い」とし、急性発症に多い小葉優位の肝炎も条件付きで含めた。emperipolesis と肝細胞ロゼットはAIHに特異的とはみなさないとしている。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Autoimmune Hepatitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Last Update: August 14, 2023 の版をWayback保存(2026年6月取得)で確認した。自己免疫性肝炎は女性に多く男女比3.6対1で、1型の75%は若年〜中年の女性に発症すると述べている。閲覧 2026-09-24