微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · ウイルス

Hepatitis A virus

A型肝炎ウイルス

分類
ピコルナウイルス / Picornaviruses
性状
エンベロープなし Naked(+)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/34: Hepatitis viruses: A, E3/35: Hepatitis viruses: B, C, D, G
原因となる疾患
ウイルス性肝炎急性肝不全

🧠 全体像:は「糞口感染・急性のみ・慢性化しない」という1本の軸で読み切れるウイルスである。口から入り、肝臓で増えたウイルスは胆汁を介して再び便へ戻る——感染源も排出先も消化管という閉じたループを描く。この経路の性質上、感染は自然に1か月ほどでし、B型・C型・D型肝炎ウイルスのような慢性化・肝硬変・への進展は起こらない。もう一つの軸は分類——に属し、A・B・C・Dと同じ酸耐性・糞口感染の性質を持ちながら、標的を腸管ではなく肝臓だけに絞る点がこの科の中でも独特である。

微生物学的な特徴

項目 内容
分類 ssRNA、エンベロープなし(naked)、。の一員——一般的な性状はA・B・C・Dを参照
酸耐性 酸に——胃酸を通過できる
増殖の様式 肝細胞・内でを伴わず増殖する——この点が他のと異なり、直接的なよりも後述の免疫応答が症状の主体になる

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["経口摂取(汚染水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shellfish'>貝類</span>)"] --> B["咽頭・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelium'>腸管上皮</span>を貫通"]
    B --> C["血流経由で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic parenchyma'>肝実質</span>へ"]
    C --> D["肝細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kupffer cells'>クッパー細胞</span>内で増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytolysis'>細胞溶解</span>を伴わない)"]
    D --> E["宿主の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell-mediated immune response'>細胞性免疫応答</span>が<br>感染肝細胞を攻撃"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular injury'>肝細胞傷害</span>・黄疸"]
    D --> G["新生<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ウイルス粒子</span>が胆汁中へ放出"]
    G --> H["便中に大量排出<br>→水・食物を再汚染"]

💡 A型肝炎の肝障害はウイルスそのものではなくが主体。 ウイルス自体は肝細胞を直接壊さずに増殖するため、黄疸やの多くは感染細胞を排除しようとする宿主のの結果である——このため症状の強さは必ずしもウイルス量と一致しない。

感染経路と疫学

  • 糞口感染:便中に排出されたウイルスが食物・水を汚染するか、感染者との直接接触で伝播する1
    • 低・中所得国では水系・食品汚染により幼少期の感染がほぼ全員に及ぶ——小児の90%が10歳までに感染している1
    • 高所得国では生・加熱不十分な二枚貝などの食品由来の集団発生が古典的な感染源だが、米国で2016年以降に起きたな増加は食品由来ではなくヒト-ヒト伝播による広域で、薬物使用者・ホームレス状態の人が中心だった2
  • 流行地への渡航者での感染が多い(衛生水準の低い地域への渡航)
  • 家庭内・保育施設など濃厚接触での小規模流行も起こる
  • 世界では2023年に35,569人がA型肝炎で死亡し、ウイルス肝炎による死亡の2.6%を占めた1

⭐ 「先進国=」で止めると、いま現場で起きている流行を取り違える。 食品由来の集団発生は依然として起こるが、高所得国の近年の流行の主体は人から人への糞口感染であり、対策の重点はワクチン接種と衛生環境の確保に移っている2。

起こす疾患

疾患 押さえどころ
(急性のみ) 曝露後約1か月で症状消退。6歳未満では多くが無症候だが、年齢が上がるほど重症度と死亡が高くなる1——成人は黄疸・肝脾腫・発熱・倦怠感・・を呈しやすい
稀だが起こりうる(劇症化率はE型の妊婦ほど高くない)

⭐ 感染は・を起こさない。 B型・C型・D型と違い、に移行することは確認されていない21。ただし有症状者の10〜15%には、最長6か月に及ぶ長期化型・型が起こる——「急性のみ」は「必ず短期間で終わる」という意味ではない2。

診断

  • +渡航歴・汚染源の摂取歴(生など)
  • 血清学:の検出——急性感染の指標。IgG抗体は既感染・ワクチン後の免疫を示す

治療と予防

  • 特異的な抗ウイルス治療はなく、自然軽快を待つ支持療法が基本1
  • 予防の中心は(筋注)。国際的に複数のが流通し、中国ではこれに加えても使える。1歳未満に承認されたワクチンは無い1
  • 米国では、12〜23か月児へのと、未接種の2〜18歳へのキャッチアップ接種が勧告されている。成人では、感染、男性間性交渉者、薬物使用者、ホームレス状態、渡航、流行時の曝露リスクなどが接種の対象になる2
  • 安全な飲料水の供給と汚水の適切な処理が基盤のである1

⚠️ 曝露後予防は「ワクチンか免疫グロブリンか」ではなく、年齢とリスクで組み合わせが決まる。 米国の勧告では次のように使い分ける。⚠️ いずれも「できるだけ早く、曝露から2週間以内」が条件で、時期を外すと効果が期待できない2。

対象 ワクチン 免疫グロブリン
12か月未満 接種しない(承認が無い) 0.1 mL/kg 筋注
12か月〜40歳・健常 1回接種 不要
40歳超・健常 1回接種 のリスク評価で必要と判断されれば0.1 mL/kg
12か月以上で免疫不全または 1回接種 0.1 mL/kg を同時に(別の部位へ)
ワクチンが禁忌 接種しない 0.1 mL/kg

💡 曝露後予防では2回目の接種は要らないが、長期免疫のためには結局2回打つ。 米国の表では曝露後予防に必要なのは1回で、長期免疫を得るには1回目から6か月以上あけて2回目を完了する2。

まとめ

  • はに属する(+)ssRNA・エンベロープなしのウイルスで、糞口感染により経口摂取後、でを伴わずに増殖し胆汁中へ排出される。
  • 肝障害の主体はウイルスの直接破壊ではなく宿主のである。
  • のみを起こし、慢性化・キャリア化は一切起こらない——B・C・D型肝炎ウイルスとの根本的な違いはここにある。
  • 診断はの血清学的検出、治療は自然軽快を待つ支持療法のみ。
  • 予防の中心はで、米国では12〜23か月児のと2〜18歳のキャッチアップが勧告されている2。曝露後予防はワクチンと免疫グロブリンを年齢・基礎疾患で使い分ける。安全な水と汚水処理も基盤のである1。

出典

  1. 1.Hepatitis A(WHO・2026)2026年7月28日更新版で、A型肝炎はB型・C型と違って慢性肝疾患を起こさないこと、特異的な抗ウイルス治療がなく支持療法が中心であること、重症度と死亡が高年齢層で高い一方6歳未満では多くが無症候であること、安全な飲料水の供給と汚水処理が予防の柱であること、不活化ワクチンが国際的に複数流通し中国には弱毒生ワクチンもあること、1歳未満に承認されたワクチンがないこと、2023年に世界で35,569人がA型肝炎で死亡しウイルス肝炎による死亡の2.6%を占めたこと、低・中所得国では小児の90%が10歳までに感染していることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Prevention of Hepatitis A Virus Infection in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) / CDC, MMWR Recommendations and Reports・2020)全文(PMC8631741)で、米国ACIPが12〜23か月児への定期接種と2〜18歳の未接種者へのキャッチアップ接種を勧告していること、2016年以降の米国の増加が汚染食品由来ではなく主にヒト-ヒト伝播による広域アウトブレイクであること、曝露後予防(Table 4)が12か月未満では免疫グロブリン0.1 mL/kgのみ・12か月〜40歳の健常者ではワクチン1回のみ・40歳超の健常者ではワクチン1回に加えて医師のリスク評価で必要と判断された場合に免疫グロブリン0.1 mL/kg(脚注§)・12か月以上で免疫不全または慢性肝疾患がある場合はワクチン1回と免疫グロブリンを別部位に同時投与(脚注¶)であること、曝露後予防としては2回目の接種は不要だが長期免疫のために1回目から6か月以上あけて2回目で接種を完了すべきこと(脚注†)、ワクチンも免疫グロブリンも「できるだけ早く、曝露から2週間以内」に投与すべきこと(本文および Table 2)、HAV感染が慢性感染を起こさない一方で有症状者の10〜15%に最長6か月の長期化型・再燃型が起こること、重症度が高齢・免疫不全・慢性肝疾患で上がることを確認した閲覧 2026-09-27