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Microbe Atlas · ウイルス

Hepatitis D virus

D型肝炎ウイルス

分類
デルタウイルス / Deltaviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(HBsAgを借用)環状(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/35: Hepatitis viruses: B, C, D, G5/28: Pathogens of hepatitis and their transmission, as well as their laboratory diagnosis
原因となる疾患
ウイルス性肝炎肝硬変急性肝不全
作用する薬剤
ブレビルチド

🧠 全体像:D型肝炎ウイルスは自分だけでは感染できない「」である。自前のエンベロープ蛋白を作る遺伝子を持たず、感染性粒子になるにはHepatitis B virusのHBsAgを外被として借りるしかない。したがってHDV感染は常に感染を前提とする——この一点から、感染様式が「」と「」の2通りしかないこと、B型肝炎ワクチンが予防になる場合とならない場合があること、治療が治療と切り離せないことが、すべて導かれる。肝炎ウイルスの中で最も重症化しやすい(は肝硬変・への進行が最も速いとされる)1。

微生物学的な特徴

項目 内容
ゲノム 環状の(−)。約1,700塩基とヒトに感染するウイルスで最小の部類。ゲノム自身が(を切断・連結する配列)をもつ2
自前の蛋白 のみ(大小2つの型)。はゲノムと結合して(リボ核蛋白)を作る。エンベロープ蛋白は持たない2
外被 Hepatitis B virusのHBsAgを借用する
分類上の扱い 単独では感染性粒子を作れないため長くとして扱われてきたが、現在はレルム Ribozyviria・コルミオウイルス科・(種名 Deltavirus italiense)に分類されている。レルムはの最で、コルミオウイルス科はウイロイドやその近縁の可動性遺伝因子に最も近縁とされる2

💡 「自分の殻を持たない」ことがこのウイルスのすべてを決めている。 ゲノムの複製自体は宿主のポリメラーゼを使って行えるので、HDVは肝細胞の中でなら増えることができる。しかし細胞から出て次の細胞・次の宿主へ移るには外被が要り、それをに依存する。増殖はできるが伝播できないというが、陰性の人ではHDV感染が成立しない理由である。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["HDV粒子(HBsAgを被る)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>由来のHBsAgがNTCPに結合<br>肝細胞へ侵入"]
    B --> C["宿主<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>ポリメラーゼでゲノムを複製"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delta antigen'>δ抗原</span>を産生"]
    D --> E{"HBsAgを供給する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>が同じ細胞にいるか"}
    E -->|"いる"| F["感染性粒子として放出<br>他の肝細胞・他の宿主へ伝播"]
    E -->|"いない"| G["粒子を作れず伝播が止まる"]
    C --> H["強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune-mediated'>免疫介在性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular injury'>肝細胞傷害</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Acute Hepatitis'>急性肝炎</span>の重症化・劇症化"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic hepatitis'>慢性肝炎</span>の急速な線維化"]

はウイルスの直接的なよりもの反応によるところが大きい。単独感染に比べて炎症が強く、肝硬変・への進行が速い。

⚠️ の評価は2025年に変わった。 国際がん研究機関は1993年(第59巻)の時点ではHDVを「ヒトへのを分類できない」Group 3としていたが、2025年6月の作業部会がGroup 1(ヒトに対してがある)へ格上げした。根拠はヒトでの証拠が「十分」と判断されたことで、起こす癌はである——感染者に限った15研究の作業部会自身ので、HDV感染はリスクの一貫した上昇(2.13、95%信頼区間1.57〜2.87)と関連していた3。

感染経路と疫学

  • 血液・体液を介した感染(と同じ経路):注射器の共用、汚染された、性的接触
  • 母子感染の頻度はより低い
  • 慢性感染者の約5%(推定1,200万人)がHDVにも感染している。モンゴル、モルドバ共和国、・中部アフリカの国々でが高い4
  • の2024年ガイドラインは、HBs抗原陽性者全員に抗HDV抗体検査を行うことを優先的な方法としている(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。全員の検査が難しい環境では、流行地出身者・進行した肝疾患のある人・患者・やC型肝炎の感染者・注射薬物使用者などを優先する1

感染の2つの型

この区別が予後と予防の両方を分ける最。

型 何が起きているか 経過
HBVとHDVに同時に感染する 重症のを起こし劇症化しうるが、が排除されればHDVも一緒に消えるため、慢性化は5%未満4
既ににしている人にHDVが後から加わる 供給源のが既に定着しているため70〜90%が慢性HDV感染へ移行し4、肝硬変・へ急速に進む

⚠️ B型肝炎ワクチンが守れるのはだけ。 ワクチンは感染そのものを防ぐので、に未感染の人ではHDVも成立しなくなる。しかし既ににしている人には無効で、この集団こそで最も重症化する。HDV自体のワクチンは存在しない。

起こす疾患

疾患 押さえどころ
肝炎ウイルスの中で最も重症化しやすい。急性期の劇症化リスクが高い
でを起こしうる
肝硬変 では線維化が急速に進む

診断

  • スクリーニング:HBs抗原陽性者に対して抗HDV抗体を測定する
  • 確認:抗体陽性ならHDV ()で活動性の感染(ウイルス血症)を確認する1
  • との区別:IgM型HBc抗体が鍵になる。では急性感染を示すIgM型HBc抗体が陽性、では慢性感染の像(IgG型HBc抗体陽性・IgM陰性)を背景にHDVが加わる
  • ⭐ 単独感染として経過を追っていた患者が急に増悪したら、HDVのを疑う。 安定していた慢性B型肝炎の急な悪化は典型的な提示のされ方である

治療と予防

  • :HBsAgが結合するのNTCPを阻害して肝細胞への侵入を止める。HDVを標的とする初の薬剤で、欧州では2020年に、2023年に通常承認を受けた(のある成人と3歳以上・体重10 kg以上の小児)5。米国では2026年5月22日に、肝硬変の無い、または代償性肝硬変の成人を対象としてされた(1日1回8.5 mgを皮下注射)。の根拠はHDV の低下と正常化という代替指標であり、臨床転帰の改善はまだ示されていない——承認の継続は検証試験での臨床的有用性の確認が条件になりうる6
  • ⚠️ を中止するとD型・B型肝炎が重症化してしうる(米国添付文書の)。中止後も少なくとも6か月は ・HDV を含めて肝機能を監視する6
  • ペグ:長く唯一の選択肢として適応外で使われてきたが1、完全なウイルス学的反応は約20〜30%にとどまり4、副作用も重い
  • ⚠️ の(など)はHDVには直接効かない。 の複製は抑えてもHBsAgの産生は十分に減らないため、HDVの供給源を断てない。この非対称性が治療の難しさの中心にある
  • 予防の中心はワクチン(未感染者に対して)。既にに感染している人にはワクチンが効かないため、血液曝露の回避が主な手段になる

まとめ

  • 自前のエンベロープ蛋白を持たず、のHBsAgを借りて初めて感染性を持つ。HDV感染は常に感染を前提とする。
  • ゲノムは環状(−)ssRNAで、自前の蛋白はのみ。
  • は重症のを起こすが慢性化しにくく、は高率に慢性化して肝硬変・へ急速に進む。
  • B型肝炎ワクチンが守れるのはだけで、既ににしている人のは防げない。HDV自体のワクチンはない。
  • HBs抗原陽性者には抗HDV抗体でスクリーニングし、陽性ならHDV で確認する。とはIgM型HBc抗体で見分ける。
  • 安定していた慢性B型肝炎の急な増悪ではHDVのを疑う。
  • がNTCPを阻害して肝細胞への侵入を止める(欧州は2020年に条件付き・2023年に通常承認、米国は2026年に)。のはHDVには効かない。

出典

  1. 1.Guidelines for the prevention, diagnosis, care and treatment for people with chronic hepatitis B infection(World Health Organization・2024)本文PDF(ISBN 978-92-4-009090-3、2024年3月。WHO IRIS が取得できなかったため同一ISBNの転載PDFで閲覧)の推奨要約(第12〜14章)で、HBs抗原陽性者全員に抗HDV抗体検査を行うことを診断拡大のための優先的な方法とし(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)、それが難しい環境では流行地出身者・進行した肝疾患や治療中の人・HDVを疑わせる所見のある人・血液透析患者・C型肝炎やHIVの感染者・注射薬物使用者・性産業従事者・男性間性交渉者を優先すること、診断は総抗HDV抗体の後に陽性者でHDV RNAを核酸増幅検査で調べること(条件付き推奨、確実性は低い)、HBs抗原陽性後の抗HDV抗体と抗体陽性後のHDV RNAの反射検査を用いてよいこと、慢性HBV感染者の慢性HDV感染は肝硬変・肝癌への進行が速く最も攻撃的なウイルス性肝炎とされ、ペグインターフェロンαは30年にわたり適応外で用いられてきた唯一の選択肢だったことを確認した。横断監査での再取得では NCBI Bookshelf(NBK614989/NBK614999)と WHO IRIS がいずれも自動化ブロックのため直接読めなかったが、PubMed の書誌(PMID 40424433=WHO刊、2024年3月)と、本ガイドラインのHDV検査推奨を引用した査読済み論文(「reflex anti-HDV antibody testing following a positive HBsAg test result and reflex HDV RNA testing … (conditional recommendation, low-certainty evidence)」および全HBs抗原陽性者への抗HDV抗体の普遍的検査を第一とし実行不能な環境ではリスクに基づく検査を補完的に用いる旨)で、推奨の内容と強さが上記と一致することを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.ICTV Virus Taxonomy Profile: Kolmioviridae 2024(Journal of General Virology(Kuhn JH, et al.; International Committee on Taxonomy of Viruses)・2024)Europe PMC の全文(PMC11145878)で、D型肝炎ウイルスが**レルム Ribozyviria**(Taxonomy 欄の記載は「Realm Ribozyviria」。界ではなく最上位階級のレルムである)・コルミオウイルス科・デルタウイルス属(種名 Deltavirus italiense)に分類され、コルミオウイルス科がウイロイドおよびその近縁の可動性遺伝因子に最も近縁とされること、ゲノムはリボザイムを含む約1.5〜1.7 kbの環状マイナス鎖RNAで、核内で宿主のDNA依存性RNAポリメラーゼIIによる二重ローリングサークル型の複製と、ゲノム・アンチゲノムにコードされたリボザイムによる自己切断・連結を受けること、ウイルス粒子は直径36〜43 nmの球形で、外被には進化的に無関係なヘルパーウイルス(ヒトではB型肝炎ウイルス)由来のエンベロープ蛋白をもち、内側にゲノムRNAとヌクレオカプシド蛋白であるδ抗原(大小2つのアイソフォーム)からなるリボ核蛋白をもつこと、HBVと共存する感染が WHO の分類するウイルス性肝炎のなかで最も重いD型肝炎を起こすことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Carcinogenicity of hepatitis D virus, human cytomegalovirus, and Merkel cell polyomavirus(The Lancet Oncology(Karagas MR, et al.; IARC Monographs Working Group)・2025)PMCの著者最終稿(PMC12281636)で全文を確認した。2025年6月に10か国17名の専門家がIARCに集まり、D型肝炎ウイルスを「ヒトでの証拠が十分(sufficient)」であることに基づきGroup 1(carcinogenic to humans)に分類したこと、起こす癌は肝細胞癌で、HBV感染者に限った15研究の作業部会自身のメタ解析でHDV感染と肝細胞癌リスク増加の一貫した強い正の関連(メタ解析相対リスク2.13、95%信頼区間1.57〜2.87)が示されたこと、これが1994年の第59巻での分類以降に文献が大きく増えたことによる再評価であること、評価の詳細は第139巻として刊行予定であることを確認した。あわせてIARCが公開する第139巻のQ&A文書で、HDVが1993年(第59巻)には「not classifiable as to its carcinogenicity to humans (Group 3)」と評価されていたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Hepatitis D(World Health Organization・2026)WHOのファクトシート(2026年7月28日)で、HDVは慢性HBV感染者の約5%(推定1,200万人)に感染していること、HBVとの同時感染が慢性化するのは5%未満だが、慢性HBV感染者への重複感染は70〜90%で持続感染になり肝硬変を早めること、モンゴル・モルドバ共和国・西部および中部アフリカの国々で有病率が高いこと、B型肝炎ワクチンがHDV感染も防ぐこと、ペグインターフェロンαで完全なウイルス学的反応に至るのは約20〜30%にとどまること、ブレビルチドが2023年に欧州医薬品庁の承認を受けたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Hepcludex - European public assessment report (EPAR)(European Medicines Agency・2023)EMAのEPARページで、Hepcludex(ブレビルチド)の適応が血漿(または血清)HDV RNA陽性で代償性肝疾患のある成人および3歳以上・体重10 kg以上の小児の慢性HDV感染であること、2020年7月31日に条件付き販売承認、2023年7月18日に通常承認を受けたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  6. 6.HEPCLUDEX (bulevirtide-gmod) for injection, for subcutaneous use — full prescribing information(DailyMed (U.S. National Library of Medicine) / Gilead Sciences・2026)openFDA の label API(set_id 一致、effective_time 2026-05-22、BLA761468、Gilead Sciences)で、適応が肝硬変の無い、または代償性肝硬変の成人の慢性HDV感染であり、HDV RNAの低下とALT正常化に基づく迅速承認で「An improvement in disease-related clinical outcomes has not been established」、承認継続は検証試験での臨床的有用性の確認が条件になりうると記載されていること、推奨用量が1日1回8.5 mgの皮下注射であること、NTCPを標的とするHDV付着阻害薬であること、中止後にD型・B型肝炎の重症急性増悪が起こりうる(とくに肝硬変例で重症化・非代償化のリスクが高い)という枠組み警告があり、中止後少なくとも6か月はHBV DNA・HDV RNAを含めて肝機能を監視し抗ウイルス療法の再開を考慮することを確認した。承認日は openFDA の Drugs@FDA API で ORIG-1 の submission_status_date が 2026-05-22(AP)であることから確認した(SPL の effective_time とは別に照合した)。閲覧 2026-09-27