微生物学

微生物学 · 5/28

肝炎の病原体とその伝播、および微生物学的診断

Pathogens of hepatitis and their transmission, as well as microbiological diagnosis

微生物
Campylobacter jejuniHepatitis D virus
疾患
ジアノッティ・クロスティ症候群

🧠 「肝炎」を起こす微生物はA〜E型の肝炎ウイルスだけではない——細菌・寄生虫によるという「隠れた」を忘れないことが本トピックの核心である。 の病態生理・臨床像の詳細は3/34(A・E型)と3/35(B・C・D・G型)に譲り、本ノートは①伝播経路と検査室診断の一覧比較、②見落としがちな細菌性・、③の基本原則——(enzyme-linked immunosorbent assay, 酵素結合測定法)でスクリーニングし、陽性ならで確認する2段階方式——に焦点を当てる。

ウイルス性肝炎:伝播経路と検査室診断の一覧

ウイルス ゲノム 伝播経路 慢性化率 検査室診断
A型肝炎 (+) 糞口感染——汚染食物・水に加えヒト-ヒトの直接接触。2016年以降の米国の増加はではなくヒト-ヒト伝播による広域が主体だった1 2〜6週 なし 血清IgM抗体の検出
B型肝炎 部分 血液・性的接触・周産期 4〜26週 年齢に強く依存——成人感染は5%未満だが乳幼児期の感染は約95%が慢性化する2 HBsAgまたは抗HBc抗体の検出
C型肝炎 (+) 血液;使用がリスク因子 2〜26週 約70%(55〜85%)3 の検査;用の第3世代
D型肝炎 環状欠損(−) 血液(と同じ経路——が必須の随伴感染) と同じ では5%未満、慢性感染者へのでは70〜90%4 IgM・IgG抗体、血清HDV 、肝組織内HDAgの検出
E型肝炎 (+) 糞口感染——遺伝子型1・2型はヒト-ヒト感染が主体、3・4型は豚肉等の摂食を介した人獣共通感染が主体5 2〜8週 なし の検査;血清IgM・IgG抗体の検出

💡 各ウイルスの病態生理・臨床像・治療・予防の詳細は3/34(A・E型)と3/35(B・C・D・G型)を参照。 本表はあくまで「伝播経路と診断法をひと目で比較する」ための一覧である。

💡 A型・B型肝炎にはワクチンがあるが、C型・E型にはない。 不活化A型肝炎ワクチンは国際的に複数流通しており6、米国は12〜23か月児へのと未接種の2〜18歳へのキャッチアップ接種を勧告している1、B型肝炎ワクチンは出生後できるだけ早く(24時間以内)の接種がの要となる——乳幼児期の感染は約95%が慢性化するため、この時期の防御が特に重要である2。一方、()はC型肝炎感染者の95%超を治癒させることができ、はB型・C型のを含むの2030年までの排除を世界目標に掲げている3。

診断の原則:ELISAでスクリーニング→ウエスタンブロットで確認

  • ELISA:感度の高いとして第一段階に用いる。
  • :陽性例を確定するための、より特異度の高い。
  • この「高感度スクリーニング→高特異度確認」の2段階方式は、検査(5/27)と同じ考え方である。

細菌性肝炎

肝炎はウイルス性が大半を占めるが、以下の細菌も全身感染の一部としてを起こしうる。

病原体 特記事項
Neisseria meningitidis・N. gonorrhoeae の一部としてを伴うことがある
Borrelia burgdorferi ライム病の播種期にを伴うことがある
Salmonella sp. など全身感染の経過中に肝炎を伴う
Brucella sp. 肉芽腫性肝炎を起こしうる
Campylobacter jejuni 全身感染時にを伴うことがある

寄生虫性肝炎

病原体 特記事項
Trypanosoma cruzi の経過中に・肝炎を伴うことがある
Leishmania sp. で肝脾腫を伴う
Plasmodium sp. マラリアの経過中にを伴う
Entamoeba histolytica と実質性炎症を直接起こす——寄生虫による肝炎の中で最も臨床的に重要

まとめ

  • (A〜E型)の伝播経路は「糞口感染(A・E)」と「血液・体液感染(B・C・D)」に大別され、慢性化率もこの2群で大きく異なる——詳細は3/34・3/35を参照。E型は遺伝子型1・2(ヒト-ヒト)と3・4(人獣共通)でが異なる。B型は乳幼児期の感染ほど慢性化しやすく(約95% vs 成人5%未満)、C型は約70%が慢性化しで95%超が治癒可能である。
  • はによるスクリーニングとによる確認という2段階方式が基本。
  • 肝炎の原因はウイルスに限らない——Neisseria・Borrelia・・Brucella・Campylobacterなどの細菌も全身感染の一部としてを起こしうる。
  • 寄生虫でもTrypanosoma cruzi・Leishmania・・Entamoeba histolyticaが肝炎・の原因となり、特にE. histolyticaのは臨床的に重要である。

出典

  1. 1.Prevention of Hepatitis A Virus Infection in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) / CDC, MMWR Recommendations and Reports・2020)全文(PMC8631741)で、HAVが糞口経路で伝播し通常はヒト-ヒトの直接接触または汚染された食物・水の摂取によること、2016年以降の米国の症例増加が汚染食品由来ではなく主にヒト-ヒト伝播による広域アウトブレイクであること、ACIPが12〜23か月児への定期接種と未接種の2〜18歳へのキャッチアップ接種を勧告していることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Hepatitis B (fact sheet)(World Health Organization・2026)成人期に獲得したB型肝炎感染が慢性肝炎に至るのは5%未満であるのに対し、乳児期・幼児期の感染では約95%が慢性肝炎に至る。すべての新生児は出生後できるだけ早く(24時間以内)B型肝炎ワクチンを接種すべきであり、母子感染はワクチンに加え抗ウイルス薬の投与でも予防できる。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Hepatitis C (fact sheet)(World Health Organization・2026)約30%(15〜45%)が感染後6か月以内に無治療で自然にウイルスを排除し、残る70%(55〜85%)が慢性HCV感染へ移行する。直接作用型抗ウイルス薬(DAA)はC型肝炎感染者の95%超を治癒でき、WHOはウイルス性肝炎(特にB型・C型の慢性肝炎)を含む世界保健分野戦略として2030年までの排除を掲げている。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Hepatitis D(World Health Organization・2026)2026年7月28日更新版の本文で、急性D型肝炎が慢性化するのはまれで5%未満("progression to chronic hepatitis D is rare (less than 5% of acute hepatitis)")であり、慢性B型肝炎への重複感染は全年齢で70〜90%において重症化を加速する("in 70‒90% of persons")と述べられていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Hepatitis E(WHO・2026)HEV遺伝子型1・2型はヒト-ヒト経路の糞口感染が主体(アフリカ・アジア諸国に多い)、3・4型は豚肉等の摂食を介した人獣共通感染が主体である。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Hepatitis A(WHO・2026)不活化A型肝炎ワクチンは国際的に広く使用されている("Several injectable inactivated hepatitis A vaccines are available internationally")。閲覧 2026-08-26