微生物学

微生物学 · 4/13

赤痢アメーバと大腸アメーバ

Entamoeba histolytica and Entamoeba coli

応用トピック
原虫感染症―ジアルジア症・トキソプラズマ症・アメーバ症・マラリア
微生物
Entamoeba coliEntamoeba disparEntamoeba histolytica
疾患
腸管原虫症

🧠 Entamoeba histolyticaとEntamoeba coliは顕微鏡下で紛らわしいが、成熟嚢子の核数(4個 vs 通常8個)と核の形態で分けられる。 この鑑別を誤ると、無害なE. coliを保菌しているだけの患者を不要に治療したり、逆に危険なE. histolytica感染を見逃すことになる。⚠️ ただし「2つの所見で病原性が決まる」とは覚えないこと——像はのE. disparでもまれに起こるうえ、E. disparはE. histolyticaと形態でまったく区別できない1。4/12で学んだ「アメーバ=で運動」という分類に当てはめて読む。

形態・生活環

Entamoeba属は(で運動)で、感染型の嚢子と摂食・増殖型の栄養型の2形態を持つ。

項目 Entamoeba histolytica() Entamoeba coli(大腸アメーバ)
病原性 病原性あり (正常フローラの一員)
成熟嚢子の核数 4個1 通常8個(16個以上のこともある)2
核の形態 中心性のカリオソーム、細かく均一な周辺クロマチン1 大きく偏在するカリオソーム、粗く不規則な周辺クロマチン2
類染色質体 端が丸い2 先の尖った破片状2
古典的に本種と結びつけられるが、E. disparでもまれに起こるため決め手にはならない1 貪食しない
の場所 小腸(栄養型が大腸へ移動)1 小腸(同じ)2
臨床的意義 侵襲性の原因 形態が似るため・混同されやすい

感染経路・病原性

  • 熱帯地域に多く、汚染された水(湧き水・氷)や食品、ゴキブリ・ハエが媒介する。
  • 糞口感染: 汚染水、生野菜・果物を介した嚢子の経口摂取。
  • : で多い感染経路。
flowchart TD
  A["嚢子を経口摂取<br>(感染性)"] --> B["胃を通過"]
  B --> C["小腸で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excystation'>脱嚢</span>"]
  C --> D["栄養型が大腸へ移動し増殖"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic mucosa'>大腸粘膜</span>に付着し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxin'>細胞毒</span>素で局所壊死"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal amebiasis'>腸管アメーバ症</span><br>(潰瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amoebic dysentery'>アメーバ性赤痢</span>)"]
  E --> G["腸壁に侵入し<br>赤血球を貪食"]
  G --> H["血行性に播種"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Extraintestinal amebiasis'>腸管外アメーバ症</span><br>(肝・肺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain abscess'>脳膿瘍</span>)"]

病原性因子として、宿主細胞へのと、組織を融解する——、(phospholipase A)、、、RNase——を持つ。

臨床像

腸管アメーバ症

  • 大腸にを形成し、腹膜や他臓器に及ぶこともある。
  • : 侵襲性・炎症性の下痢で、粘膜に潰瘍を形成する。
    • 血液と膿を伴う下痢(血性下痢)
    • 腹痛・腹部けいれん

腸管外アメーバ症

アメーバが腸壁に侵入した後の全身症状。

⚠️ はで最も頻度の高い病態であり、最も試験で問われやすい。 好発部位はで、膿は「」様と形容される特徴的な性状を示す。を呈し、脳・肺など他臓器へも播種しうる。

診断

検査 所見
便検体 栄養型・嚢子を検出。原虫は便中に均等に分布しないため、3回異なる機会に採取する。1検体では感度が低く、10日以内に連続3検体を調べると検出の機会が増える1
顕微鏡 成熟嚢子の核数・核の形態でE. coliと分ける。栄養型内の像はE. histolyticaを示唆するが、E. disparでもまれに起こり、染色標本で見えること自体もまれなのであっても無くても決定的ではない1
抗原検査・ 形態で分けられないE. histolytica・E. dispar・E. moshkovskiiを鑑別する。とによる抗原検出が鑑別の主軸1
血清学 で組織侵襲を裏づける

⚠️ E. histolyticaと形態的にまったく区別できない種が複数存在する。 Entamoeba dispar・Entamoeba moshkovskii・Entamoeba bangladeshiは嚢子・栄養型の形態がE. histolyticaと同一で、顕微鏡だけでは鑑別できない3。したがって便検体で「様の嚢子」を検出しただけでは病原性E. histolytica感染と確定診断できず、はこれらを「E. histolytica/dispar/moshkovskii複合体」として報告したうえで、抗原検査・等ので病原性種を確認することを推奨している4。

治療・予防

💡 組織侵襲型と型(嚢子保有者)は薬が違う。 メトロニダゾール(大腸炎で5〜10日間・で10日間)または(大腸炎で3〜5日間・で5日間)は組織に侵入した栄養型に効くが、腸管内に残る嚢子までは十分に消せない——単独治療後も患者の40〜60%で腸管内寄生虫が残存すると報告される5。そのため症候性の患者には、組織移行薬のあとに(アミノグリコシド系)またはを続けて投与する(は下痢を起こしうるので同時には使わない)。無症候性のは薬だけで治療し、の嚢子をして感染源を断つ6。

  • 予防:(それでも嚢子は生存しうる)、、濾過による飲料水対策。安全な性行為。

Entamoeba coli(大腸アメーバ)

  • Entamoeba coliはのアメーバで、の一員。ヒトに症候性疾患を起こさず、定着はである2。
  • E. histolyticaと混同されやすいが、核の詳細で鑑別できる:成熟嚢子の核数は通常8個(16個以上のこともある)でE. histolyticaの4個より多く、核は大きく偏在するカリオソームと粗く不規則な周辺クロマチンを示す2。赤血球も貪食しない。
  • 便から検出されたこと自体は、その人が糞便に汚染されたものを摂取した証拠になる2。同じ経路で入る病原体の検索につなげる。

まとめ

  • Entamoeba属はで、感染型の嚢子と増殖型の栄養型を持つ糞口感染性の腸管原虫である。
  • E. histolytica(病原性)とE. coli(・)は、成熟嚢子の核数(4個 vs 通常8個)と核の形態で鑑別する。ただしE. disparとは形態で分けられず、像も決め手にならないため、病原性の確定には抗原検査・を用いる1。
  • 病原性はとによるの壊死・()から始まり、腸壁侵入後は膿瘍(状)を中心としたに進展しうる。
  • 診断は便検体(10日以内に3回採取)の鏡検から入り、種の確定は抗原検査・で行う。血清学は組織侵襲の裏づけに用いる1。
  • 治療は、症候性ではメトロニダゾール/のあとに/を続ける「二段構え」、無症候性の嚢子保有者では薬だけが原則。

出典

  1. 1.DPDx - Amebiasis(Centers for Disease Control and Prevention・2019)ページ本文(最終確認2019年10月15日)を直接確認した。成熟した E. histolytica / E. dispar 嚢子は4核で、核は中心性のカリオソームと細かく均一な周辺クロマチンをもつこと。脱嚢は小腸で起こり、遊離した栄養型が大腸へ移動すること。赤血球の貪食は古典的に E. histolytica と結びつけられるが E. dispar でもまれに起こるため『両種を分ける信頼できる基準ではない』とされ、染色標本で観察されること自体もまれであること。E. histolytica・E. dispar・E. moshkovskii は形態では区別できず、鑑別はPCRと単クローン抗体による抗原検出に依存すること。鏡検は便1検体では感度が低く、10日以内に連続3検体を調べると検出の機会が増えること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.DPDx - Intestinal (Non-Pathogenic) Amebae(Centers for Disease Control and Prevention・2019)ページ本文(最終確認2019年10月29日)を直接確認した。E. coli の成熟嚢子は通常8核で16核以上のこともあること、核は大きく偏在するカリオソームと粗く不規則な周辺クロマチンをもち、類染色質体は先の尖った破片状(E. histolytica では端が丸い)であること、脱嚢は小腸で起こり栄養型が大腸へ移動すること、これらのアメーバはヒトに症候性疾患を起こさず定着は非侵襲性であること、非病原性アメーバの栄養型や嚢子が便にあることはその検体の提供者に糞便曝露があったことを示すこと、を確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Differential Detection of Entamoeba histolytica, Entamoeba dispar, and Entamoeba moshkovskii by a Single-Round PCR Assay(Journal of Clinical Microbiology(American Society for Microbiology)・2006)Entamoeba histolytica・Entamoeba dispar・Entamoeba moshkovskiiは嚢子・栄養型ともに形態的に同一で鏡検では区別できないこと、単回PCRでそれぞれ異なる産物長を生成して種を鑑別できることを本文で確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Epidemiology of clinically relevant Entamoeba spp. (E. histolytica/dispar/moshkovskii/bangladeshi): A cross sectional study from North India(PLoS Neglected Tropical Diseases・2021)E. dispar・E. moshkovskiiが非侵襲性感染にのみ関連する非病原性種であること、形態的に区別できないためWHOがE. histolytica/dispar/moshkovskii複合体としての報告を推奨していることを本文で確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Entamoeba Histolytica: Updates in Clinical Manifestation, Pathogenesis, and Vaccine Development(Canadian Journal of Gastroenterology and Hepatology(Kantor M, et al.)・2018)PMC全文(PMC6304615)で確認した。ニトロイミダゾール系(メトロニダゾール等)単独治療後も患者の40〜60%で腸管内寄生虫が残存すると示されており、再発防止に管腔内薬(パロモマイシン等)を続けて投与すること。著者は Kantor らで、Crossref でも同じ(旧 id は Shirley と誤帰属していたため改名)。閲覧 2026-09-27
  6. 6.A Review of the Global Burden, New Diagnostics, and Current Therapeutics for Amebiasis(Open Forum Infectious Diseases・2018)PMC全文(PMC6055529)のTherapy節とTable 4で確認した。症候性の患者は組織移行薬と管腔内薬の2剤を要し、無症候性感染は管腔内薬だけで治療すること。組織移行薬の期間は大腸炎でメトロニダゾール5〜10日またはチニダゾール3〜5日、肝膿瘍・播種性病変でメトロニダゾール10日またはチニダゾール5日。管腔内薬はパロモマイシン7日(代替はヨードキノール・ジロキサニド)で、下痢を起こしうるためニトロイミダゾール系と同時に投与しないこと。閲覧 2026-09-27