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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

腸管原虫症

Intestinal protozoal infections (giardiasis, amebiasis, cryptosporidiosis)

臓器系
感染症消化器
科目
Medical MicrobiologyInternal Medicine
トピック
微生物学 4/13:赤痢アメーバと大腸アメーバ微生物学 4/15:ランブル鞭毛虫、大腸バランチジウム微生物学 4/16:クリプトスポリジウム属とブラストシスチス・ホミニス内科学 S-59:原虫感染症―ジアルジア症・トキソプラズマ症・アメーバ症・マラリア
治療薬
メトロニダゾール
原因微生物
Entamoeba histolyticaEntamoeba coliGiardia lambliaCryptosporidium parvumBlastocystis hominis
症状
肝腫大
検査値
抗体価
原因となる疾患
分類不能型免疫不全症

🧠 全体像の代表3疾患は、いずれも嚢子・の経口摂取で始まる感染だが、「侵襲するか・しないか」+「宿主の免疫状態」という2軸で症状の重症度が決まる。Giardia lambliaは小腸壁に付着するだけ(侵入しない)ので、出血のないにとどまる。Entamoeba histolytica破壊・侵入するため、血性下痢()からまで進展しうる。Cryptosporidium spp.は免疫正常者では自然軽快するにすぎないが、AIDSなど高度免疫不全では慢性の大量下痢となり、AIDS指標疾患の一つに数えられる——同じ「腸管原虫の下痢」でも、免疫状態次第で予後が真逆になる点が最大の教訓である。

病原体と病態生理

flowchart TD
  A["糞便に汚染された水・食品を介し<br>嚢子/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>を経口摂取"] --> B{"病原体は?"}
  B -->|"Giardia lamblia"| C["十二指腸で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excystation'>脱嚢</span>し<br>小腸壁表面に付着(侵入しない)"]
  C --> D["粘液産生↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibition of intestinal absorption'>腸管吸収阻害</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪性下痢</span>(吸収不良)"]
  B -->|"Entamoeba histolytica"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic mucosa'>大腸粘膜</span>に付着し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='histolytic enzymes'>溶組織性酵素</span>で局所壊死"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal amebiasis'>腸管アメーバ症</span><br>(血性下痢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flask-shaped ulcers'>フラスコ状潰瘍</span>)"]
  F --> H["腸壁に侵入し赤血球を貪食<br>→血行性に播種"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Extraintestinal amebiasis'>腸管外アメーバ症</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right lobe of the liver'>肝右葉</span>膿瘍が代表)"]
  B -->|"Cryptosporidium spp."| J["小<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelium'>腸上皮</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brush border'>刷子縁</span>に<br>細胞内寄生"]
  J --> K{"宿主の免疫状態"}
  K -->|"免疫正常"| L["自然軽快する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Watery Diarrhea'>水様下痢</span>"]
  K -->|"高度免疫不全(AIDS等)"| M["慢性・大量の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Watery Diarrhea'>水様下痢</span><br>体液喪失が遷延"]

Giardia lamblia(ランブル鞭毛虫)

に属し、で核2個・鞭毛4本を持つ栄養型と、塩素・濾過に抵抗性を示す4核の嚢子の2形態をとる。げっ歯類・ビーバーをとし、山中の渓流水を飲んだバックパッカー・キャンパーの感染が典型例。嚢子を10〜25個摂取するだけで感染が成立する。栄養型は小腸壁に付着するのみで組織へは侵入せず、過剰な粘液産生により脂肪吸収が障害され、悪臭を伴う水様性の(吸収不良によりA・D・E・Kが欠乏しうる)を起こす。約半数は無症候性。

Entamoeba histolytica(赤痢アメーバ)

で運動)で、感染型の嚢子(核1〜4個)と摂食・増殖型の栄養型を持つ。と、などのによりを融解し、を形成する。栄養型がさらに腸壁へ侵入すると赤血球を貪食しながら血行性に播種し、肝・肺・脳の腸管外病変を作る。熱帯地域の汚染水・食品のほか、に多い)でも伝播する。

💡 E. histolytica(病原性)と*E. coli)は顕微鏡下でそっくり。 鑑別点は嚢子の核数E. histolyticaは1〜4個、E. coliは1〜8個で多いことが多い)との有無E. histolyticaだけが栄養型内にRBCを取り込む)の2点だけである。ここを誤ると、無害なE. coli*を不要に治療したり、逆に危険なE. histolytica感染を見逃す。

Cryptosporidium spp.

(コクシジウム類)に属し、ヒト病原種はC. parvumC. hominis。小に細胞内寄生し、同一宿主内で)と)を完結させる。受精の一部は体外に排出されず腸管内で「」として再成熟し、外部からの再曝露なしに感染サイクルを繰り返す()。

⚠️ の仕組みが、免疫不全患者での慢性・重症化の鍵。 健常者では自然軽快するにとどまるが、高度免疫不全患者(特にAIDS患者)ではが制御されず、1〜2週間以上に及ぶ大量の体液喪失を伴うとなる——AIDS指標疾患の一つとして扱われる所以である。

比較表

項目 Giardia lamblia Entamoeba histolytica Cryptosporidium spp.
分類 (コクシジウム類)
感染経路 感染(渓流水・ 感染(熱帯地域の汚染水)、 感染、人獣共通感染症、
侵襲性 なし(腸壁表面に付着のみ) あり(組織破壊・ なし(上皮内に細胞内寄生するが組織破壊は起こさない)
鍵となる臨床像 悪臭を伴う・吸収不良、血液/膿は稀 血性下痢()、膿瘍( 免疫正常:自然軽快する/免疫不全:慢性大量下痢
診断 便検体(3回採取)、便抗原ELISA、 便検体(3回採取)で栄養型、便抗原/PCR、血清学(で高感度) 便の確認、
治療 メトロニダゾールまたはも選択肢) 組織移行薬(メトロニダゾール/)→必ず薬(/ 補液が中心。HIV/AIDSではART()が唯一確立された治療

臨床像

アメーバ性肝膿瘍(腸管外アメーバ症の代表)

⚠️ の中で最も頻度が高く、最も試験で問われやすいのが 好発部位はで、膿は」様の特徴的性状を呈する。・発熱を主徴とし、脳・肺など他臓器へも播種しうる。血性の)を伴わずにのみで発症することも少なくない。

ジアルジア症の吸収不良

Giardiaは腸壁を破壊しないため血液・膿を伴う下痢は稀だが、腸管を被覆することで・腹部けいれんを起こし、慢性化すると体重減少や欠乏に至る。

クリプトスポリジウム症とAIDS

免疫不全患者、特にCD4数の低いAIDS患者では、大量のによる脱水・電解質異常が生命を脅かしうる。によるなしには寄生虫をできない点が、他の2疾患と大きく異なる特徴である。

診断

検査 対象 所見
便検体(3回、異なる機会に採取) 全般 原虫は便中に不均等に分布するため反復採取が必須
顕微鏡( Entamoeba 栄養型内の——E. histolyticaに特異的
便抗原検査・PCR GiardiaEntamoeba ELISA・イムノで高感度に検出
血清学 Entamoeba(侵襲性・ 上昇で組織侵襲を裏付ける(者では陰性のことが多い)
Giardia 十二指腸液を付着させた紐を回収し鏡検
Cryptosporidium が赤く染色される(診断の的存在)
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal-oral'>糞口</span>感染を疑う下痢の患者"] --> B{"下痢の性状は?"}
  B -->|"水様・脂肪性、血液/膿なし"| C["Giardia抗原/PCR<br>+鏡検(3回採取)"]
  B -->|"血性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucous'>粘液性</span>"| D["Entamoeba抗原/PCR<br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrophagocytosis'>赤血球貪食</span>栄養型の鏡検"]
  D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right upper quadrant pain (RUQ pain)'>右季肋部痛</span>・発熱を伴う?"}
  E -->|"あり"| F["画像検査+血清学で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver abscess'>肝膿瘍</span>を評価"]
  B -->|"免疫不全患者の慢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Watery Diarrhea'>水様下痢</span>"| G["便の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid-fast staining'>抗酸染色</span>で<br>Cryptosporidium<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>を確認"]

治療

  • メトロニダゾール(5〜7日間)または(単回投与、・治癒率でメトロニダゾールを上回るとされFDA承認済み)。も同等の有効性を持つ第一選択の一つ。いずれも約40%でが報告され、原虫のが一因とされる。妊婦にはが選択される。
  • 症候性のを含む)はいずれも、メトロニダゾールまたはの栄養型を殺す)で治療した後に、必ずまたはの嚢子をする)を追加する「二段構え」が原則——メトロニダゾール単独では40〜60%で腸管内に嚢子が残存するため。無症候性のには等の薬単独で足りる。
  • が基本。免疫正常者は自然軽快することが多い。HIV/AIDS患者ではARTによるが最も重要な治療であり、併用の有効性はCD4数>50/µLの患者に限られ、高度免疫不全例(CD4数≤50/µL)では明確な有効性が示されていない——ARTなしに等ののみで治癒させることは困難である。

Blastocystis hominisとの鑑別

Blastocystis hominisに分類され、世界で最も検出頻度の高い寄生原虫の一つだが、病原性そのものが議論の的である点で上記3疾患と一線を画す。下痢・悪心・腹部けいれんを呈することがあるが、無症候の健常者からも高頻度に検出されるため、便からの検出のみで下痢の原因と断定してよいかは慎重な判断を要する。診断は培養後の、治療(症候性の場合)はメトロニダゾール。

まとめ

  • の3代表疾患は、いずれも嚢子/感染で成立するが、侵襲性の有無宿主の免疫状態で臨床像が大きく異なる。
  • Giardia lambliaは腸壁に侵入せず、・吸収不良にとどまる(血液・膿は稀)。
  • Entamoeba histolyticaで破壊し、から膿瘍(状)を中心とするに進展しうる。形態が酷似するE. coliとは、嚢子の核数との有無で鑑別する。
  • Cryptosporidium spp.は健常者では自然軽快するだが、AIDSなど高度免疫不全ではが制御されず慢性大量下痢症となる、AIDS指標疾患の一つ。
  • 診断はいずれも便検体の反復採取が基本で、栄養型(アメーバ)、スポリジウム)、抗原/PCR検査が中心。
  • 治療は、では組織移行薬(メトロニダゾール/)に必ず薬(/)を追加し、では/メトロニダゾール/のいずれか、ではHIV/AIDS患者に対するARTによるが治療の中核となる。