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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

腸管線虫症

Intestinal nematode infections (ascariasis, hookworm, enterobiasis, trichuriasis)

臓器系
感染症消化器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 4/31:ズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫微生物学 4/34:蟯虫微生物学 4/35:回虫・鞭虫
鑑別疾患
肝蛭症
治療薬
メベンダゾールイベルメクチン
原因微生物
Ancylostoma duodenaleNecator americanusEnterobius vermicularisAscaris lumbricoidesTrichuris trichiura
症状
直腸脱
検査値
血中好酸球数
画像所見
肺野陰影

🧠 全体像:(ascariasis・・・trichuriasis の4疾患)は、いずれもによる腸管寄生だが、整理の軸は1点に尽きる——「がどこから入り、体内でどこまで旅をするか」である。鉤虫は経皮(土壌中のが素足から侵入)、回虫・・は経口(の摂取)で感染が成立する。そのうえで、腸管を出て肺まで移行するもの(鉤虫・回虫)は肺症状と好酸球増多を伴い、腸管内に留まり続けるもの(・)は局所症状に終始する。この「経路×移行の有無」の2×2で4疾患を同時に記憶できる。

病原体と感染経路(共通の枠組み)

線虫 感染経路 感染型 体内での移行 最終
鉤虫(・) 経皮(土壌中の幼虫が皮膚から侵入) 血流→肺→気道→ 小腸
回虫 経口(摂取) 腸壁→血流→肺→気道→ 小腸
経口(摂取) 移行なし(腸管内に留まる) 盲腸
経口(多くは) 移行なし(腸管内に留まる) 大腸→夜間に肛囲へ産卵

💡 「肺移行するかどうか」が症状のすべてを説明する。 鉤虫・回虫の幼虫は腸壁を破って血流に入り、肺胞→気道→という回り道をしてから小腸に定着するため、移行期に様の肺炎・好酸球増多を来す。一方、・の幼虫は最初から最後まで腸管内にとどまるため、肺症状は起こらず、症状は(盲腸・肛囲)に限局する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='soil-transmitted helminth, STH'>土壌媒介性線虫</span>の感染型"] --> B{"感染経路は?"}
  B -->|"経皮(裸足で土壌に接触)"| C["鉤虫(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filariform larva'>糸状幼虫</span>が皮膚を貫通)"]
  B -->|"経口(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='embryonated egg'>感染卵</span>を摂取)"| D["回虫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='whipworm'>鞭虫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pinworm (Enterobius vermicularis)'>蟯虫</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='embryonated egg'>幼虫包蔵卵</span>を摂取)"]
  C --> E["血流→肺→気道→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reswallowing'>再嚥下</span><br>(肺移行あり)"]
  D --> F{"腸管を出るか?"}
  F -->|"出る(回虫)"| E
  F -->|"出ない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='whipworm'>鞭虫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pinworm (Enterobius vermicularis)'>蟯虫</span>)"| G["腸管内で直接成熟<br>(肺移行なし)"]

各論:生活環と臨床像

鉤虫症(ズビニ鉤虫・アメリカ鉤虫)

土壌中のが主に足から皮膚を貫通して侵入し、血流→肺→気道→を経て小腸に定着する。成虫はキチン質の歯()または()で腸粘膜に噛みつき、持続的に吸血する。

flowchart TD
  A["土壌中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filariform larva'>糸状幼虫</span>が皮膚(足)を貫通"] --> B["局所の皮膚病変・掻痒"]
  B --> C["血流に入り肺へ移行"]
  C --> D["肺炎様症状(好酸球性)"]
  D --> E["気道を上行→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Expectoration'>喀出</span>・嚥下"]
  E --> F["小腸に定着し成虫化"]
  F --> G["腸粘膜に付着し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>に吸血"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iron-deficiency anemia, IDA'>鉄欠乏性貧血</span>"]

⚠️ のは消化器症状ではなく貧血である。 成虫による腸粘膜からのな吸血が持続的な鉄喪失を来し、として顕在化する。出題・臨床の両方で「陽性+貧血」から鉤虫をできるかが問われる。

回虫症(Ascaris lumbricoides)

世界で最も頻度の高いであり、成虫は線虫最大で体長はおおよそ雌30cm・雄20cmに達する1。を経口摂取すると小腸でした幼虫が腸壁を貫通し、血流→肝臓→心臓→肺という経路をたどってから気道を上行し、されて小腸に戻り成熟する。

  • :喘息様発作に類似した様の肺炎
  • 胆管・胆嚢・肝臓へのによる
  • 大量寄生による腸閉塞(イレウス)
  • 腸管内での栄養吸収阻害による栄養不良

⭐ 小児の大量感染は様のタンパク欠乏症状を来しうる。 虫体が腸管内腔を占拠し栄養素の吸収を物理的に妨げるためで、頻出ポイントである。

鞭虫症(Trichuris trichiura)

衛生状態の悪い地域・小児に多い。を経口摂取すると小腸でした幼虫が盲腸まで移行し、前端を粘膜内に埋め込んで成熟する——回虫と異なり血流・肺への移行は起こらない。

  • 多くは無症状
  • 腹痛、血性下痢
  • 虫垂を虫体が充満させると
  • (大量寄生・慢性のによる)

⚠️ は腸管を出ないため、回虫のような肺症状は起こらない。 症状はすべて盲腸〜直腸に限局した機械的損傷・炎症に由来する。

蟯虫症(Enterobius vermicularis)

土壌熟成も中間宿主も必要とせず、ヒトからヒトへの直接伝播(糞口感染)とだけで維持される最も「身軽」な線虫。を摂取すると十二指腸でし、大腸で成虫化する。受精したは夜間に肛門を通って肛囲皮膚へ移動して産卵し、卵は数時間以内に感染性を獲得する(他のSTHのような週単位の土壌熟成を要しない)。

  • 多くは無症状
  • (夜間に増強)——産卵中のに対するアレルギー反応
  • 虫体が腸壁にすると虫垂炎・皮膚炎・を来すこともある

💡 夜間の産卵という1点が、夜間掻痒・・診断法(を早朝に行う理由)のすべてを説明する。 卵の感染性獲得が速いため、掻痒→→指先付着→経口摂取というが容易に回り続ける。

診断

検査 対象 ポイント
糞便中の虫卵検出(直接塗抹・) 鉤虫・回虫・ 標準的な確定診断法
(定量法) 鉤虫・回虫・ 虫卵数から感染強度を定量できる、・治療効果判定にも用いる
起床後・排便前に肛門にテープを当てて虫卵を採取する。夜間産卵のため入浴・排便で卵が流される前に行う必要がある。検出率を上げるため複数日連続して実施することが望ましい1
の上昇 鉤虫・回虫() 組織侵入・を示唆する所見
胸部画像・喀痰好酸球 鉤虫・回虫 の様陰影(一過性の遊走性浸潤影)

⭐ はに特異的な診断法であり、には向かない。 は腸管内ではなく肛囲に産卵するため、糞便中の虫卵検出率は低い。

治療

の治療の中心は(・)であり、いずれも安価・単回〜短期投与で高い治癒率が得られる。

疾患 第一選択 備考
400mg単回、または500mg単回(100mgを1日2回×3日でも可) 単回投与の比較では鉤虫に良好な有効性を示すのはのみで、治癒率79.5%(95%CI 71.5〜85.6%)・虫卵減少率89.6%2。(11mg/kg、最大1g、1日1回×3日)も代替薬。貧血に対し補充を併用する
400mg単回、または500mg単回 回虫には・・・のいずれも高い有効性を示す2。(150〜200μg/kg単回)も代替として有効
400mgを1日1回×3日、または500mg単回 単剤の治癒率はに対して他のSTHより低い——単回投与では最良のでも治癒率42.1%(95%CI 25.9〜60.2%)にとどまり、のに対する治癒率は1995年の38.6%から2015年には16.4%へ有意に低下している2。+の併用は第3相RCTで単剤を大きく上回った(後述)
100mg単回、400mg単回、または(国内10mg/kg、 11mg/kg・最大1g)単回——いずれも2週間後に同量を再投与1 は妊婦および2歳未満の乳幼児に対する安全性が確立しておらず慎重に判断する。・は催奇形性のため妊婦には投与しない1

💡 としてが推奨しているのは、単回投与の400mgまたは500mgであり、との併用は推奨レジメンに含まれていない3。一方、感染者を対象にした第3相RCTでは、200μg/kg+400mgの単回併用が単剤より治癒率で大きく上回った(ラオス66%対8%、ペンバ島49%対6%)。ただしコートジボワールでは14%対10%と有意差がなく、著者らも「の保有率が高く有効性向上が確認された国」に限って併用の導入を勧めている4。

💡 日本では使える薬剤と保険適用が国際標準と異なる。 ・でグローバルな第一選択はだが、国内で保険適用があるのは(コンバントリン、10mg/kg単回)だけで、では治療効果90%以上の第1選択とされる。はに保険適応をもち(200mg/日 分2、軽症3日間・重症5〜7日間)の第一選択となる一方、・では保険適用外であり、ともの多くの場面でとなる1。

⚠️ の治療は単回投与で終わらせない。 は成虫には有効だが幼虫には無効であり、初回治療時点の幼虫が成虫になる2週間後の再投与が要る。加えて、と家族内感染を断つため同居家族など生活空間を共有する全員の検査・治療を一斉に行うことが実践上重要になる1。

💡 だけが単剤で治りにくい。 回虫には・とも高い有効性を示し、鉤虫にはが良好な有効性を示すのに対し、は単回投与での治癒率が明らかに劣る(最良のでも42.1%)2。この差が、だけにとの併用療法という選択肢が特別に検討されている理由である。

まとめ

  • は(STH)による4疾患(・・・)の総称で、「感染経路(経皮 vs 経口)」と「腸管を出て肺移行するか」の2軸で整理できる。
  • は鉤虫のみ(が皮膚から侵入)。回虫・・は経口(摂取)で感染する。
  • 肺移行するのは鉤虫・回虫で、様肺炎・好酸球増多を伴う。・は腸管を出ないため肺症状はなく、症状は(盲腸・肛囲)に限局する。
  • 特徴的な=(慢性吸血)、=肺移行症状・腸閉塞・(様)、=血性下痢・、=夜間優位の。
  • 診断は糞便中の虫卵検出・が基本だが、のみ早朝・排便前のを用いる。
  • 治療の中心は(・)。のみ単剤の治癒率が低く、+併用が有効性向上の選択肢になる(のの推奨レジメンは今なお単回投与の400mg/500mgである)。は2週間後の再投与と家族単位の同時治療が予防の鍵となる。
  • 日本では保険適用が国際標準と異なり、・で保険適用があるのはのみ、ではが保険適応をもつ。

出典

  1. 1.寄生虫症薬物治療の手引き ― 2020 ― 改訂第10.2版(日本寄生虫学会/日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業・2020)日本国内で入手できる駆虫薬と保険適用の範囲を確認した。回虫症ではピランテルパモ酸塩(コンバントリン)10mg/kg単回が第1選択で治療効果は90%以上、メベンダゾールとアルベンダゾールも有効だが保険適用外であること、鉤虫症では世界的にアルベンダゾールが第一選択となるが日本ではピランテルパモ酸塩のみが保険適用で、米国CDCは3日間の投与を推奨していること、鞭虫症ではメベンダゾール(200mg/日 分2、軽症3日間・重症5〜7日間)が保険適応を有し第一選択で、アルベンダゾール(400mg/日 分1)とイベルメクチン(0.2〜0.4mg/kg/日、重症例5〜7日間)は保険適応外であること、途上国で行われる1回投与では治癒率は50%といわれることを確認した。蟯虫症では、駆虫薬は成虫には有効だが幼虫には無効であるため初回治療時点の幼虫が成虫となる2週間後に同じ処方を反復すること、ピランテルパモ酸塩10mg/kg単回+2週後再投与またはメベンダゾール100mg単回+2週後再投与(保険適用外)を用いること、ピランテルパモ酸塩は妊婦および2歳未満の乳幼児に対する安全性が確立しておらず慎重に判断すべきで、メベンダゾール・アルベンダゾールは催奇形性のため妊婦に投与しないこと、同居家族など生活空間を共有する全員の検査・治療を一斉に行うことが再感染防止に重要であることを確認した。診断では、蟯虫は腸管内で産卵しないため糞便検査で虫卵は検出されず、起床直後の用便前にセロハンテープを肛門周囲に押しつけて虫卵を検出し、検出率向上のため複数日連続して実施することが望ましいこと、日本では2016年4月に蟯虫卵検査が学校健診の必須項目から除外された後も年間約28,000人と推定され国内で最も多い寄生蠕虫症であることも確認した。回虫成虫の体長はおおよそ雌30cm・雄20cmである。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Efficacy of recommended drugs against soil transmitted helminths: systematic review and network meta-analysis(BMJ・2017)アルベンダゾール・メベンダゾール・レバミゾール・パモ酸ピランテルの単回投与レジメンを比較したランダム化比較試験55件(治癒率)・46件(虫卵減少率)のネットワークメタ解析で、4剤とも回虫には高い有効性を示す一方、鉤虫に対してはアルベンダゾールだけが良好で治癒率79.5%(95%CI 71.5〜85.6%)・虫卵減少率89.6%(81.9〜97.3%)と最も高かったこと、鞭虫に対しては4剤いずれも有効性が低く最良のメベンダゾールでも治癒率42.1%(25.9〜60.2%)・虫卵減少率66.0%(54.6〜77.3%)にとどまったこと、さらにアルベンダゾールの鞭虫に対する有効性は1995年から2015年にかけて治癒率38.6%→16.4%、虫卵減少率72.6%→43.4%へと有意に低下したことを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Guideline: Preventive Chemotherapy to Control Soil-Transmitted Helminth Infections in At-Risk Population Groups(World Health Organization・2017)集団駆虫(preventive chemotherapy)としてWHOが推奨するのは単回投与のアルベンダゾール400mgまたはメベンダゾール500mgであり、土壌媒介性線虫のいずれかの保有率が20%以上の地域に住む幼児(12〜23か月)・未就学児(24〜59か月)・学齢児に年1回または年2回投与すること(強い推奨、エビデンスの質は低い)、非妊娠の思春期女児・生殖年齢女性にも同様に推奨されること、妊婦には第1三半期を過ぎてから、鉤虫または鞭虫の保有率が20%以上かつ貧血の有病率が40%以上の地域で単回投与を行うこと(条件つき推奨)を確認した。イベルメクチンとの併用は、この集団駆虫の推奨レジメンには含まれていない。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Efficacy and safety of co-administered ivermectin and albendazole in school-aged children and adults infected with Trichuris trichiura in Côte d'Ivoire, Laos, and Pemba Island, Tanzania: a double-blind, parallel-group, phase 3, randomised controlled trial(The Lancet Infectious Diseases・2022)鞭虫感染者を対象にイベルメクチン200μg/kg+アルベンダゾール400mgの単回併用をアルベンダゾール400mg単剤と比較した第3相二重盲検RCTで、治癒率はラオス66%対8%、ペンバ島49%対6%と併用が有意に優れた一方、コートジボワールでは14%対10%(p=0.24)と有意差がなかったこと、重篤な有害事象はなく、著者らが「鞭虫の保有率が高くこの併用の有効性向上が確認された国では併用療法の導入を推奨する」と結論していることを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-05