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Microbe Atlas · 蠕虫

Ascaris lumbricoides

回虫

分類
線虫・管腔 / Nematodes (luminal)Ascaris
科目
Medical Microbiology
トピック
4/35: Ascaris lumbricoides. Trichuris trichiura4/23: General characterisation and taxonomy of helminths5/17: Enterally acquired parasitic infections (list) and their diagnosis
原因となる疾患
Löffler症候群イレウス・腸閉塞クワシオルコル好酸球性肺炎腸管線虫症
作用する薬剤
イベルメクチンメベンダゾール

🧠 全体像:回虫を読む軸は「幼虫が腸管を出て、また戻ってくる」という壮大な回り道である。を飲み込むと、した幼虫は腸壁を突き破って血流に入り、肝臓・心臓を経て肺に達し、気道を上って再び嚥下されてから、ようやく小腸で成虫になる。このに一過性の(様)が起こる一方、成虫そのものは腸管内で毒素を出すわけではなく、物理的な閉塞——大量寄生による腸閉塞と、少数寄生でも起こりうる胆道・膵管への——が主要な合併症になる——「移行時は肺、定着後は閉塞」という二段構えで読むと臨床像が整理できる。同じ型のが腸管を出ないのとは対照的である。

微生物学的な特徴

ヒトの腸管に寄生する線虫の中で最大(体長はおおよそ雌30cm・雄20cm)1で、淡紅色〜のの虫体を持つ。世界で最も頻度の高いの原因種の一つで、感染者は世界で約10億人とされる1。

項目 内容
虫体 腸管に寄生する線虫で最大、体長はおおよそ雌30cm・雄20cm、淡紅色〜
虫卵() 厚く凹凸のある殻を持つ楕円形。胆汁で黄褐色に染まる
虫卵() より薄い殻、細長い形態
最終 小腸

生活環

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='embryonated egg'>感染卵</span>を経口摂取"] --> B["小腸で幼虫が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>"]
  B --> C["腸壁を貫通し血流へ"]
  C --> D["肝臓→心臓を経て肺へ到達"]
  D --> E["肺胞から気道を上行"]
  E --> F["咽頭に達し再び嚥下される"]
  F --> G["小腸に戻り成熟・産卵<br>(感染後2〜3か月)"]
  G --> H["虫卵が糞便とともに土壌へ排出"]
  H --> I["土壌中で約3週間かけ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='embryonated egg'>感染卵</span>に成熟"]
  I --> A

は1日に約20万個の虫卵を産むが、排出直後の虫卵には感染性が無く、土壌中で幼虫を内蔵したに育つ必要がある1。この成熟に約3週間かかるため、な糞便から直接うつることはなく、ヒトからヒトへの直接感染も起こらない。回虫は宿主の体内で増殖しないので、は環境中のに触れたときにだけ起こる2。

💡 回虫の卵は土壌中できわめて長期間(年単位)生存できる。 厚い殻に守られているため乾燥・低温にも強く、汚染された土壌が繰り返し感染源になる——一度ので終わらずを繰り返す理由の一つである。

病原性の仕組み

  • :幼虫がから気道へ抜け出る際、(喘息様発作に類似した様の像)を起こす。
  • 胆道・膵管への:成虫が胆管・胆嚢・膵管(ときに虫垂)にすると、閉塞・炎症・を来し、激しい腹痛の原因になる。は少数寄生でも起こりうる1。
  • 腸閉塞:大量寄生では虫体の塊がを物理的に閉塞し、イレウスを起こす——特に小児で問題になる。
  • 栄養不良:慢性の大量感染は・栄養不良の原因になる。

⭐ 小児での大量感染はタンパク欠乏(様)のを来しうる。 虫体が毒素を出すわけではなく、栄養を奪う経路は1つではない。は土壌伝播蠕虫に共通する機序として、虫体が宿主の組織を摂取して鉄と蛋白を失わせること、栄養素の吸収不良を増やすこと、食欲を落として摂取量を減らすことを挙げ、回虫については腸管内でを奪い合う可能性も指摘している2。症状の強さは寄生数に比例し、少数寄生ではふつう無症状である2。

感染経路と疫学

  • の経口摂取(糞口感染)で成立する。汚染された土壌に触れた手指、生野菜・果物の摂取が典型的な感染源。
  • 衛生インフラの不十分な地域、屋外排便の慣習がある地域に集中する。
  • 世界で最も頻度の高いであり、特に発展途上国の小児に多い。

起こす疾患

疾患・病態 特記事項
() 多くは無症状。に様の肺炎、大量感染で
イレウス・腸閉塞 大量寄生による虫体の塊がを閉塞する
胆道系合併症 成虫の胆管・膵管へのによる胆管炎・膵炎様の病態

診断

  • 糞便中の虫卵(・)または成虫の直接検出が基本。
  • は厚い凹凸のある殻を持つ特徴的な形態で、鑑別は比較的容易。
  • ⚠️ 雄成虫だけの寄生や未成熟の雌の寄生では虫卵が出ず、雌だけの寄生では不だけが出る。虫卵で診断した例は、治療後1か月に再検査して効果を判定する1。
  • にはの上昇(好酸球増多)と一過性のを認める。
  • 大量寄生の評価には腹部画像検査(虫体塊による閉塞の確認)を用いる。

治療と予防

感染者は無症状でも治療する1。どの薬を選ぶかは、国と場面(個々の患者の治療か、流行地でのか)で違う。

場面 使う薬
日本での個別治療 ピランテルパモ酸塩10mg/kg単回が第1選択で、治療効果は90%以上。・も有効だが保険適用外1
米国が示す個別治療 400mg単回(米国ではの治療として未承認)、100mgを1日2回3日間または500mg単回、150〜200µg/kg単回のいずれか。体重15kg未満の小児へのの安全性は分かっていない3
の 流行地の高リスク集団に、個別の診断をせず定期的に投与する。のファクトシートが推奨薬として挙げるのは400mgと500mgで、は挙がっていない2
  • ⚠️ 妊婦:・は催奇形性のため、国内の手引きでは妊婦に投与しないとされる1。一方、は流行地のに限り妊娠第2・の使用を認めており、米国は個々の妊婦では胎児へのリスクと治療しない場合の母体のリスクを比べて判断するよう求めている3
  • 胆管・膵管にした例では術や外科処置を併用する1。ごく高度の感染による腸閉塞はを要しうる2
  • 予防は衛生的な排泄処理、、生野菜・果物の十分な洗浄。

まとめ

  • 回虫は世界で最も頻度の高いの原因種の一つ(感染者約10億人)で、ヒトの腸管に寄生する最大の線虫(雌約30cm・雄約20cm)。
  • の経口摂取後、幼虫は腸壁→血流→肝臓→心臓→肺という肺移行を経てから小腸に戻って成熟する。
  • には様の、成虫定着後はによる閉塞・大量寄生による腸閉塞・栄養不良(様)が問題になる。
  • 診断は糞便中の特徴的な虫卵(厚い凹凸殻)または成虫の検出。
  • 治療は国と場面で違う。日本の個別治療はピランテルパモ酸塩単回が第1選択(・は保険適用外)、米国は・・を挙げ、のはかの単回投与。・閉塞などの合併症例では内視鏡的・外科的対応も要する。

出典

  1. 1.寄生虫症薬物治療の手引き ― 2020 ― 改訂第10.2版(日本寄生虫学会/日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業・2020)「V–1 回虫症」の節(PDF全文)で確認した。成虫の体長はおおよそ雌30cm・雄20cmであること、幼虫は小腸で孵化して血流に入り肝臓・心臓を経て肺に達し、経気管支的に咽頭へ移行して嚥下され、感染後2〜3か月で成虫になること、雌成虫は1日に約20万個の虫卵を排出し、排出直後の虫卵に感染性は無いこと、世界の感染者は約10億人であること、多数寄生で腸閉塞を起こし、少数寄生でも胆道・膵管・虫垂に迷入しうること。治療は無症状でも行い、国内ではピランテルパモ酸塩10mg/kg単回が第1選択で90%以上の治療効果があり、メベンダゾール・アルベンダゾールも有効だが保険適用外であること、胆管・膵管への迷入例では内視鏡的摘出術や外科処置を併用すること。学会サイトの掲載ページ(2026年8月26日更新)で、この第10.2版が現行の版として配布されていることも確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Soil-transmitted helminth infections(World Health Organization・2023)2023年1月18日付のファクトシートで、便中に出た虫卵は土壌中で感染性を持つまで約3週間を要するため人から人への直接感染は無いこと、回虫は宿主体内で増殖せず再感染は環境中の感染期との接触でのみ起こること、栄養への影響として虫体が宿主の組織を摂取して鉄と蛋白を失わせ、栄養素の吸収不良を増やし、回虫はビタミンAを腸管内で奪い合う可能性があり、食欲低下も起こすこと、症状は寄生数に比例し、ごく高度の感染では外科的治療を要する腸閉塞を起こしうること、WHOが推奨する薬はアルベンダゾール400mgとメベンダゾール500mgで、流行地の高リスク集団には個別診断なしで定期的に投与する方針であることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Care of Soil-transmitted Helminths(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)2024年6月3日付のページ(本体は自動取得を拒否したため、Wayback Machineの2026年9月1日の保存版で本文を確認)で、回虫症の治療薬としてアルベンダゾール400mg単回(米国では回虫症・鉤虫症の治療としてFDA未承認)、メベンダゾール100mgを1日2回3日間または500mg単回、イベルメクチン150〜200µg/kg単回が並べて挙げられていること、体重15kg未満の小児へのイベルメクチンの安全性は不明であること、アルベンダゾール・メベンダゾールは妊娠カテゴリーCで、WHOは集団駆虫では妊娠第2・第3三半期の使用を認めていることを確認した。閲覧 2026-09-27