微生物学

微生物学 · 4/35

回虫。鞭虫

Ascaris lumbricoides. Trichuris trichiura

微生物
Ascaris lumbricoidesTrichuris trichiura
疾患
Löffler症候群クワシオルコル腸管線虫症
症状
直腸脱

💡 土壌伝播蠕虫(STH:回虫・・鉤虫)はの推計で世界人口の24%・約15億人が感染し、就学前児童・学齢児童・思春期女児・妊婦を対象とした(preventive chemotherapy)が世界的な対策の柱になっている1。

🧠 回虫とは、同じ「型の」でも、幼虫が腸管を出るか出ないかで運命が分かれる好対照のペアとして読む。 回虫の幼虫は腸壁を突き破って血流に入り、肺→気道→という壮大な回り道をしてから腸に戻る(=肺移行症状が出る)。一方、の幼虫は最初から最後まで腸管内(盲腸)に留まり続ける(=局所症状しか出ない)。この「移行するか、しないか」が両者の臨床像の違いをすべて説明する。

分類と形態

項目 回虫(Ascaris lumbricoides) (Trichuris trichiura)
分類上の位置づけ 世界で最も頻度の高いの原因種 衛生状態の悪い地域・小児に多い
形態 最大の線虫(体長は雌おおよそ30 cm・雄20 cm)、淡紅色 鞭状の虫体(前端が細い)
卵の特徴 — レモン形で両端にを持つ胆汁染色卵
最終 小腸 盲腸

感染経路と生活環

いずれもの経口摂取で感染するが、体内での経路が大きく異なる。

回虫

  1. を経口摂取
  2. 小腸で幼虫がし、を貫通する
  3. 血流に入り、肝臓・心臓を経て肺に到達する
  4. 肺胞から気道を上行し、されて再び嚥下される
  5. 小腸に戻って成熟し、産卵する
  6. 卵は糞便とともに土壌へ排出される
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='embryonated egg'>感染卵</span>を経口摂取"] --> B["小腸で幼虫<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenal wall'>十二指腸壁</span>を貫通"]
  B --> C["血流→肝臓→心臓を経て肺へ"]
  C --> D["肺胞から気道を上行→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Expectoration'>喀出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reswallowing'>再嚥下</span>"]
  D --> E["小腸に戻り成熟・産卵"]
  E --> F["卵が糞便とともに土壌へ排出"]

  1. を経口摂取
  2. 小腸で幼虫がする
  3. 盲腸まで移行し、粘膜内に前端を埋め込んで成熟する(血流・肺への移行は起こらない)
  4. 受精雌が産卵し、卵は糞便中に排出される
  5. 土壌中でへと成熟する

臨床像

  • 無症状のことも多い
  • :喘息様発作に類似した肺炎(様の像)
  • 胆管・胆嚢・肝臓へのによる——として、回虫流行地では胆道・膵疾患の重要な原因になる(インドの流行地の前向き研究では胆道・膵疾患の36.7%を回虫が占めた)2
  • 大量寄生による腸閉塞(イレウス)——回虫は流行地における小児腸閉塞の主要な原因であり、ある前向き研究では小児腸閉塞例の63.2%が回虫によるものであった3
  • 腸管での栄養吸収阻害による栄養不良

⭐ 小児での大量感染はタンパク欠乏(、Kwashiorkor症候群)様のを来しうる。 虫体が腸管内で栄養素の吸収を物理的に妨げるためで、頻出ポイントとして押さえておく。

  • 多くは無症状
  • 腹痛、血性下痢
  • 虫垂を虫体が充満させると
  • (大量寄生・慢性のによる)

⚠️ は腸管を出ないため、回虫のような肺症状は起こらない。 症状はすべて盲腸〜直腸に限局した(機械的損傷・炎症)に由来する。

診断

  • いずれも糞便中の虫卵または成虫の検出が基本
  • 回虫卵:厚い凹凸のある殻を持つ、または
  • 卵:レモン形・両端にを持つ胆汁染色卵

治療

  • いずれも(mebendazole)、
  • ⭐ は単剤のでは効果が乏しく、+併用が単剤より高い治癒率を示すとする報告がある。 3か国でのではラオス(66% vs 8%)・ペンバ島で単剤より有意に治癒率が高かった一方、コートジボワールでは有意差が出ず、併用のは流行状況によって差があることに注意する4

まとめ

  • 回虫は世界最多ので最大の線虫、は地域・小児に多い鞭状の線虫——いずれもの経口摂取で感染する。
  • 回虫の幼虫は腸壁→血流→肺→気道→という肺移行を経てから小腸に定着する。の幼虫は最初から盲腸に留まり移行しない。
  • この違いが臨床像を分ける:回虫は肺症状(Löffler様肺炎)・大量感染での腸閉塞・(様)、は盲腸・直腸の局所症状(血性下痢・)。
  • 診断は両者とも糞便中の虫卵・成虫検出(卵は両端の栓が特徴的)。
  • 治療は両者とも・。

出典

  1. 1.Soil-transmitted helminth infections(World Health Organization・2023)土壌伝播蠕虫(回虫・鞭虫・鉤虫)の世界的な感染者数が推計15億人(世界人口の24%)に上ること、就学前児童2億6000万人・学齢児童6億5400万人・思春期女児1億800万人・妊娠中および授乳中の女性1億3880万人が高度流行地域に居住し集団投薬(preventive chemotherapy)の対象になること、WHOが推奨する薬剤がアルベンダゾール400mg・メベンダゾール500mgであることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Hepatic and biliary ascariasis(Journal of Global Infectious Diseases・2014)インドのカシミール地方(回虫流行地)の前向き研究で、胆道・膵疾患患者109例のうち36.7%で回虫が原因とされたこと、小児では胆道の管腔が細いため胆道閉塞より腸閉塞として発症しやすいことを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Surgical decision-making in pediatric intestinal ascariasis: experience from an endemic region(BMC Surgery・2026)流行地の小児腸閉塞190例の前向き検討で、120例(63.2%)が回虫による腸閉塞と診断されたこと、保存的治療のみで改善した例が試行例の81.3%に上る一方45.8%は外科的介入を要したことを確認した(アブストラクトのみ確認、全文は未取得)。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Efficacy and safety of co-administered ivermectin and albendazole in school-aged children and adults infected with Trichuris trichiura in Côte d'Ivoire, Laos, and Pemba Island, Tanzania: a double-blind, parallel-group, phase 3, randomised controlled trial(The Lancet Infectious Diseases・2022)3か国(コートジボワール・ラオス・タンザニア)での第3相二重盲検RCTで、鞭虫感染に対するイベルメクチン+アルベンダゾール併用の治癒率がアルベンダゾール単剤より有意に高かったこと(ラオス66% vs 8%)を確認した一方、コートジボワールでは有意差が出ず設定によって優越性の程度が異なることを確認した(アブストラクトのみ確認、全文は未取得)。閲覧 2026-08-26