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Disease Atlas · 小児 · 疾患

クワシオルコル

Kwashiorkor

別名
Edematous malnutrition浮腫性栄養障害
臓器系
小児内分泌・代謝消化器
科目
Medical BiochemistryMedical Microbiology
トピック
生化学 7/1:窒素平衡;タンパク質の消化;プロテアーゼの機能と調節;アミノ酸の吸収とアミノ酸輸送体;アミノ酸の異化;アンモニアの排泄;オルニチン(尿素)回路の反応と調節微生物学 4/35:回虫。鞭虫
原因微生物
Ascaris lumbricoides
症状
浮腫圧痕性浮腫落屑肝腫大
検査値
アルブミンカリウムマグネシウム

🧠 全体像:を読む軸はただ一つ、「痩せているのに浮腫んでいる」という一見矛盾した見た目である。エネルギー摂取自体はある程度保たれているのに、蛋白質・・だけが高度に欠乏することで、を中心とした複数の機序が両側性の浮腫を作り出す——これが「エネルギーも蛋白質も枯渇して痩せさらばえる」との最大の違いであり、診断の必須条件でもある。もう一つの急所は治療そのもので、の身体は見た目に反してリン・カリウム・が枯渇しており、急いで栄養を入れるとで命を落とす。

病態:なぜ浮腫むのか

蛋白質・の高度な欠乏は、複数の経路が重なって全身性の浮腫を作る1。

flowchart TD
    A["蛋白質・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='essential amino acid'>必須アミノ酸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='micronutrient'>微量栄養素</span>の<br>高度な欠乏(エネルギー摂取は比較的保たれる)"] --> B["肝での蛋白合成低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoalbuminemia'>低アルブミン血症</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma oncotic pressure'>血漿膠質浸透圧</span>の低下"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutathione'>グルタチオン</span>など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antioxidant'>抗酸化物質</span>の枯渇"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>・組織障害"]
    A --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut microbiota'>腸内細菌叢</span>の変化<br>(Proteobacteria優位)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal permeability'>腸管透過性</span>の亢進<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut-liver axis'>腸肝軸</span>の障害"]
    D --> I["両側性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pitting edema'>圧痕性浮腫</span>"]
    F --> I
    H --> I
    B --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty liver'>脂肪肝</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatomegaly'>肝腫大</span>"]

⭐ 浮腫の原因はだけではない。 による細胞・血管の障害、の変化に伴う亢進も加わった複合的な病態であり、単純な「」だけでは説明しきれない1。

マラスムスとの対比

同じ(SAM)の枠組みでも、とは臨床像がまったく異なる1。

項目
主な欠乏 蛋白質・・(エネルギーは比較的保たれる) エネルギー・蛋白質の全般的な欠乏
⚠️ 浮腫 あり(両側性・、診断に必須) なし
外観 浮腫で腫れぼったく見える 高度な、「」
皮膚 「」の・ 正常に近いが乾燥・弾力低下
毛髪 脱色・菲薄化・容易に抜ける(の変動を反映した明暗の縞模様を伴うことがある) 変化に乏しい
肝 脂肪変性による 正常

(両者の混合型)もあり、境界は必ずしも明瞭ではない1。

臨床像

  • 両側性の:足から始まり下腿・体幹・顔面へ進展しうる2。
  • ペンキが剥がれ落ちるような皮膚・。
  • 毛髪の脱色・菲薄化・容易な脱毛(の変動を反映して毛髪に明暗の縞模様ができることがある)。
  • 脂肪変性による。
  • 易感染性(免疫能低下)、、・不機嫌などの精神症状を伴う。

💡 回虫などのによる大量寄生も、蛋白欠乏を助長する一因になりうる。 回虫は虫体そのものが毒素を出すのではなく、大量寄生時にを物理的に占拠して栄養素の吸収を妨げるため、もともとの乏しい小児では蛋白欠乏を悪化させる方向に働く。

診断:WHOの重症急性栄養不良基準

次のいずれかを満たせば(SAM)と診断し、の存在はそれだけで重症の基準を満たす2。

基準 閾値
(WHZ/WLZ) −3 SD未満
(、生後6〜59か月が対象) 115 mm未満
両側性のがあれば、他の基準を満たさなくても重症

中等症はWHZ/WLZ −3 SD以上−2 SD未満、または 115 mm以上125 mm未満で判定する2。

治療:安定化期→回復期の二段階、⚠️リフィーディング症候群に注意

入院管理か外来管理か

食欲が良好で浮腫や急性合併症を伴わない無合併型のSAMは、地域を基盤とした外来管理(RUTF=すぐに使えるによる)のほうが入院治療より転帰が良いとされ、多くの国で標準治療になっている1。一方、浮腫(の定義そのもの)や急性合併症を伴うのSAMは入院治療を要し、脱水・感染症の治療となどの治療合併症の回避を並行して行う1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='severe acute malnutrition'>重症急性栄養不良</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kwashiorkor'>クワシオルコル</span>)と診断"] --> B["安定化期(数日〜1週間程度)"]
    B --> C["F-75による低カロリー・低蛋白・低ナトリウムの<br>慎重な栄養再開+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrolyte correction'>電解質補正</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment of infection'>感染治療</span>"]
    C --> D{"血行動態・電解質が安定したか"}
    D -->|"安定"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recovery phase'>回復期</span>へ移行"]
    D -->|"不安定"| F["F-75を継続し電解質を再評価"]
    E --> G["F-100による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empty calories'>高カロリー</span>栄養で<br>積極的な体重増加を図る"]

安定化期の要点:低血糖・低体温・脱水補正

⚠️ 安定化期でまず補正すべきは低血糖・低体温である。 の小児はグリコーゲン・脂肪の予備が乏しく低血糖・低体温に陥りやすく、脱水・電解質異常とあわせて早期に是正し、感染症を速やかに治療する1。栄養再開そのものが低血糖を誘発しうるため、夜間の持続や頻回少量摂取で予防する1。

⚠️ 脱水の補正には通常のではなくReSoMal(Rehydration Solution for Malnutrition)を用いる。 SAMの小児は総ナトリウム過剰・カリウム欠乏という通常の脱水とは逆の電解質異常を抱えているため、標準的なや輸液用ではナトリウムが過剰でカリウムが不足して危険であり、低ナトリウム・高カリウム組成のReSoMalが用いられる1。

⚠️ 急速な栄養再開はを招く。 なではリン・カリウム・の体内貯蔵が血清値の見かけ上の正常にもかかわらず枯渇しており、急に栄養(特に糖質)を入れると上昇に伴いこれらが細胞内へ急激に取り込まれ、重篤な電解質異常・不整脈・神経障害を来しうる1。

病期 使用する治療乳 組成の要点 目的
安定化期 F-75 100 mLあたり約75 kcal・蛋白0.9 g、低脂肪・低蛋白・低ナトリウム を避けつつ代謝を安定させる
F-100 100 mLあたり約100 kcal・蛋白約2.9 g、必要熱量の120〜140% 積極的な体重増加・の回復

安定化期では(カリウム・を含む)と感染症の治療を並行し、いきなりの栄養療法を始めない1。

予後

早期に安定化期・の段階を踏んで管理すれば回復しうるが、重症例・診断や治療の遅れがある例では死亡率が高い。回復後も・認知発達への影響が残ることがある。

まとめ

  • は蛋白質・・が主体ので、エネルギー摂取は比較的保たれる点がと異なる。
  • ⚠️ 両側性のが診断に必須で、・・亢進が重なって浮腫を作る。
  • 皮膚の「」、毛髪の脱色・脱毛(明暗の縞模様を伴うことがある)、によるが特徴的な臨床像。
  • の基準は、WHZ/WLZ −3 SD未満・ 115 mm未満・のいずれかを満たすこと。
  • 治療は安定化期(F-75)→(F-100)の二段階で、⚠️ 急速な栄養再開による(低リン・低カリウム・)に注意する。

出典

  1. 1.Severe Acute Malnutrition: Recognition and Management of Marasmus and Kwashiorkor(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)重症急性栄養不良(SAM)がマラスムス(総エネルギー欠乏による重度のるい痩)とクワシオルコル(エネルギー摂取がほぼ保たれていても蛋白質・必須アミノ酸・微量栄養素が高度に欠乏し浮腫を来す病型)に大別されること、両者が合併するマラスムス・クワシオルコル混合型もあること、クワシオルコルの浮腫が肝での蛋白合成低下による低アルブミン血症・膠質浸透圧低下、グルタチオン枯渇による酸化ストレス、腸内細菌叢の変化(Proteobacteria優位)による腸管透過性亢進の複数機序で説明されること、臨床像として両側性の圧痕性浮腫・「ペンキ剥離状」の皮膚落屑・脱色し引き抜けやすい毛髪・脂肪変性による肝腫大を認めること、治療がまず安定化期(F-75、100 mLあたり約75kcal・蛋白0.9gで低脂肪・低蛋白・低ナトリウム設計によりリフィーディング症候群のリスクを抑える)で始まり回復期(F-100、100 mLあたり約100kcal・蛋白約2.9g、必要熱量の120〜140%)へ移行すること、リフィーディング症候群では血清値が正常でも体内のリン・カリウム・マグネシウムが枯渇しており急速な栄養再開で致死的な電解質異常・不整脈・神経障害を来しうることを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.WHO guideline on the prevention and management of wasting and nutritional oedema (acute malnutrition) in infants and children under 5 years(World Health Organization・2023)栄養性浮腫が「両側性の圧痕性浮腫で足から始まり下腿・全身(顔を含む)へ進展しうる」と定義されていること、重症消耗症の診断基準が身長/体長別体重Zスコア(WHZ/WLZ)マイナス3標準偏差未満、上腕周囲長(MUAC)115mm未満、栄養性浮腫の存在のいずれかであること、中等症消耗症がWHZ/WLZマイナス3以上マイナス2未満またはMUAC115mm以上125mm未満であることを確認した。閲覧 2026-08-19