微生物学

微生物学 · 4/36

糞線虫、犬糸状虫(Dirofilaria repens)

Strongyloides stercoralis, Dirofilaria repens

微生物
Dirofilaria immitisDirofilaria repensStrongyloides stercoralis
疾患
糞線虫症

🧠 とは「宿主内で生活環がどこまで完結するか」で正反対に位置する2種として読む。 は鉤虫と同じ型の線虫でありながら、体内で→への発育を完結させ、だけで一生涯感染を持続できる——唯一無二の存在である。対照的には、そもそもヒトが終宿主ではないため成虫にすらなれず途中で死ぬ、の典型例になる。

糞線虫

分類と形態

  • 線虫で、形態は鉤虫に類似する
  • 生活環は鉤虫と3点で大きく異なる
    1. 虫卵は糞便として排出される前に腸管内でする(→では卵ではなく幼虫が見つかる)
    2. 腸管内でがそのまま感染型のへ発育しうる(→が成立する)
    3. ヒト体外でもを営むことができる——ヒト寄生線虫の中でも特異な性質

感染経路と生活環

  1. 土壌中の(感染型)が皮膚を貫通して侵入する
  2. 血流に入り、肺に達して気道を上行、・嚥下される
  3. 小腸に定着し(雌のみで)産卵する
  4. 卵は腸管内でし、がに放出される
  5. はここで2つの経路に分岐する
    • 直接環(路):腸管内でへ発育→腸壁や肛門周囲皮膚を貫通して再び血流に戻る=。治療しない限り感染が無期限に持続する
    • 間接環:糞便とともに排出され、土壌中で成虫として発育し、環境中で世代を重ねる
flowchart TD
  A["土壌中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filariform larva'>糸状幼虫</span>が皮膚を貫通"] --> B["血流→肺→気道上行→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Expectoration'>喀出</span>・嚥下"]
  B --> C["小腸に定着し産卵(腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabditiform larva'>桿線状幼虫</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal lumen'>腸管腔</span>へ放出"]
  D --> E["直接環:腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filariform larva'>糸状幼虫</span>へ発育"]
  D --> F["間接環:糞便中へ排出→土壌で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free-living'>自由生活</span>"]
  E --> G["腸壁/肛囲皮膚を貫通し再び血流へ<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoinfection'>自己感染</span>)"]
  G --> B
  F --> A

⚠️ 免疫不全患者ではが暴走し、致死的なを起こす。 ステロイド投与や(、human T-cell leukemia virus type 1)合併などで細胞性免疫が低下すると、が急激に加速し、大量の幼虫が肺・中枢神経系・肝臓など全身に播種する。移行する幼虫は腸内細菌を随伴するため、グラム陰性菌による敗血症・髄膜炎を合併しやすく、致死率が高い。はここまでの線虫の中で唯一「何十年も後に致死的感染として顕在化しうる」種であり、過小評価してはならない。投与は・の最も頻度の高い誘因で短期投与でも起こりうる(合併も重症化・の危険因子)ため、流行地への曝露歴がある患者は移植前・ステロイド開始前にを行うべきである12。

臨床像:糞線虫症

病期 症状
早期 肺炎様症状、軽度の消化器症状(腹痛・下痢)、肛門周囲の掻痒(幼虫の皮膚貫通による)
後期・慢性期 吸収不良、潰瘍、血性便
免疫不全時 ・(上記⚠️参照)

診断

  • 糞便中の幼虫の検出(体内でするため虫卵は検出されない)
  • :生きた幼虫を糞便から濃縮する手法

治療

  • (ivermectin)が第一選択で、より有効性が高いとされる1
  • /

犬糸状虫

分類と形態

  • 線虫、通称「」——イヌの心臓(・肺動脈)に致死的な虫塊を形成する
  • ヒトは本来の終宿主ではなく、偶発的な感染が成立するのみ

感染経路と生活環

  1. イヌが蚊に刺されて感染する
  2. 幼虫が移行し、・肺動脈に達して成虫となる
  3. 成虫はイヌの死に至るまでそこに寄生し続け、を血中に放出する
  4. 蚊がを吸血で取り込み、次のイヌへ媒介する
  • ヒトへの偶発感染では生活環が完結せず、多くの場合成虫になる前に幼虫が死滅する——死滅した虫体は肺で「」を、皮下では結節を形成する

💡 (Dirofilaria repens)は欧州でD. immitisより速く北上している。 南欧・地中海沿岸の流行地から気候変動によるの分布拡大とペットの海外渡航増加を背景に北欧へ分布が拡大しており、従来の非(オーストリア、チェコ、ドイツ、リトアニアなど)でも自然感染例が報告されるようになっている3。

臨床像

  • 皮下結節
  • 心・肺症状(肺動脈にした場合)

💡 肺の「」は腫瘍とされやすい。 幼虫が肺動脈枝で死滅し血栓性の結節を作ると、画像上は肺腫瘍と鑑別が難しい——生検・切除で初めて虫体感染と判明することが多い。

診断

  • 症状からの推定、画像検査(肺のとして発見されることが多い)

治療

まとめ

  • は鉤虫と同じ型の線虫だが、体内で・を完結できる点が最大の特徴で、無治療なら感染が無期限に持続する。
  • 免疫不全(ステロイド、合併など)ではが暴走し、致死的な(グラム陰性菌の敗血症・髄膜炎合併を伴う)を来しうる。
  • の診断は糞便中の幼虫検出(虫卵は出ない)と、治療はが第一選択。
  • はイヌの心臓・肺動脈に寄生する線虫で、ヒトは偶発的なにすぎず、幼虫は多くが成虫になる前に死滅する。
  • ヒトのは肺の「」や皮下結節として発見され、腫瘍との鑑別が問題になる。を起こす真の糸状虫群(Wuchereria等)との対比はを起こす線虫を参照。

出典

  1. 1.Evidence-Based Guidelines for Screening and Management of Strongyloidiasis in Non-Endemic Countries(American Journal of Tropical Medicine and Hygiene・2017)流行地への曝露歴がある免疫抑制予定患者(移植前・ステロイド開始前を含む)は治療開始前に血清学的スクリーニングを行うべきこと、糖質コルチコイドが過剰感染症候群・播種性感染の最も頻度の高い誘因であり短期投与でも起こりうること、HTLV-1感染が重症化・治療失敗の危険因子であること、イベルメクチン200µg/kgが第一選択治療でありアルベンダゾールより有効性が高いことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Strongyloidiasis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)糞線虫症が自己感染により無治療なら数十年にわたり持続しうる土壌媒介性線虫感染症であること、慢性期は無症候性〜軽微な消化器症状にとどまる一方、免疫不全者では過剰感染症候群・播種性感染という致死的な経過をとりうることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Recent advances on Dirofilaria repens in dogs and humans in Europe(Parasites & Vectors・2018)欧州において*Dirofilaria repens*が*D. immitis*より速い速度で南欧の流行地から北欧へ分布を拡大していること、気候変動によるハマダラカ・ヤブカ属媒介蚊の生息域拡大とペットの海外渡航の増加が拡大要因と考えられ、オーストリア・チェコ・ドイツ・リトアニアなど従来の非流行地域でも自然感染例が報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-26