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Microbe Atlas · 蠕虫

Dirofilaria immitis

イヌ糸状虫

分類
線虫・組織 / Nematodes (tissue)Dirofilaria
科目
Medical Microbiology
トピック
4/36: Strongyloides stercoralis, Dirofilaria repens4/23: General characterisation and taxonomy of helminths5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
犬糸状虫症

🧠 全体像:Dirofilaria immitis(イヌ心臓虫)は本来イヌの・肺動脈に寄生する糸状虫で、蚊が媒介する。ヒトはではなく——幼虫は肺動脈の終末枝までしたところで成虫になれずに死滅する。死滅した虫体に対する肉芽腫反応が肺に円形の(/)を作り、肺癌検診で発見され肺癌と誤られるのが本種を学ぶ最大の理由になる。近縁種D. repens(皮下結節)とは部位・病像が全く異なる点も対比して覚える。

微生物学的な特徴

  • 線虫(糸状虫)。イヌ(まれにネコ・フェレット等)の・肺動脈に致死的な虫塊を形成する、通称「イヌ心臓虫」。
  • ヒトは本来の終宿主ではなく、偶発的な感染が成立するのみ——生活環が完結せず、多くの場合成虫になる前に幼虫が死滅する。
  • 近縁種Dirofilaria repensとの比較:
項目 D. immitis D. repens
イヌでの ・肺動脈 皮下組織
ヒトでの部位 肺動脈終末枝 皮下組織・下
ヒトでの典型像 () 移動性皮下結節
主な分布 北米・地中海沿岸・アジア(日本では南に偏る) 南欧・東欧・南西アジア

生活環

flowchart TD
    A["イヌが蚊に刺され感染"] --> B["幼虫が皮下で発育し<br>血流に入る"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right ventricle'>右心室</span>・肺動脈へ移行し成虫化<br>(イヌ体内で約6-7か月)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microfilaria'>ミクロフィラリア</span>を血中に放出"]
    D --> E["蚊が吸血時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microfilaria'>ミクロフィラリア</span>を<br>取り込み次のイヌへ媒介"]
    F["ヒトが蚊に刺された場合"] --> G["幼虫が皮下組織から血流に入り<br>肺動脈終末枝まで移行を試みる"]
    G --> H["ヒト免疫反応により<br>成虫になる前に死滅"]
    H --> I["死滅部位に肉芽腫性の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary infarct-like nodule'>肺梗塞様結節</span>を形成"]

病原性の仕組み

  • 生活環が完結しないため、病態は虫体そのものの障害ではなく「死滅した虫体に対する炎症・肉芽腫反応」そのものである。
  • 成虫になりきらない前成虫が肺動脈を閉塞すると、その先にと強い炎症(肺炎)が起こる。この急性期には胸部画像で境界不明瞭な浸潤影を示し、肺・全身症状が出ることがある1。
  • ⭐ 典型像のは、この初期の肺炎が収束した最終形である1。円形・境界明瞭な結節として描出される時点では虫体は既に死滅しているため、として拡大していく病変ではない——鑑別の対象は「進行する感染症」ではなく「悪性腫瘍ほかの」である。

感染経路と疫学

  • 蚊が媒介し、イヌの心臓が流行する温暖・湿潤な地域(北米、地中海沿岸、東アジアなど)で人体感染例がする。
  • イヌの心臓の流行状況とヒトの感染リスクは相関する。
  • ヒト-ヒト感染はなく、蚊を介した(人獣共通)感染のみで成立する。

起こす疾患

ヒトの肺:多くは無症状で、健診・肺癌検診の胸部画像検査で発見されるとして顕在化し、原発性・転移性の肺悪性腫瘍に似る1。胸痛・咳嗽・を伴うことがあり、これは前成虫による肺動脈閉塞が起こす急性期の肺炎・に対応する1。

日本では1978〜2022年に69例の報告があり、発見の主な契機は健康診断である。発生は南西日本(中国・四国地方の人口当たりが高い)に偏り、北東日本では少ない。報告数は2000年代まで増加した後、2010年代に著明に減少した2。

⭐ 世界の傾向と日本の傾向は逆を向いている。 総説は認知度の向上とをめぐる要因により世界的には報告が増えているとしており1、日本国内での減少と対照的である。日本の報告の著者は、気候変動によって北東日本でも増えうると述べている2。

診断

  • 画像所見:円形・境界明瞭な孤立性結節(/)——肺癌やとの鑑別が臨床上最大の課題になる⭐。
  • ⚠️ 本症を他のの原因から区別できる・・画像所見は無い1。画像だけで「これは」と決められないため、悪性腫瘍の除外が先に立つ。
  • 確定診断は外科的切除・生検による虫体の組織学的同定(崩壊した虫体を含む血栓性梗塞像)で、大多数がこの経路で診断される1。日本の報告では約70%がで診断されている2。
  • 血清学的検査は存在するが通常は商用化されておらず、実地で当てにできない1。
  • 好酸球増多は必発ではない。

治療と予防

  • ヒトでは特異的なは通常不要——病変はすでに死滅した虫体であり、悪性腫瘍の除外を兼ねた外科的切除(生検)で治療が完結することが多い。
  • はイヌにおける予防投与(毎月投与)として広く用いられるが、ヒトでのではない。
  • 予防はイヌの定期()と蚊対策が中心——動物側の対策が人獣共通感染症予防の主軸になるというの実例である。

まとめ

  • D. immitisはイヌの・肺動脈に寄生する糸状虫で、蚊が媒介する。ヒトはで成虫にならない。
  • ヒトでは前成虫が肺動脈を閉塞して死滅し、と炎症を経て()が残る——肺癌検診で発見され肺癌と誤られるのが臨床上の要点で、結節を他の原因と区別できる所見は無い1。
  • 確定診断は外科的切除による組織学的同定で、治療も切除で完結する。日本の報告では約70%がで診断されている2。
  • D. repensは皮下組織にし移動性皮下結節を作る点で病像が対照的——同属でもが違えば臨床像は全く別物になる。
  • 予防はイヌの定期と蚊対策。

出典

  1. 1.Human Pulmonary Dirofilariasis: A Review for the Clinicians(The American Journal of the Medical Sciences(Saha BK, Bonnier A, Chong WH, et al.)・2022)抄録で確認した(全文未取得)。ヒトはDirofilaria immitisの偶発宿主で、多くの患者は無症状で原発性・転移性肺悪性腫瘍に似た偶発的な肺結節として見つかること、認知度の向上と媒介蚊に影響する要因により世界的に発生が増加していること、一部は前成虫による肺動脈の閉塞で生じる肺梗塞と強い炎症=急性期の肺炎により肺・全身症状を示し胸部画像で境界不明瞭な浸潤影を呈すること、肺結節は初期の肺炎の最終結果であること、本症を他の肺結節の原因と区別できる臨床・検査・画像所見は無いこと、血清学的検査は存在するが通常は商用化されていないこと、大多数は病変の外科的切除後に崩壊した虫体を組織学的に同定して診断されることを確認した(Crossrefで著者7名・363巻11〜17頁を照合)。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Characteristics of Human Pulmonary Dirofilariasis in Japan: An Uncommon Differential Diagnosis of a Solitary Pulmonary Nodule(Japanese Journal of Infectious Diseases(Oshima K)・2023)抄録で確認した(全文未取得)。日本では1978〜2022年に69例が報告され、発生数は2000年代まで増加した後2010年代に著明に減少したこと、発見の主な契機は健康診断であること、発生は日本の南西部で多く北東部で少なく、中国・四国地方の人口当たり発生率が高いこと、特異的な症状が無いため非侵襲的な手技での診断は通常難しく約70%が胸腔鏡下手術で診断されていること、気候変動により北東部でも増加しうると著者が述べていることを確認した(Crossrefで著者1名を照合)。閲覧 2026-09-27