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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

犬糸状虫症

Dirofilariasis

別名
肺犬糸状虫症ヒト肺犬糸状虫症Human pulmonary dirofilariasisHPD
臓器系
感染症呼吸器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 4/37:フィラリア症の起因寄生虫微生物学 5/18:節足動物媒介性寄生虫感染症の起因病原体一覧
鑑別疾患
包虫症結核腫肺癌
原因微生物
Dirofilaria immitis
症状
咳胸痛発熱喀血
検査値
好酸球増多
画像所見
結節

🧠 全体像:は「イヌの心臓に寄生する虫が、蚊を介してヒトへ迷い込んだ結果」である。ヒトは本来の宿主ではない・なので、幼虫は成虫まで育たず心臓にもたどり着けない。血流に乗って肺動脈で立ち往生し、そこで死ぬ——この「死んで初めて病変になる」という成り立ちが、ほとんどの症例が無症状のとして健診で見つかり、悪性腫瘍と区別するためのに至るという臨床像をそのまま説明する。

病原体とライフサイクル

Dirofilaria immitis(、dog heartworm)は本来イヌ・ネコを終宿主とする糸状虫で、蚊(Culicidae科)が媒介する。蚊がイヌから吸血する際にを取り込み、蚊の体内で(L3期)へ発育したのち、次の吸血でヒトを含むの皮下に注入される1。

⚠️ ヒトは終宿主ではない。 幼虫は皮下から血流に入りまで到達することがあるが、性成熟した成虫にはなれず、も産生しない。多くは肺動脈内で死滅し、そこで初めて臨床的な病変を作る1。同じ属のD. immitis・D. repensのうち、肺病変を作るのはD. immitis、皮下・眼の結節を作るのは主にD. repensという役割分担がある。

疫学

D. immitisは動物の間では世界的に分布するが、ヒトへの感染は新大陸に比べて欧州では例外的とされる。流行地では動物の保虫率が診断の手がかりになり、イタリア・ポー川流域のような流行地では犬での陽性率が50%を超え、猫でも7〜27%に達する1。蚊が媒介する以上、流行地の犬・猫の保虫率が高い地域ほどヒト症例のリスクも上がるという単純な関係にある。

病態生理:なぜ「銭形陰影」になるのか

flowchart TD
    A["蚊の刺咬でD. immitis<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infective larva'>感染幼虫</span>がヒト皮下へ侵入"] --> B["血流に入り<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right heart (right-sided)'>右心系</span>・肺動脈へ到達"]
    B --> C["ヒトでは性成熟できず<br>肺動脈末梢で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schistosomulum'>幼若虫</span>体のまま死滅"]
    C --> D["死滅した虫体が末梢肺動脈を閉塞し<br>その<span class='jp-term jp-term-diagram' title='territory'>灌流域</span>に小梗塞を生じる"]
    D --> E["血栓性病変+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulomatous inflammation'>肉芽腫性炎症</span>反応"]
    E --> F["境界明瞭な結節(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coin lesion'>銭形陰影</span>)として結実"]

死滅した虫体そのものが塞栓子となり、末梢肺動脈を閉塞してに小さな梗塞を作る。そこに血栓性病変と反応が加わり、境界明瞭な結節を形成する1。病変の主体は虫体そのものではなく、虫体の死をきっかけに起こる宿主側の炎症・梗塞反応である。

症状

⭐ 半数を超える感染が無症状で経過する。 日本の症例集積では67%、テキサスの症例集積では10例中5例が無症状だった2。

症状 補足
無症状 半数超。健診の胸部画像で発見される
咳 症状がある場合の代表例
胸痛 梗塞部位に一致することがある
発熱 急性期の炎症反応を反映
喀血 頻度は高くないが報告される

💡 好酸球増多はむしろ例外である。 蠕虫感染というと好酸球増多を連想しがちだが、日本の症例集積では17%にとどまった2。「好酸球が正常だから寄生虫は否定的」と早合点しない——本症では正常であることのほうが多い。

画像所見と鑑別

肺病変は典型的に1〜3 cm、境界明瞭な結節()として現れ、多くは孤立性・右下葉に好発する1 2。梗塞を中心とした球形の陰影という成り立ちから、辺縁は比較的整である。

⚠️ 画像だけでは肺癌と区別できない。 として見つかったとき、は稀ではあるが常に鑑別に残る良性疾患であり、これが理由でに至る例が大半を占める2。同じを作る・とも、画像単独では確定できない点は共通する。

鑑別 との違い
肺癌 進行性増大・悪性を示唆する随伴所見(リンパ節腫大・浸潤影)を伴いうる。は死滅した虫体が作る病変なので経過とともに縮小・安定することが多い
。結核の既往・接触歴、他部位のの証明が手がかりになる
・嚢胞性の陰影で、内部に隔壁や娘嚢を伴うことがある点が結節主体のと異なる

いずれも術前の画像所見だけで確定的に除外できず、組織診断まで進んで初めて判明するという構図は共通する。

flowchart TD
    A["健診で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solitary pulmonary nodule'>孤立性肺結節</span>を指摘(多くは無症状)"] --> B{"悪性腫瘍が<br>否定できるか"}
    B -->|できない| C["外科的切除・生検<br>(VATSなど)"]
    B -->|できる<br>(稀)| D["経過観察"]
    C --> E["組織学的に虫体断面を確認"]
    E --> F["クチクラの性状で虫種を鑑別<br>(平滑=D. immitis、波状=D. repens)"]
    F --> G["必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>で確定"]

診断

確定診断は外科的切除で得られた組織の病理検査による。虫体断面のクチクラの性状(D. immitisは平滑、D. repensは波状)と内部臓器の観察で鑑別し、検出を補うためMasson trichrome染色を用いることもある1。

  • 切片からのによるPCRが、組織診断の裏付けとして血清学よりが高い1。
  • ⚠️ 血清学的検査は種間のという限界を持ち、単独では診断根拠として弱い1。
  • 術前に確定診断がつくことは少なく、多くは切除後の病理で初めて判明する2。

治療

⭐ 結節のそのものが治療として完結する。 虫体は既に死滅しており増殖・播種はしないため、切除後になどの内科的治療を追加する必要はなく、広く受け入れられた薬物療法も存在しない2。

まとめ

  • ヒトはD. immitisの終宿主ではなく、蚊に刺されて侵入した幼虫は・肺動脈で性成熟できずに死滅する。
  • 死滅した虫体が末梢肺動脈を閉塞し、梗塞+により境界明瞭な結節()を作る。1〜3 cm・右下葉好発・孤立性が典型。
  • 半数超が無症状。症状があれば咳・胸痛・発熱・喀血。好酸球増多はむしろ少数(17%)にとどまる。
  • 画像だけでは肺癌と区別できず、多くは悪性腫瘍疑いので診断される。確定は組織学的なクチクラ所見と。
  • 治療は結節の切除で完結し、などの内科的治療は不要。

出典

  1. 1.Human Pulmonary Dirofilariasis Due to Dirofilaria immitis: The First Italian Case Confirmed by Polymerase Chain Reaction Analysis, with a Systematic Literature Review(Life (MDPI)・2022)蚊(Culicidae科)がDirofilaria immitisをヒトへ媒介し、ヒトは終宿主ではなく偶発宿主であること、フィラリアが肺循環に達すると多くが肺動脈内で死滅して小さな梗塞を生じ、死滅した虫体が血栓性病変と肉芽腫性炎症反応を引き起こして局所性の結節を形成すること、典型的な肺病変が1〜3 cmで境界明瞭な銭形陰影として画像に現れること、組織診断ではクチクラの性状(D. immitisは平滑、D. repensは波状)と内部臓器の観察により鑑別し検出感度を上げるためMasson трихrome染色を要することもあること、パラフィン包埋組織からの種特異的プライマーによるPCRが血清学より信頼性が高いこと(血清学は種間の交差反応性という限界を持つ)、D. immitisは動物では世界的に分布するがヒト感染は新大陸に比べ欧州では例外的であること、イタリア・ポー川流域の流行地では犬での陽性率が50%超・猫で7〜27%に達することを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Human pulmonary dirofilariasis: A case report and a brief review(Respiratory Medicine Case Reports・2013)Dirofilaria感染の半数超が無症状であり、日本の症例集積では67%が無症状、テキサスの症例集積では10例中5例が完全に無症状であったこと、症状がある場合は咳・胸痛・発熱・喀血・好酸球増多を来しうること、全身性好酸球増多はむしろまれで日本の症例集積では17%にとどまったこと、画像上は閉塞した動脈を中心とする球形の梗塞として胸膜下の銭形陰影を呈しやすく右下葉に好発すること、大きさは通常3 cm未満であること、主たる鑑別は肺悪性腫瘍でありそれゆえ生検に至ることが多いこと、結節そのものの楔状切除で治癒とみなされ駆虫薬による内科治療は広く受け入れられていないことを確認した。閲覧 2026-09-07