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Microbe Atlas · 蠕虫

Strongyloides stercoralis

糞線虫

分類
線虫・管腔 / Nematodes (luminal)Strongyloides
科目
Medical Microbiology
トピック
4/36: Strongyloides stercoralis, Dirofilaria repens4/23: General characterisation and taxonomy of helminths5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
好酸球性肺炎
作用する薬剤
イベルメクチン

🧠 全体像鉤虫と同じ経皮感染型の線虫でありながら、体内で幼虫のから感染型幼虫への発育までを完結させるによって、治療をしない限り数十年にわたって感染が持続する唯一無二の線虫である。この持続性が免疫状態と結びついたとき、致死的な(hyperinfection syndrome)という劇的な転帰を生む——これが本種を読むうえで最も重要な軸になる。

微生物学的な特徴

形態は鉤虫に類似する小型の線虫だが、生活環が鉤虫と3点で大きく異なる。

相違点 内容
虫卵の排出 虫卵は糞便として排出される前に腸管内でする(→糞便検査では卵ではなく幼虫が見つかる)
腸管内でそのまま感染型のへ発育しうる
ヒト体外でもを営むことができる——ヒト寄生線虫の中でも特異な性質

生活環

flowchart TD
  A["土壌中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filariform larva'>糸状幼虫</span>が皮膚を貫通"] --> B["血流→肺→気道上行→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Expectoration'>喀出</span>・嚥下"]
  B --> C["小腸に定着し産卵<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parthenogenesis'>単為生殖</span>、腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabditiform larva'>桿線状幼虫</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal lumen'>腸管腔</span>へ放出"]
  D --> E["直接環:腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filariform larva'>糸状幼虫</span>へ発育"]
  D --> F["間接環:糞便中へ排出→土壌で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free-living'>自由生活</span>"]
  E --> G["腸壁/肛囲皮膚を貫通し再び血流へ<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoinfection'>自己感染</span>)"]
  G --> B
  F --> A

💡 が、この線虫だけを「終わらない感染」にしている。 腸管内で放出されたの一部は、外部環境に出ることなくそのまま感染型のへ発育し、腸壁や肛門周囲皮膚を貫通して再び血流に戻る。これにより、流行地を離れて何十年経っても、治療を受けない限り体内で感染が自己増幅し続ける。

病原性の仕組み

  • 通常のサイクルでは軽微な状(幼虫貫通部位の掻痒)、肺移行期の一過性症状、軽度の消化器症状(腹痛・下痢)にとどまることが多い。
  • larva currens(移動性蕁麻疹様線状皮疹)幼虫が皮下を移動する際に生じる、急速に移動する特徴的な皮疹で、本種にほぼ特異的な所見。

⚠️ 免疫不全患者ではが暴走し、致死的な(hyperinfection syndrome)を起こす。 ステロイド投与、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)合併、臓器移植後の免疫抑制、栄養不良などで細胞性免疫が低下すると、が急激に加速し、大量の幼虫が肺・中枢神経系・肝臓など全身に播種する()。移行する幼虫は腸内細菌を随伴するため、グラム陰性菌によるの敗血症・髄膜炎を合併しやすく、無治療での致死率は50%を超えるとされる。

⚠️ 免疫(特にステロイド)を開始する前のスクリーニングが実務上の要点になる。 流行地出身者・流行地への渡航歴・居住歴のある患者では、ステロイドや生物学的製剤による免疫抑制を開始する前に血清学的検査(±糞便検査)で感染の有無を確認し、陽性であれば免疫抑制開始前に治療しておく——これを怠ると、何十年も無症状だったとして顕在化し、致死的な転帰をたどりうる。ここまでの線虫の中で唯一「何十年も後に致死的感染として顕在化しうる」種であり、過小評価してはならない。

感染経路と疫学

  • 土壌中のが皮膚(多くは足)を貫通することで感染が成立する()。
  • 熱帯・亜熱帯地域に多いが、により生涯にわたり感染が持続するため、流行地を離れて数十年経過した移民・退役軍人・渡航者でも感染が判明することがある。
  • 免疫不全(ステロイド治療、HTLV-1感染、臓器移植、悪性学療法など)を機に無症状のが顕在化する。

起こす疾患

病期 特記事項
慢性・ により無治療なら生涯持続。多くは無症状か軽微な消化器・
免疫不全を契機にが暴走。グラム陰性菌の敗血症・髄膜炎を合併し致死率が高い

診断

  • 糞便中の幼虫の検出(体内でするため虫卵は検出されない)。(生きた幼虫を糞便から濃縮する手法)やで感度を上げる。
  • は虫体排出量が少なく間欠的なため、単回の糞便検査では偽陰性になりやすい——反復採取やを併用する。
  • の上昇(好酸球増多)を認めることが多いが、ではステロイドの影響で好酸球増多が消失しうる点に注意する。

治療と予防

  • が第一選択。にはも用いられる。
  • では、により経口吸収が不安定なことがあり、より長期の投与に加え、合併するグラム陰性菌感染への治療を要する。
  • 免疫(ステロイドなど)を開始する前の流行地曝露歴の確認とスクリーニングが最大の——の多くは予防可能な医原性の契機で発症する。

まとめ

  • は鉤虫と同じ経皮感染型の線虫だが、体内でを完結できる点が最大の特徴で、無治療なら感染が無期限に持続する。
  • 虫卵は腸管内でするため、糞便検査で見つかるのは卵ではなく幼虫である。
  • ⚠️ 免疫不全(ステロイド、HTLV-1合併など)ではが暴走し、致死的な(グラム陰性菌の敗血症・髄膜炎合併を伴う)を来しうる。
  • ⚠️ 免疫を開始する前のスクリーニングが実務上の要点——流行地曝露歴のある患者では治療開始前に感染の有無を確認する。
  • 診断は糞便中の幼虫検出()と血清学、治療はが第一選択。