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Microbe Atlas · 真菌

Aspergillus flavus

分類
アスペルギルス / AspergillusAspergillus
科目
Medical Microbiology
トピック
4/10: Zygo- (phyco-) mycoses. Aspergillus species and Penicillium genus
自然耐性薬
フルコナゾールアムホテリシンB
原因となる疾患
肝細胞癌

🧠 全体像:Aspergillus flavusはAspergillus fumigatusと同じで、の原因菌としては世界全体では第2位だが、熱帯・乾燥地域では最頻の菌種になる1——だがこの菌を特徴づけるのは肺の病気ではなくというのカビ毒である。ピーナッツや穀類に生えたA. flavusが産生するB1は摂取されるとTP53遺伝子を直接損傷し、の発生に直結する。同じ菌が「吸入すれば免疫状態次第の肺・」「摂取すれば」という2つの全く違う経路でヒトに害を及ぼす点が最大の特徴である。

微生物学的な特徴

  • 培養では〜色のコロニーを形成する(Aspergillus fumigatusの青緑色、Aspergillus nigerの黒色と対比される)。
  • 属共通の性状(、隔壁あり・鋭角≤45度でV字二分岐する菌糸)はAspergillus fumigatusを参照。
  • 本菌に固有の性質として、二次として(特にB1)を産生する点が同定・臨床の両面で重要になる。

病原性の仕組み

肺・副鼻腔・皮膚に対する病原性の仕組み(・・という3病型、、による好中球回避)は属共通であり、詳細はAspergillus fumigatusを参照。本菌はA. fumigatusに次いでの原因菌として頻度が高く、侵襲性副鼻腔炎とが本菌によるの最頻の病型である1。世界で気管支肺の約10%が本菌によるとされる(の大半はA. fumigatusによる)1。

⭐ 地域差が大きいことが本菌の疫学の核心。 本菌はインド・メキシコ・パキスタン・スーダン・サウジアラビアなどの熱帯の国々の環境中に多く、これらの国ではの最頻の菌種になる——高温乾燥の条件下で他のAspergillusより生き延びやすいためと考えられている1。慢性肉芽腫性の侵襲性副鼻腔真菌症はインド・パキスタン・サウジアラビア・スーダンからの報告ではほぼ例外なく本菌によるもので、鼻・頬・副鼻腔・眼窩に限局しを伴い、進行するとを経て脳・・大血管へ及ぶ1。

flowchart TD
    A["ピーナッツ・穀類・トウモロコシに<br>A. flavusが増殖"] --> B["二次<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolite'>代謝産物</span>として<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='aflatoxin'>アフラトキシン</span>B1を産生"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contaminated food'>汚染食品</span>の摂取"]
    C --> D["肝で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epoxide'>エポキシド</span>に代謝"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='guanine N7'>グアニンN7</span>)に結合<br>TP53遺伝子の特徴的な変異"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma, HCC'>肝細胞癌</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='driver mutation'>ドライバー変異</span>"]
    G["慢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>感染"] -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synergistic'>相乗的</span>に発癌リスクを押し上げる"| F

💡 はカビそのものではなく「カビが作る毒」が病原性の本体という珍しいパターン。 高温多湿の環境で保存されたピーナッツ・トウモロコシ・穀類にA. flavusが繁殖するとB1が産生され、これを摂取したヒトの肝臓で反応性に代謝される。このがのに結合してTP53遺伝子に特徴的な変異(コドン249のG→Tトランスバージョンがホットスポット)を起こし2、()の発癌ドライバーとなる。慢性感染が流行する地域と汚染地域が重なることが多く、リスク評価でもの発癌力は陽性者と陰性者で別々に算出されている3。

規模の感覚:世界で年55万〜60万例の新規のうち25,200〜155,000例(全体の4.6〜28.2%)が曝露に帰せられうると推計されている3。幅が大きいのは食品中の濃度・の摂取量・のいずれにも不確実性があるためで、症例の多くはが高く曝露が管理されていないサハラ以南アフリカ・東南アジア・中国に集中する3。

感染経路と疫学

  • 肺・副鼻腔・皮膚への感染経路は属共通で、分生子の吸入(詳細はAspergillus fumigatusを参照)。
  • ⭐ 眼も本菌の主戦場である。 本菌は副鼻腔-眼窩と症に関連し、とくに開発途上国で問題になる。外傷や手術を契機とする角膜炎は、免疫不全がなくても起こる感染の代表である1。⚠️ 眼由来の12.5%がの野生型分布から外れていたという報告があり、では感受性を確かめる意味が大きい1
  • 建築・改修工事に伴う集団発生が知られており、病院改修での掘削後に空気中の分生子数が増え、8例のうち6例が本菌によったが報告されている1
  • は吸入ではなく摂取——高温多湿での保存が不適切なピーナッツ・トウモロコシ・穀類が汚染源になる。
  • 汚染は熱帯・亜熱帯の農業地域(サハラ以南アフリカ、東南アジア、中国南部など)で特に問題となり、こうした地域は慢性感染のとも重なる。

起こす疾患

病型 経路 特記事項
・・ 吸入 病型の分かれ方は属共通(Aspergillus fumigatus参照)。世界全体ではA. fumigatusに次ぐ第2位だが、熱帯・乾燥地域では最頻の菌種。侵襲性副鼻腔炎とが最頻の病型1
関連 摂取(食品汚染) TP53変異を介した発癌。慢性感染地域との重複でリスクがする

診断

  • 呼吸器・副鼻腔・皮膚病変の診断原則は属共通(標本での隔壁菌糸、血清、所見)——詳細はAspergillus fumigatusを参照。
  • 曝露そのものを診断する検査はルーチンでは行わず、の摂取歴・の居住歴がのリスク評価に用いられる。

治療と予防

  • 呼吸器・副鼻腔・皮膚感染の治療の骨格は属共通。の一次治療は(代替は型・)、の急性期はまたはのどちらか単剤で開始し、は無症候なら経過観察(詳細はAspergillus fumigatusを参照)。本菌でもが選択薬である1。
  • ⚠️ は本菌にも無効——属共通の弱点である。はを掲載5菌種すべてで「治療標的として不適」とし、をせずに耐性と報告してよいとしている4。
  • ⚠️ ⭐ 本菌に固有の弱点はが効きにくいこと。 本菌はポリエンにで、は避けるべきとされる1。でもはA. fumigatus・A. nigerには判定基準(S≤1、R>1 mg/L)があるのに、A. flavus・A. nidulans・A. terreusでは「治療標的として不適」として判定基準を置いていない4。疫学的でもは4.0 mg/L(A. fumigatusは1.0)と大きく離れている1
  • 💡 トリ耐性の事情もA. fumigatusと逆向きである。A. fumigatusでは環境由来の耐性が問題になるのに対し、本菌でのトリ耐性は稀で、生じる場合はcyp51C変異と関連する1。
  • 関連の予防は食品の適切な乾燥・保存(穀物の水分管理、カビの生えた食品を廃棄する)というが中心で、慢性感染地域ではワクチン接種と組み合わせることでリスクをさらに下げられる。

版12.1の判定基準の比較4:

抗真菌薬 A. flavus A. fumigatus
治療標的として不適(試験せず耐性と報告可) 同じく不適
治療標的として不適 S≤1、R>1 mg/L
S≤1、R>1 mg/L S≤1、R>1 mg/L
根拠不十分 S≤1、R>1 mg/L

の凡例では、「治療標的として不適」(表では -)はを勧めず試験せずに耐性と報告してよい区分、「根拠不十分」(表では IE)はその菌種がその薬の良い治療標的だという根拠が不十分で、に注記を付けS・I・Rの判定を付けずに報告しうる区分である——効かないと決まったという意味ではない。これら菌種の疫学的は一般にA. fumigatusより1段階高いと注記されている4。

まとめ

  • Aspergillus fumigatusと同じで、・・という3病型の機序は属共通。の原因菌としては世界全体で第2位だが、熱帯・乾燥地域では最頻の菌種になり、侵襲性副鼻腔炎とが最頻の病型1。
  • 本菌固有の最大の特徴はB1の産生——ピーナッツ・穀類の摂取を介してTP53遺伝子コドン249のG→T変異を誘発し2、の発癌ドライバーになる。
  • 世界の新規のうち4.6〜28.2%が曝露に帰せられうると推計され、症例はが高く曝露が管理されていない地域に集中する3。
  • は属共通で無効。の第一選択は1。
  • ⚠️ 本菌固有の薬剤上の注意はを避けること——ポリエンにで、はA. flavusにの判定基準を置いていない14。
  • 予防は食品の適切な乾燥・保存による曝露の低減が中心。

出典

  1. 1.Invasive Aspergillosis by Aspergillus flavus: Epidemiology, Diagnosis, Antifungal Resistance, and Management(Journal of Fungi・2019)全文(PMC6787648)を取得し、A. flavusが侵襲性アスペルギルス症の起因菌としてA. fumigatusに次ぐ第2位である一方、インド・メキシコ・パキスタン・スーダン・サウジアラビアなど熱帯の国々では環境中でより多く、それらの国ではアスペルギルス症の最頻の菌種であること、世界で気管支肺アスペルギルス症の約10%が本菌によること(肺アスペルギルス症の大半はA. fumigatusによる)、慢性肉芽腫性侵襲性副鼻腔真菌症はインド・パキスタン・サウジアラビア・スーダンからの報告ではほぼ例外なく本菌によること、侵襲性副鼻腔炎と肺型が本菌による侵襲性アスペルギルス症の最頻の病型であること、本菌はポリエンに自然耐性でEUCASTのアムホテリシンBの疫学的カットオフ値が4.0 mg/L(A. fumigatusは1.0)・ボリコナゾールが2.0 mg/L(同1.0)であること、治療薬の選択はボリコナゾールでアムホテリシンBは避けるべきであること、トリアゾール耐性はA. fumigatusと違い稀でcyp51C変異と関連することを確認した。2026-09-28の横断監査でPMC全文を再取得し、上記を逐語で照合したうえで次も確認した——原文は「気管支肺アスペルギルス症(bronchopulmonary aspergillosis)の約10%」と書いており「気管・気管支」ではないこと、肺アスペルギルス症の大半はA. fumigatusによること、本菌が副鼻腔-眼窩アスペルギルス症と眼感染症に関連しとくに開発途上国で問題になること、外傷や手術に続く角膜炎が局所侵襲性感染の例として挙げられること、眼由来のA. flavus分離株の12.5%がボリコナゾールの野生型分布から外れていた(Lalithaらの報告)こと、病院改修の掘削後に空気中の分生子が増えて侵襲性真菌性副鼻腔炎8例中6例が本菌によったクラスターが報告されていること、EUCASTの疫学的カットオフ値がアムホテリシンB 4.0・ボリコナゾール2.0・ポサコナゾール0.5・イサブコナゾール2.0・イトラコナゾール1.0 µg/mL(A. fumigatusはそれぞれ1.0・1.0・0.25・2.0・1.0)であること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Aflatoxin B1 induces the transversion of G-->T in codon 249 of the p53 tumor suppressor gene in human hepatocytes(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・1993)Crossrefで題名・著者(Aguilar F、Hussain SP、Cerutti P)・掲載誌・1993年という書誌を照合し、アフラトキシンB1がヒト肝細胞でTP53遺伝子コドン249のG→Tトランスバージョンを誘発するという主題を確認した。確認範囲は書誌と題名に限り、本文・抄録は取得できていない。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Global burden of aflatoxin-induced hepatocellular carcinoma: a risk assessment(Environmental Health Perspectives・2010)抄録で、アフラトキシンがトウモロコシとナッツ類でAspergillus flavusとA. parasiticusが産生するヒト肝発癌物質であること、世界で年55万〜60万例の新規肝細胞癌のうち25,200〜155,000例がアフラトキシン曝露に帰せられうること(全体の4.6〜28.2%)、発癌力をHBV陽性者と陰性者で別に算出したこと、症例の多くがHBV有病率が高くアフラトキシン曝露が管理されていないサハラ以南アフリカ・東南アジア・中国に集中することを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Breakpoint tables for interpretation of MICs for antifungal agents, version 12.1(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2026)版12.1(2026年4月10日から有効)のPDFのAspergillus属の表で、A. flavusの列のフルコナゾールとアムホテリシンBがいずれも「-」であり、凡例が「-」を「その菌種は当該薬の治療標的として不適なため感受性試験を勧めず、試験せずに耐性と報告してよい」と定義していることを確認した。フルコナゾールは掲載5菌種すべてで「-」だが、アムホテリシンBはA. fumigatusとA. nigerには判定基準(S≤1、R>1 mg/L)があり、「-」はA. flavus・A. nidulans・A. terreusに限られる。ボリコナゾール・ポサコナゾールはA. flavusでは根拠不十分(IE)で、これら菌種の疫学的カットオフ値は一般にA. fumigatusより1段階高いと注記されている。閲覧 2026-09-27