微生物学

微生物学 · 4/10

接合菌症(フィコミセス症)。アスペルギルス属とペニシリウム属

Zygo- (phyco-) mycoses. Aspergillus species and Penicillium genus

微生物
Aspergillus flavusAspergillus fumigatusAspergillus nigerFusariumMucor indicusPenicillium chrysogenumPenicillium digitatumPenicillium roquefortiRhizomucor pusillusRhizopus oryzae
疾患
アスペルギルス症タラロミセス症ムーコル症
画像所見
肺空洞反転ハロー徴候

🧠 この3つの糸状菌はすべて「免疫不全者だけを狙う日和見病原体」だが、標本や組織で見える菌糸の形が、鑑別の最初の手がかりになる。 は幅広くで不規則に分岐する(古典的には鈍角〜直角の分岐)、Aspergillusは細く隔壁ありで規則的に二分岐する菌糸(古典的には45°前後の鋭角でV字)——ただし分岐角は組織内では見分けにくく、決め手は菌糸の太さと分岐の不規則さ、そして最終的には培養・分子学的手法での確認である1。この区別は、が効くかどうかという薬剤選択に直結する。4/1で学ぶ真菌の・分類、4/4で学ぶ抗真菌薬の作用機序を前提に読む。

接合菌症

Mucor、Rhizopus(パンカビ)、Absidia、Rhizomucor属などによって起こる。

💡 「」は現在「」と呼び分けられることが多い。 かつては(Zygomycota門)による感染をすべてと呼んでいたが、多遺伝子座(AFTOLプロジェクト)でZygomycota門がではなく多系統群であることが判明したため、Mucorales目(Mucor・Rhizopus等)由来の感染は「」、Entomophthorales目由来の感染は「entomophthoramycosis」として用語が分けられるようになった2。という旧称は現在も臨床現場で通用する。

形態

  • 全身性真菌症の日和見病原体。
  • 糸状菌で、鈍角(>90度)・を特徴とする。

感染経路

  • 土壌中に存在。
  • の吸入により感染する。

臨床像

⚠️ は進行が速く致死的である。 眼・鼻からの出血性滲出液、副鼻腔部の腫脹に続き、鼻腔・にを来し、神経障害と死に至る——患者でのの顔面・眼窩症状は本症を疑う。

診断

  • 生検検体の標本:幅広くのが鈍角〜直角で不規則に分岐する。
  • 組織内の菌糸は幅6〜16 μm(最大25 μm)で、隔壁が無いか乏しい。古典的な分岐角は組織の圧や標本作製の影響で見分けにくく、菌糸の太さと不規則な分岐のほうが当てになる。形態だけではAspergillusと取り違えやすいため、培養または分子学的手法での確認が強く推奨される1。

治療

Aspergillus属

形態

  • 全身性真菌症の日和見病原体。
  • 。
  • 糸状菌で、二分岐(V字型)、鋭角(≤45度)、隔壁ありの菌糸を持ち、空気に触れるとを形成する。

感染経路

臨床像

  • :
    • 分生子が発芽し菌糸がに定着するが、組織侵入は伴わない。
    • I型過敏反応(IgE上昇)を介する。
    • 喘鳴と発熱を呈する。
  • (「」): 結核・Klebsiella感染後の空洞など、肺の既存空洞内に「真菌球」を形成する。
  • : 最も重篤な病型。肺から血管に侵入し全身に播種する。
    • 腎不全、心内膜炎
    • で確認される脳の
    • 副鼻腔への浸潤と鼻周囲の壊死

診断

  • 標本:鋭角に規則的に二分岐する隔壁菌糸(幅3〜5 μm)。形態だけでは確定せず、培養・分子学的手法で確かめる1。
  • 免疫アッセイ:試験、試験。
  • 画像検査:X線、(脳病変の検出)。

治療

  • の第一選択は静注( 2016年版ガイドライン)。は代替薬(不耐用時など)に位置づけが変わっており、もはや第一選択ではない。も同等のエビデンスを持つ代替選択肢として広く用いられる。

⚠️ 耐性Aspergillus fumigatusが世界的に増加している。 19か国22施設・3,788株を対象にした多施設ではの3.2%が耐性であった3。主因はcyp51A遺伝子の変異(TR34/L98H等)で、農業用殺菌剤に曝露された環境由来株からの感染が中心——耐性感染患者の3分の2は抗真菌薬治療歴がなく、耐性の死亡率は50〜100%に達する。耐性が疑われる場合は単剤を避け、または+併用が推奨される4。

  • :全身性ステロイド(を併用することがある)。
  • :無症状なら経過観察、有症状(喀血等)なら外科的切除を検討。

Penicillium属

形態

  • P. marneffeiがPenicillium属で唯一のである。
    • 環境形(25度):構造。
    • 組織形(37度):分裂によって増殖し横隔壁を示す酵母様形態。

⚠️ Penicillium marneffeiは現在Talaromyces marneffeiに改称されている。 2011年の複数遺伝子座を用いたでPenicillium属のBiverticillium亜属がTalaromyces属とを形成することが示され、本種を含む同亜属の種はTalaromyces属へ移された5。臨床報告・試験問題では旧名P. marneffeiもなお広く使われる。

感染経路

  • 土壌に的に存在。
  • P. marneffeiの分生子の吸入により感染。

臨床像:ペニシリウム症

  • 、など他の関連疾患を模倣しうる。
  • 発熱、咳嗽、、、貧血、がみられる。
  • 皮膚病変は播種を反映し、様の病変として顔面・体幹に出現する。

診断

  • 検体:血液、骨髄、。
  • 顕微鏡:骨髄・潰瘍性皮膚病変・リンパ節ので、内に楕円形の分裂酵母を認める。

治療

菌糸形態による鑑別

項目 Aspergillus
菌糸の幅 6〜16 μm(最大25 μm)・ 3〜5 μm
隔壁 無いか乏しい 規則的にあり
分岐様式 不規則 規則的な二分岐(V字型)
分岐角度(古典的) 鈍角〜直角 鋭角(約45度)
組織内での 分岐角・隔壁より、菌糸の太さと不規則な分岐のほうが当てになる 同左
代表的な重症病型

まとめ

  • (Mucor・Rhizopus等)、Aspergillus属、Penicillium marneffeiはいずれも環境由来ので、免疫不全者に全身性真菌症を起こす。
  • は太くで不規則に分岐する菌糸、Aspergillusは細く隔壁ありでV字に二分岐する菌糸。古典的な分岐角(鈍角〜直角対45度)は組織内では見分けにくく、菌糸の太さと分岐の不規則さのほうが当てになる。形態だけで確定せず、培養・分子学的手法で確かめる。
  • の最重症型は患者に多い(を特徴とする)。
  • Aspergillusは(・IgE介在)、(既存空洞内の)、(血管侵襲・)の3病型に分かれる。
  • Penicillium marneffeiは関連疾患を模倣する二形性真菌で、東南アジアの免疫不全患者に発症する。
  • 治療の柱は(の第一選択)と(侵襲性Aspergillus症の第一選択は、は代替薬。Penicilliumには)。

出典

  1. 1.Global guideline for the diagnosis and management of mucormycosis: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the Mycoses Study Group Education and Research Consortium(European Confederation of Medical Mycology (ECMM) / Mycoses Study Group Education and Research Consortium (MSG-ERC)・2019)PMCの著者稿全文(PMC8559573)で、組織内のムーコル目菌糸は幅6〜16 μm(最大25 μm)で隔壁がないか乏しくリボン状で不規則に分岐し、Aspergillus属の菌糸は幅3〜5 μmで規則的な隔壁と二分岐を持つこと、古典的な「90度対45度」の分岐角は組織の圧と標本作製の影響で組織内では判別しにくく、菌糸の幅と不規則な分岐のほうが隔壁や分岐角より信頼できること、形態での鑑別精度のデータは無く組織形態による誤診で最も多いのがムーコル目をAspergillus属と取り違えることであるため、培養または分子学的・組織内同定法での確認が強く推奨されることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Human Fungal Pathogens of Mucorales and Entomophthorales(Cold Spring Harbor Perspectives in Medicine・2014)かつて接合菌(Zygomycota門)による感染症はすべて「接合菌症(zygomycosis)」と呼ばれ、しばしば「ムーコル症(mucormycosis)」と同義に扱われていたが、多遺伝子座配列解析(AFTOLプロジェクト)によりZygomycota門が単系統群ではなく多系統群であることが判明したため、Mucorales目由来の感染はムーコル症、Entomophthorales目由来の感染はentomophthoramycosisとして用語が分けられるようになったことを確認した(アブストラクトに記載)。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Prospective multicenter international surveillance of azole resistance in Aspergillus fumigatus(Emerging Infectious Diseases・2015)19か国22施設で3,788株のAspergillus臨床分離株を前向きにスクリーニングした結果、アゾール耐性Aspergillus fumigatusの検出率は3.2%であり、侵襲性・非侵襲性のアスペルギルス症を起こしていたことを確認した(アブストラクトに記載)。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Clinical implications of globally emerging azole resistance in Aspergillus fumigatus(Philosophical Transactions of the Royal Society B・2016)アゾール耐性Aspergillus fumigatusの主因は環境由来(農業用アゾール系殺菌剤への曝露)であり、耐性感染患者の3分の2はアゾール治療歴がなかったこと、cyp51A遺伝子のTR34/L98H等の変異が耐性機序であること、耐性侵襲性アスペルギルス症の死亡率は50〜100%と報告され、耐性が疑われる場合はアゾール単剤を避けリポソームアムホテリシンBまたはボリコナゾール+エキノキャンディン併用が推奨されることを確認した(アブストラクトおよび本文に記載)。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Fungal Nomenclature: Managing Change is the Name of the Game(Open Forum Infectious Diseases・2023)真菌の二重命名法(teleomorph/anamorphで別名を持つ慣行)は2013年に廃止され、以後分子系統解析による改称が相次いでいること、2011年の複数遺伝子座を用いた解析でPenicillium属のBiverticillium亜属がTalaromyces属と単系統群を形成することが示され、二形性真菌であるPenicillium marneffeiを含む同亜属の種がTalaromyces属へ移されTalaromyces marneffeiとなったことを確認した(本文の該当箇所:本文Yeasts and Yeast-like FungiおよびPenicillium節)。閲覧 2026-08-26