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Microbe Atlas · 真菌

Mucor indicus

分類
ムーコル / MucoralesMucor
科目
Medical Microbiology
トピック
4/10: Zygo- (phyco-) mycoses. Aspergillus species and Penicillium genus
自然耐性薬
フルコナゾールイトラコナゾールボリコナゾール
原因となる疾患
ムーコル症
作用する薬剤
イサブコナゾニウムポサコナゾール

🧠 全体像:Mucor indicusはの中でも異色の存在で、糸状菌には珍しくの能を持ち、南〜東南アジアの伝統発酵食品の製造にも利用される——産業微生物としての総説はこの菌を「」の二形性真菌として扱うほどで、ヒト感染の報告は少数の症例報告にとどまる1。それでも免疫不全者では他のと同じく的にを起こしうるため、病態・治療の骨格は属を代表するRhizopus oryzaeと共通するものとして読む。

微生物学的な特徴

  • 、Mucor属:Rhizopus oryzaeと異なりを欠くのが属レベルの鑑別点。は単独、または疎な房状に菌糸から直接生じる
  • 幅広く(6〜16 μm)、隔壁が無いか乏しく、不規則に分岐する菌糸——全体に共通する形態。古典的に教わる「直角に近い分岐」は組織内では見分けにくく、菌糸の太さと不規則な分岐のほうが当てになる2。Aspergillus fumigatusとの鑑別表はRhizopus oryzaeのノートを参照
  • 他の菌種と異なりで能を持つという代謝的特徴があり、酸素の乏しい環境でも増殖できる。この性質はインドネシア・インドなど南〜東南アジアの伝統発酵食品(テンペに類似した発酵、ラギー〈ragi〉と呼ばれる発酵種)の製造に利用されている。産業微生物としての総説も、高収率のエタノール生産が本種の最も重要な特徴のひとつであること、複数のビールや食品の製造に用いられてきたこと、細胞壁にキトサンを多く含むことを挙げている1

病原性の仕組み

の受容体(GRP78)を介した血管壁への接着・侵入というに共通する機序で発症する(詳細な図解はRhizopus oryzaeのノートを参照)。のような高血糖・酸性・鉄亢進の環境が、この菌の増殖・血管侵襲を強く後押しする点も他のと共通する。

感染経路と疫学

  • 土壌・腐敗植物質、および発酵食品の製造環境に存在し、の吸入または創傷からので感染する
  • 危険因子は他のと共通:、(治療中)、好中球減少症、
  • ⚠️ の報告は「」の話で、本種に帰せるものではない。 ガイドラインは、医療関連との調査には属・種レベルの同定が重要だとし、その根拠としてでのMucor circinelloidesによる創部など他菌種の報告を挙げている2。菌種を確かめずに「の院内発生」を本種の性質として書かない

起こす疾患

としての病型のスペクトラム(鼻・肺・皮膚・消化管)はRhizopus oryzaeと共通するが、⭐ 本種のヒト感染の報告そのものが少ない。 産業微生物としての総説は本種を「」の二形性真菌として扱っており1、臨床報告はとそこからの3、装着例の致死的感染など、個別の症例報告にとどまる。免疫不全者では日和見病原体として扱うが、頻度の高い菌種と同列に並べない。

診断

  • 標本・で幅広くのを確認する(詳細はRhizopus oryzaeを参照)。形態だけではAspergillus属と取り違えうるため、培養または分子学的手法での確認が強く推奨される2
  • ・(1→3)-はいずれも陰性となるため、これらの陰性所見でを除外できない
  • ⭐ 属・種までの同定とに意味がある。 の感受性は科・属・種で異なり、株間のばらつきはMucor属とRhizopus属でとくに大きい。この2属では治療開始前のが推奨される4

治療と予防

  • 緊急の(疑った時点で強く推奨)と型 5〜10 mg/kg/日の投与が治療の本体で、後者は一次治療として推奨度Aである。中枢神経病変では10 mg/kg/日を初期28日間用いる2
  • 免疫抑制患者でを疑ったら、診断の確定を待たずに直ちに治療を開始する(強い推奨)。診断の努力は治療開始と並行して行い、治療を遅らせない2
  • ⚠️ は毒性のため推奨されない(推奨度D)。他に抗真菌薬が得られない環境に限った選択肢である2
  • ⚠️ は大半の株でin vitro活性を欠く4。に活性を持つは・だが、いずれも一次治療としての推奨度はB(中等度)にとどまり、としては強く推奨される2
  • 💡 本種がMucor属であること自体が治療上の意味を持つ。 は全体では2番目に活性の高い薬だが、Mucor属では活性が低下し、Mucor属はRhizopus属よりに耐性である。もMucoraceaeではの分布が広く耐性株を含む4。を当てにせず、と外科的切除を軸に組む理由になる
  • と(・)には全体が完全またはほぼ全面的に耐性で、治療の対象にならない4
  • 基礎疾患(血糖・アシドーシスの是正、の中止、好中球減少の解除)の是正を並行して行う

まとめ

  • Mucor indicusはの日和見病原体で、病態・治療の骨格はRhizopus oryzaeと共通する。ただしヒト感染の報告は少数の症例報告にとどまる13。
  • 属レベルではを欠く点がRhizopus属との鑑別点。
  • ⚠️ 医療関連・の調査には属・種の同定が要る。ガイドラインが挙げる実例はでのMucor circinelloidesによる創部など別の菌種で、本種の性質として書かない2。
  • 珍しくの能を持ち、南〜東南アジアの伝統発酵食品にも利用される——病原性とは独立した生物学的特徴。
  • 治療は緊急と型 5〜10 mg/kg/日が本体で、は大半の株で活性を欠く。
  • ⚠️ Mucor属はへの耐性がRhizopus属より強く、の活性も落ちる——属・種の同定とに意味がある。

出典

  1. 1.Mucor indicus: biology and industrial application perspectives: a review(Biotechnology Advances(Karimi K, Zamani A)・2013)抄録で、M. indicusが「非病原性の二形性微生物(a non-pathogenic dimorphic microorganism)」とみなされ複数のビールや食品の製造に用いられてきたこと、高収率のエタノール生産が本種の最も重要な特徴のひとつであること、細胞壁にキトサンを多く含むこと、六炭糖・五炭糖やリグノセルロース加水分解物など多様な基質で生育できること、γ-リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸を多く作る油脂生産菌でもあることを確認した。産業微生物としての総説であり、ヒト感染症の記述は範囲外。全文は未取得で、確認範囲は抄録に限る閲覧 2026-09-28
  2. 2.Global guideline for the diagnosis and management of mucormycosis: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the Mycoses Study Group Education and Research Consortium(European Confederation of Medical Mycology (ECMM) / Mycoses Study Group Education and Research Consortium (MSG-ERC)・2019)PMCの著者稿全文(PMC8559573)で、組織内のムーコル目菌糸は幅6〜16 μm(最大25 μm)で隔壁がないか乏しくリボン状で不規則に分岐し、古典的な「90度対45度」の分岐角は組織の圧と標本作製の影響で組織内では判別しにくく、菌糸の幅と不規則な分岐のほうが隔壁や分岐角より信頼できること、形態での鑑別精度のデータは無く組織形態による誤診で最も多いのがAspergillus属との取り違えであるため、培養または分子学的・組織内同定法での確認が強く推奨されることを確認した。あわせて治療の推奨を確認した——ムーコル症を疑った時点での画像評価と外科的介入がいずれも強く推奨され、免疫抑制患者では診断の確定を待たずに直ちに治療を開始することが強く推奨される。一次治療はリポソーム型アンフォテリシンB 5〜10 mg/kg/日が推奨度A(中枢神経病変では10 mg/kg/日を初期28日間、推奨度A)、イサブコナゾール(1日目・2日目に200 mgを1日3回、3日目以降200 mgを1日1回)とポサコナゾール(徐放錠または静注で1日目300 mgを1日2回、2日目以降300 mgを1日1回)は推奨度B(中等度)にとどまる一方、両トリアゾールはサルベージ治療としては強く推奨される。⚠️ アンフォテリシンBデオキシコール酸は実質的な毒性のため推奨度D(推奨しない)で、他に抗真菌薬が得られない環境に限って用いる。中枢神経病変のないアンフォテリシンB脂質複合体5 mg/kg/日は推奨度B、リポソーム型アンフォテリシンB 1〜5 mg/kg未満/日は推奨度Cである。2026-09-28の横断監査でPMCの著者稿を再取得し、さらに「医療関連ムーコル症とアウトブレイクの調査には菌種同定が有用(species identification is valuable for investigation of health care-associated mucormycosis and outbreaks)」と述べ、その根拠として熱傷ユニットでの*Mucor circinelloides* f. *circinelloides*による侵襲性創部ムーコル症アウトブレイクの報告などを引いていることを確認した(本文にlinen・nosocomialという語は現れない)閲覧 2026-09-27
  3. 3.Fungemia Secondary to Gastrointestinal Mucor indicus Infection(Clinical Infectious Diseases(Aboltins C, Pratt W, Solano T)・2006)Crossrefで題名・著者(Aboltins C、Pratt W、Solano T)・掲載誌(Clinical Infectious Diseases 42巻154-155頁、2006年)を照合し、消化管のM. indicus感染から真菌血症に至った症例が報告されているという主題を確認した。確認範囲は書誌と題名に限り、本文・抄録は取得できていない(Europe PMCにも抄録が無い)閲覧 2026-09-28
  4. 4.Antifungal Susceptibility and Phylogeny of Opportunistic Members of the Order Mucorales(Journal of Clinical Microbiology(Vitale RG, et al.)・2012)抄録で、分子同定されたムーコル目66株に対する8薬剤(アンフォテリシンB・テルビナフィン・イトラコナゾール・ポサコナゾール・ボリコナゾール・カスポファンギン・ミカファンギン・5-フルオロシトシン)のin vitro感受性が科・属・種のレベルで異なることを確認した。アンフォテリシンBが最も活性が高く(Rhizopus属とCunninghamella属にはやや劣る)、ポサコナゾールが2番目だが⚠️ **Mucor属とCunninghamella属の株では活性が低下**する。**ボリコナゾールは大半の株でin vitro活性を欠いた。**Mucoraceaeに属する属はポサコナゾール・イトラコナゾール・テルビナフィンのMICが広く分布し耐性株を含む。**Mucor属はRhizopus属よりアゾール系に耐性**であった。5-フルオロシトシン・カスポファンギン・ミカファンギンには完全またはほぼ全面的な耐性を認めた。株間のばらつきはとくにMucor属とRhizopus属のアゾール系・テルビナフィンで大きく、この2属の菌種では治療開始前の感受性試験が推奨される(抄録に載っている範囲までを採り、菌種別のMIC値は本文未取得)閲覧 2026-09-27