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Microbe Atlas · ウイルス

Mpox virus

エムポックスウイルス

分類
ポックスウイルス / Poxviruses
性状
エンベロープあり EnvelopeddsDNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/19: Poxviruses
原因となる疾患
エムポックス
作用する薬剤
テコビリマットブリンシドフォビル

🧠 全体像:(旧称)は、と同じOrthopoxvirus属に属する近縁種でありながら、2022年以降の世界的流行でそのものが様変わりした病原体として読む。従来はアフリカの感染症(げっ歯類が真のリザーバー、サルは)だったが、2022年のグローバルでは性的接触を含む濃厚な直接接触によるヒト-ヒト感染が主経路となり、臨床像も局所の性器・肛門周囲病変が中心という、教科書的なの全身性発疹とは異なる顔を見せている。

構造・ゲノム型・複製様式

と同じOrthopoxvirus属(線状dsDNA・エンベロープあり・・細胞質のみでの増殖、詳細はを参照)。Orthopoxvirus属内での抗原の近さから、ワクチン()によるが成立する。

遺伝的に2つの系統()に分かれる。

旧称 特徴
I コンゴ盆地系統 重症度が高いとされる。⚠️ 歴史的に引かれる高い致死率は医療アクセスの限られた環境での報告に基づく——入院・支持療法下のclade Ibコホートでは1%未満、の全体死亡率も1.7%と報告されており、致死率はウイルスの性質だけで決まらない()
II(特にIIb) 西アフリカ系統 重症度が低い。2022年グローバルの原因株

感染経路と疫学

  • はげっ歯類(アフリカの多様な動物種)とされ、サルは偶発的な感染宿主にすぎない(“モンキーポックス”という旧名は誤解を招くとしてにより2022年に改称された)
  • 動物からヒトへは咬傷・体液接触・の肉の調理などで伝播(なアフリカの経路)
  • 2022年以降の世界的流行では、皮膚・粘膜病変への直接接触(性的接触を含む)によるヒト-ヒト感染が主体となり、性的活動が活発な集団を中心に拡大した
  • 2024年8月にはIbによる中央アフリカでの流行拡大を受け、が国際的に懸念される上の緊急事態(PHEIC)を再び宣言した(2022年のIIb流行に続く2度目)
  • ⚠️ このPHEICは既に終了している。 2025年9月4日に開かれた第5回IHR緊急委員会の助言に同意し、事務局長は2025年9月5日に「2024年のの急増はもはやPHEICを構成しない」と決定した。⚠️ 暫定的勧告は発出されなかったが、これは委員会が「不要」と助言したからではない。委員会は暫定的勧告の発出そのものは妥当だとしたうえで、事務局が用意した案文を「緊急対応の姿勢から保健システムに統合された取り組みへ移行するための行動に焦点を絞る形へ改訂すべきだ」と助言した。その助言をさらに十分に検討した結果、事務局長は当時2026年8月20日まで延長されていた常設勧告で足りると判断した——暫定的勧告を出さないと決めたのは事務局長の側である。⚠️ この常設勧告の期限(2026年8月20日)は既に到来しているので、現在のはの常設勧告のページで確かめる(本稿が確認できたのは上記の2025年9月時点の記述までである)。⭐ 終了の根拠は「流行が終わった」ことではない——委員会が挙げたのは、①アフリカ大陸での症例数の持続的かつ一貫した減少、②伝播動態と重症・死亡の危険因子の理解が明確になったこと、③各国が対策を統合的に実施する能力を進展させたこと、の3点であり、緊急対応の姿勢から保健システムに統合された恒常的な取り組みへ移行するのが妥当と判断されたものである1。講義資料や教科書が「PHEIC継続中」と書いていたら、それは2025年9月より前の記述である

臨床像と天然痘との鑑別

⭐ リンパ節腫脹の有無が・水痘との重要な鑑別点。 は著明なリンパ節腫脹を伴うのに対し、・水痘ではリンパ節腫脹は目立たない——同じ発疹性疾患の中でを見分ける鍵になる。

項目 (2022年流行株)
リンパ節腫脹 目立たない 著明
発疹の分布 全身・四肢優位(遠心性) 性器・肛門周囲・口周囲に限局することが多い(2022年流行では)
高熱が発疹に先行 を欠き病変が先行することもある
病変の 同一段階で同期() ⚠️ のことが多い——2022年流行の症例集積では、病変が古典的な水疱→膿疱の進行を示さず段階が混在することが多かった。はclade Iの特徴であって、clade IIの皮疹は典型的にである(clade Ibでの性状は未確定)2
重症度 致死率約30%(前) IIbは概して軽症(致死率1%未満)

診断

  • 病変検体(水疱・膿疱内容物、痂皮)のが確定診断
  • 臨床的には性感染症(梅毒、)との鑑別が重要になる場面が多い

治療と予防

  • 多くは自然軽快するで、支持療法が中心
  • 重症例・免疫不全者にはなどの抗ウイルス薬が使用されることがある。⚠️ ただし4つの・・プラセボ対照試験(clade IのPALM007、clade IIのSTOMP・UNITY・PLATINUM-UK)のすべてで、はである病変の臨床的消退までの時間をより短縮できなかった3——使用されることと有効性が示されていることは別である。
  • ⚠️⚠️ その結果、上の位置づけが地域で割れた。「欧米では」と一語でまとめない。 ⭐ は2026年にの適応を取り消した——CHMPが2026年3月26日に勧告し、欧州委員会が2026年5月29日に全加盟国を拘束する決定を出した(・・ワクチン接種後の合併症=体重13 kg以上の適応は残る)。EMAは同時に「にはのの治療に承認された他の医薬品は無い」とも述べている3。⚠️ 一方米国はもともとの適応を持たず(TPOXXの適応はの治療のみ)4、日本はテポックスカプセル200 mgが2024年12月27日に承認され、効能・効果にが明記されている5——詳細は・の各ノートに譲る
  • 予防:系ワクチン(の・株)が予防として承認されている。⭐ が支持するワクチンはこれだけではない——は2024年11月19日、日本のKM Biologicsが開発・製造するLC16m8をリスト(EUL)へ追加し、これがに対してが支持する2つめのワクチンとなった。用法は1歳超の者に二又針を用いたで単回接種である。⚠️ ただしLC16m8のような「わずかに複製する」ワクチンは妊娠中と免疫不全者には使用しない——ここでいう免疫不全には活動性の癌・・・による治療中に加え、CD4数が200/µL未満の感染者が含まれる6。Orthopoxvirus属内のにより、1980年以前にワクチン接種を受けた世代は部分的なを持つ——後にが中止されたことで、若年世代の免疫低下が流行の拡大しやすさに寄与しているとされる

まとめ

  • と同じOrthopoxvirus属に属し、ワクチンがする近縁種。
  • I(重症)とII(軽症、2022年流行株)に分かれる。
  • 従来は(げっ歯類がリザーバー)の感染症だったが、2022年以降は性的接触を含む直接接触によるヒト-ヒト感染が主体に変化した。
  • 著明なリンパ節腫脹が・水痘との重要な鑑別点。2022年流行株は性器・肛門周囲病変が中心で全身性の発疹とは異なる分布を取ることが多い。
  • 予防は系ワクチンとLC16m8(2024年11月にのリストへ追加。妊娠中・免疫不全者には使用しない)。後の低下が流行の拡大しやすさに関与する。
  • 2024年8月に宣言されたPHEICは2025年9月5日に終了した。流行のによるものではなく、緊急対応から保健システムに統合された恒常的な対策への移行である1。

出典

  1. 1.Fifth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the upsurge of mpox 2024(World Health Organization・2025)WHO公式サイトの声明全文を自分で取得して確認した。第5回IHR緊急委員会が2025年9月4日に開かれ、その助言に同意したWHO事務局長が2025年9月5日に「2024年のmpoxの急増はもはや国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を構成しない」と決定したこと、暫定的勧告は発出せず、2026年8月20日まで延長されているmpoxの常設勧告(standing recommendations)で足りるとしたこと、当のPHEICが2024年8月に決定されたものであること。委員会が、暫定的勧告の発出そのものは妥当だ(the issuance of temporary recommendations would be warranted)としつつ、事務局が起草した案は緊急対応から保健システムに統合された取り組みへの移行のための行動に焦点を絞る形へ改訂を要すると助言したこと、その助言をさらに十分に検討したうえで事務局長が常設勧告で足りると判断したこと(原文 The WHO Director-General, following further thorough consideration of the advice by the Committee to issue temporary recommendations, considers that the current standing recommendations for mpox, extended until 20 August 2026, are adequate…)。委員会がこの事象をもはや「extraordinary」とみなさない根拠として、①アフリカ大陸での症例数の持続的かつ一貫した減少(場所によっては常在化に近い広がり方になっていること)、②MPXVの伝播動態と重症・死亡の危険因子の理解が明確になったこと、③各国が対策を統合的に実施する能力を進展させたこと、の3点を挙げていること。WHO事務局が、緊急対応の姿勢から保健システムに統合された恒常的・計画的な取り組みへの戦略的移行が妥当だと述べていること。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Mpox: current knowledge and understanding-a scoping review(FEMS Microbiology Reviews(Callaby H, Belfield A, Otter AD, et al.)・2025)PMC全文(PMC12198961)で確認した。本総説が皮疹の形態を「歴史的にclade Iの皮疹は単形性(monomorphic)であったが、現在のclade Ib流行における皮疹の性状は不明である。clade IIの皮疹は典型的に多形性(pleomorphic)である」と総括していること、その根拠として引く2022年の世界流行の大規模症例集積(Thornhill 2022)では大半の患者の病変が10個以下で「古典的な水疱-膿疱の進行を示すのではなく多形性であることが多かった」と記されていることを確認した。⚠️ 本総説はスコーピングレビューであり、上記の記述は総説自身の結果ではなく総説が引用した原報告のものである閲覧 2026-09-07
  3. 3.EMA recommends restricting use of Tecovirimat SIGA — The medicine was not effective for the treatment of mpox in randomised clinical trials(European Medicines Agency・2026)欧州委員会の要請により開始されたRegulation (EC) No 726/2004 第20条の再審査についてのEMA文書(2026年6月1日付、EMA/59974/2026)のPDF全文で確認した。CHMPが2026年3月26日に「Tecovirimat SIGAはmpoxの治療にはもはや用いるべきでない」と勧告し、欧州委員会が2026年5月29日に全加盟国に適用される最終的な法的拘束力のある決定を出したこと、その結果Tecovirimat SIGAがEUにおいてmpoxの治療について承認を失ったこと、この制限が痘そう・牛痘・痘そうワクチン接種後の合併症(体重13 kg以上の成人および小児)の適応には及ばないこと、根拠が異なる地域で行われた4つの無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験(clade IIの流行を背景とするSTOMP・UNITY・PLATINUM-UK、コンゴ民主共和国でclade Iを背景とするPALM007)であること、原文が「おおむね免疫が保たれ活動性のmpox病変を有する患者において、検討された条件のもとで、4試験すべてで主要評価項目である病変の臨床的消退までの時間がプラセボに勝てなかった」と限定を付けて述べていること、疼痛軽減やウイルスDNAなどの副次評価項目でも優越性が示されなかったこと、PALM007では死亡が両群とも低く死亡に対する有益性は検出できなかったこと、承認時の動物試験では曝露から4日以内に開始した場合に有効性が示され、非ヒト霊長類でmonkeypoxウイルスの静脈内接種から6日目に開始すると生存率が50%(4日目は83%、無治療は0%)へ低下したこと、一方で臨床試験の投与開始は報告された発症からおよそ6〜9日後であり「患者が有効となるほど早期に治療されていなかった可能性はもっともらしい」と述べていること、4試験の成績の熟度がPALM007は最終成績・STOMPは主解析のみ・UNITYは要約成績・PLATINUM-UKは未公表原稿であったこと、新たな安全性の懸念は認められなかったこと、既に投与を開始した患者は治療を完了してよいとされたこと、「EUにはmpoxの活動性感染の治療に承認された他の医薬品は無い」と明記されていること、そしてTecovirimat SIGAが例外的状況下での承認(authorisation under exceptional circumstances)であったことを確認した。閲覧 2026-09-07
  4. 4.TPOXX (tecovirimat) capsules, for oral use; TPOXX (tecovirimat) injection, for intravenous use — Prescribing Information(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/SIGA Technologies・2025)openFDAのラベルAPI経由でSPL全文(effective_time 2025年12月31日)を確認した。米国の適応が体重3 kg以上の成人・小児における痘瘡(variola virus によるヒト天然痘)の治療に限られ、Limitations of Use に「適切な野外試験が実施不可能でヒトに天然痘を発症させて有効性を調べることは倫理的に許されないため、天然痘治療における有効性はヒトでは決定されていない」と明記されていること、免疫不全動物モデルで有効性が低下したことから免疫不全患者では有効性が減弱しうるとされること、TPOXXが「orthopoxvirus VP37 envelope wrapping protein の阻害薬」と規定されていること、有効性がカニクイザル(サル痘ウイルス感染)とニュージーランドホワイトウサギ(ラビットポックスウイルス感染)の動物有効性試験のみで確立され、皮膚病変出現後(感染後4日目)の投与開始で生存率がプラセボ0%に対し80〜100%へ改善した一方、サルで6日目に開始した群では有意差が出なかった(50%、p=0.1231)こと、経口用量が体重40 kg以上120 kg未満で1回600 mg 12時間ごと14日間・120 kg以上で1回600 mg 8時間ごと14日間、13〜25 kgで200 mg・25〜40 kgで400 mgを12時間ごと14日間であること、カプセルは中〜高脂肪の食事の後30分以内に服用すること、静注が3 kg以上に6 mg/kg(35〜120 kgでは200 mg、120 kg以上では300 mg)12時間ごと6時間かけて最長14日間であること、カプセルには禁忌がなく静注は賦形剤ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが糸球体濾過で排泄されるためクレアチニンクリアランス30 mL/分未満の重度腎機能障害患者に禁忌であること、警告がレパグリニド併用時の低血糖(健常者30人中10人が軽度〜中等度の低血糖を来した)とシクロデキストリン賦形剤の腎機能障害・2歳未満での蓄積であること、カプセルで2%以上に生じた副作用が頭痛12%・悪心5%・腹痛2%・嘔吐2%(プラセボはそれぞれ8%・4%・1%・0%)であること、テコビリマットがCYP3Aの弱い誘導薬・CYP2C8とCYP2C19の弱い阻害薬でありレパグリニドの血中濃度を上げミダゾラムの血中濃度を下げること、リン酸結合薬の併用でテコビリマットのバイオアベイラビリティが上がること、生ワクチン(ワクシニアウイルス)と同時併用すると動物ではワクチン免疫応答が低下しうること、代謝がアミド結合の加水分解とUGT1A1・UGT1A4によるグルクロン酸抱合で半減期が経口19時間・静注21時間であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  5. 5.承認品目一覧(新医薬品:2024年4月~2025年3月)(独立行政法人医薬品医療機器総合機構・2025)2024年度の新医薬品承認品目一覧の第4回分に「2024.12.27 テポックスカプセル200 mg(日本バイオテクノファーマ㈱)承認 テコビリマト水和物」が収載され、効能・効果が「痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品と記載され、【迅速審査】の指定が付されていることを確認した。閲覧 2026-09-03
  6. 6.WHO adds LC16m8 mpox vaccine to Emergency Use Listing(World Health Organization・2024)WHO公式サイトのニュースリリース全文を自分で取得して確認した。WHOが2024年11月19日にLC16m8を緊急使用リスト(EUL)へ追加し、これがmpoxに対してWHOが支持する2つめのワクチンとなったこと、LC16m8が日本のKM Biologicsが開発・製造するワクチンであること、EUL審査が製造販売業者の提出資料と日本の規制当局である医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査に基づくこと、技術諮問グループ(TAG)が1歳超の者に対し二又針を用いた多刺法による単回接種を推奨したこと、SAGEが流行下の小児およびmpox曝露の高リスクが記録された者への使用を推奨したこと、⚠️ 一方でLC16m8のような「minimally replicating」ワクチンは妊娠中および免疫不全者には使用すべきでないとされ、その免疫不全者に活動性の癌・移植レシピエント・免疫不全症・免疫抑制薬による治療中の者に加え現在のCD4数が200/µL未満のHIV感染者が含まれること。閲覧 2026-09-06