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Microbe Atlas · ウイルス

Vaccinia virus

ワクシニアウイルス

分類
ポックスウイルス / Poxviruses
性状
エンベロープあり EnvelopeddsDNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/19: Poxviruses
作用する薬剤
ワクシニア免疫グロブリン

🧠 全体像:は、という病気を終わらせたワクチンの実体そのものである。長らく「ジェンナーが使ったがそのまま現在のになった」と教えられてきたが、ではよりも近縁の別のOrthopoxvirus(など)に由来する可能性が高いことが分かっている——由来が何であれ、をさせた実績そのものがこのウイルスの存在意義である。

構造・ゲノム型・複製様式

と同じOrthopoxvirus属に属し、線状dsDNA・エンベロープあり・・細胞質のみでの増殖というを共有する(詳細はを参照)。とは異なりヒトに対する病原性は弱くで、この病原性の低さが逆にとして選ばれた理由になっている。

ワクチンとしての利用

Orthopoxvirus属は互いにが近く属内で免疫が交差するため、病原性の弱いに感染(接種)させることで、より病原性の強いに対するを誘導できる。この原理により1980年のが達成された。

⭐ は製造法との程度で「世代」を分ける。 世代の番号は複製するかどうかではなく、どう作られ、どこまでされたかで決まる1。

世代 代表的なワクチン 特徴
第1世代 NYCBH株・Lister株など 1950〜1970年代の計画で実際に使われた株。動物の皮膚上で培養して製造した。あり
第2世代 ACAM2000 第1世代と同じ株を、分離したウイルスプラークから組織で製造したもの。外来性を含まず、さらにされうる。第1・第2世代はいずれもを持つ
第3世代 MVA-BN(JYNNEOS/Imvanex/Imvamune)とLC16m8 や動物でのを重ねてさらにした株で、計画の終盤かそれ以降に開発された。MVA-BNはウイルスゲノムの約30 kbが欠失した、LC16m8は日本でLister株のB5R遺伝子に変異を導入したわずかに複製する株
第4世代 VacΔ6(OrthopoxVac) 病原性蛋白をコードする領域を標的欠失させたもの

⚠️ 「ACAM2000=第1世代」と書いた資料に注意。 の分類では、第1世代と第2世代は同じ株を使っており、違うのは動物の皮膚で作ったか組織培養で作ったかである。ACAM2000は組織培養由来なので第2世代にあたる1。

⚠️ 生ワクチンには特有の合併症がある。 (患者で接種部位を越えて広がる)、(免疫不全者でが制御できず全身に播種する)、心筋炎・、他部位・他者への接種部位からの(誤接種)などがあり、免疫不全・・心疾患は生ワクチンの禁忌に準じる。のMVA-BNはこれらのリスクが低く、こうした禁忌患者にも選択されうる。

⚠️⚠️ ただし「弱毒だから免疫不全者に使える」と一般化してはいけない。 同じ第3世代でも、LC16m8はわずかに複製するため妊娠中と免疫不全者には使用しない。がここでいう免疫不全者には、活動性の癌・・・による治療中の者に加え、CD4数200/µL未満の感染者が含まれる2。⭐ 世代の番号ではなく「がどれだけ残っているか」が禁忌を決める——上の表で免疫不全者に使えるのはのMVA-BNだけである。

感染経路と病原性

自然界での宿主域は不明な点が多いが、実験室・ワクチン接種の場を通じてヒトに広く用いられてきた。接種部位に丘疹→水疱→膿疱→痂皮というを経て免疫が成立する。まれに接種部位以外への(による接触伝播)や、免疫不全者・皮膚バリア破綻者()での重症化がある。

治療と予防

  • 健常者の接種部位反応は自然に軽快し、特別な治療を要さないことが多い
  • 重症合併症(・)にはが用いられる
  • ・ワクチン(MVA系)はの予防にも承認されており、後も近縁種へのを目的に使用が続いている
  • ⭐ に対してが支持するワクチンは2つある。 MVA-BNに加え、は2024年11月19日にLC16m8をリスト(EUL)へ追加した——1歳超の者に二又針を用いたで単回接種する用法が推奨されており、審査は日本の医薬品総合機構(PMDA)の審査結果に基づいている2

まとめ

  • と同じOrthopoxvirus属に属する、病原性の弱い。由来とに教えられるが、実際にはより複雑な由来を持つ可能性がある。
  • Orthopoxvirus属内でのを利用し、を実現した。
  • 生ワクチン(複製型)は・・心筋炎などの合併症を持ち、免疫不全・・心疾患が禁忌に準じる。
  • の世代分類では、第1世代(動物皮膚で製造)と第2世代(同じ株を組織培養で製造。ACAM2000)はどちらもを持ち、第3世代(MVA-BNとLC16m8)はさらにされた株である。
  • ・のMVA-BNは安全性が高く、免疫不全者にも使え、の予防にも用いられる。⚠️ 同じ第3世代でもLC16m8はわずかに複製するため妊娠中・免疫不全者には使わない——弱毒であることと免疫不全者に使えることは別である。
  • 重症合併症にはを用いる。

出典

  1. 1.Smallpox and mpox (orthopoxviruses): WHO position paper, August 2024(World Health Organization・2024)Weekly epidemiological record 2024年第34号(99巻429〜456頁)のPDF全文を自分で取得して確認した。Vaccinesの節が、1950〜1970年代の天然痘根絶計画で製造・使用された第1世代ワクチンはNYCBH株やLister株などを動物の皮膚上で培養したものであること、第2世代(ACAM2000など)は第1世代と同じワクシニア株を用いるが分離したウイルスプラークから組織培養細胞で製造され外来性感染因子を含まずさらに弱毒化されうること、第1世代と第2世代はいずれも複製能を持つ(replication-competent)こと、「第3世代」は細胞培養や動物での継代を重ねて安全性を高めた、より弱毒化されたワクシニア株を指し根絶期の終盤かそれ以降に開発されたもので、日本でLister株のB5R遺伝子に変異を導入したLC16m8(わずかに複製するワクチン)とゲノムの約30 kbを欠失させた非複製型のMVA-BNが含まれること、さらにVacΔ6(OrthopoxVac)という第4世代ワクチンも開発されていることを述べていること。あわせて「Choice of vaccines for the WHO smallpox emergency reserve」の節が、WHOの緊急備蓄(現物と供与確約分を合わせたもの)は第1世代・第2世代(ACAM2000)・第3世代(LC16m8とMVA-BN)のワクチンから成るとし、MVA-BNは供与確約のみであるため現物の緊急備蓄へ加えることを推奨していること(原文 The WHO emergency reserve (physical and pledged) includes first-generation, second-generation (ACAM2000) and third-generation (LC16m8 and MVA-BN) vaccines. MVA-BN is pledged only.)。これは備蓄の構成についての記述であって、市場で入手可能なワクチンの一覧ではない。閲覧 2026-09-06
  2. 2.WHO adds LC16m8 mpox vaccine to Emergency Use Listing(World Health Organization・2024)WHO公式サイトのニュースリリース全文を自分で取得して確認した。WHOが2024年11月19日にLC16m8を緊急使用リスト(EUL)へ追加し、これがmpoxに対してWHOが支持する2つめのワクチンとなったこと、LC16m8が日本のKM Biologicsが開発・製造するワクチンで、EULの審査が製造販売業者の提出資料と日本の規制当局である医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査に基づくこと、技術諮問グループ(TAG)が1歳超の者に対し二又針を用いた多刺法による単回接種を推奨したこと、⚠️ 一方でLC16m8のような「minimally replicating」ワクチンは妊娠中および免疫不全者には使用すべきでないとされ、その免疫不全者に活動性の癌・移植レシピエント・免疫不全症・免疫抑制薬による治療中の者に加え現在のCD4数が200/µL未満のHIV感染者が含まれること。閲覧 2026-09-06