微生物学

微生物学 · 3/19

ポックスウイルス

Poxviruses

薬剤
テコビリマットブリンシドフォビルワクシニア免疫グロブリン
微生物
Buffalopox virusCamelpox virusCowpox virusMolluscum contagiosum virusMpox virusVaccinia virusVariola virus
疾患
エムポックス伝染性軟属腫

🧠 は「ウイルスなのにウイルスのように振る舞う」変わり者として読む。 通常、ウイルスは核内で宿主の転写装置を借りて増殖するが、は自前の依存性ポリメラーゼをに内蔵しており、核に入らず細胞質だけで完結する——ウイルスの中で唯一の例外である。この「自己完結性」こそが、最大級のウイルスというサイズ、になりうるという凶悪さ、そして一方で皮膚に留まる良性腫瘤にすぎないという真逆の臨床像を同じ科の中に共存させている理由である。

構造・分類

項目 内容
ゲノム 線状(dsDNA)——ウイルスの中で最大
エンベロープあり(宿主膜由来ではなく自前で合成)
形態 ではなく
増殖部位 細胞質のみ(ウイルスで唯一)
特殊酵素 依存性ポリメラーゼを内に保有——核の転写装置に依存しないため細胞質増殖が可能
リザーバー ヒト(ただし科全体で見ればヒト以外がの種が多い。mpoxウイルスは名前に反してサルではなくアフリカのげっ歯類がと考えられている)
その他 となりうる病原体に指定されている

💡 なぜ細胞質だけで増殖できるのか。 通常ウイルスは宿主の核内ポリメラーゼIIを利用するため核内増殖が必須になる。は自分専用の依存性ポリメラーゼをに積んでいるため、核に入らず細胞質だけで転写を完結できる——ゆえに最大級のゲノムサイズを持ちながら宿主に依存しない自己完結的な増殖環が可能になる。

伝播・病原性

ウイルス 伝播経路
= 飛沫感染
直接接触・性的接触・

の: ウイルスは上気道から侵入し、リンパ系を介して播種して第1次ウイルス血症を起こす。その後、第2次ウイルス血症を経て全身の皮膚・内臓に達し、古典的な「pocks(痘疹)」を形成する。

flowchart TD
  A["Variola virus吸入<br>(上気道)"] --> B["リンパ系で増殖・播種"]
  B --> C["第1次ウイルス血症"]
  C --> D["全身の皮膚・内臓に感染"]
  D --> E["第2次ウイルス血症"]
  E --> F["全身の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pocks'>痘疹</span>形成"]

⚠️ はとしてのリスクを持つ。 1980年ににより宣言がなされているが、実験室株の存在や再興リスクから、依然として生物学的テロのとして警戒される疾患である。

⚠️ したのは「」であって属ではない——その空白を埋めたのがmpox()である。 ワクチンは同属のにを与えていたため、1980年代に世界計画(GSEP)が終了して接種が止まるとが徐々に失われ、それと時間的に対応してアフリカでmpoxが増加した1。2022年にはclade IIbが世界流行し、16か国43施設の528例の解析では98%がゲイ・バイセクシュアル男性、95%で性行為による伝播が疑われ、41%が陽性、潜伏期中央値は7日(3〜20日)だった2。2023年からはより病原性が高いとされるclade Ibの流行がアフリカで始まり、2024年8月に再びの国際的に懸念される上の緊急事態(PHEIC)が宣言された。 ⚠️ ただしこのPHEICは既に終了している——2025年9月4日の第5回IHR緊急委員会の助言に同意し、事務局長は2025年9月5日に「2024年のmpoxの急増はもはやPHEICを構成しない」と決定した。⚠️ 暫定的勧告は発出されなかったが、これは委員会が「不要」と助言したからではない。委員会は暫定的勧告の発出そのものは妥当だとしたうえで、事務局が用意した案文を「緊急対応の姿勢から保健システムに統合された取り組みへ移行するための行動に焦点を絞る形へ改訂すべきだ」と助言した。その助言をさらに十分に検討した結果、事務局長は当時2026年8月20日まで延長されていた常設勧告で足りると判断した——暫定的勧告を出さないと決めたのは事務局長の側である。⚠️ この常設勧告の期限(2026年8月20日)は既に到来しているので、現在のはの常設勧告のページで確かめる(本稿が確認できたのは上記の2025年9月時点の記述までである)。⭐ 「流行が終わったから終了した」のではなく、緊急対応の姿勢から保健システムに統合された恒常的な対策へ移行するのが妥当と判断されたためである(根拠として挙げられたのはアフリカ大陸での症例数の持続的な減少、伝播動態と重症・死亡の危険因子の理解の明確化、各国の対策実施能力の進展の3点)3。なおは2022年11月に疾患名を「monkeypox」から「mpox」へ改めており、講義資料や旧教科書の「/monkeypox」は現在の呼称ではない(ウイルス名は Monkeypox virus のまま)。

臨床像

天然痘

  • 潜伏期5〜7日 → 2〜4日間のインフルエンザ様(プロドローム)
  • 皮膚・粘膜表面に隆起した水疱が出現
  • 発疹は口腔内から始まり顔面・四肢へ拡大し、24時間以内に全身に及ぶ
  • すべての水疱が同一の発育段階にある(synchronous rash=)——これが最大の鑑別点

⭐ 水痘との鑑別が頻出。 は全ての病変が同じ段階で四肢優位・深く硬い病変・非なのに対し、水痘は病変の段階が混在()し体幹優位・表在性でした病変を呈する。

項目 水痘
病変の深さ 表在性 深く硬い
なし 中心陥凹()あり
病変の段階 混在() 全て同一段階()
好発部位 体幹 四肢

伝染性軟属腫

  • 皮膚に単発〜多発(20個未満)の腫瘤(良性)を形成
  • 肌色・状で(かたつむりの殻のような形状)
  • 小児では体幹に好発
  • 成人でびまん性感染がみられる場合は感染を疑う

診断

  • 細胞質内好酸性(type B)——の場そのものがとして観察される

治療・予防

  • 健常者: 対症療法のみ(自然治癒する)
  • 免疫不全者:(の場合)基礎の免疫不全の是正が本体——感染者ではARTによるで消退することが多い。難治例にを考慮する

⚠️ は「効くはずの薬」だが、無作為化試験では有効性を示せていない。 ウイルスのVP37蛋白を阻害して細胞外への放出を止める作用機序を持ち、ヒトでの有効性試験ではなく動物での有効性試験に基づいて承認された——EMAは、承認当時はウイルスがほとんど流行しておらず感染者での試験を実施できなかったためだと説明している4。その後の流行によって可能になった4つの・・プラセボ対照試験——clade Iを背景とするPALM007と、clade IIを背景とするSTOMP・UNITY・PLATINUM-UK——は、4試験すべてで(病変の臨床的消退までの時間)がに勝てなかった4。の成績と承認だけを根拠に「効く薬」と暗記しない。

試験 対象 の結果
PALM007(コンゴ民主共和国、clade I、597例) 入院患者 皮膚病変消退までのが群7日・プラセボ群8日、1.13(95%CI 0.97〜1.31、P=0.14)5
STOMP/ACTG A5418(国際共同、clade II、412例=275例・137例) 検査確定の成人(主解析は活動性の皮膚・粘膜病変がある336例) 29日目までの臨床的軽快の推定が群83%・プラセボ群84%、0.98(95%CI 0.74〜1.31、P=0.89)。⭐ 疼痛軽減(重度疼痛例で群間差0.1点)・病変の完全治癒・ウイルスの陰性化というでも差が出なかった6

💡 PALM007の全体死亡率は1.7%で、2023年にDRCで報告された致死率4.6%を下回った——薬ではなく入院と支持療法が転帰を改善した可能性を示す5。⚠️ 安全性は問題になっていない——STOMPのGrade 3以上の有害事象は群4%・プラセボ群3%で6、EMAも再審査で新たな安全性の懸念は無いとした。⭐ 「危険だから使わない」のではなく「効かないから使わない」である。流行期を通じて人道的使用で広く投与されてきたが、それは有効性の証拠ではなかった7。

⚠️⚠️ この結果を受けて、上の位置づけが地域ごとに割れた。「欧米では」と一語でまとめない。

地域 mpoxに対する承認
米国(TPOXX) ⚠️ もともと無い。 適応は「体重3 kg以上の成人・小児における、によるヒトの治療」だけである8
EU(Tecovirimat SIGA) ⚠️⚠️ 2026年に取り消された。 CHMPが2026年3月26日に勧告し、欧州委員会が2026年5月29日に全加盟国を拘束する決定を出した。⭐ ・・ワクチン接種後の合併症(体重13 kg以上)の適応は残る——mpoxの臨床データが他の疾患へ外挿できるとは限らない、というのが制限をmpoxに限った理由である。⚠️ EMAは同時に「にはmpoxのの治療に承認された他の医薬品は無い」とも述べている4
日本(テポックス) ⭐ ある。 テポックスカプセル200 mgが2024年12月27日に【】で承認され、効能・効果にが・・ワクチン接種後のワクチニアウイルス増殖による合併症と並んで明記されている9

⚠️ したがって「承認されているか」は有効性の証拠にならない。 詳細は・mpoxの各ノートを参照。

  • 予防: ——由来株を用いたワクチンではに成功した。現在この株はVaccinia virusと呼ばれ、ワクチンの実体として使われ続けている

💡 は「そのもの」ではない。 ジェンナーが用いたのは確かにだが、現在ワクチンに使われているVaccinia virusはCowpox virusとは別の独立した種として分類されており、その正確な由来(馬痘由来とする説が有力)は今も確定していない。「由来株」は歴史的な出自の説明であって、現行の分類上の位置づけではない。

⭐ ・mpox用ワクチンはの程度で読み分ける。 ACAM2000はを持つvaccinia生ワクチンで、で接種し接種部位にを作る——・湿疹性・心筋炎という重い副反応があり、免疫不全者・患者・妊婦には使えない。MVA-BN(Jynneos/Imvanex/Imvamune)はでを失ったで、皮下2回接種、免疫不全者にも使えるが2回打って初めて十分な効果になる——米国ので医療機関受診を要するmpoxに対する有効率は2回接種で66.0%、1回接種では35.8%(95%CI 22.1-47.1)だった10。⚠️ 「複製する/しない」のでは足りない。 日本のKM Biologicsが開発したLC16m8はその中間に位置する「わずかに複製する」ワクチンで、が2024年11月19日にリスト(EUL)へ追加した2つめのmpoxワクチンである(1歳超に二又針ので単回接種)。⭐ 弱毒であることと免疫不全者に使えることは別で、LC16m8は妊娠中と免疫不全者には使用しない11(世代ごとの整理は)。

まとめ

  • は線状dsDNAを持つ最大のウイルスで、自前の依存性ポリメラーゼにより細胞質のみで増殖する——ウイルスで唯一の例外。
  • Variola virus()は飛沫感染し、上気道→リンパ系→第1次ウイルス血症→全身臓器→第2次ウイルス血症→全身性のという経過をたどる。水痘との鑑別( vs 、四肢優位 vs 体幹優位、深く硬い vs 表在性)が頻出。
  • Molluscum contagiosum virusは直接接触・性行為・で伝播し、肌色・した良性腫瘤を形成する——成人でのびまん性病変は感染を示唆する。
  • 診断は細胞質内好酸性(=巣)の証明。
  • 治療は基本的に対症療法。免疫不全者のではが本体で、難治例にを考慮する。
  • 予防はVaccinia virusによる——を実現した歴史的成功例。⚠️ にCowpox virus由来と説明されるが、現行のはとは別の独立した種であり、由来は確定していない(上記💡)。

出典

  1. 1.Mpox: emergence following smallpox eradication, ongoing outbreaks and strategies for prevention(Current Opinion in Infectious Diseases・2025)1980年代の世界天然痘根絶計画の終了に伴う集団免疫の減衰がアフリカおよび世界でのmpox増加と時間的に関連すること、2022年の世界流行がclade IIbによるもので同株がヒト-ヒト伝播性・重症度を高めうる新規の遺伝的特徴を持つこと、2023年にアフリカでより病原性が高いとされるclade Ibによる流行が始まり米国・英国など域外へも輸出されWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と認定したこと、天然痘ワクチンによる同属オルソポックスウイルスへの交差防御が現在もmpox予防の中心であること閲覧 2026-08-26
  2. 2.Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries - April-June 2022(New England Journal of Medicine(Thornhill JP, et al.)・2022)2022年4月27日〜6月24日に16か国43施設で診断されたmpox 528例の症例集積で、98%がゲイまたはバイセクシュアルの男性、41%がHIV陽性、95%で性行為による伝播が疑われたこと、95%が皮疹を呈し(64%は病変10個以下)73%が肛門性器病変、41%が粘膜病変を伴ったこと、曝露歴が明確な23例での潜伏期中央値が7日(範囲3〜20日)だったこと、13%が入院したこと閲覧 2026-08-26
  3. 3.Fifth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the upsurge of mpox 2024(World Health Organization・2025)WHO公式サイトの声明全文を自分で取得して確認した。第5回IHR緊急委員会が2025年9月4日に開かれ、その助言に同意したWHO事務局長が2025年9月5日に「2024年のmpoxの急増はもはや国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を構成しない」と決定したこと、暫定的勧告は発出せず、2026年8月20日まで延長されているmpoxの常設勧告(standing recommendations)で足りるとしたこと、当のPHEICが2024年8月に決定されたものであること。委員会が、暫定的勧告の発出そのものは妥当だ(the issuance of temporary recommendations would be warranted)としつつ、事務局が起草した案は緊急対応から保健システムに統合された取り組みへの移行のための行動に焦点を絞る形へ改訂を要すると助言したこと、その助言をさらに十分に検討したうえで事務局長が常設勧告で足りると判断したこと(原文 The WHO Director-General, following further thorough consideration of the advice by the Committee to issue temporary recommendations, considers that the current standing recommendations for mpox, extended until 20 August 2026, are adequate…)。委員会がこの事象をもはや「extraordinary」とみなさない根拠として、①アフリカ大陸での症例数の持続的かつ一貫した減少、②MPXVの伝播動態と重症・死亡の危険因子の理解が明確になったこと、③各国が対策を統合的に実施する能力を進展させたこと、の3点を挙げていること。WHO事務局が、緊急対応の姿勢から保健システムに統合された恒常的・計画的な取り組みへの戦略的移行が妥当だと述べていること。閲覧 2026-09-06
  4. 4.EMA recommends restricting use of Tecovirimat SIGA — The medicine was not effective for the treatment of mpox in randomised clinical trials(European Medicines Agency・2026)欧州委員会の要請により開始されたRegulation (EC) No 726/2004 第20条の再審査についてのEMA文書(2026年6月1日付、EMA/59974/2026)のPDF全文で確認した。CHMPが2026年3月26日に「Tecovirimat SIGAはmpoxの治療にはもはや用いるべきでない」と勧告し、欧州委員会が2026年5月29日に全加盟国に適用される最終的な法的拘束力のある決定を出したこと、その結果Tecovirimat SIGAがEUにおいてmpoxの治療について承認を失ったこと、この制限が痘そう・牛痘・痘そうワクチン接種後の合併症(体重13 kg以上の成人および小児)の適応には及ばないこと、根拠が異なる地域で行われた4つの無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験(clade IIの流行を背景とするSTOMP・UNITY・PLATINUM-UK、コンゴ民主共和国でclade Iを背景とするPALM007)であること、原文が「おおむね免疫が保たれ活動性のmpox病変を有する患者において、検討された条件のもとで、4試験すべてで主要評価項目である病変の臨床的消退までの時間がプラセボに勝てなかった」と限定を付けて述べていること、疼痛軽減やウイルスDNAなどの副次評価項目でも優越性が示されなかったこと、PALM007では死亡が両群とも低く死亡に対する有益性は検出できなかったこと、承認時の動物試験では曝露から4日以内に開始した場合に有効性が示され、非ヒト霊長類でmonkeypoxウイルスの静脈内接種から6日目に開始すると生存率が50%(4日目は83%、無治療は0%)へ低下したこと、一方で臨床試験の投与開始は報告された発症からおよそ6〜9日後であり「患者が有効となるほど早期に治療されていなかった可能性はもっともらしい」と述べていること、4試験の成績の熟度がPALM007は最終成績・STOMPは主解析のみ・UNITYは要約成績・PLATINUM-UKは未公表原稿であったこと、新たな安全性の懸念は認められなかったこと、既に投与を開始した患者は治療を完了してよいとされたこと、「EUにはmpoxの活動性感染の治療に承認された他の医薬品は無い」と明記されていること、そしてTecovirimat SIGAが例外的状況下での承認(authorisation under exceptional circumstances)であったことを確認した。閲覧 2026-09-07
  5. 5.Tecovirimat for Clade I MPXV Infection in the Democratic Republic of Congo(New England Journal of Medicine(PALM007 Writing Group)・2025)コンゴ民主共和国でclade I mpox患者597例を対象とした二重盲検プラセボ対照無作為化試験(PALM007)で、皮膚病変消退までの期間中央値がテコビリマット群7日・プラセボ群8日、競合リスクハザード比1.13(95%CI 0.97-1.31、P=0.14)とテコビリマットが主要評価項目を改善しなかったこと、発症7日以内に開始しても結果が変わらなかったこと、全体の死亡率は1.7%で2023年にDRCで報告された致死率4.6%より低かったことを確認した。支持療法の寄与については Europe PMC(PMC12158442)で全文を取得し、組入れ例が全例入院していること(All patients were hospitalized for 14 days of tecovirimat period, regardless of lesion status)と、While the level of care provided in PALM007 likely improved outcomes, it may not be easily provided in resource-limited and outpatient settings という記述を逐語で確認した。1.7%は58日時点の全死亡で、実薬5/295・プラセボ5/302と両群同値である閲覧 2026-08-26
  6. 6.Tecovirimat for the Treatment of Mpox(New England Journal of Medicine(STOMP/ACTG A5418 Study Team)・2026)Europe PMC の抄録(PMID 41740032・PMC13440037)で確認した。テコビリマットがFDAのAnimal Rule(動物有効性試験による承認制度)のもとで非ヒト霊長類のmpoxモデルでの有効性を根拠に痘そう治療薬として承認されており、ヒトのclade II mpoxに対する臨床的有効性は不明であったこと、検査で確定した成人のclade II mpoxを対象とした第3相・国際共同・二重盲検・プラセボ対照試験で2対1に割り付けて14日間経口投与したこと、無作為化された412例(テコビリマット275例・プラセボ137例)のうち344例が検査で確定し、活動性の皮膚または粘膜病変を有する336例が主解析に組み入れられたこと、主要評価項目である臨床的軽快の29日目までの推定累積発生割合がテコビリマット83%・プラセボ84%、競合リスクハザード比0.98(95%CI 0.74〜1.31、P=0.89)であったこと、ベースラインで重度の疼痛(0を疼痛なし・10を想像しうる最悪の疼痛とする尺度で7〜10)があった患者の疼痛軽減の群間差が0.1点(95%CI −0.8〜1.0)、病変の完全治癒の競合リスクハザード比が0.97(95%CI 0.75〜1.26)で、ウイルスDNAの陰性化にも実質的な群間差が無かったこと、Grade 3以上の有害事象がテコビリマット群4%・プラセボ群3%であったこと、結論が「成人のclade II mpoxにおいてテコビリマット治療が臨床的軽快までの時間を短縮し、疼痛を軽減し、あるいはウイルス排除を増加させたという証拠は示されなかった」であることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-07
  7. 7.Mpox therapeutics in the post-STOMP/PALM era(Current Opinion in HIV and AIDS・2026)テコビリマットが流行期を通じて人道的使用で広く投与されてきたにもかかわらず臨床的有効性の証拠が無いこと、複数の第3相プラセボ対照試験(STOMP・PALM007)がいずれもmpox治療におけるテコビリマットの臨床的有効性を示せなかったこと、およびSummaryが「テコビリマット・ブリンシドフォビル・シドフォビル・トリフルリジン・VIGIVを含む現行の治療推奨(current treatment recommendations)の根拠と、それ以外の研究段階の治療(other investigational treatments)をまとめる」と述べていることを、Europe PMC の抄録で確認した。⚠️ 全文はOvidの購読制で取得できず、抄録はこれら5剤を investigational treatments と切り分けている閲覧 2026-08-26
  8. 8.TPOXX (tecovirimat) capsules, for oral use; TPOXX (tecovirimat) injection, for intravenous use — Prescribing Information(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/SIGA Technologies・2025)openFDAのラベルAPI経由でSPL全文(effective_time 2025年12月31日)を確認した。米国の適応が体重3 kg以上の成人・小児における痘瘡(variola virus によるヒト天然痘)の治療に限られ、Limitations of Use に「適切な野外試験が実施不可能でヒトに天然痘を発症させて有効性を調べることは倫理的に許されないため、天然痘治療における有効性はヒトでは決定されていない」と明記されていること、免疫不全動物モデルで有効性が低下したことから免疫不全患者では有効性が減弱しうるとされること、TPOXXが「orthopoxvirus VP37 envelope wrapping protein の阻害薬」と規定されていること、有効性がカニクイザル(サル痘ウイルス感染)とニュージーランドホワイトウサギ(ラビットポックスウイルス感染)の動物有効性試験のみで確立され、皮膚病変出現後(感染後4日目)の投与開始で生存率がプラセボ0%に対し80〜100%へ改善した一方、サルで6日目に開始した群では有意差が出なかった(50%、p=0.1231)こと、経口用量が体重40 kg以上120 kg未満で1回600 mg 12時間ごと14日間・120 kg以上で1回600 mg 8時間ごと14日間、13〜25 kgで200 mg・25〜40 kgで400 mgを12時間ごと14日間であること、カプセルは中〜高脂肪の食事の後30分以内に服用すること、静注が3 kg以上に6 mg/kg(35〜120 kgでは200 mg、120 kg以上では300 mg)12時間ごと6時間かけて最長14日間であること、カプセルには禁忌がなく静注は賦形剤ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが糸球体濾過で排泄されるためクレアチニンクリアランス30 mL/分未満の重度腎機能障害患者に禁忌であること、警告がレパグリニド併用時の低血糖(健常者30人中10人が軽度〜中等度の低血糖を来した)とシクロデキストリン賦形剤の腎機能障害・2歳未満での蓄積であること、カプセルで2%以上に生じた副作用が頭痛12%・悪心5%・腹痛2%・嘔吐2%(プラセボはそれぞれ8%・4%・1%・0%)であること、テコビリマットがCYP3Aの弱い誘導薬・CYP2C8とCYP2C19の弱い阻害薬でありレパグリニドの血中濃度を上げミダゾラムの血中濃度を下げること、リン酸結合薬の併用でテコビリマットのバイオアベイラビリティが上がること、生ワクチン(ワクシニアウイルス)と同時併用すると動物ではワクチン免疫応答が低下しうること、代謝がアミド結合の加水分解とUGT1A1・UGT1A4によるグルクロン酸抱合で半減期が経口19時間・静注21時間であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  9. 9.承認品目一覧(新医薬品:2024年4月~2025年3月)(独立行政法人医薬品医療機器総合機構・2025)2024年度の新医薬品承認品目一覧の第4回分に「2024.12.27 テポックスカプセル200 mg(日本バイオテクノファーマ㈱)承認 テコビリマト水和物」が収載され、効能・効果が「痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品と記載され、【迅速審査】の指定が付されていることを確認した。閲覧 2026-09-03
  10. 10.Vaccine Effectiveness of JYNNEOS against Mpox Disease in the United States(New England Journal of Medicine(Deputy NP, et al.)・2023)米国の電子カルテデータベースを用いた症例対照研究(症例2,193例・対照8,319例)で、MVA-BN(JYNNEOS)2回接種の医療機関受診を要するmpoxに対する調整後ワクチン有効率が66.0%、1回接種では35.8%(95%CI 22.1-47.1)だったこと閲覧 2026-08-26
  11. 11.WHO adds LC16m8 mpox vaccine to Emergency Use Listing(World Health Organization・2024)WHO公式サイトのニュースリリース全文を自分で取得して確認した。WHOが2024年11月19日にLC16m8を緊急使用リスト(EUL)へ追加し、これがmpoxに対してWHOが支持する2つめのワクチンとなったこと、LC16m8が日本のKM Biologicsが開発・製造するワクチンであること、EULの技術諮問グループ(TAG)が1歳超の者への二又針を用いた多刺法による単回接種を推奨したこと、一方でLC16m8のような「minimally replicating」ワクチンは妊娠中および免疫不全者には使用すべきでないとされていること。閲覧 2026-09-06