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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

エムポックス

Mpox

別名
サル痘Monkeypox
臓器系
感染症皮膚
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 3/19:ポックスウイルス
鑑別疾患
水痘・帯状疱疹単純ヘルペス感染症梅毒
関連疾患
HIV感染症・AIDS
原因微生物
エムポックスウイルス
症状
発熱皮疹膿疱リンパ節腫脹性器潰瘍直腸炎皮膚壊死
適応薬
テコビリマット

🧠 全体像:を「1つの病気」として覚えると必ず矛盾する。同じウイルス種の3つの流行が、いま同時に走っているからである——①中央・西アフリカで長年続くの(小児が中心、全身の発疹)、②2022年に世界へ広がったclade IIbの流行(成人男性・性的接触・が中心)、③2023年以降にコンゴ民主共和国から広がるclade Ibの流行(性的接触に加えがあり、女性と小児も同じだけ罹る。⚠️ いまはアフリカ域外の複数国でも市中感染が定着している)。「発疹の分布」「誰が罹るか」「どこから来るか」がこの3つで違うため、どの流行の話をしているのかを先に決めてから臨床像を思い出すのが正しい読み方になる。

名称——「サル痘」は現在の呼称ではない

は2022年11月に疾患名を「monkeypox」から「mpox」へ改めた。サルはにすぎずアフリカのげっ歯類が真のであること、旧称が差別的な用法を招いたことが理由である。では「」を用い、「」は旧称として扱う。⚠️ ウイルスの慣用名 monkeypox virus(MPXV)は変わっていない(種名の表記そのものは()の規則改定でへ移行しており、疾患名の改称とは別の話である)。すなわち「疾患名は変わったがウイルス名は変わっていない」というねじれが残る。旧教科書・旧講義資料の「/monkeypox」は現在の疾患名ではない。

委譲——ウイルス学は微生物ノートへ

Orthopoxvirus属の構造(線状dsDNA・・細胞質のみでの増殖)、との属内、後の低下が増加の背景にあることはで扱う。本ノートは疾患としての臨床像・流行・治療・ワクチンに絞る。

3つの流行を分けて持つ

clade Ia(従来の) clade IIb(2022年〜の世界流行) clade Ib(2023年〜。DRC発、現在は域外にも)
主な地域 コンゴ盆地(中央アフリカ) 世界各地(欧米を含む) コンゴ民主共和国と周辺国。⚠️ 域外でも輸入例にとどまらず市中感染が定着(下記)
主な伝播 動物からヒト、家庭内接触 性的接触を含む濃厚な直接接触 性的接触+家庭内接触の両方
罹る人 小児が多い 成人男性に強く偏る 女性48%、5歳未満14%と偏りが小さい
発疹の分布 全身性・遠心性 肛門性器・口周囲に限局しやすい 成人は性器優位、小児はより均一な全身性

出典は、clade IIbの臨床像がThornhillらの16か国528例1、clade Ibが南キブ州カミトゥガの前向きコホート407例2、流行のがSchwartzらの総説3である。

⚠️⚠️ 「clade Ibはアフリカの話」という前提はもう成り立たない。 の2026年5月31日付の多国間状況報告は、中部・アフリカ以外でclade Ib MPXVの市中感染を報告している国として、コロンビア・デンマーク・ドイツ・パキスタン・ポルトガル・スロバキア・スペイン・スイス・タイの9か国を挙げている。ここでいう市中感染とは「直近6週間にその国で報告された症例のうち少なくとも1例が、中の渡航歴も、伝播のある国からの渡航者との疫学的つながりも報告していない」ことを指し、症例数の多寡を問わない。伝播はおもに男性同性間の性的ネットワークで起きているが、は⚠️ 「それに限らない」と明記している。スペインはclade Ibを109例、ドイツは74例(うち77%は2026年に入ってからの報告)を数え、モーリシャスは同国で初めてclade Ibを報告した4。

⭐ つまりclade Ibは、2022年にclade IIbが通った道を後追いしている。 「clade IIb=世界流行、clade Ib=アフリカの流行」という覚え方は既に古い。⚠️ 渡航歴が無いことはclade Ibの否定材料にならない。 世界全体では2025年1月1日〜2026年4月30日に59,709例の・241例の死亡が103か国から報告されており、2026年4月の1か月では37か国・1,066例・死亡3例(致死率0.3%)で、そのうち62%がアフリカ地域であった4。

💡 clade Ibは「clade Iの系統でありながら、clade IIbのように性的接触で広がる」株として登場した。 より病原性が高いとされるclade Iの系統が域外へも輸出されたことを受け、は2024年8月に国際的に懸念される上の緊急事態(PHEIC)と認定した3。

⚠️⚠️ このPHEICは既に終了している。 事務局長は第5回IHR緊急委員会の助言に同意し、2025年9月5日に「2024年のmpoxの急増はもはやPHEICを構成しない」と決定した。理由は、アフリカ大陸での症例数の持続的な減少、伝播動態と重症化の危険因子がより明確になったこと、各国の対策能力が向上したことであり、⭐ 「流行が終わった」からではなく、緊急対応から保健システムに統合された恒常的な対策への移行が妥当だと判断されたからである。⚠️ 暫定的勧告は発出されなかったが、これは委員会が「不要」と助言したからではない。委員会は暫定的勧告の発出そのものは妥当だとしたうえで、事務局が用意した案文を「緊急対応の姿勢から保健システムに統合された取り組みへ移行するための行動に焦点を絞る形へ改訂すべきだ」と助言した。その助言をさらに十分に検討した結果、事務局長は当時2026年8月20日まで延長されていた常設勧告で足りると判断した——暫定的勧告を出さないと決めたのは事務局長の側である5。⚠️ この常設勧告の期限(2026年8月20日)は既に到来している。 常設勧告はIHR上、事務局長が延長・改訂・終了を決める枠組みなので、現在のはの常設勧告のページで確かめる(本ノートが確認できたのは2025年8月21日付の延長までである4)。⚠️ 講義資料や教科書が「PHEIC継続中」と書いていたら、それは2025年9月より前の記述である。

2022年以降のclade IIb流行——教科書の発疹像が当てはまらなかった

2022年4月27日〜6月24日に16か国43施設で診断された528例の症例集積が、この流行の臨床像を決定づけた1。

所見 割合
ゲイまたはバイセクシュアルの男性 98%
性行為による伝播が疑われた 95%
陽性 41%
皮疹を呈した 95%(うち64%は病変10個以下)
73%
粘膜病変 41%
入院 13%(70例)
性感染症の併存(検査された377例中) 29%(109例)
リンパ節腫脹 56%
発熱 62%
潜伏期(曝露歴が明確な23例) 中央値7日(範囲3〜20日)
死亡 0例

⚠️⚠️ 「全身に多数の膿疱が同時期に出る」という型の記述を当てにすると見落とす。 この流行では病変が10個以下の症例が3分の2を占め、肛門性器や口腔に数個だけ現れることが珍しくなかった。による強い肛門痛やが唯一のとして受診する例もある。梅毒・・との鑑別が実務上の中心になり、性感染症外来が診断の最前線になった。

💡 入院した13%が何で入院したのかを見ると、この流行の重さの正体が分かる。 原著が入院理由として挙げているのは(多くは重度の肛門直腸痛)21例が最多で、次いで軟部組織の18例、感染対策目的13例、経口摂取を妨げる咽頭炎5例、・・心筋炎が各2例である1(⚠️ この内訳を足すと63例で、入院した70例の全員分の内訳ではない)。⭐ 致死的だから入院したのではなく、痛みとで入院している——⚠️ だからこそ鎮痛が「支持療法」の中身の中心になる。抗ウイルス薬が投与されたのは全体のわずか5%である。

2023年以降のclade Ib流行——性感染症であり、同時に家庭内感染症でもある

南キブ州カミトゥガの病院で2024年5月2日〜10月9日に行われた前向きコホート(510例、陽性407例)が、clade Ibの臨床像を初めて系統的に描いた2。

  • の48%が女性、年齢は二峰性で5歳未満が14%・15〜34歳が66%——clade IIb流行の「成人男性にほぼ限局」とは分布が根本的に違う
  • 接触歴を報告した58%の内訳は、成人では同僚・配偶者・、小児では親・きょうだい——性的接触だけでは説明できないが並存する
  • 88%、活動性皮膚病変97%、粘膜病変82%、リンパ節腫脹73%
  • 成人の89%に性器の皮膚病変があり病変密度も性器部で最も高かったのに対し、性器病変を有した小児は42%にとどまり、より均一な発疹を呈した
  • 合併症は57%・皮膚41%が主
  • 転帰が記録された妊婦64人(67%)に不良な
  • 入院403例中の死亡は2例(1%未満)、29日目・59日目に瘢痕以外のはほとんど無し

⭐ 「小児は性器病変が少なく全身の発疹をとる」という所見が、同じ株でも伝播経路によって臨床像が変わることを示している。 性的接触で入れば病変は接種部位である性器・肛門周囲に集中し、家庭内の非性的接触で入ればに近い全身性の発疹になる。発疹の分布はの性質ではなく、どこからウイルスが入ったかを映している——この理解があると、clade IIbの肛門性器優位も同じ現象として一本化できる。

⚠️ 「clade Iは致死率が高い」という一文を単独で暗記しない。 歴史的に引かれてきた高い致死率は、医療アクセスの限られた環境での報告に基づく。入院・支持療法が行われた南キブのコホートでは死亡は403例中2例(1%未満)2、PALM007試験の全体死亡率は1.7%で、2023年にDRCで報告された致死率4.6%を下回った6。致死率はウイルスの性質だけでなく、誰が数えたか・どこで治療されたかで動く。

⭐ も同じに到達している。 PHEIC宣言の時点ではclade Ibの重症度と致死率に不確実性があったが、その後のデータでclade Ibの死亡率は低く、clade IIbで記録された致死率と同程度であり、しかも主に免疫不全(多くはコントロール不良の感染)という既知の脆弱性に結びついていることが示された。⚠️ 一方、clade Iaが流行するDRCの常在州では今も相対的に高い致死率が続くが、その値もPHEIC宣言時の3%超から2025年には約1.6%、2025年8月には約1%へ低下している。記録されている主な合併症は眼科的なものと的なもの(広範な病変後の瘢痕)である5。

HIV進行例——AIDS指標疾患のように振る舞う

⚠️⚠️ の臨床像を決める最大のはである。 19か国のネットワークが集めたCD4 350/mm³未満の感染者382例の症例集積では、CD4値によって別の病気のような差が出た7。

合併症 CD4 100/mm³未満 CD4 300/mm³超
壊死性皮膚病変 54% 7%
肺病変 29% 0%
・敗血症 44% 9%

著者らはこの壊死性の病型を「高度免疫抑制下で指標疾患のように振る舞う」と表現している7。

⚠️ と診断したら必ずHIV検査を行う。 2022年の世界流行では診断例の41%が陽性だった1。そしてCD4が低い例では、皮疹が「治らない」のではなく壊死性に進行して致命的になる。「自然軽快する」というが最も裏切られる集団である。

⚠️ の死亡率の高さに注意する。 の開始は必要だが、mpoxのに開始・再開した例で炎症の悪化が疑われた頻度は25%、そのうち57%が死亡している。開始時期を専門医と検討する。

診断

flowchart TD
    A["発熱と皮疹、または肛門性器の潰瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proctitis'>直腸炎</span>"] --> B{"曝露の文脈があるか"}
    B -->|"流行地の滞在・患者との接触<br>性的接触"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mpox'>エムポックス</span>を鑑別に入れる"]
    B -->|"文脈が乏しい"| D["水痘・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex (HSV)'>単純ヘルペス</span>・梅毒を先に評価<br>ただし否定はしない"]
    C --> E["病変をぬぐい<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>へ提出<br>皮膚病変が乏しければ咽頭・直腸も採取"]
    E --> F["同時に梅毒・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human immunodeficiency virus'>HIV</span>・他の性感染症を検査"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human immunodeficiency virus'>HIV</span>陽性か"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CD4-positive cell count'>CD4陽性細胞数</span>を測る<br>200/mm3未満なら重症化を想定して入院管理"]
    G -->|"いいえ"| I["外来で支持療法と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contacts'>接触者</span>への説明"]

⚠️⚠️ の判定には、もう一段の注意がいる——「で決まる」ではなく「配列で決まる」。 2025年9月にインドで、2025年12月に英国で、clade Ibとclade IIbの双方のゲノム領域を持つ組換え体のMPXVが検出された。組換えは、近縁の2つのウイルスが同じ個体に感染したときにを交換して新しいウイルスを生じる、既知の自然現象である。⚠️ 重要なのは、どちらの症例でも判別が誤った答えを返していたことである——英国例は当初clade Ib、インド例は当初clade IIと型別され、で初めて間組換え体と分かった(インド例は英国例が公開データベースへ登録された後に遡って再分類され、結果として世界で最も早い検出だったことになった)。⭐ 臨床像は他のによるmpoxと同様で、いずれも重症化せず、でもは確認されていない。はこの時点で全体のリスク評価を変えていない8。⚠️ ただしは、この「重症化しなかった」を安心材料として読まないよう同じ文書で釘を刺している——症例数が少ないため、伝播性や臨床像についてを出すのは時期尚早であり、組換えウイルスの伝播が既に3つの地域の4か国以上に及ぶことから報告されているより広がっている可能性が高い、2例が数週間を隔てて同じ組換え株で発症したことはさらに症例がある可能性を示唆する、としている8。💡 その後、より新しいの状況報告(2026年5月31日)は組換え体をインド・カタール・英国の3例として数えている4。

⚠️⚠️ 「病変が同じ発育段階に揃っていれば、バラなら水痘」という鑑別則を、そのまま2022年以降の流行へ持ち込まない。 この鑑別則はもともとと水痘を分けるためのもので(で扱う)、にも当てはまるとされてきたのはclade Iの流行についてである。2025年のスコーピングレビューは、報告された流行を通覧したうえで「歴史的にclade Iの皮疹はであったが、clade IIの皮疹は典型的にである」と総括している9。実際、この総説が引く2022年の16か国528例では病変が古典的な水疱→膿疱の進行を示さずであることが多かったと記され、2018〜2021年に英国で診断された7例は全例がの皮疹だった。⚠️ 一方、2017年に始まったナイジェリアのclade IIb流行(確定・疑い122例)では半数超がで、clade IIなら必ずというわけでもない。そして総説は、現在のclade Ib流行での皮疹の性状は不明であると明記している9。

⭐ だから同期性は「使えるが決められない」所見として持つ。 病変がきれいに同期していれば古典的な(や)らしさは上がるが、⚠️ 同期していないことはの否定材料にならない。 決めるのは病変検体のであって発疹の形態ではない。

治療——「効くはずの薬」が試験で効かなかった

多くは支持療法で自然軽快する。(特に・)、二次細菌感染の管理、脱水・栄養の管理が中心になる。

⚠️⚠️ (TPOXX)は無作為化試験で有効性を示せていない。 ウイルスのVP37蛋白を阻害して細胞外への放出を止める作用機序を持ち、ヒトでの有効性試験ではなく動物での有効性試験に基づいて承認された薬である。その後に行われた4つの・・プラセボ対照試験——clade Iの流行を背景とするPALM007と、clade IIの流行を背景とするSTOMP・UNITY・PLATINUM-UK——は、4試験すべてで(病変の臨床的消退までの時間)がに勝てなかった10。

試験 対象 の結果
PALM007(コンゴ民主共和国、clade I、597例) 入院患者 皮膚病変消退までのが群7日・プラセボ群8日、1.13(95%CI 0.97〜1.31、P=0.14)。発症7日以内に開始しても結果は変わらなかった6
STOMP(国際共同、clade II、412例) 検査確定の成人(主解析はのある336例) 29日目までの臨床的軽快の推定が群83%・プラセボ群84%、0.98(95%CI 0.74〜1.31、P=0.89)11

⭐ STOMPはでも差が出なかった。 ベースラインで重度の疼痛(0〜10の尺度で7〜10)があった患者の疼痛軽減の群間差は0.1点(95%CI −0.8〜1.0)、病変の完全治癒は0.97(95%CI 0.75〜1.26)、ウイルスの陰性化にも実質的な差が無かった。⚠️ 一方で安全性は問題になっていない——Grade 3以上の有害事象は群4%・プラセボ群3%である11。⭐ 「危険だから使わない」のではなく「効かないから使わない」というである。

⚠️ ただしこのには限定が付いている。 EMAの原文は「おおむね免疫が保たれ、活動性のmpox病変を有する患者において、検討された条件のもとで」4試験すべてがに届かなかった、と書いている10。高度免疫抑制例(上のCD4低値の進行例)や、病変が出る前に投与した場合の成績は、これらの試験が答えていない。

💡 「なぜ効かなかったのか」までEMAは書いている。 承認の根拠になった動物試験での改善が示されたのは曝露から4日以内に開始した場合で、非ヒト霊長類でウイルス接種の6日目に開始するとは50%(4日目は83%、無治療は0%)まで落ちていた。一方、上ので実際に投与が始まったのは報告された発症からおよそ6〜9日後で、多くの患者は既に活動性の病変を持っていた。⚠️ EMA自身が「患者が有効となるほど早期に治療されていなかった可能性はもっともらしい」と述べており、動物データそのものが否定されたとは書いていない10。

規制上の位置づけは国ごとに違う

⚠️⚠️ 「欧米では」と一語でまとめない。 同じ薬で、3つの地域の答えが全部違う。

地域 に対する承認
米国 ⚠️ もともと無い。 TPOXXの適応は「体重3 kg以上の成人・小児における、によるヒトの治療」だけである12
EU ⚠️⚠️ 2026年に取り消された。 CHMPが2026年3月26日に勧告し、欧州委員会が2026年5月29日に全加盟国を拘束する決定を出した。⭐ ・・ワクチン接種後の合併症(体重13 kg以上)の適応は残る——mpoxの臨床データが他の疾患へ外挿できるとは限らない、というのが制限をmpoxに限った理由である。⚠️ EMAは同時に「にはmpoxのの治療に承認された他の医薬品は無い」と述べている10
日本 ⭐ テポックスカプセル200 mg(一般名テコビリマト物)が2024年12月27日にで承認され、効能・効果にが・・ワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症と並んで明記されている13

⚠️ したがって「承認されているか」は、この薬の有効性の証拠にはならない。 日本の承認は動物有効性データに基づく点で米国・の当初の承認と同じ枠組みであり、上の4試験の結果は日本の承認の有無とは独立に成り立つ。⭐ 逆に、のようにの結果を受けて適応が取り消されることがあるという事実そのものが、この薬の教訓である。

💡 PALM007の「全体の死亡率1.7%が過去の報告4.6%より低い」という結果の読み方。 薬が効かなかったのに死亡率が下がったのは、入院と支持療法そのものが転帰を改善した可能性を示す6。の死亡を減らすために現時点で最も確実なのは抗ウイルス薬ではなく、脱水・・疼痛を管理できる場所へ患者を収容することである。

・・(角膜病変)・(VIGIV)も治療推奨のなかで整理されているが、⚠️ いずれもの治療について承認を受けた薬ではない(の米国添付文書は「ヒト以外の疾患の治療には適応がない」と明記する)14。EMAも2026年の再審査の文書でにはのの治療に承認された医薬品が他に無いと述べている10。⚠️ 承認されていることとが証明されていることは別であり、その逆も成り立つ——上のは、日本では承認があるのに無作為化試験の裏づけが無い側に立っている。

ワクチン

ワクチン 性質 使いどころと注意
MVA-BN(JYNNEOS/Imvanex/Imvamune) 株の 1回0.5 mLを皮下(上腕が望ましい)に2回、2回目は初回から28日以上あけて接種する。のは2歳以上への・・による疾患に対するで、禁忌は・添加剤・微量残留物(鶏・ベンゾナーゼ・・)への過敏症だけである15。免疫不全者にも使える。予防の中心。は2024年9月13日にprequalifyし、2024年10月8日に12歳以上への使用を含むよう適応を拡大した16
LC16m8(KM Biologics、日本) わずかに複製する ⭐ 二又針によるで1歳超に単回接種。WHOが2024年11月19日にリスト(EUL)へ追加した2つめのワクチンで、審査はPMDAの審査結果に基づく。⚠️ 妊娠中および免疫不全者には使用しない——ここでいう免疫不全には活動性の癌・・・治療中に加え、CD4数200/µL未満の感染者が含まれる。⭐ コントロール良好な感染者を含めて安全・有効と示されている16
ACAM2000 を持つ生ワクチン で接種し接種部位に膿疱をつくる。・・心筋炎の危険があり、免疫不全者・・妊婦には使えない

💡 日本にとってLC16m8は他人事ではない。 日本政府は305万回分のLC16m8と専用の接種針をコンゴ民主共和国へ供与すると発表し、実際にDRCでは約4万回分が接種された(同期間のMVA-BNはアフリカ大陸13か国へ約160万回分が供給され、10か国で約100万回分が接種されている)165。

⚠️ 「複製型かか」のでは足りない。 はLC16m8を「わずかに複製する」ワクチンに分類し、この種のワクチンは妊娠中と免疫不全者には使用すべきでないとしている16。⭐ 弱毒であることと、免疫不全者に使えることは別である——上の3剤のうちはMVA-BNだけで、進行例をどう守るかを考えるときはこの区別が要になる(世代ごとの整理と生ワクチン特有の合併症はで扱う)。

⭐ MVA-BNは2回打って初めて十分な効果になる。 米国の(症例2,193例・対照8,319例)では、医療機関受診を要するに対する調整後は2回接種で66.0%、1回接種では35.8%(95%CI 22.1〜47.1)だった17。「1回打ったから安心」と説明しない。

⚠️ ただし「有効率66%」を単一の数値として暗記しない。 のSmPCは、接種の14日以上あとを評価時点とする実地の観察研究を一覧しており、調整後有効率は1回接種で35〜89%、2回接種で66〜90%と研究間で大きく幅がある15。上の米国の値はその幅の下端にあたる。⭐ 同じSmPCが引く米国の研究では、未接種の患者と比べた入院のが1回接種で0.27(95%CI 0.08〜0.65)、2回接種で0.20(95%CI 0.01〜0.90)で、感染そのものを防ぎきれなくても重症化は減らすという読み方ができる15。

⚠️ 有効率66%は「打てば罹らない」ではない。 曝露リスクが続く集団では、接種後も接触予防と早期受診の説明を併せて行う。

接種の実務で外しやすい点

  • ⚠️ 間隔を詰めない。 7日間隔で2回打つと28日間隔より免疫応答が低く、はやや多かった。したがって28日未満の間隔は避ける15
  • ⭐ 既に・・のワクチンを受けている免疫不全者(感染者、免疫抑制療法中の患者)は、追加接種を2回受ける——2回目は1回目から28日以上あける15
  • ⚠️ は禁忌ではない。 接種後の局所・全身症状は多くなるが、の禁忌欄は過敏症だけである15。⭐ ACAM2000がに使えないのと決定的に違うのはここで、「ワクチンは湿疹があると打てない」という一般論をMVA-BNへ持ち込まない
  • 妊娠については300例未満という限られた曝露データしかなく、有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ考慮する。授乳中も同様に、乳児への潜在的リスクを上回る利益があるときにのみ考慮する15
  • 曝露後接種(PEP) については、SmPCが一覧する観察研究のうち PEP を含むものが曝露から14日以内の接種と定義しており、スペインの前向きコホート(PEP)では1回接種の有効率が89%(95%CI 76〜95)だった15。⚠️ これは実地の観察研究の要約であって、SmPCの「4.2 用法及び用量」は曝露後接種の時期を定めていない——PEPの時期は各国の当局の勧告に従う(SmPC自身も「本ワクチンの使用は公的な勧告に従うこと」としている)

後にが中止された結果、若年世代はOrthopoxvirus属への免疫を持たない。これが世界的にが広がりやすくなった背景にある3(詳細は・)。

まとめ

  • は2022年に疾患名を「monkeypox」からmpoxへ改めた。ウイルス名は Monkeypox virus のままで、疾患名だけが変わっている。
  • ⚠️ 2024年8月に宣言されたPHEICは2025年9月5日に終了している。 「流行が終わった」からではなく、緊急対応から保健システムに統合された恒常的対策へ移行するのが妥当と判断されたためで、常設勧告が2026年8月20日まで延長された(⚠️ その期限は既に到来しているので現行のは別に確かめる)。
  • clade Ia(・小児中心)、clade IIb(2022年〜の世界流行・成人男性・性的接触)、clade Ib(2023年〜のDRC・女性48%・小児も)の3つの流行を分けて持つ。⚠️ ただしclade Ibはもうアフリカ限定ではない——2026年5月時点で欧州・中南米・アジアの9か国が市中感染を報告している。⚠️ clade Ib/IIbの組換え体も出ており、判別は誤ることがある(確定は)。
  • clade IIb流行では病変10個以下が64%、73%で、型の全身性発疹という教科書像が当てはまらなかった。
  • clade Ibでは成人の89%が性器病変・小児は42%にとどまり全身性の発疹をとる——発疹の分布はではなくどこからウイルスが入ったかを映す。
  • CD4 200/mm³未満の感染者で死亡が集中する。 壊死性皮膚病変・肺病変・敗血症が増え、入院例の25%が死亡した。診断したら必ず検査を行う。
  • はPALM007・STOMP・UNITY・PLATINUM-UKの4試験すべてでに届かなかった(STOMPでは29日目の臨床的軽快83%対84%、0.98)。⚠️ ただしEMAの限定は「おおむね免疫が保たれ、活動性の病変を有する患者において」であり、高度免疫抑制例や病変出現前の投与は答えられていない。転帰を改善したのは薬ではなく入院と支持療法だった可能性が高い。
  • ⚠️⚠️ 上の位置づけは3地域で全部違う。「欧米では」とまとめない。 米国はもともとの適応が無く(TPOXXはのみ)、は2026年5月29日の欧州委員会決定での適応を取り消され(・・合併症の適応は残る)、日本は2024年12月27日にテポックスがを含む効能・効果で承認されている。
  • ⚠️ 「病変が同期していれば、バラなら水痘」は clade I の話。 clade IIの皮疹は典型的にで、2022年の16か国528例でも古典的な水疱→膿疱の進行を示さないことが多かった。clade Ibでの性状は未確定。同期していないことはの否定材料にならない。
  • ワクチンはMVA-BNが中心で、0.5 mLを皮下に2回、2回目は初回から28日以上あけて打つ(28日未満の間隔は避ける)。の適応は2歳以上、禁忌は過敏症のみでは禁忌ではない。有効率は実地の研究間で1回接種35〜89%・2回接種66〜90%と幅があり、米国のの66.0%/35.8%はその下端。は2024年10月に12歳以上へ。ACAM2000は複製型で免疫不全者に使えない。
  • ⭐ 日本のLC16m8(KM Biologics)はが2024年11月にEUL収載した2つめのワクチンで、1歳超に二又針ので単回接種。⚠️ わずかに複製するため妊婦・免疫不全者(CD4 200/µL未満の感染者を含む)には使わない。日本政府は305万回分をDRCへ供与すると発表した。

出典

  1. 1.Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries - April-June 2022(New England Journal of Medicine(Thornhill JP, et al.)・2022)Europe PMC の抄録(PMID 35866746)で確認した。2022年4月27日〜6月24日に16か国43施設で診断されたmpox 528例の症例集積で、98%がゲイまたはバイセクシュアルの男性、75%が白人、41%がHIV陽性、年齢中央値38歳、95%で性行為による伝播が疑われたこと、95%が皮疹を呈し(64%は病変10個以下)73%が肛門性器病変、41%が粘膜病変を伴ったこと(54例は性器の単発病変)、皮疹に先行する全身症状として発熱62%・嗜眠41%・筋痛31%・頭痛27%が多く、リンパ節腫脹も56%と多かったこと、検査された377例中109例(29%)に性感染症の併存が報告されたこと、曝露歴が明確な23例での潜伏期中央値が7日(範囲3〜20日)だったこと、精液を解析した32例中29例でMPXV DNAが検出されたこと、抗ウイルス薬が投与されたのは全体の5%で、70例(13%)が入院しその理由が疼痛管理(多くは重度の肛門直腸痛。21例)・軟部組織の二次感染(18例)・経口摂取を妨げる咽頭炎(5例)・眼病変(2例)・急性腎障害(2例)・心筋炎(2例)・感染対策目的(13例)であったこと、⭐ 死亡は報告されなかったこと。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-08-26
  2. 2.Epidemiological and clinical features of mpox during the clade Ib outbreak in South Kivu, Democratic Republic of the Congo: a prospective cohort study(The Lancet・2025)コンゴ民主共和国南キブ州カミトゥガの病院で2024年5月2日〜10月9日に行われた前向きコホート研究で、疑い例510例のうち407例(80%)がPCR陽性となり、確定例の48%が女性、年齢分布は二峰性(5歳未満が14%、15〜34歳が66%)であったこと、58%が疑い例・確定例との接触歴を報告し成人では同僚・配偶者・性的パートナー、小児では親・きょうだいが主であったこと、前駆症状88%・活動性皮膚病変97%・粘膜病変82%・リンパ節腫脹73%を認めたこと、成人では89%に性器の皮膚病変があり病変密度も性器部で最も高かったのに対し小児で性器病変を有したのは42%にとどまりより均一な発疹を呈したこと、入院403例中の死亡は2例(1%未満)であったこと、合併症は泌尿生殖器系57%・皮膚41%が主で、転帰が記録された妊婦6人中4人(67%)に不良な妊娠転帰を認めたこと、29日目・59日目には瘢痕以外の後遺症はほとんど報告されなかったことをAbstractで確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Mpox: emergence following smallpox eradication, ongoing outbreaks and strategies for prevention(Current Opinion in Infectious Diseases・2025)1980年代の世界天然痘根絶計画の終了に伴う集団免疫の減衰がアフリカおよび世界でのmpox増加と時間的に関連すること、2022年の世界流行がclade IIbによるもので同株がヒト-ヒト伝播性・重症度を高めうる新規の遺伝的特徴を持つこと、2023年にアフリカでより病原性が高いとされるclade Ibによる流行が始まり米国・英国など域外へも輸出されWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と認定したこと、天然痘ワクチンによる同属オルソポックスウイルスへの交差防御が現在もmpox予防の中心であること閲覧 2026-08-26
  4. 4.Mpox: Multi-country external situation report no. 66(World Health Organization・2026)2026年5月31日公表のWHO多国間状況報告第66号のPDF全文で確認した。2025年1月1日から2026年4月30日までに世界で59,709例の確定例と241例の死亡が103か国から報告されたこと、2026年4月には37か国が1,066例の確定例と3例の死亡(致死率0.3%)を報告しそのうち62%がWHOアフリカ地域であったこと、中部・東部アフリカ以外でclade Ib MPXVの市中感染がコロンビア・デンマーク・ドイツ・パキスタン・ポルトガル・スロバキア・スペイン・スイス・タイの9か国から報告されており、原文が「男性と性交渉をもつ男性および/またはセックスワーカーの性的ネットワークを含むが、それに限らない」と述べていること、市中感染の定義が「直近6週間にその国で報告された症例のうち少なくとも1例が、潜伏期間中に渡航歴も伝播のある国からの渡航者との疫学的つながりも報告していないこと」であり症例数の多寡を問わないこと、スペインがclade Ibによるmpoxを累積109例(ほかにサブクレード判定中のclade I 16例)、ドイツが74例(うち57例=77%は2026年に入ってからの報告)としていること、モーリシャスが初めてclade Ibを報告したこと、直近6週間(2026年4月6日〜5月17日)にアフリカの11か国が955例・死亡5例(致死率0.5%)を報告しマダガスカル・ギニア・南スーダン・コンゴ民主共和国・ケニアが多かったこと、clade Ib/IIb組換え体の3例(インド・カタール・英国)がクレード分布の図の集計から除かれていること、資料一覧に掲げられている常設勧告が2025年8月21日付の延長であることを確認した。閲覧 2026-09-07
  5. 5.Fifth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the upsurge of mpox 2024(World Health Organization・2025)WHO公式サイトの声明全文で確認した。2025年9月4日に開かれた第5回IHR緊急委員会の助言に同意し、WHO事務局長が2025年9月5日に「2024年のmpoxの急増はもはや国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を構成しない」と決定したこと、暫定的勧告は発出せず、2026年8月20日まで延長されているmpoxの常設勧告(standing recommendations)で足りるとしたこと。委員会が、暫定的勧告の発出そのものは妥当だ(the issuance of temporary recommendations would be warranted)としつつ、事務局が起草した案は緊急対応から保健システムに統合された取り組みへの移行のための行動に焦点を絞る形へ改訂を要すると助言したこと、その助言をさらに十分に検討したうえで事務局長が常設勧告で足りると判断したこと(原文 The WHO Director-General, following further thorough consideration of the advice by the Committee to issue temporary recommendations, considers that the current standing recommendations for mpox, extended until 20 August 2026, are adequate…)。重症度について、PHEIC宣言時にはclade Ibの重症度と致死率に不確実性があったが、その後のデータで死亡率は低くclade IIbで記録された致死率と同程度であり、主に免疫不全(多くはコントロール不良のHIV感染)という既知の脆弱性に結びついていることが示されたと述べていること、clade Iaが流行するコンゴ民主共和国の常在州では依然として高い致死率が続くものの、PHEIC宣言時の3%超から2025年には約1.6%、2025年8月には約1%へと低下傾向にあること、主な合併症は眼科的および皮膚科的(広範な病変後の瘢痕など)であること。過去12か月のmpox報告例の8割超がWHOアフリカ地域で、ブルンジ・コンゴ民主共和国・シエラレオネ・ウガンダで発生率が高く、いずれも持続的な減少傾向にあったこと。MVA-BNワクチン約160万回分がアフリカ大陸の13か国へ供給され10か国で約100万回分が接種されたこと、コンゴ民主共和国が二国間の取り決めでLC16m8ワクチンを入手し約4万回分が接種されたこと。PHEIC終了の規制上の影響として、MVA-BNは既にprequalify済みのため影響を受けないとされたこと閲覧 2026-09-06
  6. 6.Tecovirimat for Clade I MPXV Infection in the Democratic Republic of Congo(New England Journal of Medicine(PALM007 Writing Group)・2025)コンゴ民主共和国でclade I mpox患者597例を対象とした二重盲検プラセボ対照無作為化試験(PALM007)で、皮膚病変消退までの期間中央値がテコビリマット群7日・プラセボ群8日、競合リスクハザード比1.13(95%CI 0.97-1.31、P=0.14)とテコビリマットが主要評価項目を改善しなかったこと、発症7日以内に開始しても結果が変わらなかったこと、全体の死亡率は1.7%で2023年にDRCで報告された致死率4.6%より低かったことを確認した。支持療法の寄与については Europe PMC(PMC12158442)で全文を取得し、組入れ例が全例入院していること(All patients were hospitalized for 14 days of tecovirimat period, regardless of lesion status)と、While the level of care provided in PALM007 likely improved outcomes, it may not be easily provided in resource-limited and outpatient settings という記述を逐語で確認した。1.7%は58日時点の全死亡で、実薬5/295・プラセボ5/302と両群同値である閲覧 2026-08-26
  7. 7.Mpox in people with advanced HIV infection: a global case series(The Lancet・2023)19か国の臨床医ネットワークが2022年5月11日〜2023年1月18日に確定したCD4陽性細胞数350/mm³未満のHIV感染者のmpox 382例を集めた症例集積で、CD4中央値が211/mm³(IQR 117〜291)、100/mm³未満が22%であったこと、CD4 100/mm³未満は300/mm³超と比べ壊死性皮膚病変54%対7%・肺病変29%対0%・二次感染および敗血症44%対9%と重症合併症が多かったこと、382例中107例(28%)が入院しそのうち27例(25%)が死亡したこと、死亡は全例がCD4 200/mm³未満で生じたこと、抗レトロウイルス療法を開始・再開した85例のうち21例(25%)でmpoxに対する免疫再構築炎症症候群が疑われそのうち12例(57%)が死亡したこと、テコビリマット投与は62例(16%)で3例に耐性が確認されたこと、高度免疫抑制下の壊死性mpoxがAIDS指標疾患のように振る舞うと結論されたことをAbstractで確認した。閲覧 2026-09-03
  8. 8.Mpox: recombinant virus with genomic elements of clades Ib and IIb – Global situation(World Health Organization・2026)2026年2月14日公表のDisease Outbreak News本文で確認した。clade Ibとclade IIbの双方のゲノム領域を持つ組換えMPXVの症例が2例報告されたこと、組換えが近縁の2つのウイルスが同一個体に感染したときに遺伝物質を交換して新しいウイルスを生じる既知の自然現象であること、英国の症例が2025年12月に検出されアジア太平洋地域からの帰国者の水疱ぬぐい液から見つかったこと、検査室での確認時に定量PCRでは当初clade Ib MPXVと型別されたが全ゲノム解析でclade IbとIIbの双方の参照配列に似た領域を持つクレード間組換え体と判明したこと、インドの症例が2025年9月に受診した男性で2025年9月15日のクレード判別PCRでは当初clade II MPXVと判定され初期のゲノム解析もclade IIbと矛盾しない特徴を示したが、2025年12月16日にNextcladeの世界データベースが英国の組換え体を収載したのを受けて再分類され2026年1月13日にWHOへ通報されたこと、したがってインド例が世界で最も早い検出であること、両者の配列の類似度が99.9%超で組換え領域がインド例34か所・英国例28か所(うち16か所は共通)であったこと、両症例とも臨床像は他のクレードによるmpoxと同様で重症化せず接触者追跡でも二次感染は確認されなかったこと、WHOの全体のリスク評価が変わらず「新しいまたは複数の相手をもつ男性と性交渉をもつ男性、およびセックスワーカーその他の複数のカジュアルな性的パートナーをもつ者では中等度、特段の危険因子をもたない一般集団では低い」とされたことを確認した。閲覧 2026-09-07
  9. 9.Mpox: current knowledge and understanding-a scoping review(FEMS Microbiology Reviews(Callaby H, Belfield A, Otter AD, et al.)・2025)PMC全文(PMC12198961)で確認した。皮疹の形態について本総説が「歴史的にclade Iの皮疹は単形性(monomorphic)であったが、現在のclade Ib流行における皮疹の性状は不明である。clade IIの皮疹は典型的に多形性(pleomorphic)である」と総括していること、その根拠として引かれている個々の報告が、clade Iでは皮疹が単形性で分布は遠心性・初発部位は顔(82%)とされること、2017年に始まったナイジェリアのclade IIb流行(確定・疑い122例)では皮疹の分布に幅があり半数超が単形性だったこと、2018〜2021年に英国で診断された7例は全例が多形性の皮疹だったこと、2022年の世界流行の大規模症例集積(Thornhill 2022)では大半の患者の病変が10個以下で「古典的な水疱-膿疱の進行を示すのではなく多形性であることが多かった」うえ肛門性器部が最も多く侵された部位だったこと、である。あわせてMVA-BNとLC16m8が第3世代痘そうワクチンとしてmpox予防に承認された2剤であること、MVA-BNは瘢痕化(scarification)を要さず接種部位で複製しないため自家接種や意図しない伝播の危険が無く免疫不全者にも使用できること、英国での1回接種の症候性mpoxに対する推定有効率が接種14日以降で78%(95%CI 54〜89)であること、clade I MPXVに対するMVA-BNの有効性のデータは無いが交差防御を否定するウイルス学的理由も無いことを確認した。⚠️ 本総説はスコーピングレビューであり、上記の個々の数値は総説自身の結果ではなく総説が引用した原報告のものである閲覧 2026-09-07
  10. 10.EMA recommends restricting use of Tecovirimat SIGA — The medicine was not effective for the treatment of mpox in randomised clinical trials(European Medicines Agency・2026)欧州委員会の要請により開始されたRegulation (EC) No 726/2004 第20条の再審査についてのEMA文書(2026年6月1日付、EMA/59974/2026)のPDF全文で確認した。CHMPが2026年3月26日に「Tecovirimat SIGAはmpoxの治療にはもはや用いるべきでない」と勧告し、欧州委員会が2026年5月29日に全加盟国に適用される最終的な法的拘束力のある決定を出したこと、その結果Tecovirimat SIGAがEUにおいてmpoxの治療について承認を失ったこと、この制限が痘そう・牛痘・痘そうワクチン接種後の合併症(体重13 kg以上の成人および小児)の適応には及ばないこと、根拠が異なる地域で行われた4つの無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験(clade IIの流行を背景とするSTOMP・UNITY・PLATINUM-UK、コンゴ民主共和国でclade Iを背景とするPALM007)であること、原文が「おおむね免疫が保たれ活動性のmpox病変を有する患者において、検討された条件のもとで、4試験すべてで主要評価項目である病変の臨床的消退までの時間がプラセボに勝てなかった」と限定を付けて述べていること、疼痛軽減やウイルスDNAなどの副次評価項目でも優越性が示されなかったこと、PALM007では死亡が両群とも低く死亡に対する有益性は検出できなかったこと、承認時の動物試験では曝露から4日以内に開始した場合に有効性が示され、非ヒト霊長類でmonkeypoxウイルスの静脈内接種から6日目に開始すると生存率が50%(4日目は83%、無治療は0%)へ低下したこと、一方で臨床試験の投与開始は報告された発症からおよそ6〜9日後であり「患者が有効となるほど早期に治療されていなかった可能性はもっともらしい」と述べていること、4試験の成績の熟度がPALM007は最終成績・STOMPは主解析のみ・UNITYは要約成績・PLATINUM-UKは未公表原稿であったこと、新たな安全性の懸念は認められなかったこと、既に投与を開始した患者は治療を完了してよいとされたこと、「EUにはmpoxの活動性感染の治療に承認された他の医薬品は無い」と明記されていること、そしてTecovirimat SIGAが例外的状況下での承認(authorisation under exceptional circumstances)であったことを確認した。閲覧 2026-09-07
  11. 11.Tecovirimat for the Treatment of Mpox(New England Journal of Medicine(STOMP/ACTG A5418 Study Team)・2026)Europe PMC の抄録(PMID 41740032・PMC13440037)で確認した。テコビリマットがFDAのAnimal Rule(動物有効性試験による承認制度)のもとで非ヒト霊長類のmpoxモデルでの有効性を根拠に痘そう治療薬として承認されており、ヒトのclade II mpoxに対する臨床的有効性は不明であったこと、検査で確定した成人のclade II mpoxを対象とした第3相・国際共同・二重盲検・プラセボ対照試験で2対1に割り付けて14日間経口投与したこと、無作為化された412例(テコビリマット275例・プラセボ137例)のうち344例が検査で確定し、活動性の皮膚または粘膜病変を有する336例が主解析に組み入れられたこと、主要評価項目である臨床的軽快の29日目までの推定累積発生割合がテコビリマット83%・プラセボ84%、競合リスクハザード比0.98(95%CI 0.74〜1.31、P=0.89)であったこと、ベースラインで重度の疼痛(0を疼痛なし・10を想像しうる最悪の疼痛とする尺度で7〜10)があった患者の疼痛軽減の群間差が0.1点(95%CI −0.8〜1.0)、病変の完全治癒の競合リスクハザード比が0.97(95%CI 0.75〜1.26)で、ウイルスDNAの陰性化にも実質的な群間差が無かったこと、Grade 3以上の有害事象がテコビリマット群4%・プラセボ群3%であったこと、結論が「成人のclade II mpoxにおいてテコビリマット治療が臨床的軽快までの時間を短縮し、疼痛を軽減し、あるいはウイルス排除を増加させたという証拠は示されなかった」であることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-07
  12. 12.TPOXX (tecovirimat) capsules, for oral use; TPOXX (tecovirimat) injection, for intravenous use — Prescribing Information(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/SIGA Technologies・2025)openFDAのラベルAPIでSPL本文(effective_time 2025年12月31日)を自分で取得して確認した。米国の適応が「体重3 kg以上の成人および小児における、variola virus によるヒト痘そうの治療」だけであり、mpoxは適応に含まれないこと、Limitations of Use が「適切で十分に管理された野外試験が実施可能でなく、有効性を調べるためにヒトに痘そうを発症させることは倫理的に許されないため、痘そう治療における有効性はヒトでは決定されていない」と述べていること、および免疫不全動物モデルで有効性が低下したことから免疫不全患者では有効性が減弱しうるとされることを確認した。閲覧 2026-09-07
  13. 13.承認品目一覧(新医薬品:2024年4月~2025年3月)(独立行政法人医薬品医療機器総合機構・2025)PDF本文を自分で取得して確認した。第4回分に「2024.12.27 テポックスカプセル200 mg(日本バイオテクノファーマ㈱)承認 テコビリマト水和物」が収載され、「痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症を効能・効果とする新有効成分含有医薬品」と記載され、【迅速審査】の指定が付されていることを確認した。日本の承認では効能・効果にエムポックスが明記されている。閲覧 2026-09-07
  14. 14.Mpox therapeutics in the post-STOMP/PALM era(Current Opinion in HIV and AIDS・2026)テコビリマットが流行期を通じて人道的使用で広く投与されてきたにもかかわらず臨床的有効性の証拠が無いこと、複数の第3相プラセボ対照試験(STOMP・PALM007)がいずれもmpox治療におけるテコビリマットの臨床的有効性を示せなかったこと、およびSummaryが「テコビリマット・ブリンシドフォビル・シドフォビル・トリフルリジン・VIGIVを含む現行の治療推奨(current treatment recommendations)の根拠と、それ以外の研究段階の治療(other investigational treatments)をまとめる」と述べていることを、Europe PMC の抄録で確認した。⚠️ 全文はOvidの購読制で取得できず、抄録はこれら5剤を investigational treatments と切り分けている閲覧 2026-08-26
  15. 15.IMVANEX suspension for injection — Summary of Product Characteristics (Annex I)(European Medicines Agency・2026)EMAが配布する製品情報PDF(2026年7月17日更新のファイル)本文で確認した。4.1の適応が「2歳以上の者における痘そう、monkeypox、およびワクシニアウイルスによる疾患に対する能動免疫」であり本ワクチンの使用は公的な勧告に従うこととされていること、4.2の初回接種が0.5 mLを任意の日に1回目、2回目は1回目から28日以上あけて接種すること、既接種の免疫不全者(HIV感染者・免疫抑制療法中)は追加接種を2回受け2回目は1回目から28日以上あけること、投与経路が皮下注射(上腕が望ましい)であること、2歳未満の安全性・有効性は確立していないこと、4.3の禁忌が有効成分・添加剤・微量残留物(鶏卵蛋白、ベンゾナーゼ、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン)への過敏症のみであること、4.4に「7日間隔の2回接種は28日間隔より免疫応答が低く局所反応がやや多かったため28日未満の間隔は避けるべきである」「アトピー性皮膚炎の者では接種後の局所・全身症状が多かった」と記されていること、4.6の妊娠が「300件未満という限られたデータ」しかなく有益性が危険性を上回るときにのみ考慮するとされ授乳中も同様であること、5.1のTable 8が接種14日以降の実地の調整後ワクチン有効率を1回接種35〜89%・2回接種66〜90%の範囲で一覧し、脚注が「PEPは曝露後14日以内に接種されたもの」と定義していること(スペインの前向きコホートのPEPでは1回接種89%(95%CI 76〜95))、同じ5.1に米国のサーベイランス研究で未接種のmpox患者と比べた入院のオッズが1回接種0.27(95%CI 0.08〜0.65)・2回接種0.20(95%CI 0.01〜0.90)と記されていることを確認した。⚠️ 4.2は曝露後接種の時期を定めていない閲覧 2026-09-07
  16. 16.WHO adds LC16m8 mpox vaccine to Emergency Use Listing(World Health Organization・2024)WHO公式サイトのニュースリリース全文で確認した。WHOが2024年11月19日にLC16m8ワクチンを緊急使用リスト(EUL)へ追加し、これがmpoxに対してWHOが支持する2つめのワクチンとなったこと、LC16m8が日本のKM Biologicsが開発・製造するワクチンであること、EUL審査が製造販売業者の提出資料と日本の規制当局である医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査に基づくこと、技術諮問グループ(TAG)が1歳超の者に対し二又針を用いた多刺法による単回接種を推奨したこと、SAGEが流行下の小児およびmpox曝露の高リスクが記録された者への使用を推奨したこと、⚠️ 一方でLC16m8のような「minimally replicating」ワクチンは妊娠中および免疫不全者には使用すべきでないとされ、その免疫不全者には活動性の癌・移植レシピエント・免疫不全症・免疫抑制薬による治療中の者に加え、現在のCD4数が200/µL未満のHIV感染者が含まれること、LC16m8が日本で過去のmpox流行時に使用され、コントロール良好なHIV感染者を含めて安全かつ有効であることが示されたこと、日本政府が305万回分のLC16m8と専用の接種針をコンゴ民主共和国へ供与すると発表したこと、WHOが2024年9月13日にMVA-BNをprequalify(PQ)し、2024年10月8日にその適応を12歳以上の者への使用を含むよう拡大したこと、GACVSが2024年9月20日にLC16m8の安全性データを検討し、二又針の使用について医療従事者への訓練を推奨したこと閲覧 2026-09-06
  17. 17.Vaccine Effectiveness of JYNNEOS against Mpox Disease in the United States(New England Journal of Medicine(Deputy NP, et al.)・2023)米国の電子カルテデータベースを用いた症例対照研究(症例2,193例・対照8,319例)で、MVA-BN(JYNNEOS)2回接種の医療機関受診を要するmpoxに対する調整後ワクチン有効率が66.0%、1回接種では35.8%(95%CI 22.1-47.1)だったこと閲覧 2026-08-26