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Symptoms · Published

外陰部潰瘍

Genital ulcer

別名
性器潰瘍陰部潰瘍genital aphthosis
臓器系
生殖・産婦人科感染症免疫・膠原病
科目
GynecologyDermatologyInternal Medicine
トピック
婦人科 14:女性の性感染症皮膚科 2-03:性器ヘルペスウイルス感染症皮膚科 2-10:鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫・軟性下疳内科学 S-47:血管炎
関連疾患
HIV感染症・AIDSベーチェット病陰茎癌外陰癌単純ヘルペスウイルス感染症軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫梅毒
スコア
国際Behçet病基準

🧠 全体像:「」という言葉は女性のだけの症候ではなく、男性では陰嚢・陰茎、女性では大にできる性器潰瘍全般を指す横断的な所見である。最初の分かれ道は「痛いか痛くないか」と「単発か多発か」の2軸で、これだけで梅毒・という代表的な鑑別のほとんどを大まかに仕分けられる。ただし外見だけでは確定できず、複数の病原体が同一病変に同居していることも珍しくないため、1つの検査が陽性になっても他の原因検索を打ち切らないことが診療の鉄則になる。

定義と用語の整理

  • frontmatterのjapaneseは「」だが、この語がカバーする範囲は女性のに限らない。男性の陰嚢・陰茎・亀頭にできる潰瘍も同じ枠組みで鑑別する。
  • 「潰瘍」は上皮欠損が真皮に達した状態を指し、上皮内にとどまる「びらん」とは深さで区別する。のように水疱が先行してから破れてするのか、最初から潰瘍として出現するのかは、で聞き分けられる重要な手掛かりになる。
  • 別名の「性器潰瘍」「陰部潰瘍」はいずれも同じ所見を指す。「genital aphthosis」という表現は、でみられる反復性・様のを指して使われることがある。
  • 部位の呼び方も男女で異なる。女性は大、男性は亀頭・・陰茎体・陰嚢に生じ、の有無によって病変の観察のしやすさが変わる。
  • 患者の訴え方も「できもの」「ただれ」「かさぶた」などさまざまで、必ずしも「潰瘍」という言葉を使わない。診察で実際に潰瘍を確認するまで、の言葉だけで所見を確定しない。

病態生理と最初の切り分け

の機序は、直接の(ウイルスによる)、宿主の炎症反応そのものが潰瘍を作るもの(梅毒の、好中球性壊死が主体の)、リンパ組織の炎症・腫反応()、自己免疫性の血管炎()、悪性腫瘍に大きく分けられる。この機序の違いが、そのまま初診時に取れる「痛いか痛くないか」「単発か多発か」という情報に反映される。

疼痛 単発/多発 特徴 代表疾患
無痛 単発、を触れる 境界明瞭で軟骨様に硬い 梅毒
有痛 多発、浅い 水疱が先行してから破れる
有痛 単発〜少数 辺縁不整・・潜掘性
無痛 単発の丘疹(多くは受診時に消退) 鼠径リンパ節腫脹が主体
無痛 単発〜多発、 牛肉様の
有痛 反復性 瘢痕を残す、他臓器所見を伴う

💡 この表だけで確定診断はできない。外見が典型的でも複数の病原体が同一病変に併存しうるため、1つの検査が陽性でも他の原因検索を打ち切らない1だけによる鑑別は経験豊富な臨床医でも50%超で不正確とされ2、最終的にはNAAT・血清学・生検などの検査で確定する。

⭐ HIV感染などによる免疫抑制下では、の潰瘍が慢性化・拡大してに似た外観を取るなど、上表の典型像がそのまま当てはまらないことがある。免疫状態の確認は鑑別の精度を左右する。

見逃してはいけない疾患

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 梅毒。 一期梅毒のは無痛性で自然消退するため受診が遅れやすく、その間も感染性を保つ。粘膜の微小な破綻はHIVのにもなるため、梅毒を疑ったらとトレポネーマ検査を組み合わせたペア検査を原則とし、HIV検査を必ず同時に行う。
  • ⚠️ HIV初感染の粘膜潰瘍。 曝露後2〜4週の急性HIV感染では、発熱・・全身リンパ節腫脹とともに口腔・性器の粘膜潰瘍が出現しうる。様の症候群を伴う性器潰瘍をみたら抗体検査だけに頼らず、HIV感染症・AIDSの急性感染としてHIV RNA検査を追加する。診断確定後はCD4数を待たず早期にART導入する方針が予後を左右する。
  • ⚠️ (男性では相当する)。 治らない、あるいは性状が変化するの増悪と決めつけず生検を検討する。を背景にdVINを経て発生することがあり、だけでは良悪性を区別できない。男性でもBXO)のような慢性炎症性背景病変からが生じうるため、治らない亀頭・包皮の潰瘍や腫瘤は感染と決めつけず断を検討する。
  • ⚠️ の神経・血管・への波及。 は単独の局所所見ではなく、)でと並び性器潰瘍が2点として重み付けされる全身性の一部でありうる3。反復する・皮膚病変・関節痛を伴えば、失明しうる後部・や致死的な合併の可能性を念頭に置き、他臓器所見を系統的に確認する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vulva'>外陰部</span>・性器の潰瘍"] --> B{"有痛性か無痛性か"}
    B -->|"無痛"| C{"単発で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='induration'>硬結</span>を触れるか"}
    C -->|"はい"| D["梅毒を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-treponemal'>非トレポネーマ</span>+トレポネーマ検査"]
    C -->|"いいえ(丘疹消退後に鼠径リンパ節腫脹)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphogranuloma venereum'>鼠径リンパ肉芽腫</span>を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chlamydia NAAT'>クラミジアNAAT</span>"]
    C -->|"いいえ(牛肉様・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='friability'>易出血性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granuloma inguinale'>鼠径肉芽腫</span>を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='histology'>組織診</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Donovan bodies'>ドノバン小体</span>"]
    B -->|"有痛"| G{"水疱が先行したか"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genital herpes'>性器ヘルペス</span>を疑う<br>病変部PCR"]
    G -->|"いいえ"| I{"反復性で瘢痕を残すか"}
    I -->|"いいえ(辺縁不整・潜掘性)"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chancroid'>軟性下疳</span>を疑う<br>培養/NAAT、梅毒・HSV陰性を確認"]
    I -->|"はい(他臓器所見を伴う)"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Behçet disease'>Behçet病</span>を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='International Criteria for Behçet&#39;s Disease'>ICBD</span>で評価"]
    D --> L["全例でHIV検査を追加"]
    E --> L
    F --> L
    H --> L
    J --> L
    K --> L
    L --> M{"治癒しない・非典型か"}
    M -->|"はい"| N["生検で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vulvar cancer'>外陰癌</span>・dVINを除外"]

で疼痛の有無を最初に分け、次に数・深さ・辺縁の性状を身体所見で確認し、反復性の有無で慢性の自己免疫性病態を拾い上げ、最後にNAAT・血清学・で確定する、という順で絞り込む。どの経路をたどってもHIV検査は全例に追加し、治癒しない・非典型な病変は生検に進む。

性感染症としての側面

の多くは性感染症であり、本人の診断・治療だけで完結しない。

  • パートナー検査:原因病原体ごとの遡及期間に応じて直近のを検査・治療し、本人・パートナーの治療完了と病変治癒まで性交を避ける。
  • 報告義務:梅毒・HIVは国内で義務がある感染症であり、診断時に保健所へのが必要になる。
  • 検査のタイミング:梅毒の血清反応は一期梅毒のごく初期には・トレポネーマ検査のいずれも陰性になりうるがあり、臨床的に一期梅毒を強く疑うのに血清反応が陰性であれば、治療を開始したうえで2〜4週後に再検査する4
  • 淋菌・クラミジアなど潰瘍を主徴としないSTIも同時流行しうるため、の検査も併せて行う。
  • 検査法の使い分けがあれば病変部のNAAT・PCRを優先し、血清学は既往評価や無症候期の補助に用いる。原因が確定するまでは、いずれか一系統の検査だけで打ち切らない。

対症療法の考え方

そのものへの対症療法は、原因治療が確定するまでの橋渡しとして位置づける。

  • 局所管理は洗浄・清潔保持と刺激物(石鹸、きつい下着、摩擦)の回避が基本で、原因不明のまま経験的な外用抗菌薬・抗真菌薬を漫然と続けない。ぬるま湯でのは多くの原因で症状を和らげるが、それ自体は診断や原因治療の代わりにならない。
  • の外用や全身で対応するが、原因治療に先立って局所ステロイドを一律に使うと、感染性病変では病原体を除去できないまま炎症所見だけを隠し、のような進行性病変の評価を遅らせうる。
  • と診断された場合の局所ステロイド・全身の位置づけは、(粘膜皮膚病変への局所グルココルチコイドとを軸とした)に従う。反復するも同様の枠組みで扱われ、の項も参照する。
  • を伴う男性は亀頭・の観察と洗浄がしにくく・治癒遅延を来しやすいため、必要に応じて泌尿器科と連携する。

まとめ

  • は女性のに限らず、男性の陰嚢・陰茎にも生じる性器潰瘍全般を指す所見であり、「疼痛の有無」と「単発か多発か」が最初の切り分けになる。
  • 無痛・・単発は梅毒、有痛・多発・水疱先行は、有痛・潜掘性・、無痛の丘疹+鼠径リンパ節腫脹は、無痛・牛肉様・、反復性・を疑う。
  • 複数の病原体が同一病変に併存しうるため、1つの検査が陽性でも他の原因検索を打ち切らない。だけでの鑑別は不正確なことが多く、NAAT・血清学・で確定する。
  • 見逃してはいけないのは、受診遅延とHIVの門戸になる梅毒、早期ART導入の判断を左右するHIV初感染、生検を要する(男性ではBXOのような背景病変からの悪性腫瘍)、そして神経・血管・を伴いうるである。
  • 性感染症としての側面ではパートナー検査・義務・を意識し、HIV・淋菌・クラミジアなど他のSTI検査も併せて行う。
  • 対症療法は原因治療が確定するまでの橋渡しであり、原因不明のまま局所ステロイドを漫然と使うことは避ける。などの局所ケアは症状緩和に役立つが、診断・原因治療の代わりにはならない。

出典

  1. 1.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 — Diseases Characterized by Genital, Anal, or Perianal Ulcers(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2021)外陰部・性器潰瘍では複数の病原体(例:単純ヘルペスと梅毒)が同一病変に併存しうるため、1つの検査が陽性でも他の原因検索を打ち切るべきではないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Guidelines for the management of symptomatic sexually transmitted infections(World Health Organization (WHO)・2021)臨床所見だけによる性器潰瘍の鑑別診断は経験豊富な臨床医でも50%超で不正確であり、臨床像のみに基づく確定診断ではなく検査に基づく評価または症候群的管理が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.The International Criteria for Behçet's Disease (ICBD): a collaborative study of 27 countries on the sensitivity and specificity of the new criteria(International Team for the Revision of the International Criteria for Behçet's Disease・2014)ICBDの配点は眼病変・口腔アフタ・性器アフタが各2点であり、外陰部潰瘍が単独の局所所見ではなく全身性可変血管炎の分類基準における重み付けされた1項目であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Lesson 3. Syphilis — National STD Curriculum(National STD Curriculum (University of Washington)・2025)梅毒の血清反応は非トレポネーマ検査・トレポネーマ検査とも一期梅毒のごく初期には陰性になりうるため、臨床的に一期梅毒が強く疑われるのに血清反応が陰性の場合は治療を開始したうえで2〜4週後に再検査することを確認した。閲覧 2026-08-02