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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

単純ヘルペスウイルス感染症

Herpes simplex virus infection

別名
HSVHerpes labialisGenital herpes口唇ヘルペス性器ヘルペス
臓器系
感染症皮膚
科目
Medical MicrobiologyDermatology
トピック
微生物学 3/12:ヘルペスウイルス:単純ヘルペスウイルス1・2型皮膚科 1-14:単純ヘルペスと帯状疱疹皮膚科 2-03:性器ヘルペスウイルス感染症
鑑別疾患
ベーチェット病細菌性髄膜炎細菌性皮膚感染症(伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう)水痘・帯状疱疹軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫
合併症
ウイルス性脳炎
続発疾患
多形紅斑
関連疾患
先天性TORCH感染症
治療薬
(バル)アシクロビル
原因微生物
Herpes simplex virus 1Herpes simplex virus 2
症状
リンパ節腫脹意識障害紅斑腫脹小水疱水疱頭痛排尿痛発熱疼痛痙攣外陰部潰瘍直腸炎角膜潰瘍神経栄養性角膜症ヘルペス性ひょう疽
検査値
ウイルス培養直接蛍光抗体法
下位分類
カポジ水痘様発疹症
原因となる疾患
アトピー性皮膚炎
適応薬
(バル)アシクロビル

🧠 全体像:HSV-1とHSV-2は、初感染部位の上皮で増殖したのち感覚神経を逆行性に伝って神経節へ達し、生涯にわたる潜伏感染を確立する。HSV-1はに潜んで腰から上(口唇・眼・脳)の病変を、HSV-2はに潜んで腰から下(性器・新生児)の病変を反復させる——ただし両型とも口唇・性器いずれにも感染し得る。抗ウイルス薬は症状・再発・排出を減らすが、潜伏ウイルスはできない。

病態

HSVはへの結合を経てを介して細胞へ侵入し、上皮細胞・線維芽細胞では増殖して細胞を破壊するを起こす一方、感覚神経終末からで神経節に到達すると増殖を止めて潜伏感染に入る。ストレス、免疫抑制、紫外線などを契機に再活性化すると、で同じに病変が再出現する。を介した細胞間拡散は、)の監視をすり抜けながら広がることを可能にする。

flowchart TD
  A["初感染(直接接触・性的接触・周産期曝露)"] --> B["上皮細胞・線維芽細胞で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lytic infection'>溶解感染</span>"]
  B --> C["感覚神経終末から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrograde axonal transport'>逆行性軸索輸送</span>"]
  C --> D["神経節に到達し潜伏感染<br>HSV-1:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trigeminal ganglion'>三叉神経節</span>/HSV-2:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacral ganglion'>仙骨神経節</span>"]
  D -->|"ストレス・免疫抑制・紫外線など"| E["再活性化"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterograde axonal transport'>順行性軸索輸送</span>で同じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dermatomes'>皮膚分節</span>に病変が再出現"]
  E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asymptomatic viral shedding'>無症候性ウイルス排出</span>(病変がなくても伝播し得る)"]

臨床像

は前駆する疼痛・灼熱感に続き、紅斑上にする小水疱が生じ、びらん・する経過をたどる。は初回より短く軽いことが多い。

病型 主な所見 重要点
発熱、びまん性、多発する有痛性口腔小水疱・潰瘍 乳幼児の脱水に注意
口唇縁の反復性 〜早期の抗ウイルス薬が有効
小水疱が破れ疼痛性びらん・潰瘍となる。発熱、鼠径リンパ節腫脹、を伴い得る。もある 初回は全例に全身抗ウイルス治療
の強い疼痛と小水疱 細菌性膿瘍と誤って切開しない
眼瞼腫脹・水疱、 未治療では失明し得るため眼科緊急評価
などの皮膚にな小水疱・打ち抜き状びらん、疼痛、発熱 緊急に全身性抗ウイルス薬。眼周囲病変は眼科連携
HSV性脳炎 病変、発熱・頭痛・意識障害・痙攣 経験的静注アシクロビル(10 mg/kgを8時間ごと、免疫正常な成人で14〜21日間。新生児・11歳以下はより高用量15〜20 mg/kgを要する)を診断確定前から開始する1
産道通過時の感染。皮膚・眼・口、中枢神経型、に分かれる 肝障害・脳炎を伴うは死亡率が高い
HSV関連 手足の背側・手掌足底に左右対称の標的様病変 HSV再活性化が代表的誘因。全例に経口ステロイドをに用いない

⚠️ は母体の初感染時期に強く左右される致死的合併症で、水疱がなくても敗血症様症状や痙攣で発症し得る。疑えば検体採取と並行して静注アシクロビルを開始する。

診断

な小やびらんから採取する(PCR/NAAT)が、病変の原因確定に最も有用である2は治癒過程やで感度が低下する。を示し得るだけで、HSVとVZVも、HSV-1とHSV-2も区別できない2。一方はウイルス抗原そのものを検出する別の方法で、ウイルス特異的モノクローナル抗体を使えばHSVとVZVを区別できる——この点でより強力である3。ただし感度はPCRに劣るため、いずれも極めて資源の限られた状況を除いて推奨されず、現在はPCRを優先する2は既感染の評価に使えるが、今ある皮疹の原因確定には向かない。

  • の確定診断
  • 病変部PCR:皮膚・粘膜病変、の評価
  • 臨床診断:典型的な口腔・口唇病変

性器潰瘍を診た場合は梅毒検査・HIV検査も併せて行う。

治療

状況 代表的レジメン
初回臨床エピソード アシクロビル400 mg 1日3回、500 mg 1日2回、または250 mg 1日3回を5〜10日2
再発時(短期治療) または発疹出現1日以内に開始する。アシクロビル800 mg 1日3回を2日間、500 mg 1日2回を3日間、1 g 1日2回を1日など、短期処方を第一選択とする2
頻回再発・伝播低減希望( アシクロビル400 mg 1日2回(至適総量は800 mg/日)。は年10回未満の再発なら500 mg 1日1回、年10回以上なら250 mg 1日2回または1 g 1日1回を検討する2
HIV陽性者の初回エピソード アシクロビル400 mg 1日5回、500〜1000 mg 1日2回、または250〜500 mg 1日2〜3回を7〜10日(皮疹が上皮化するまで延長可)。増悪する場合は静注アシクロビル5〜10 mg/kgを8時間ごとに切り替える2
・脳炎・・播種病変 入院し静注アシクロビル、腎機能に応じ調整(の用量は上記「診断」の表を参照)

局所アシクロビル・は効果が小さく、では推奨しない2。抗ウイルス薬は潜伏ウイルスを排除しないが、症状・再発期間・を減らせる。HIV陽性者のはアシクロビル400 mg 1日2〜3回または500 mg 1日2回を用いるが、HIV陰性者に比べ効果はやや劣る。効果不十分なら倍量へ増量し、なお不十分なら500 mg 1日2回への変更を検討する2

  • 病変・のある期間は性行為を避ける。はリスクを下げるが、覆われない皮膚からの感染を完全には防げない。
  • の初感染や分娩時病変はの高リスクであり、産科と連携する。再発性の既往がある妊婦には妊娠36週から母体へアシクロビル400 mg 1日3回のを行うと、分娩時病変や帝王切開の必要性を減らせる。早産リスクがあれば32週から、特に早産リスクが高ければ22週からの開始も検討し、開始時期は自国・地域の疫学を踏まえて判断する。HIV陽性妊婦で既往があれば妊娠32週から(早産リスクが高ければさらに早期から)の同様のを検討する2
  • 分娩時に器ヘルペスの母体から出生した児は、口腔咽頭・鼻腔・・直腸・可視病変からのHSV PCRを提出し(血液・も考慮する)、検査結果を待たずに静注アシクロビルを開始する利益とリスクを説明したうえで判断する2

まとめ

  • HSV-1は、HSV-2はに潜伏し再活性化するが、両型とも口唇・性器いずれにも感染し得る。
  • 診断は病変部PCRを優先し、だけに頼らない。
  • 、脳炎、、播種病変は緊急の全身抗ウイルス治療を要する。
  • 抗ウイルス薬は症状・再発・排出を減らすが潜伏ウイルスをせず、初回発症は全例に経口治療を行う。

出典

  1. 1.2024 European guidelines for the management of genital herpes(International Union against Sexually Transmitted Infections (IUSTI) Europe / European Academy of Dermatology and Venereology (EADV) / Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology・2024)初回・再発(短期治療)・抑制療法(年10回未満はバラシクロビル500 mg1日1回、年10回以上は250 mg1日2回または1 g1日1回)それぞれの抗ウイルス薬用量、HIV陽性者での初回治療の用量・期間が2017年版から変わっていないことを確認した。妊娠中の抑制的アシクロビルは原則36週から開始するが、早産リスクがあれば32週から、特に早産リスクが高ければ22週からの開始も検討し、自国・地域の新生児HSV疫学を踏まえて判断するという2024年版で明確化された記述、HIV陽性妊婦は32週から(早産リスクがあればより早期から)であること、分娩時初発病変児では口腔咽頭・鼻腔・結膜・直腸・可視病変からのHSV PCR(血液・髄液PCRも考慮)を提出したうえで結果を待たず静注アシクロビルを開始する利益とリスクを検討すること、ウイルス抗原検出法(DFA・EIA)・ツァンク試験・パパニコロウ染色がもはや推奨されずPCRが診断のゴールドスタンダードであることを確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Antiviral therapy of varicella-zoster virus infections (Human Herpesviruses: Biology, Therapy, and Immunoprophylaxis)(Cambridge University Press(NCBI Bookshelf)・2007)ウイルス特異的モノクローナル抗体を用いた直接蛍光抗体法はHSVとVZVを容易に区別でき、単なるツァンク試験より強力な手法であることを確認した("By using virus-specific monoclonal antibodies, HSV can be readily distinguished from VZV")。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Herpes Simplex Encephalitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)免疫正常な成人のHSV脳炎に対する静注アシクロビルの用量(10 mg/kg・8時間ごと)と投与期間(14〜21日間)、新生児・11歳以下の小児ではより高用量(15〜20 mg/kg)を要すること、画像・髄液所見・脳波所見から疑った時点で確定診断を待たず開始すべきことを確認した。閲覧 2026-08-03