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Symptoms · Published

神経栄養性角膜症

Neurotrophic keratopathy

別名
神経麻痺性角膜症神経栄養性角膜炎
臓器系
眼科神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 03:脳神経の診察(Cranial nerves I〜XII)
関連疾患
水痘・帯状疱疹単純ヘルペスウイルス感染症

🧠 全体像は、三叉神経(枝)の障害によりが低下することでが壊れていく病態である。「乾くから傷む」という単純なの理解では説明がつかない——角膜神経は・NGF・IGF-1などの栄養因子を上皮へ供給し続けており、神経が絶たれると①・反射性分泌の消失、②上皮のターンオーバーそのものの低下という2つの経路が同時に破綻する1。⚠️ 最大の危険は、知覚低下のために患者が痛みを訴えないまま病期が進むことで、所見の重症度と症状が乖離する。別名は神経麻痺性角膜症で、同一の病態を指す。

定義と用語の整理

「目が痛い」という訴えが乏しいこと自体が、この病態への入り口になる。が保たれていれば上皮欠損は強い眼痛を伴うはずだが、があるとその前提が崩れる。

隣接する概念との対比:

用語 障害の本体 との関係
の量・質そのものの低下 を断つための原因の1つになるが、はそれに加え上皮のターンオーバー低下という別経路を持つ点で範囲が広い
による角膜の空気への曝露 )と(知覚低下)はそれぞれの障害として合併しうる。両者が重なると最重症化する
上皮の点状微小欠損 でもっとも軽い病期(後述のI度)そのものであり、原因の1つとして数えられる

「痛みを訴えない上皮障害」を見たらを考える。 所見の重症度と症状の強さが乖離している時点で、この病態を鑑別に加える。

病態生理

角膜神経は知覚を伝えるだけの感覚器官ではない。

  • の消失がCN V・がCN VIIという回路であり(神経学 03)、三叉神経が障害されると刺激があってもが起こらず、反射性の分泌も減少する1。角膜はのたびにで洗浄・保護される機会そのものを失う。
  • 栄養因子供給の途絶:角膜神経終末は・NGF・IGF-1などの栄養因子を分泌し、上皮細胞の接着・遊走・増殖を支えている。神経が絶たれるとが保たれていても上皮のターンオーバーそのものが低下し、微小な損傷が修復されないまま蓄積する1

💡 この2経路が同時に起こる点が、単なると同列に扱えない理由である。 ではを補えば上皮は自力で修復するが、では上皮そのものの力が落ちているため、だけでは治りが悪い。

原因は多彩だが、頻度の高いものから並べると次のようになる。

  • 後(もっとも頻度が高い群)1
  • 三叉神経の手術(への手術など)・腫瘍(腫など)・1
  • 糖尿病(1
  • ・角膜切開などの医原性外傷1
  • 点眼薬の長期使用による毒性(など)2
  • コンタクトレンズの長期装用、2

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 症状の乏しさそのものがである。 が低下しているため、上皮欠損や実質融解が進んでいても患者は眼痛を訴えない。「痛みがないから軽症」ではなく、症状を待たずに角膜の外観を定期的に確認する必要がある。
  • ⚠️ に副腎皮質ステロイド点眼を使うと実質融解を促しうる。 では上皮の自己修復能力そのものが落ちており、長期使用中のステロイドは減量・中止を検討する1
  • ⚠️ 原因診断を怠らない。 対症療法だけを続けても、・帯状疱疹の、進行する腫瘍、コントロール不良の糖尿病といった背景を除かない限り再発・進行する。
  • ⚠️ III度は眼科緊急である。 実質の融解・角膜潰瘍から穿孔に至りうる病期であり、などの積極的な介入を急ぐ1

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal epithelial damage'>角膜上皮障害</span>・<br>説明のつかない眼表面所見"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal sensation'>角膜知覚</span>を確認<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotton thread (for light touch testing)'>綿糸</span>などで触れて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blink(ing)'>瞬目</span>の有無を見る)"]
    B --> C{"知覚が低下しているか"}
    C -->|"保たれている"| D["他の角膜症を検索<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry eye'>ドライアイ</span>・曝露性・毒性など)"]
    C -->|"低下している"| E["原因を検索<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex (HSV)'>単純ヘルペス</span>・帯状疱疹の既往<br>三叉神経<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical history'>手術歴</span>・糖尿病・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical burn'>化学熱傷</span><br>点眼薬・コンタクトレンズ歴"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>で<br>上皮・実質の状態を評価"]
    F --> G{"上皮欠損の程度は"}
    G -->|"点状の欠損のみ"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mackie classification'>Mackie分類</span> I度"]
    G -->|"遷延性の上皮欠損"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mackie classification'>Mackie分類</span> II度"]
    G -->|"実質の融解・潰瘍・穿孔"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mackie classification'>Mackie分類</span> III度<br>眼科緊急"]
    H --> K["病期に応じた治療を選択"]
    I --> K
    J --> K

対応の考え方

原因の除去が前提だが、除去してもがすぐには戻らないことが多く、病期()に応じて角膜そのものを保護する介入が必要になる。

病期( 角膜所見 治療の重心
I度 層の不安定化を伴う上皮の異常 無添加の頻回点眼、1
II度 と実質病変(実質の菲薄化・浮腫を伴う) 治療用コンタクトレンズ、神経製剤、部分1
III度 実質の融解・角膜潰瘍、穿孔に至りうる 緊急の、末期には1

は、に対して承認されている遺伝子組換えヒト神経の点眼製剤である。1回1滴を1日6回、2時間間隔で8週間点眼する用法が確認されている3。コンタクトレンズは点眼前に外し、再装用は点眼から15分後とする3

⚠️ 副腎皮質ステロイドは実質融解を促進しうるため、のあるでは慎重を要する。 II度以降で診断が確定していても、ステロイドを安易に追加しない。

まとめ

  • は、によるが、・反射性分泌の消失と上皮ターンオーバーの低下という2経路で上皮を破綻させる病態であり、単なるとは機序が異なる。
  • 知覚低下のために患者は痛みを訴えにくく、症状の乏しさそのものがになる。症状を待たず角膜の外観を定期的に確認する。
  • 原因は後がもっとも多く、三叉神経の手術・腫瘍・、糖尿病、、点眼薬の長期毒性、コンタクトレンズ長期装用、後と続く。
  • 重症度はのI〜III度で整理する。I度は上皮の異常、II度は、III度は実質融解・潰瘍・穿孔であり、病期が進むほど治療はから、神経製剤へと積極的になる。
  • 副腎皮質ステロイドは実質融解を促進しうるため、のある本症では慎重を要する。

出典

  1. 1.Neurotrophic Keratitis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2025)角膜神経が知覚だけでなくサブスタンスP・NGF・IGF-1などの栄養因子を上皮へ供給しており神経障害で上皮のターンオーバーが低下すること、Mackie分類がI度(上皮の異常・点状表層角膜症)・II度(遷延性上皮欠損と実質病変)・III度(実質融解・潰瘍・穿孔の可能性)の3病期からなること、原因が単純ヘルペス・帯状疱疹などの感染、三叉神経の手術・腫瘍・脳血管障害、糖尿病、化学熱傷など多岐にわたること、病期に応じて人工涙液・自己血清点眼から神経成長因子製剤セネジャーミン・羊膜移植・眼瞼縫合・角膜神経再建術へ治療を進めること、長期の副腎皮質ステロイドが上皮治癒を妨げるため減量・中止を検討すべきことを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.OXERVATE (cenegermin-bkbj) Ophthalmic Solution — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed)・2025)セネジャーミン点眼液(0.002%、20μg/mL)が神経栄養性角膜炎の治療薬として承認されていること、用法が1回1滴を1日6回・2時間間隔で8週間であること、コンタクトレンズは点眼前に外し15分後に再装用すること、防腐剤を含まない製剤であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Diagnosing and Treating Neurotrophic Keratopathy(American Academy of Ophthalmology (EyeNet Magazine)・2008)原因の一覧として三叉神経の手術・腫瘍に加え、コンタクトレンズ装用、LASIKなどの角膜切開・屈折矯正手術、汎網膜光凝固術、チモロール・ベタキソロール・スルファセタミド・ジクロフェナクナトリウムなど点眼薬による毒性が挙げられることを確認した。2008年の記事であり治療推奨部分は現行のセネジャーミンなど新しい治療を反映していないため、本ノートでは原因の記載のみに用いた。閲覧 2026-08-03