脳神経内科・脳神経外科

脳神経内科・脳神経外科 · 03

脳神経の診察(Cranial nerves I〜XII)

Neurological examination: cranial nerves (CN I–XII)

前提:正常
脳神経核の分類中枢神経・神経解剖:脳幹
疾患
Tolosa-Hunt症候群眼窩尖端症候群弱視頭蓋底腫瘍
症状
外転神経麻痺滑車神経麻痺眼瞼下垂球麻痺視神経萎縮斜視神経栄養性角膜症動眼神経麻痺

🧠 全体像:12対の脳神経は嗅覚・視覚・眼球運動・顔面感覚/運動・聴覚・機能・・舌運動という異なる機能を担い、それぞれ対応する末梢器官(鼻・眼・顔・耳・・頸部・舌)を系統的に診察することで脳幹〜末梢のどのレベルに病変があるかを絞り込める。とくには前額温存の有無が中枢性(対側下部顔面のみ)と末梢性(同側顔面全体)を分ける第一の手がかりになるが、発症早期の末梢性麻痺でも前額のしわ寄せが保たれることがあり、や麻痺の・進行の仕方と併せて判断する1。

このノートは「」PDFを7回に分けたシリーズの第3回。は前のノート、運動系の診察は次のノートを参照。

脳神経の全体像

CN 神経 主な機能 代表的な検査
I 嗅覚 片鼻ずつ既知の匂い(コーヒー・バニラ等)を嗅がせる
II 視神経 視力・視野・眼底 、視野、
III・IV・VI 動眼・・ 眼球運動、瞳孔・眼瞼 、、
V 三叉神経 顔面感覚、 顔面3枝の痛覚・触覚、触診、
VII 顔面神経 、味覚(前2/3) ・・歯を見せる、の同定
VIII 聴覚・ 囁き声、(Weber・Rinne)、試験
IX・X ・迷走神経 咽頭感覚・嚥下・発声、後1/3の味覚 挙上、、発声(「あー」)
XI ・ 肩の挙上、に対する抵抗
XII 舌の運動 舌の突出・偏位・萎縮・の有無

CN I:嗅神経

の訴えがあるか疑われる場合に検査する。・片鼻閉塞の状態で、コーヒー・バニラ・石鹸などの既知の匂いを、左右の鼻孔を別々に、複数の匂いで同定できるかを確認する。

⚠️ 1種類の認知だけで「嗅覚正常」としない。 3項目の匂い同定テストを嗅覚正常者40例で検証した研究では、3種すべてを正答したのは62.5%にとどまり、2種正答が25%、1種しか正答できなかった正常者も12.5%いた(一方で3種すべてを外した正常者は皆無)。「2種以上正答」をに置くと、完全無嗅覚の検出は感度99%・特異度40%、98%となる。判定は1臭の可否ではなく複数臭の成績で行う2。

💡 こしょう・・アンモニアはに向かない。 これらはではなく三叉神経のを刺激するため、嗅覚が完全にしていても「刺激を感じる」と答えられてしまう。純粋な嗅覚の評価には三叉神経刺激性の乏しい匂い(コーヒー・バニラ・チョコレート等)の同定課題を使う。

異常所見:両側性無嗅覚(bilateral anosmia:鼻炎、喫煙、)、一貫した片側性無嗅覚(・の障害)、(快臭が不快臭に変わる)。

CN II:視神経

  • 視力:をし、6m(次いで2m、1m)の距離から指の数を数えさせる。数えられなければ距離を詰め、それでも不可なら指の動きの認知、さらに不可ならペンライトによるの有無を確認する。
  • 眼底:で・網膜・黄斑を観察する。や頭蓋内圧亢進(↑ICP)でに変化が出る(、など)。
  • 視野:。片眼ずつ、または両眼同時に4方向から指を動かして視野の欠損を確認する。

異常所見:、、、、、(両側の障害)。

CN III・IV・VI:眼球運動

神経
(CN III) ・を除く全+
(CN IV)
(CN VI)

検査は、命令による眼球運動、、自発的探索眼球運動、(の直接・間接、反応、調節反応)からなる。

正常所見の記載例:は全方向で制限なし。眼球運動は。なし。眼振なし。瞳孔は正円・正中・左右差なし。・・調節反応は正常。

障害神経 主な所見
動眼神経麻痺 片側に加え、内転・・の制限(眼球は下外方へ偏位)と・の低下を組み合わせて評価する。だけを見ない(両側性のなら先天性・重症筋無力症・の中枢性病変を疑う)
眼球の下方・外方運動制限(代償のため頭部をに傾け顎を下げる)
(片側) 外転障害(正中を越えて外転できない)
(両側)

の症候群:(の左右差、・消失は動眼神経麻痺を示唆)、(同側の++同側顔面の無汗)。

⚠️ Hornerの「三徴」はそろわないことの方が多い。 同側の眼交感神経路の障害によるもので、中核はと(瞳孔はするがは正常に保たれる——動眼神経麻痺の+消失と逆向き)であり、同側顔面の無汗は一部の症例にしか出ない。存在の確定は点眼薬による薬理学的検査で行う3。古典的に三徴に数えられるは Müller 筋の脱力による見かけ上の陥凹で、定型所見として暗記するのは適切でない。

CN V:三叉神経

枝 支配領域
(第1枝) 前額、眼、鼻、髄膜、副鼻腔
(第2枝) 上顎、歯、、頬、、、
(第3枝) 、歯、、2/3、外耳、外耳道

痛覚(針)・触覚()・温度覚(試験管)を左右・3枝間で比較する。を疑う場合は各枝の骨出口点を圧迫し圧痛を確認する。(・)の触診と開口力を評価する。

⭐ :12対の脳神経の中で唯一の。軽度開口位でに置いた検者の指をハンマーでし、素早い閉口があれば陽性(健常者でも消失していることが多い)。

:はCN V、はCN VII。角膜刺激でが誘発される。消失または減弱はまたは脳幹機能障害を示唆する。

正常所見の記載例:痛覚・触覚・温度覚は正常。の筋量・筋力は正常。開口時には正中位。両側のは正常。

CN VII:顔面神経

(前額のしわ寄せ、への抵抗、歯を見せる、口笛の動作、頬を膨らませる)、味覚(前2/3、基本4味)、分泌()を評価する。

は障害部位によって中枢性と末梢性に分かれ、鑑別が重要である。

(LMN)
前額のしわ寄せ・挙上 保たれる できない(ただし発症当日など早期には保たれることがある)
比較的保たれる できない
麻痺の範囲 対側の顔面下半分のみ 同側の顔面全体
・口角 対側で消失・下垂 同側で消失・下垂
分泌・味覚 通常保たれる 低下しうる(前2/3の、)

⚠️ 前額温存の一点だけで中枢性と決めない。 救急外来を受診した233例(末梢性72例・中枢性161例)の比較では、前額のしわ寄せが可能な末梢性麻痺が一定数あり(多くは発症から1日以内に受診した例)、前額所見の診断を下げていた。逆に「前額を動かせない純粋な中枢性麻痺」は極めてまれだった。で最もが高かった鑑別因子はの有無と麻痺の・進行の仕方であり、前額所見はその補助として使う1。高齢者や血管危険因子のある患者では橋の梗塞が末梢性らしく見えることもあるため、迷えば画像評価へ進む。

💡 上部(前額)を支配するは両側の大脳皮質からを受けるため、のが障害されても反対側皮質からの支配で前額の動きは保たれる(=前額温存 forehead sparing)。これに対し下部は対側皮質から一方向支配のみのため、中枢性麻痺では対側下部顔面のみが麻痺する。末梢性(・神経そのもの)の障害では、その神経が支配する同側の顔面全体(上下とも)が麻痺する。

正常所見の記載例:安静時に左右対称。前額のしわ寄せ、、歯を見せる動作は正常かつ対称。を認識できる。は正常かつ対称。

CN VIII:内耳神経

  • 聴覚(部):精密評価はオージオメトリー。簡易評価は片耳を閉塞させ1〜2m後方から囁き声を聞かせる。(Weber・Rinne・Schwabach)は(中耳の障害)と(内耳・の障害、を伴う)の当たりを付けるために使い、確定は聴力検査で行う。
  • (vestibular部):眼振の観察(安静時・座位・臥位、回転刺激・カロリック刺激)、試験(・で立たせ、患側へのがあれば陽性)、Bárány試験(両上肢挙上→で下げて再挙上→患側への指示=past-pointingがあれば障害を示唆)。

⚠️ ベッドサイドの主役は囁き声で、ではない。 24研究をまとめたJAMAの系統レビューでは、囁き声を聞き取れないことの 6.1(95%CI 4.5〜8.4)・聞き取れる場合の 0.03 に対し、は 1.6(95%CI 1.0〜2.3)・ 0.70 とほぼ無情報で、Weber・Rinneは一般スクリーニングに用いるべきでないとしている。難聴をしている患者(ありの 2.5、なしの 0.13)はそのまま聴力検査へ回す4。のに対する感度も 43〜91%(256Hz)・16〜87%(512Hz)と報告間のばらつきが大きく、異常と判定される閾値自体も一定していない5。

⚠️ はCN VIIIの検査ではない。 立位の保持は視覚・・前庭の3つの入力に依存し、はもともと(後索)障害を見る検査である。を主に反映させたいなら、硬い床ではなく柔らかい面の上でさせる条件にする必要がある。そのものを定量するには、に対する head impulse 検査(急速な頭部回転に対する短の眼球回旋)と、に対する(VEMP:強大音や骨に対する・の)の方が正確で再現性が高い6。

正常所見の記載例:囁き声は両側で良好に聴取。正常、両側陽性。眼振なし。試験陰性。Bárány試験でなし。でのなし。

CN IX・X:舌咽神経・迷走神経

・機能が大きく重複するため併せて評価する。後1/3の味覚、弓の対称性・の位置(正中)、発声(「あー」)時の挙上、(咽頭壁刺激で+挙上、感覚消失で反射消失)、による声帯の位置・可動性、(で徐脈・血圧低下)を確認する。

異常所見:は頭蓋底で迷走神経・とともに障害されることが多い(、、・、、髄膜炎が代表的原因)。これらがをまとめて侵した結果として生じる症候群がである。

の症状(腫瘍・出血・虚血):によるで・、嚥下障害・鼻への逆流・痙攣、の偏位、喉頭・咽頭・外耳道の。

正常所見の記載例:弓は左右対称、は正中。発声時には挙上する。・反射は良好。舌後1/3の味覚は保たれる。発声・構音は正常。嚥下障害なし。

CN XI:副神経

(両肩を挙上させ抵抗を加える)、(頭部の左右回旋・に抵抗を加える)の筋緊張・筋量・筋力を評価する。単独の障害はまれで、外側頸部の手術(リンパ節生検、腫瘍摘出)に伴うことが多い(髄膜炎・梅毒・外傷によることはまれ)。

CN XII:舌下神経

舌を突出させ、正中位からの偏位・・萎縮の有無を観察し、全方向への舌運動を評価する。

障害部位 所見
障害 対側の舌半分の筋力低下
舌の萎縮+への偏位

まとめ

  • 12対の脳神経は嗅覚・視覚・眼球運動・顔面感覚/運動・聴覚・機能・・舌運動を担当し、それぞれ対応する検査で機能を評価する。
  • は前額温存の有無が中枢性(対側下部顔面のみ)と末梢性(同側顔面全体)を分ける第一の手がかりになる。上部顔面核は両側大脳皮質支配のため中枢性病変では代償される。ただし発症早期の末梢性麻痺でも前額は動きうるので、・と進行の仕方を併せて判断する1。
  • の中核は+(は保たれる)で、顔面の無汗は一部にしか伴わない。は見かけ上のもので定型所見ではない3。
  • 嗅覚のスクリーニングは左右の鼻孔別・複数臭の同定成績で判定する。1種類の認知だけで正常とはしない2。
  • 難聴のベッドサイド評価は囁き声( 6.1)が主役で、Weber・Rinneは一般スクリーニングには用いない4。は本来の検査であり、CN VIII単独の検査ではない6。
  • は脳神経で唯一のである。
  • ・迷走神経・は頭蓋底で近接して走行するため、外傷・腫瘍・血栓症でまとめて障害されやすい。
  • 続く運動系の診察は次のノートを参照。

出典

  1. 1.'Precursory symptoms, awareness or progression of facial palsy' are more useful than 'forehead wrinkling ability' in differentiating central facial palsy examined in the emergency department(Acta Oto-Laryngologica・2024)救急外来の顔面神経麻痺233例(末梢性72・中枢性161)の比較で、前額のしわ寄せが可能な末梢性麻痺(多くは発症当日受診例)が存在し前額所見の診断信頼性を下げること、多変量解析で前駆症状と麻痺の自覚・進行の方がオッズ比が高かったこと、前額を動かせない純粋な中枢性麻痺は極めてまれであること閲覧 2026-08-22
  2. 2.Utility of a three-item smell identification test in detecting olfactory dysfunction(The Laryngoscope・2005)3項目の匂い同定テストの検証で、嗅覚正常者40例のうち3種正答は62.5%、2種正答25%、1種のみ正答12.5%で、3種すべてを外した正常者はいなかったこと。2種以上正答をカットオフとすると完全無嗅覚の検出は感度99%・特異度40%、陰性的中率98%閲覧 2026-08-22
  3. 3.Horner syndrome: clinical perspectives(Eye and Brain・2015)Horner症候群は同側眼交感神経路の障害による片側眼瞼下垂と対光反射が正常に保たれる縮瞳を中核とし、同側顔面の無汗は一部の症例にしか伴わないこと、確定には薬理学的(点眼)検査を用いること閲覧 2026-08-22
  4. 4.Does this patient have hearing impairment?(JAMA・2006)囁き声が聞き取れないことの陽性尤度比6.1(95%CI 4.5-8.4)・聞き取れる場合の陰性尤度比0.03に対し、Weber試験は陽性尤度比1.6(95%CI 1.0-2.3)・陰性尤度比0.70とほぼ無情報で、WeberとRinneは一般スクリーニングに用いるべきでないこと。難聴の自覚ありは陽性尤度比2.5、自覚なしは陰性尤度比0.13閲覧 2026-08-22
  5. 5.Diagnostic Accuracy of Tuning Fork Tests for Hearing Loss: A Systematic Review(Otolaryngology–Head and Neck Surgery・2018)17研究3158例のレビューで、Rinne試験の伝音性難聴に対する感度は256Hzで43-91%・512Hzで16-87%と報告間のばらつきが大きく、異常となる閾値もRinneで伝音差13-40dB、Weberで左右差2.5-4dBと一定しないこと閲覧 2026-08-22
  6. 6.Vestibular contributions to the Romberg test: Testing semicircular canal and otolith function(European Journal of Neurology・2021)立位保持は視覚・深部感覚・前庭の3入力に依存し、ロンベルグ検査は本来深部感覚障害の検査であること、前庭機能を見るには硬い床ではなく柔らかい面上で閉眼させる条件が必要で、前庭系の定量には半規管に対するhead impulse検査と耳石器に対するVEMPが正確かつ再現性が高いこと閲覧 2026-08-22