脳神経内科・脳神経外科

脳神経内科・脳神経外科 · 04

運動系の診察:筋緊張・筋萎縮・筋力(Muscle tone, bulk, power)

Neurological examination: motor system (tone, bulk, and power)

前提:正常
運動系(総論)皮質脊髄路(錐体路)
疾患
良性線維束攣縮症候群
症状
筋緊張低下単麻痺
スコア
MRC徒手筋力テスト

🧠 全体像:運動系の診察は筋緊張・・筋力の3要素からなり、とくに筋力は主要な運動ごとに担当筋・末梢神経・脊髄レベルが決まっているため、どの運動が弱いかを精査することで末梢神経・神経根・脊髄・脳のどのレベルに病変があるかを絞り込める。ただし所見1つ1つの診断能は高くないので、分布(近位/遠位・対称/非対称)、かか、感覚障害の併存まで含めたパターンとして読む。

このノートは「」PDFを7回に分けたシリーズの第4回。脳神経の診察は前のノート、反射の診察は次のノートを参照。診察は基本的に患者を仰臥位にして行うが、ドリフト試験のように座位・立位で両上肢を前方へ挙上して行う手技1や、しゃがみ動作・歩行・のように姿勢を変えなければ評価できない項目もある。

筋緊張

的に肘・・股・膝・を動かし、抵抗の程度で評価する。は速く、はゆっくり動かして確かめるのが要点で、動かす速度を変えないと両者を分けられない。

異常 特徴 責任部位
(さらに伸張の振幅にも依存)。急速なである閾値の速度・角度を超えると抵抗が急に、「引っかかり(catch)」として触れる。上肢は屈筋、下肢は伸筋のが優位で、間で非対称 皮質(錐体路)
の速度によらず可動域を通じて一定の抵抗()。ごく緩徐に動かしても検出でき、屈筋・伸筋にほぼ均等。振戦が併存すると断続的なに触れる 錐体外路(主に大脳基底核。中脳・脊髄病変でも生じる)
部がでぶらぶらする(軽度〜高度) 、小脳、急性期の

💡 速度を変えるだけで局在が分かれる。 をとに分けられれば、それだけでかかという大きな枝分かれが決まる。だからは「速く1回、ゆっくり1回」の両方で行う。「catch があるか」「可動域の最初から最後まで同じ重さか」「に途切れるか」の3点を意識して触れる2。

筋萎縮

(細胞)が障害されるとは萎縮する。自発運動時の左右対称性を観察し、関節から一定距離(7・14・21 cm)での周径測定で非対称性を評価する。の影響を考慮する。

💡 萎縮=、ではない。 の萎縮はのほか末梢神経・神経根の障害でも起こり、さらにや疾患(・筋炎)でも筋量は落ちる。萎縮そのものより、どこが痩せているか(か遠位優位か、左右対称か非対称か、単一神経のに一致するか)と、・腱反射・感覚障害の併存とを組み合わせて局在を判断する。

筋力

指(finger squeeze:検者の指を握らせを評価)、ドリフト試験(pronator drift test、麻痺試験:両上肢を前方へ挙上・伸展し、前腕は位=手掌を上に向けて、のまま約10秒保持させる。しながら下垂すれば陽性で、を示唆)などの誘発試験に加え、各筋群をで評価する。

⚠️ 開始はである。 手掌を上に向けた位から始めるからこそ、錐体路障害でより優位なが勝って「しながら下がる」という所見が出る。最初からで保持させると、この情報が失われる3。

💡 を伴わない下垂(drift without pronation)は機能性麻痺を示唆する。 前腕完全・10秒の保持試験で、機能性(変換性障害)の上肢麻痺26例では100%がを伴わずただ下がるだけだったのに対し、疾患28例では7.1%にとどまった。「下垂の有無」だけでなく「を伴うか」まで見る3。

筋力は以下ので記載する。

点数 所見
0 筋収縮なし
1 筋を触知しながら収縮を試みさせるとわずかな収縮を触知できる
2 を除けば自動運動可能
3 に抗して動かせるが、検者の抵抗には抗せない
4 検者のある程度の抵抗に抗して動かせる
5 検者の最大抵抗に抗しても動かせる(=その患者の年齢・体格から期待される正常筋力)

⚠️ Grade 5は「検者に力で勝つ」ことではない。 検者が力負けするかどうかは、対象の筋群(かか)・患者の体格・検者自身の腕力に大きく左右されるので、そのまま正常の定義にはできない。MRCはであって等間隔尺度ではなく、「4と5の差」と「1と2の差」は同じ大きさではない(とくにGrade 4が覆う幅は他より著しく広い)。合計点の引き算を定量比較のように扱わない。

💡 それでも再現性は悪くない。 31例での検証では、MRCの検者間一致は手指伸展 κ=0.77・ 0.78・ 0.78、同一検者内一致は 0.82〜0.86 と「ほぼ完全な一致」に相当し、の実測値との相関も 0.78 だった。としての限界を踏まえて使えば、経過追跡のとして十分に機能する4。

主要な運動と・末梢神経・脊髄レベルの対応は以下の通り(局在診断の基礎となる)。

上肢

運動 末梢神経 脊髄レベル
C5
C5, C6
肘伸展 C7
C6, C7
手関節屈曲 正中・ C7, C8
手指伸展 C7
手指屈曲 深指・ 正中・ C8
母指外転 T1
指外転 T1

下肢

運動 末梢神経 脊髄レベル
・ L1, L2
股伸展 L5, S1, S2
L5, S1, S2
L3, L4
L4, L5
足底屈 ・ S1, S2
L5
足 L4, L5
足 L5, S1

診察では、上肢は指→ドリフト→/伸展→/内転→手関節屈曲/伸展→指外転/内転→指輪っかテスト(finger circle test:母指と各指で輪を作らせ、検者が引き離そうとする力に抵抗させる)の順に、下肢は下肢麻痺試験(股・膝90°屈曲位で挙上保持、下垂すれば陽性)→股・膝の屈曲/伸展→股外転/内転→/→屈曲/伸展→股関節周囲筋(しゃがみ動作・歩行観察)の順に評価する。

⚠️ 分節ごとの筋力検査は「あれば意味があるが、無くても除外できない」。 で確認された軽度の大脳病変170例の検討では、分節ごとのは特異度97.5%と高い一方、感度は38.9%・58.7%と低かった。同じ集団でドリフト(Barré)は感度92.2%・特異度90.0%、finger tapは感度73.3%・特異度87.5%で、ドリフト・腱反射・finger tapのいずれか1つでも異常なら感度97%、3つとも陽性なら特異度97%に達した。時間が限られる場面では、まずこの3つでスクリーニングし、陽性なら分節ごとの検査へ進む5。

⚠️ 陰性所見を安心材料にしない。 明らかなの無い大脳半球病変46例を対象にした前向き盲検研究では、ドリフトの感度は0.22(95%CI 0.12〜0.36)にとどまり、診察全体でも巣病変の61%しか拾えなかった。ただし特異度は1.00で、陽性なら病変の存在を強く示唆する1。のでも、麻痺に対するのは0.22〜0.40・特異度0.62〜0.79、1.02〜1.26で、診察単独の診断能は限られていた6。

麻痺の程度・分布

  • :の完全消失
  • :筋力低下はあるが完全消失ではない
  • 分布による呼称:(hemiplegia/hemiparesis:片側上下肢)、(monoplegia/paresis:1肢)、(両下肢)、(両上肢)、(quadriplegia/tetraplegia:四肢全て)

💡 呼称だけでは診断に届かない。 「」「」といった分布の名前に加えて、か遠位優位か(は・、遠位優位はを示唆)、対称か非対称か、型(・・)か(萎縮・・)か、感覚障害・自律神経症状を伴うかの4つを添えて記載すると、そのまま鑑別の絞り込みになる。

まとめ

  • 運動系の診察は筋緊張・・筋力の3要素で構成される。
  • は・・に分類される。は速度と振幅に依存し急速なで catch として触れるの所見、は速度によらず可動域を通じて一定(、振戦を伴えば)で屈筋・伸筋に均等なの所見であり、は速く1回・ゆっくり1回の両方で行う2。
  • 筋力は 0〜5の6段階で記載し、運動ごとの筋・末梢神経・脊髄レベル対応表を用いて障害部位を絞り込む。
  • ドリフト試験は前腕位で両上肢を前方挙上し、10秒保持させて行う。を伴わない単なる下垂は機能性麻痺を示唆する(機能性100%対7.1%)3。
  • ドリフトの感度はで大きく変わる。で確認された軽度大脳病変では感度92.2%・特異度90.0%だったが5、明らかなの無い患者では感度0.22(特異度1.00)にとどまった1。陽性の価値は高いが、陰性で病変を除外できない。
  • Grade 5は「検者に力で勝つこと」ではなく、年齢・体格から期待される正常筋力が出ていることを指す。MRCはで、グレード差を等間隔として扱わない(再現性自体は前腕筋で κ=0.77〜0.86 と良好)4。
  • 続く反射の診察は次のノートを参照。

出典

  1. 1.Detection of focal cerebral hemisphere lesions using the neurological examination(Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry・2005)明らかな巣症状の無い一側大脳半球病変46例と正常画像の対照19例の前向き盲検研究で、回内ドリフトの感度は0.22(95%CI 0.12-0.36)・特異度1.00、finger rolling 0.33、筋力評価0.30、迅速交互運動0.30で、診察全体でも巣病変の61%しか検出できなかったこと閲覧 2026-08-22
  2. 2.How Do I Examine Rigidity and Spasticity?(Movement Disorders Clinical Practice・2015)痙縮は皮質網様体脊髄路(錐体路)障害による筋緊張亢進で、振幅と速度に依存し急速な他動運動で閾値を超えると急な抵抗(catch)として触れること、拮抗筋間で非対称なこと。固縮は錐体外路(主に大脳基底核)障害により可動域を通じて一定で速度非依存、屈筋・伸筋に均等な鉛管様で、振戦が併存すると歯車様になること閲覧 2026-08-22
  3. 3.Validity of the "Drift without pronation" sign in conversion disorder(BMC Neurology・2013)上肢挙上保持試験は前腕完全回外・手指内転・閉眼10秒で行うこと。機能性(変換性障害)の一側上肢麻痺26例では100%が回内を伴わない下垂(drift without pronation)を示したのに対し、器質性疾患28例では7.1%にとどまり、機能性麻痺に特異的な所見であること閲覧 2026-08-22
  4. 4.Reliability and validity of the Medical Research Council (MRC) scale and a modified scale for testing muscle strength in patients with radial palsy(Journal of Rehabilitation Medicine・2008)橈骨神経麻痺31例で、MRCスケールの検者間一致は手指伸展0.77・手関節伸展0.78・握力0.78、同一検者内一致は0.82-0.86(重み付きκ)でほぼ完全な一致に相当し、握力実測値との相関係数は0.78であったこと閲覧 2026-08-22
  5. 5.Tests of motor function in patients suspected of having mild unilateral cerebral lesions(Canadian Journal of Neurological Sciences・2002)CTで確認された運動野病変の有無で分けた170例(病変あり86・なし84)で、Barré・回内ドリフトの感度92.2%・特異度90.0%、分節ごとの徒手筋力検査は特異度97.5%だが感度38.9%・陰性的中率58.7%、finger tapは感度73.3%・特異度87.5%。回内ドリフト・腱反射・finger tapのいずれかが異常なら感度97%、3つとも陽性なら特異度97%閲覧 2026-08-22
  6. 6.Neurological examination of the peripheral nervous system to diagnose lumbar spinal disc herniation with suspected radiculopathy: a systematic review and meta-analysis(The Spine Journal・2013)14研究のメタ解析で、麻痺に対する徒手筋力検査の統合感度は手術確認例0.22・画像確認例0.40、特異度は0.79・0.62。感覚検査の統合感度0.32-0.40、腱反射0.25-0.29で、いずれも陽性尤度比は1.02-1.26にとどまり、神経学的診察単独の診断能は限られること閲覧 2026-08-22