症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

単麻痺

Monoplegia

別名
単不全麻痺monoparesis
臓器系
神経
科目
NeurologyRehabilitation
トピック
神経内科 G1-04:中枢性不全麻痺症候群の局在診断神経内科 04:運動系の診察:筋緊張・筋萎縮・筋力(Muscle tone, bulk, power)リハビリテーション 04:脊髄損傷のリハビリテーション:神経学的後遺症・合併症とその管理
関連疾患
ポリオ筋萎縮性側索硬化症中枢神経系腫瘍(成人・小児)脳梗塞腕神経叢損傷

🧠 全体像は「1肢だけ動かない」という分布そのものが手がかりになる、数少ない麻痺の型である。他の分布と違って中枢性ではむしろまれで、末梢性(神経・神経叢・神経根・)が主役になりやすい。かを見極める一般論は麻痺にあるので、ここでは「なぜという分布が生まれるのか」「見つかったらどの高さをまず疑うべきか」に絞る。

定義と用語の整理

1肢のみの完全消失を指す。筋力低下にとどまり完全消失に至っていなければ(monoparesis)と呼ぶ。分布による麻痺の呼称は次の4つに整理できる。

用語 障害される範囲 高さを決める鍵
1肢のみ このノート。UMN/LMNの区別と感覚障害の分布
片側の上肢+下肢(顔面を伴うことも) 顔面の巻き込み方・・同側脳
両下肢
四肢すべて 呼吸と意識の評価が病名より先に来る

💡 4つの呼び名は「どこが動かないか」という分布だけを表し、原因の高さ(皮質か脊髄か末梢神経か)を保証しない。だからといって末梢性と決めつけず、次章の理屈で中枢性を検討してから末梢へ進む。

病態生理

が中枢性ではまれである理由は、皮質脊髄路が下るほど1肢だけを支配する線維が密に収束していくからである。 では手・腕・顔・下肢のが皮質上に広く分かれて並んでいるため、限局した皮質病変は特定の部位だけを障害しうる。ところがまで下ると同じ線維が狭い断面へ集まり、脳幹に達する頃には顔・上肢・下肢の線維がひとまとまりになる。そのため・脳幹の病変はではなくとして現れやすい。

flowchart TD
    A["1肢だけの筋力低下"] --> B{"UMN徴候かLMN徴候か"}
    B -->|"UMN<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperreflexia'>腱反射亢進</span>・痙性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Babinski sign'>Babinski徴候</span>)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary motor cortex'>一次運動野</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='localized disease'>限局病変</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatotopic representation'>体部位再現</span>に一致した高さ"]
    C --> D["下肢優位なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parasagittal region'>傍矢状部</span>病変も疑う"]
    B -->|"LMN<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyporeflexia'>腱反射低下</span>・弛緩・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle wasting (muscle atrophy)'>筋萎縮</span>)"| E{"感覚障害の分布は"}
    E -->|"単一神経の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='territory of innervation'>支配域</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mononeuropathy'>単ニューロパチー</span><br>絞扼・圧迫・外傷"]
    E -->|"神経叢のパターン"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plexopathy'>神経叢障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='brachial plexus'>腕神経叢</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbosacral plexus'>腰仙骨神経叢</span>"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dermatome'>デルマトーム</span>に一致"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radiculopathy'>神経根症</span>"]
    E -->|"感覚障害を伴わない"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior horn cell involvement'>前角細胞障害</span>"]

では、障害されるの範囲がそのまま麻痺の分布になる。手や顔だけが落ちる小さな皮質病変もあれば、下肢の再現は大脳半球の内側面・に位置するため、この部位の病変では下肢優位のとして現れる。

末梢性では、単一神経の絞扼・圧迫・外傷によるの障害、、そしての障害(ポリオなど)のいずれもが1肢だけのとして現れうる。は感覚神経を巻き込まないため、感覚障害を伴わない純粋運動性のという組み合わせが特徴になる。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ 急性発症の中枢性は脳卒中の時間枠で扱う。 突然発症しUMN徴候を伴う1肢の脱力は、ほど派手でなくてもによる皮質病変でありうる。「1肢だけだから軽い」と判断せず、の時間枠に乗るかどうかを最優先で確認し、発症時刻の確定を後回しにしない。

⚠️ では、麻痺が出た時点で手遅れに近い。 は疼痛・蒼白・知覚低下が先行し、麻痺は末期徴候である。脈拍が触れることは否定所見にならない。臨床的な疑いだけで緊急を検討し、麻痺の出現を待ってから動くとが進む。

⚠️ は、両側化する前段階として様に見えることがある。 下肢の脱力が1肢に限局して見えても、膀胱直腸障害と鞍部(サドル型)感覚障害の有無を必ず確認する。これをで省くと緊急MRIの適応そのものを見逃し、として完成してからでは減圧の効果が乏しい。

⚠️ などを見落とさない。 下肢優位のが数週〜数か月かけてゆっくり進行する経過は、脳卒中のように分単位を急ぐ必要はなくても、などのを除外する必要がある。痙攣発作の併発や、夜間・起床時に強い頭痛があれば画像検査を急ぐ。

⚠️ )は、痛みが先、脱力は後という順序で診断する。 から上肢にかけての激しい疼痛が先行し、疼痛が軽快し始めた頃になって初めて脱力が明らかになる。疼痛の急性期には画像・の異常が乏しいことが多く、されやすい。経過の順序を聞き取ることが診断の鍵になる。

⚠️ ・機能性の脱力は、原因を尽くしたうえでのとして最後に置く。 分布が神経解剖と一致しない、脱力の程度が診察のたびに変動する、の下肢に力を入れさせると患側のに力が入る)などはを示唆する所見だが、除外を急いで疾患を見逃してはならない。

鑑別の進め方

中枢性を除外したら、末梢性の中でどの高さかを感覚障害の分布と経過で絞り込む。

高さ 感覚障害 特徴的な随伴所見
単一神経のに限局 絞扼部位の圧痛・、外傷や体位による圧迫の既往
複数神経根にまたがる広い分布 なら分娩・骨折・胸郭出口、なら・血腫・糖尿病性
に一致 咳・くしゃみで悪化する、対応
なし(純粋運動性) 。急性発症・発熱先行ならポリオ様疾患を疑う

感覚障害の有無と分布が、末梢性を絞り込む最大の手がかりである。 感覚障害を伴わない純粋運動性の脱力はを積極的に疑う所見であり、に一致した感覚障害はを、単一神経のに限局した感覚障害はを示唆する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monoparesis'>単麻痺</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>を確認する"] --> B{"秒〜分で完成したか"}
    B -->|"はい"| C["中枢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monoparesis'>単麻痺</span>として<br>脳卒中の時間枠で対応する"]
    B -->|"いいえ"| D{"激痛が先行し<br>疼痛軽快とともに脱力が出たか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuralgic amyotrophy'>神経痛性筋萎縮症</span>を疑う"]
    D -->|"いいえ"| F{"膀胱直腸障害や<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='saddle sensory disturbance'>サドル型感覚障害</span>はあるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conus medullaris'>脊髄円錐</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cauda equina syndrome'>馬尾症候群</span>として<br>緊急MRIにつなげる"]
    F -->|"なし"| H["UMN/LMN所見と感覚分布で<br>末梢性の高さを絞る"]

)は、だけでは区別しにくいを鑑別し、の分布から病変の高さを裏付ける。ただし発症直後(1〜2週間以内)はが完成しておらず偽陰性になりうるため、時期を空けて再検討する。

対応の考え方

そのものに対する治療は存在せず、対応は原因の除去・治療が中心になる。中枢性なら脳卒中プロトコルや、末梢性なら絞扼部のや神経叢・神経根の圧迫解除、なら原疾患の管理というように、鑑別で絞り込んだ高さと原因ごとに対応が分岐する。

原因治療と並行して、麻痺肢そのものへのケアも欠かせない。動かない関節は数日でに向かうため訓練を早期から始め、のようなによる二次的な変形をで予防する。回復が見込める末梢性病変(絞扼の解除後など)では、を最小化しながら神経再生を待つ期間のリハビリテーションが機能予後を左右する。回復の見込みが乏しい場合や慢性期には、によるな機能維持へ方針を切り替える。

まとめ

  • は1肢のみのの完全消失で、筋力低下にとどまればと呼ぶ。とは分布が異なるだけで、原因の高さは保証しない。
  • 皮質脊髄路は下るほど線維が密に収束するため、になりやすく、として中枢性が起こるのはまれ。病変が主な例外になる。
  • 末梢性のいずれかで、感覚障害の分布(単一神経・神経叢・・なし)が高さを絞る手がかりになる。
  • 急性発症の中枢性は脳卒中の時間枠で対応し、は麻痺が出た時点で末期徴候として扱う。
  • は膀胱直腸障害とを必ず確認し、両側化する前に緊急MRIへつなげる。
  • は激痛が先行し疼痛軽快とともに脱力が明らかになる経過が診断の鍵で、しやすい。
  • ・機能性の脱力は原因を尽くしたうえでのであり、最初に飛びつかない。
  • 対応は原因治療が中心だが、予防・による管理・リハビリテーションの位置づけを原因治療と並行して進める。