疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 外傷

腕神経叢損傷

Brachial plexus injury

臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G3-17:腕神経叢損傷症候群
鑑別疾患
末梢神経絞扼症候群頸椎・腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症
関連疾患
ギラン・バレー症候群
症状
しびれ単麻痺筋力低下神経障害性疼痛弛緩性麻痺麻痺Horner症候群翼状肩甲
元疾患
肩甲難産
原因となる疾患
肺癌

🧠 全体像はC5〜T1の神経根が根→幹→部→束→終末枝と段階的に再編成されながら上肢全体の運動・感覚を支配する構造で、単一の末梢神経1つの神経根だけでは説明できない上肢の筋力低下・感覚障害を見たらを疑う。病変がこの連鎖のどの高さにあるかを筋力・感覚・反射・Horner徴候から局在し、特にの神経根引き抜き損傷(脊髄からの根そのものが引き抜かれる損傷)はが乏しく、見逃さず早期に専門的な外科評価へつなぐことが予後を左右する。

解剖

flowchart TD
  A["神経根 C5〜T1"] --> B["上神経幹(C5-C6)・中神経幹(C7)・下神経幹(C8-T1)"]
  B --> C["前部・後部(divisions)"]
  C --> D["外側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fascicle'>神経束</span>・後<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fascicle'>神経束</span>・内側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fascicle'>神経束</span>"]
  D --> E["終末枝:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='musculocutaneous nerve'>筋皮神経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axillary nerve'>腋窩神経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial nerve'>橈骨神経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='median nerve'>正中神経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulnar nerve'>尺骨神経</span>"]

この根→幹→部→束→終末枝という順序に加え、より近位から分岐する(C5、)、(C5-C7、)、(上神経幹、)は、それぞれ単独で障害されると特徴的な所見(など)を呈し、病変の高さを推定する手掛かりになる。

原因

  • (バイク事故等での)、貫外傷、分娩時損傷(での牽引による産科的損傷)
  • 腫瘍による直接浸潤・圧迫(肺癌による型障害とが代表例)、動脈瘤、長時間の不良姿勢・体位による圧迫
  • ):やワクチン接種後などに誘発されるの急性有痛性炎で、激しい肩の疼痛の後に筋力低下が続く
  • 放射線治療後の遅発性線維化

局在ごとの臨床像

病変 筋力・特徴的 感覚・随伴所見
型(C5-C6、 肩の外転・の筋力低下。上肢が内転・位、肘伸展、前腕位をとる「 上腕〜前腕外側の
型(C8-T1、 )の麻痺による 前腕・手の。T1由来の交感神経路障害で)を伴いうる
全型(C5-T1) 上肢全体の 上肢全体の広範な感覚消失、
単独 の筋力低下による、頭上への挙上困難 感覚障害なし(純運動性)
単独 による低下 肩外側(「」)の

💡 出生時損傷では、型()が最も頻度が高く、が障害される一方で手指の機能は保たれることが多い。全型や型は重症度・予後不良の指標となりやすい。

診断

flowchart TD
    A["単一末梢神経・単一神経根で説明できない上肢の筋力低下"] --> B["筋力・感覚・反射・Horner徴候・血管損傷の有無を診察"]
    B --> C{"開放損傷・血管損傷・進行性圧迫はあるか"}
    C -->|"ある"| D["緊急で専門的評価(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravascular'>血管外</span>科・神経外科)"]
    C -->|"ない"| E["MRI神経叢、必要時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CT myelography'>CTミエログラフィ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomeningocele'>偽性髄膜瘤</span>・神経根引き抜き・腫瘍を評価"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle electromyography'>針筋電図</span>で局在・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axonal injury'>軸索障害</span>・再支配を評価(外傷直後は時期を置いて再検)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preganglionic'>節前性</span>(引き抜き)か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic'>節後性</span>かを鑑別し、回復見込みに応じて経過観察か外科的介入かを判断"]
  • 筋力・感覚・反射に加え、型・病変を示唆)と血管損傷の有無を必ず評価する。
  • MRI神経叢は神経根から終末枝までの構造を描出し、からの脊出を示す(神経根引き抜きを示唆する所見)の検出に優れる。
  • は局在・の程度・再支配の評価に有用だが、外傷直後はが完成するまで時間を要するため、受傷から2〜3週間以降に再検査することが望ましい
  • 病変(神経根引き抜き)の手掛かりが臨床的なにもかかわらず保たれる(より末梢のが温存されるため)、所見(より中枢の障害を示唆)、の合併。これらはが乏しく、早期の外科的介入(等)の適応を左右する重要な所見である。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brachial plexus injury'>腕神経叢損傷</span>の診断"] --> B{"開放損傷・血管損傷・進行性圧迫か"}
    B -->|"はい"| C["緊急探査・修復"]
    B -->|"いいえ"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint contracture'>関節拘縮</span>予防の理学・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='occupational therapy'>作業療法</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthosis'>装具</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pain management'>疼痛管理</span>を早期開始"]
    D --> E["経過観察しながら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical signs'>臨床所見</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrophysiology'>電気生理</span>を追跡"]
    E --> F{"想定される時期までに回復の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sign'>サイン</span>があるか"}
    F -->|"回復あり"| G["保存療法・リハビリテーションを継続"]
    F -->|"回復なし・進行性増悪"| H["神経縫合・神経移植・神経移行を専門施設で検討"]
    H --> I["晩期には腱移行など機能再建術を追加検討"]
  • 緊急性の判断: 損傷、血管損傷を伴う場合、進行性の圧迫症状がある場合は緊急の専門的評価・外科的介入を行う。
  • 保存療法: を防ぐためのによる保持、を損傷直後から並行して行う。
  • 外科的再建: 回復が乏しい(特に引き抜き損傷)では、神経縫合、神経移植(神経移植等)、健常な神経の一部を犠牲にして機能を再建するを、適切な時期に検討する。分娩時損傷では、が生後5〜6か月までに得られない場合を目安に神経再建術(神経移植・神経移行、またはその併用)の適応を検討し、回復パターンを毎月の診察で追跡することが実務上重要とされる。ただし手術適応・術式選択のエビデンスは発展途上であり、施設・症例ごとの専門的判断を要する。
  • 晩期には、機能回復が不十分な関節・動作に対してなどの二次的な機能再建術を追加することがある。

⚠️ の神経根引き抜き損傷は末梢での神経縫合・移植の対象にならない(脊髄側の断端が失われているため)。この場合は健常な神経(、対側C7神経根等)を用いたが主な外科的選択肢となる。

まとめ

  • はC5〜T1が根→幹→部→束→終末枝と再編される構造で、単一末梢神経・単一神経根で説明できない上肢障害を見たらを疑う。
  • 型(C5-C6、)・型(C8-T1、を伴いうる)・全型を筋力・感覚・反射の分布で局在する。
  • 、分娩時損傷)と非(腫瘍、、放射線後線維化)の両方を鑑別に挙げる。
  • MRI神経叢・を組み合わせ、特に引き抜き損傷(SNAP温存、)を見逃さない。
  • 保存療法(リハビリ・)を基本としつつ、回復が乏しい重症例・病変では神経移植・神経移行などの外科的再建を適切な時期に専門施設で検討する。