脳神経内科学

脳神経内科学 · G3-17

腕神経叢損傷症候群

G3-17: Syndrome of brachial plexus damage

前提:正常
上肢:肩と腋窩
疾患
神経痛性筋萎縮症腕神経叢損傷
症状
Horner症候群翼状肩甲

🧠 全体像:障害はC5〜T1の複数末梢神経領域にまたがる筋力・を生む。根、幹、束、終末枝のどこかを局在し、神経根引き抜きを見逃さない。

解剖の幹

flowchart TD
  A["神経根 C5〜T1"] --> B["上・中・下神経幹"]
  B --> C["前部・後部"]
  C --> D["外側・後・内側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fascicle'>神経束</span>"]
  D --> E["筋皮・腋窩・橈骨・正中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulnar nerve'>尺骨神経</span>"]

画像の図では、この根→幹→部→束→終末枝の順序に加え、、、などが近位から分岐する。したがってなどは病変の高さを示す。

原因

  • 、牽引、貫通傷、分娩時損傷
  • 腫瘍、動脈瘤、長時間体位による圧迫
  • ()
  • 放射線後線維化

💡 は稀ではなく、回復も不完全なことが多い。 オランダの一次医療でのでは年間が人口1,000人あたり1人と、それまで考えられていたより30〜50倍多いと推定された1。246例の研究でも、3年以上追跡できた患者の約3分の2に疼痛・筋力低下が残存しており、全体の回復は従来考えられていたより不良である2。

💡 分娩麻痺の率は病型で大きく異なる。 しばしば75〜95%と紹介されるが、文献レビューではNarakas分類I・II型(型優位)で生後3か月時点の機能回復が64%・6か月時点の完全回復が65%だったのに対し、III・IV型(型を含む全型)ではそれぞれ9%・14%にとどまった3。

代表的局在

病変 筋力・姿勢 感覚・随伴
型 C5–C6 ・、低下。内転・肘伸展・前腕の「ウェイターのチップ」 上腕〜前腕外側
型 C8–T1 麻痺、 前腕・手内側。T1交感路で
全型 C5–T1 上肢 広範な感覚消失、
低下、、困難 感覚障害なし
による低下 肩外側の「」

診断

  • 筋力、感覚、反射、、血管損傷を診察する。
  • 神経叢、脊髄、でや神経根引き抜き、腫瘍を評価する。ただし頸部での所見は根のレベルによって感度が10〜62%と低く、C6〜C8ではがあっても筋力が一部保たれる例が2割以上あるため、単独では根引き抜きの確定所見にならない4。
  • とは局在、、を評価するが、外傷直後は時期を置いた再検が必要である。
  • 病変ではが保たれうる一方、のやが手掛かりとなる。

治療

  • ・血管損傷・進行性圧迫は緊急専門評価を行う。
  • を防ぐ理学・、、疼痛治療を早期から行う。
  • 回復しないでは神経縫合、神経移植、神経移行、後期のを適切な時期に検討する。

まとめ

  • 単一末梢神経で説明できない上肢障害ではを考える。
  • C5–6型、C8–T1型、全型を筋力・感覚・反射で局在する。
  • 引き抜きはが乏しく、早期の専門的外科評価が重要である。

出典

  1. 1.Incidence of neuralgic amyotrophy (Parsonage Turner syndrome) in a primary care setting--a prospective cohort study(PLoS ONE・2015)オランダの一次医療2施設(対象人口14,118人)で2012年の1年間を前向きに追跡したコホート研究で、古典的な神経痛性筋萎縮症(Parsonage-Turner症候群)の年間発生率は人口1,000人あたり1人で、それまで考えられていたより30〜50倍多いと推定された閲覧 2026-08-27
  2. 2.The clinical spectrum of neuralgic amyotrophy in 246 cases(Brain・2006)特発性246例・遺伝性47例の神経痛性筋萎縮症患者を検討した研究で、上・中神経幹領域(長胸神経・肩甲上神経を含む)の障害が71.1%と最多であり、3年以上追跡できた患者の約3分の2で疼痛・筋力低下が残存し、全体の回復は従来考えられていたより不良だった閲覧 2026-08-27
  3. 3.Prognosis following neonatal brachial plexus palsy: an evidence-based review(Journal of Children's Orthopaedics・2009)分娩麻痺の自然回復率は75〜95%とされてきたが、Narakas分類I・II型(上位型優位)では生後3か月時点の上腕二頭筋機能回復が64%・6か月時点の完全回復が65%であったのに対し、III・IV型(下位型を含む全型)ではそれぞれ9%・14%にとどまり、病型により自然回復率が大きく異なることを示した文献レビュー閲覧 2026-08-27
  4. 4.Is Pseudomeningocele an Absolute Sign of Root Avulsion Brachial Plexus Injury?(The Journal of Hand Surgery (Asian-Pacific Volume)・2018)腕神経叢損傷201例の後方視的検討で、頸部脊髄造影における偽性髄膜瘤所見の根引き抜きに対する感度は根のレベルにより10〜62%と低く、特異度はC5(91%)とT1(96.2%)でのみ高かった。C6〜C8で偽性髄膜瘤を認めた症例の2割以上でなお筋力が一部保たれており、偽性髄膜瘤単独では根引き抜きの絶対的な指標にならないことを示した閲覧 2026-08-27