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Symptoms · Published

翼状肩甲

Winged scapula

別名
翼状肩甲骨
臓器系
神経運動器
科目
AnatomyNeurology
トピック
解剖学 5.1:上肢:胸筋部と乳房解剖学 1.2:背部・脊柱:筋と筋膜解剖学 8.3:頸部:血管と神経神経学 G3-17:腕神経叢損傷症候群
関連疾患
腕神経叢損傷

🧠 全体像は、を胸壁へ固定する筋の麻痺により内側縁が背面から浮き上がる所見である。どの筋が弱っているかは、下角がどちらへ振れるか、どの動作で誘発されるかで見分けられる——壁を押す動作で目立てば)、腕の外転で目立てば)を疑う。感覚障害を伴わない純運動性の所見であることが多く、単一末梢神経の孤立性麻痺として説明がつく例が大半を占める一方、医原性の損傷、腫瘍やのような疾患を見逃さないことが診療の骨格になる。

定義と用語の整理

は、を胸壁に貼り付ける筋————のいずれかが麻痺し、安静時または特定の動作時に内側縁(多くは下角を含む)が翼のように胸壁から浮き上がる所見を指す。単独の疾患名ではなく、責任筋とその支配神経を絞り込むための身体所見である。

臨床的に区別すべき3つの型がある。

責任筋 支配神経 下角の動き 誘発動作
(C5-C7) 内側(脊柱側)へ回旋 壁を押す動作、腕の前方挙上
(CN XI) 外側・下方へ回旋、肩全体が下垂 腕の外転(側方挙上)
(C5) 安静時から軽度に 腕を体側で後方へ伸展・手を腰に当てて後方へ押す

麻痺)が最も頻度が高く、日常診療で「」と言えばまずこの型を指す。)は頸部手術の合併症として重要であり、型は他の2筋による代償のため所見が乏しく見逃されやすい。

病態生理

3筋はいずれもを胸壁へ固定・安定化させるが、力の向きが異なるため、麻痺したときの偏位の方向と誘発動作も筋ごとに異なる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scapula'>肩甲骨</span>を胸壁へ固定する筋"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serratus anterior'>前鋸筋</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long thoracic nerve'>長胸神経</span> C5-C7)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trapezius'>僧帽筋</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='accessory nerve'>副神経</span> CN XI)"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhomboid muscle'>菱形筋</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal scapular nerve'>肩甲背神経</span> C5)"]
  B -->|"麻痺"| B1["拮抗する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhomboid muscle'>菱形筋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levator scapulae'>肩甲挙筋</span>が優位になり<br>下角が内側へ回旋"]
  B1 --> B2["壁を押す動作・腕の前方挙上で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial winging'>内側翼状</span>が増強"]
  C -->|"麻痺"| C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scapula'>肩甲骨</span>の上方回旋を支える力源が失われる"]
  C1 --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scapula'>肩甲骨</span>が外側・下方へ下垂し<br>腕の外転で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral winging'>外側翼状</span>が増強、挙上も制限"]
  D -->|"麻痺"| D1["安静時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scapula'>肩甲骨</span>を脊柱側へ引く力が失われる"]
  D1 --> D2["下角が軽度外側へ偏位するが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='serratus anterior'>前鋸筋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trapezius'>僧帽筋</span>の代償で目立ちにくい"]

💡 を胸壁に押し付けながら・上方回旋させる筋で、腕を前方へ押し出す・挙上する動作の主動作筋である。麻痺すると)の作用が相対的に優位になり、下角が内側かつ後方へ回旋して浮き上がる。(特に中部・下部線維)はと共同してを上方回旋させるを形成するため、麻痺すると肩全体が外側・下方へ落ち込み、外転が制限される点で麻痺と区別できる。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ は、で横切る解剖学的特徴のために損傷しやすく、の原因として頻度が高い。術中に神経が同定・温存されたかどうかの手術記録を確認し、術後の肩下垂・外転制限・慢性疼痛を見たら早期に評価する。

⚠️ 腫瘍・などのの近位(神経根・神経幹レベル)から分岐するため、を巻き込む腫瘍性病変や肺癌)の浸潤でもを来しうる。孤立性の麻痺として片付ける前に、進行性の経過や他の神経症状(領域の疼痛・)を伴っていないかを確認する。

⚠️ などの疾患では、単一神経の支配領域に一致しない両側性・進行性のを来す。や他部位のを伴う場合は、末梢神経の孤立性麻痺ではなく疾患を疑う。

⚠️ やワクチン接種後などに誘発されるの急性炎で、激しい肩の疼痛が先行し、疼痛が軽快する頃になど特定の神経の脱力・が明らかになることがある。外傷歴のない急性発症例では必ず病歴に含めて確認する。

鑑別の進め方

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scapula'>肩甲骨</span>内側縁の翼状変形を認める"] --> B["誘発<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limb position (posture)'>肢位</span>を確認"]
  B -->|"壁を押すと増強・下角が内側へ"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serratus anterior'>前鋸筋</span>麻痺(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long thoracic nerve'>長胸神経</span>)を疑う"]
  B -->|"腕を外転すると増強・肩が下垂"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trapezius palsy'>僧帽筋麻痺</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='accessory nerve'>副神経</span>)を疑う"]
  B -->|"安静時から軽度・後方伸展で目立つ"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhomboid muscle'>菱形筋</span>麻痺(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal scapular nerve'>肩甲背神経</span>)を疑う"]
  C --> F["感覚障害の有無を確認"]
  D --> F
  E --> F
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>を確認<br>(頸部手術後か・有痛性先行か・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slowly progressive'>緩徐進行性</span>か)"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle electromyography'>針筋電図</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span>で局在を確認"]
  H --> I{"両側性・他部位の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle wasting (muscle atrophy)'>筋萎縮</span>を伴うか"}
  I -->|"該当"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span>(FSHD等)を考慮"]
  I -->|"該当しない・進行性増悪"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brachial plexus'>腕神経叢</span>MRI・頸部〜胸部画像で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass lesion'>占拠性病変</span>を除外"]

はいずれも運動枝が主体で、単独損傷では感覚障害を伴わないことが鑑別の手掛かりになる。感覚障害や)を伴う場合は、単一神経の孤立性麻痺ではなく障害のように、より近位の病変を考える。誘発で責任筋・原因をある程度絞り込んだうえで、で局在と重症度(の有無)をに評価し、進行性の経過やを疑う所見があれば画像検索へ進む。

対応の考え方

対応は、所見そのものへの介入ではなく原因への対応との見極めが中心になる。

  • 原因の除去・治療:反復する重量負荷(リュックサック様の圧迫)や不良姿勢が疑われれば動作・姿勢の是正を行う。が確認されれば原疾患の治療を優先する。では急性期のを行いつつ経過を追う。
  • 保存療法:多くの孤立性の麻痺・麻痺は、原因が除去されればしうる。回復には長期間を要することがあり、その間は姿勢指導と安定化を目的としたを継続する。既製のを胸壁へ押し付ける固定力に限界があり、症状緩和の補助にとどまる。
  • 手術適応の判断:術中に神経が明らかに切断された場合は早期の神経修復を検討する。それ以外の症例では、十分な保存的経過観察とでの再神経支配の評価を行っても改善が乏しい遷延例に限り、麻痺に対するに対するなど)を専門施設で検討する。手術適応・術式選択は施設・症例ごとの判断に委ねられる部分が大きい。

まとめ

  • を胸壁に固定する筋の麻痺による所見で、責任筋を「下角の向き」と「誘発動作」で見分ける。
  • 、壁押しで増強)、、外転で増強)、型(安静時から軽度)の3型を区別する。
  • )はの代表的原因であり、術後の肩下垂・外転制限を見たら早期に評価する。
  • の単独損傷は運動枝が主体で感覚障害を伴わないが、感覚障害を伴う場合はや神経根レベルの病変を考える。
  • 腫瘍・などのと、両側性・進行性の(FSHD等)を除外する。
  • 多くは保存療法(原因の除去、姿勢指導・安定化の)でしうるが、改善が乏しい遷延例ではを検討する。