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Disease Atlas · 運動器 · 先天性疾患

肢帯型筋ジストロフィー

Limb-girdle muscular dystrophy

別名
LGMD四肢帯型筋ジストロフィー
臓器系
運動器神経
科目
PathologyNeurology
トピック
病理学 C/95:筋萎縮・筋ジストロフィー・筋炎神経内科 G1-34:ミオパチー神経内科 G3-23:筋炎とミオパチー
鑑別疾患
デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィー顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー筋強直性ジストロフィー脊髄性筋萎縮症糖原病皮膚筋炎・多発筋炎
合併症
拡張型心筋症横紋筋融解症
症状
筋力低下翼状肩甲脊柱側弯症拘縮筋痛
検査値
クレアチンキナーゼ針筋電図スパイロメトリー

🧠 全体像:は1つの病気ではなく「診断の枠」である。⭐ と(=肢帯)の近位筋が対称性に落ちる遺伝性のうち、既知の型のどれでもないものを集めた受け皿として出発し、が分かるたびに枝が増えてきた。だから覚えるべきは個々の遺伝子名ではなく、⭐ 「近位筋・・筋病理はジストロフィー性・顔面とは保たれる」という共通の骨格と、⚠️ 2018年に番号の付け方が丸ごと変わったという一点である1。臨床では「+高値の若年〜成人」を見たときに、・・を外したうえで残る群、という位置づけになる。

2018年の再定義——「基準を満たすものだけがLGMD」になった

Straubらによる第229回ENMC国際ワークショップ(2017年開催、2018年報告)が、名称と分類を作り直した。定義そのものがになった点が最大の変更である1。

要件 内容
骨格筋を主に侵す遺伝性疾患で、発症時にの進行性筋力低下を来す
家系数 血縁のない2家系以上で記載されている
到達 罹患者がを獲得している(と分ける)
血液検査 血清活性が上昇する
画像 経過中に筋画像で変性所見を示す
病理 でを示す

1

💡 「を獲得している」という条件が効いている。 歩行を獲得しないまま経過するはこの定義から外れ、成人発症の型は含まれる。は発症年齢の病気ではなく、到達点と分布の病気として括り直された。

新旧の命名法——番号の意味が入れ替わった

⚠️ 旧番号と新番号は形が似ているのに意味が違う。ここを取り違えると遺伝形式を逆に読む。

旧(〜2017年) 新(2018年〜)
遺伝形式の表し方 数字(1=常染色体優性、2=) 文字(D=dominant、R=recessive)
型の識別 ベット(発見順) 数字(発見順)
例 LGMD1A、LGMD2A D1、 R1

1

⭐ 2A の 2 は劣性、D2 の 2 は発見順——数字の役割が入れ替わっている。

主な対応は次のとおり1。

新 旧 遺伝子 蛋白
D1 1D DNAJB6 DNAJ homolog B6
D2 1F TNPO3 transportin 3
D3 1G HNRNPDL hnRNPDL
D4 1I CAPN3 (優性型)
D5 の優性型 COL6A1/2/3
R1 2A CAPN3
R2 2B DYSF
R3〜R6 2D/2E/2C/2F SGCA/SGCB/SGCG/SGCD α/β/γ/δ
R7 2G TCAP
R8 2H TRIM32 TRIM32
R9 2I FKRP
R10 2J TTN
R11/R14 2K/2N POMT1/POMT2
R12 2L ANO5
R13 2M FKTN
R23 — LAMA2

⚠️ 4型だけは新旧の並びが揃っていない(旧2C=γ→新R5、旧2D=α→新R3)。⭐ 新分類ではαβγδの順にR3・R4・R5・R6と整理されたので、新番号のほうが覚えやすい。

分類から外された旧LGMD

⚠️ 旧のうち9型が、要件を満たさないとして分類から外れた。文献にはまだ旧名で登場する。

外れた旧型 遺伝子 外れた理由
LGMD1A MYOT 筋力低下が遠位優位(・足・下腿)
LGMD1B LMNA を伴う
LGMD1C CAV3 筋のrippling(さざ波様収縮)と筋痛を伴う
LGMD1E/LGMD2R DES 遠位優位、かつ心筋症を伴う
LGMD1H 未同定 原因蛋白が特定されていない
LGMD2V GAA として独立(II型)
LGMD2W/LGMD2Y LIMS2/TOR1AIP1 1家系しか報告がない(2家系要件)

1

💡 逆に、それまででなかったものが入ってきた。 (COL6A1/2/3)が優性型D5・劣性型R22、LAMA2 関連がR23、POMGNT2 関連がR24、BVES 関連(旧LGMD2X)がR25として加わっている1。「かどうか」は基準への当てはまりで決まるので、分類は今後も出入りする。

蛋白の局在で覚える

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limb-girdle muscular dystrophy'>肢帯型筋ジストロフィー</span>の原因蛋白"] --> B["細胞膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dystrophin-associated protein complex'>ジストロフィン関連複合体</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sarcoglycan'>サルコグリカン</span>(R3〜R6)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dysferlin'>ジスフェルリン</span>(R2)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcomere'>サルコメア</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Z-disc'>Z帯</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Calpain-3'>カルパイン3</span>(R1・D4)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Telethonin'>テレソニン</span>(R7)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Titin'>タイチン</span>(R10)"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Alpha-dystroglycan'>αジストログリカン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycan modification'>糖鎖修飾</span><br>FKRP(R9)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fukutin'>フクチン</span>(R13)・POMT1/2(R11・R14)"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='type VI collagen'>VI型コラーゲン</span>(D5・R22)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laminin alpha-2'>ラミニンα2</span>(R23)"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcolemma'>筋線維膜</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor weakness'>脆弱化</span>・修復不全"]
    C --> F
    D --> F
    E --> F
    F --> G["収縮のたびに筋線維が壊れる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperCKemia'>高CK血症</span>・ジストロフィー性病理)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Proximal-predominant'>近位優位</span>の筋力低下と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle wasting (muscle atrophy)'>筋萎縮</span>"]

⭐ 群(FKRP・FKTN・POMT1/2)は、同じ遺伝子の重症端がやになる——軽症端がとして現れるというを押さえておく。

疫学と、実際に見つかる型

米国で臨床的にが疑われた4,656例に35遺伝子のパネル検査を行った研究では、が確定したのは27%(95%信頼区間26〜29%)にとどまった。で寄与が大きかったのは CAPN3 17%・DYSF 16%・FKRP 9%・ANO5 7% である2。

  • ⚠️ 7割は確定しない。 同研究では遺伝学的に確定したが想定より多く見つかっており、⭐ 治療可能な疾患を拾うことがパネル検査の実利である2。
  • 複数の関連遺伝子にを併せ持つ例が多く、やの寄与を診断の枠組みに含める必要が示唆された2。
  • 優性型が全体の10%未満であること、が1万4,500人に1人〜12万3,000人に1人であることは、同論文が先行文献から引用している値であって同研究の測定値ではない2。

最多の( R1/D4)は全体の約30%を占めるとされるが、⚠️ 地域差が4〜80%と極端に大きい(のある集団で高い)3。

臨床像——カルパイン3異常症を型として覚える

発症年齢は2〜40歳と幅広く、早期の運動発達は通常正常である3。

病期 所見
発症前 のみ。小児・若年で見つかり、後年に筋力低下が出る
初発 、走りにくさ、
早期 と軽度の。殿筋・・四肢後面が強く侵される左右対称性の筋力低下。腹筋の著明な弛緩、早期のと。⭐ ・は保たれる
昇降・椅子からの起立・床からの起き上がりが困難。股・膝・肘・手指の

3

表現型は3つに分かれる——から始まる(、最多)、から始まる(、経過は概して軽い)、そしてのみの型3。

⚠️ 変動する所見が診断を惑わせる。 ・筋痛と乳酸上昇を示す様の像、若年期に一過性にみられる、運動を契機とするが起こりうる3。「筋炎に見えるが免疫抑制療法が効かない」という経過は、と同じくでも起こる。

呼吸と心臓の扱いは型で違う。 では・胸腹部筋力低下・によりが30〜50%まで低下しうるが、50%未満は11%にとどまり、心筋症はまれである3。一方で⚠️ (R3〜R6)や FKRP 関連(R9)では・が問題になるので、「だから心臓は見なくてよい」とは言えない。型が決まるまでは評価する。

診断

  1. … 上昇が新定義の要件そのもの。正常なら診断を考え直す1。
  2. … の確認と疾患の除外。
  3. … 侵される筋の分布が型を絞る。新定義でも画像上の変性所見が要件に入っている1。
  4. / … 現在の中心で、⭐ より先に回す。
  5. と免疫染色 … 遺伝学的に決まらないとき。が完全に欠損していればである確率は84%で、検出量が増えるほど確率は下がる3。

鑑別は分布と付随所見で切る。

鑑別 分ける手がかり
。男児、下腿の、著明な高値
顔面が侵される、⭐ 左右非対称、はの3〜5倍を超えにくい
と遠位優位、・・内分泌異常などの
亜急性の経過、皮疹、炎症所見。免疫抑制療法が効く
(II型) 呼吸筋が筋力に不釣り合いに早く落ちる。酵素活性・があるので必ず外す
(、で)

治療と管理

⚠️ は無く、管理は対症的である1。それでも「見るべきものを決まった間隔で見る」ことが予後を変える。

  • 監視:年1回の筋力・・整形外科的合併症(・・)の評価。の症状(睡眠障害・早朝頭痛・日中の眠気)を毎回聞き、疑えばを座位と仰臥位の両方で測る。には心機能を評価する3。
  • 避けるもの:過度の運動、肥満と過度の体重減少、外傷・骨折・3。
  • ⚠️ 麻酔:可能な限りとを避ける3(様の反応との危険)。
  • ⚠️ 可能な限り(スタチンなど)を避ける——筋症状を増悪させる3。

まとめ

  • ⭐ LGMDは肢帯(・)の近位筋が対称性に侵される遺伝性の枠であり、2018年のENMC分類で定義そのものが基準化された(・2家系以上・獲得・上昇・筋画像の変性・ジストロフィー性病理)。
  • ⚠️ が変わった。 旧「LGMD1/2+ベット」から新「 D/R+数字」へ。旧では数字が遺伝形式、新では文字が遺伝形式で、数字の意味が入れ替わっている。旧番号は今も文献に残るので両方を読めるようにしておく。
  • ⚠️ 旧のうちLGMD1A・1B・1C・1E・1H・2R・2V・2W・2Yが要件を満たさず外れ、逆に・LAMA2 関連・POMGNT2 関連・BVES 関連が加わった。LGMD2Vはである。
  • 原因蛋白は細胞膜///の4群で覚える。へのパネル検査で確定するのは27%で、CAPN3・DYSF・FKRP・ANO5 がを占める。⭐ 治療可能なを拾うことが検査の実利。
  • 最多のは顔面・頸部を侵さず、殿筋・・四肢後面が強く落ちる。発症前段階のという入口がある。⚠️ 心筋症はまれだが、・FKRP 関連ではが問題になる。型が決まるまでは心臓を評価する。
  • ⚠️ 管理で必ず伝えるのは、・・スタチンを避けることと、を症状で拾ってを座位・仰臥位で測ることである。

出典

  1. 1.Limb-Girdle Muscular Dystrophies Classification and Therapies(Journal of Clinical Medicine・2023)Europe PMCで全文を確認した。旧分類がLGMD1(常染色体優性)・LGMD2(常染色体劣性)に発見順のアルファベットを付す形であったこと、Straubら(2018)の新分類がLGMDのあとに劣性ならR・優性ならDを置き発見順の番号を続ける形であること、新分類が採る定義を原文どおり引用していること(骨格筋を主に侵し発症時に近位優位の進行性筋力低下を来す遺伝性疾患で、独歩を獲得した患者を含む血縁のない2家系以上で記載され、血清クレアチンキナーゼ活性が上昇し、経過中に筋画像で変性所見を示し、筋病理で筋ジストロフィー性変化を示すこと)、旧LGMD1A(MYOT)が遠位優位のため、1B(LMNA)が心不整脈を伴うため、1C(CAV3)が筋のripplingと筋痛を伴うため、1E(DES)が遠位筋力低下と心筋症を伴うため、1H(原因蛋白未同定)・2W(LIMS2、1家系のみ)・2Y(TOR1A1P1、1家系のみ)が要件を満たさないため、2R(DES)が遠位優位のため新分類から外れたこと、2V(GAA)が現在Pompe病と呼ばれLGMDに分類されないこと、新たにBethlem型ミオパチーの優性型がLGMD D5・劣性型がLGMD R22、LAMA2関連筋ジストロフィーがLGMD R23、POMGNT2関連筋ジストロフィーがLGMD R24、BVES関連(旧LGMD2X)がLGMD R25としてLGMDに加えられたこと、旧番号と新番号の対応(1D→D1/1F→D2/1G→D3/1I→D4、2A→R1/2B→R2/2C→R5/2D→R3/2E→R4/2F→R6/2G→R7/2H→R8/2I→R9/2J→R10/2K→R11/2L→R12/2M→R13/2N→R14/2O→R15/2P→R16/2Q→R17/2S→R18/2T→R19/2U→R20/2Z→R21)と各型の原因遺伝子・蛋白、本総説が39遺伝子を扱っていること、現時点で患者に利用できるのは対症療法のみであることを確認した。なお本総説の表・本文にはPOMT1関連の記述にLGMD 2Jと誤記された箇所があるなど誤植があり、本ノートでは対応表の値を採った閲覧 2026-09-02
  2. 2.Genetic landscape and novel disease mechanisms from a large LGMD cohort of 4656 patients(Annals of Clinical and Translational Neurology・2018)Europe PMCで全文を確認した。2015年6月〜2017年6月に米国全土でLGMDが臨床的に疑われた4,656例に次世代シークエンサーによる遺伝子パネル検査(35遺伝子)を行い、分子診断が確定したのは27%(1,259例、95%信頼区間26〜29%)であったこと、確定例で寄与の大きかった遺伝子がCAPN3(17%)・DYSF(16%)・FKRP(9%)・ANO5(7%)であったこと、遺伝学的に確定した遅発型Pompe病、DNAJB6関連の旧LGMD1E、CAPN3関連の常染色体優性LGMDの頻度が想定より高かったこと、複数のLGMD関連遺伝子に病的バリアントを併せ持つ例が多く、synergistic heterozygosityや二遺伝子性の寄与を診断の枠組みに含める必要が示唆されたことを確認した。なお緒言の「優性型はLGMD全体の10%未満」「有病率1万4,500人に1人〜12万3,000人に1人」は本研究の測定値ではなく先行文献からの引用値である閲覧 2026-09-02
  3. 3.Calpainopathy(GeneReviews (University of Washington, Seattle / NCBI Bookshelf)・2025)Europe PMCのbookXMLで全文を確認した(最終包括改訂2022年12月1日、2025年5月1日にClinGen解釈指針の改訂、Angelini C・Fanin M)。カルパイン3の異常は劣性型・優性型の双方を起こすためcalpainopathyが推奨語であること、calpainopathyがLGMDのうち最も多く世界全体の約30%(地域により4〜80%)を占め、北東イタリアで10万人あたり約1人(保因者頻度約1:160)、南イタリアで4万2,700人に1人(同約1:103)と推定されたこと、発症年齢が2〜40歳で早期の運動発達は通常正常であること、表現型が骨盤帯から始まるpelvifemoral型(Leyden-Möbius型、最も多い)・肩甲帯から始まるscapulohumeral型(Erb型、経過は概して軽い)・高CK血症のみの3つに分けられ、高CK血症は発症前段階とみなしうること、初発所見がつま先歩き・走りにくさ・翼状肩甲であること、早期には動揺性歩行と軽度の腰椎前弯、殿筋・大腿内転筋・四肢後面が強く侵される左右対称性の近位優位筋力低下、翼状肩甲、腹筋の著明な弛緩、早期のアキレス腱短縮と側弯がみられ、顔面筋・頸部筋は通常保たれること、運動不耐・筋痛と乳酸上昇を示す偽代謝性ミオパチー様の像、若年期に一過性にみられる好酸球性筋炎、下腿の萎縮(まれに肥大)、運動を契機とする横紋筋融解症が変動する所見であること、進行期には階段昇降・椅子からの起立・床からの起き上がりが困難となり股・膝・肘・手指に拘縮が生じること、呼吸不全は横隔膜機能低下・胸腹部筋力低下・側弯により肺活量が30〜50%まで低下しうるが努力性肺活量50%未満は11%にとどまること、心筋症はまれで心血管MRIによる系統的評価では進行例でも心病変を認めなかったとする報告があること、筋のカルパイン3が完全に欠損している場合にcalpainopathyである確率が84%で検出量が増えるほど確率が下がること、管理が対症的で年1回の筋力・関節可動域・整形外科的合併症の評価、夜間低換気の症状評価と座位・仰臥位両方での努力性肺活量測定、進行期の心機能評価を行うこと、過度の運動・肥満・過度の体重減少・外傷・骨折・長期臥床を避けること、可能な限りスキサメトニウムとハロゲン化吸入麻酔薬を避け、可能な限りコレステロール低下薬(スタチンなど)を避けることを確認した閲覧 2026-09-02