病理学

病理学 · C/95

筋萎縮・筋ジストロフィー・筋炎

Muscular atrophy, dystrophies and myositis

応用トピック
皮膚筋炎自己免疫性筋疾患全身性自己免疫疾患:全身性強皮症・炎症性筋疾患・混合性結合組織病全身性エリテマトーデス・強皮症・皮膚筋炎・血球貪食性リンパ組織球症
疾患
デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィー顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー筋強直性ジストロフィー肢帯型筋ジストロフィー皮膚筋炎・多発筋炎封入体筋炎
症状
ミオトニア
検査値
クレアチンキナーゼ

🧠 全体像:筋の脱力は「どこが壊れているか」で3つに分けて考える——神経支配の喪失による、遺伝子変異による欠損()、自己免疫によるT細胞・抗体介在性の筋線維傷害(筋炎)。特に筋炎3型は近位/遠位・対称/非対称・皮疹の有無で鑑別する。

筋萎縮

定義

  • 様々な筋疾患での非特異的な反応 → 異常に小さい筋線維。

原因

1.

  • 神経支配の喪失 → 単一ニューロンの喪失 → 1のすべての筋線維を侵す。
  • 例:ALS、ポリオ、末梢神経障害、脊髄病変。
  • 組織像:+線維型の群集化()。

2.

  • 最小限の、、不動()。
  • 主にII型線維(速筋)。
  • 萎縮筋線維のランダムな分布。

3. ・

  • または内因性Cushing。
  • II型線維の萎縮(に類似)。

4.

  • の筋疾患(例:ジストロフィー)。

筋ジストロフィー

定義

  • 遺伝性疾患(しばしば小児期)。
  • 筋線維の進行性変性 → 脱力+。
  • :筋線維がに置換。

X連鎖性筋ジストロフィー

Duchenne型筋ジストロフィー

  • 最も多く、最も重症。
  • 5歳までに明らかに、無治療のでは10〜12歳で、20歳代前半で死亡とされてきた。現在はステロイド(・)が標準治療で、無作為化試験では0.75 mg/kg/日の/が6か月時点の筋力・機能をより改善した。一方、歩行可能期間の延長は無作為化試験のデータではできず、非のが毎日投与による延長を示唆している段階である1。
  • 呼吸・心臓管理の進歩で生存も延びている。日本の単施設の報告では、1984年以前の無治療群(56例)が平均18.6歳で死亡したのに対し、+で管理した群(88例)は50%生存が39.6歳に達した2。治療時代の予後として、旧来の数字をそのまま説明しない。

Becker型筋ジストロフィー

  • 頻度は低く、DMDよりはるかに軽症、発症が遅く、進行が遅い。

発生機序

  • X(Xp21)のの変異。最も多いのはエクソン単位の欠失で、で確定したインドの317例では欠失91.8%・重複8.2%だった3。
  • ヒトゲノムで最大の遺伝子。
  • :(–糖タンパク複合体を介して)筋節を細胞膜に連結することで筋細胞の構造的・機能的を維持。
  • DMD:が欠如。
  • BMD:は短縮・減少するが存在。

💡 DMDとBMDの重症度の違いは、変異がの翻訳(リーディングフレーム)を壊すかどうかでおおむね説明される(リーディングフレーム則)。 エクソン欠失がを起こす(がずれる)とmRNAが早期に終止しがほとんど作られずDMDになり、欠失があってもが保たれる(in-frame)と短縮型ながら部分機能をもつが作られBMDになる。この対応はコホートでDMDの90%・BMDの94%に成立する3。薬(エクソン51スキップを狙うなど)は変異周辺のエクソンを人為的に読み飛ばしてを回復させる治療で2016年に米国のを得たが、適合する変異をもつDMD患者は全体のおよそ14%にとどまる4。

flowchart TD
    A["Xp21の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dystrophin gene'>ジストロフィン遺伝子</span>欠失"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dystrophin'>ジストロフィン</span>タンパクの欠如"]
    B --> C["筋節と細胞膜の連結喪失"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcolemma'>筋細胞膜</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor weakness'>脆弱化</span>"]
    D --> E["筋線維の壊死・変性"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrofatty tissue'>線維脂肪組織</span>への置換"]

形態

  • 線維サイズの多様性(肥大+萎縮)。
  • :線維の分裂、壊死。
  • 脂肪組織の浸潤()。

臨床像

DMD

  • 下腿筋の(初めは肥大、次いで変性し脂肪・に置換)。
  • 近位筋の脱力 → (手で脚をよじ登って立ち上がる)。
  • 心不全、、中枢神経障害。
  • 血清()上昇。
  • 死因:呼吸不全、。

BMD

  • 症状はより遅く発現、進行が遅く、正常または正常に近い寿命。

常染色体性筋ジストロフィー

肢帯型筋ジストロフィー

筋強直性ジストロフィー

  • 常染色体優性。
  • 19番染色体のDMPK遺伝子()の3′にあるCTGの伸長(1型)6。反復は蛋白をコードする部分の外にある。
  • :世代を経るごとに早期・重症化。
  • = 持続する不随意収縮(ドアノブ・取っ手を放しにくい)。
  • の発症は典型的に20〜30歳代だが、小児期にやなどので気づかれることもある。主症状は遠位筋の筋力低下で、・に至る6。・の脱力も目立つ。
  • 関連:、、、心筋症。

筋炎

概要

  • 筋の炎症(総称)。
  • すべての型:初めに体幹・頸部・四肢の大筋を侵す筋力低下()。

A)皮膚筋炎

  • 筋+皮膚の炎症。
  • 抗体介在性傷害(液性、補体が毛細血管を攻撃 → )。
  • 皮疹:
    • :紫色の上眼瞼+。
    • :指関節、肘、膝。
    • :・肩。
  • のリスク増加(特に女性)— 傍腫瘍性の関連。
  • 抗Jo-1、抗Mi-2抗体、抗TIF1-γ抗体(悪性腫瘍の合併と関連し、日本の単施設の抗TIF1-γ抗体陽性14例では12例に悪性腫瘍を認めた)7。

B)多発性筋炎

  • 自己免疫 — CD8⁺ T細胞の炎症浸潤 → 筋線維壊死 → 再生。
  • 皮膚病変なし。
  • 成人、対称性の近位脱力。
  • 抗Jo-1。
  • ⚠️ 「」は実臨床では過大診断されている可能性が指摘される。 あるでは、初診時にPMと診断された9例中5例が経過中に典型的なの所見を示すに至り、残り4例もPMに典型的とされる所見に合致しなかった。など別病型がPMとして扱われてきた例も含まれる8。壊死が主体でに乏しい病型は、現在はとして別に扱われる。

C)封入体筋炎

  • 筋細胞内の+()。
  • CD8⁺ T細胞介在性。
  • 高齢者:は50歳以降で最も多い後天性9。
  • 非対称性の脱力がと手指屈筋を優位に侵す(股関節屈曲より、手指伸展より手指屈曲が弱い)。他の筋炎の「近位対称性」とは異なるパターン9。
  • 治療抵抗性。

分類基準(EULAR/ACR 2017)

の分類基準は、各項目の重みづけ点数を合計して疾患である確率に換算する10。

項目のまとまり 主な項目
発症年齢 18〜40歳未満、40歳以上で配点が異なる
筋力低下 上肢・下肢近位の対称性筋力低下、が伸筋より弱い、下肢で近位が遠位より弱い
皮膚所見 、、
その他の 嚥下障害・
検査 、・・・の上昇
筋内鞘の、・血管周囲の浸潤、、
  • 確率55%以上(なし5.5点・ありで6.7点)=probableで、分類の最低線として推奨される。確率90%以上(7.5点以上・生検ありで8.7点以上)=definite、50%以上55%未満=possible、50%未満(5.3点未満・生検ありで6.5点未満)は除外10。
  • ・・などの分類は分類樹で行う10。

まとめ表

疾患 遺伝 欠陥 主な特徴
DMD 欠如 下腿、、上昇、治療時代には生存30歳代以降まで延長
BMD 短縮 遅発、軽症
AD (19番、DMPK) 、、、
自己免疫 抗体介在性(液性) ++、抗Jo-1
自己免疫 CD8⁺ T細胞 対称性近位脱力、皮膚なし、抗Jo-1
自己免疫(変性も併存) CD8⁺ T細胞+ 高齢、・手指屈筋優位+非対称、治療抵抗性

💡 ポイント: 萎縮:(、ALS)、(II型)、ステロイド、。DMD = 、欠如(Xp21)、下腿++上昇。無治療のでは10〜12歳で・20歳代前半で死亡とされてきたが、治療時代(ステロイド+呼吸・心臓管理)では生存が30歳代以降に延びる例が増えている。BMD = 軽症、。 = AD、(19番、DMPKの3′)、+++。 = 液性、++、リスク増加。 = CD8⁺ T細胞、近位脱力、皮膚なし。 = 高齢、・手指屈筋優位+非対称、。

まとめ

  • は(喪失、ALSなど)・性・ステロイド性・に分けられ、いずれも異常に小さい筋線維を来す。
  • DMDはでXp21の欠失によりが完全に欠如し、下腿のと、上昇を来す。
  • BMDはが短縮するものの存在するためDMDよりはるかに軽症で進行が遅い。
  • (1型)は常染色体優性で、19番染色体のDMPK遺伝子の3′にあるCTGの伸長による疾患であり、・・・を伴う。
  • はによる筋周囲毛細血管傷害で・を伴いのリスクが増加する一方、はCD8⁺T細胞介在性で皮膚病変を欠く。
  • は50歳以降で最も多い後天性であり、他の筋炎の近位対称性と異なり・手指屈筋優位の非対称性の脱力を呈し治療抵抗性である。

出典

  1. 1.Corticosteroids for the treatment of Duchenne muscular dystrophy(Cochrane Database of Systematic Reviews・2016)12試験・667例を対象としたコクランレビューで、プレドニゾン0.75mg/kg/日はDuchenne型筋ジストロフィーの6か月時点の筋力・機能をプラセボより改善し(中等度の質のエビデンス)、デフラゾコートは2年時点で筋力を安定化させたことを確認した。歩行可能期間の延長そのものは無作為化試験のデータが不十分で結論できない閲覧 2026-08-27
  2. 2.Duchenne muscular dystrophy: survival by cardio-respiratory interventions(Neuromuscular Disorders・2011)1984年以前の無治療群(56例)は平均18.6±2.9歳で死亡し、1984〜1991年の気管切開群(21例)は平均28.1±8.3歳で死亡したのに対し、それ以降の非侵襲的換気+心保護薬管理群(88例)は50%生存が39.6歳に達したこと(p<0.001)を確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Duchenne Muscular Dystrophy and Becker Muscular Dystrophy Confirmed by Multiplex Ligation-Dependent Probe Amplification: Genotype-Phenotype Correlation in a Large Cohort(Journal of Clinical Neurology・2017)MLPAで確認したDMD/BMD 317例(DMD 279例・BMD 32例・中間型6例)のインド南部の単施設コホートで、変異の91.8%が欠失、8.2%が重複であり、変異がフレームシフトを起こせばDMD・読み枠が保たれればBMDになるという「リーディングフレーム則」がDMDの90%・BMDの94%で成立したことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Eteplirsen in the treatment of Duchenne muscular dystrophy(Drug Design, Development and Therapy・2017)エクソン51スキップにより読み枠を戻しジストロフィン産生を促すエテプリルセンが2016年9月に米国FDAの迅速承認を得たこと、この薬剤がDMD変異のおよそ14%にしか適合しないことを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.229th ENMC international workshop: Limb girdle muscular dystrophies - Nomenclature and reformed classification Naarden, the Netherlands, 17-19 March 2017(Neuromuscular Disorders(Straub V, Murphy A, Udd B, LGMD workshop study group)・2018)Waybackに保存された出版社の全文ページ(nmd-journal.com、2023年3月保存)で、従来の分類に30を超える亜型が並びそれらに共通するのは常染色体遺伝という点くらいだったことを受けて定義と分類を改め、優性遺伝をLGMD D(D1〜D5)、劣性遺伝をLGMD R(R1〜R24)とし「LGMD R1 calpain3-related」のように遺伝形式・発見順の番号・原因蛋白で呼ぶ新しい命名法を提案したこと、遠位優位の筋力低下や心病変が主体の病型(旧LGMD 1Aのミオチリノパチー、旧1BのLMNA関連など)はLGMDから外したことを確認した。閲覧 2026-09-24
  6. 6.Myotonic Dystrophy Type 1(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2024)Waybackに保存された章(2026年5月保存、Last Revision November 14, 2024)で、DM1で伸長するCTG反復はDMPKの3′非翻訳領域にあること、古典型(CTG約100〜1,000反復)は筋力低下・筋萎縮・ミオトニア・白内障・しばしば心伝導障害を示し、発症は典型的に20〜30歳代(40歳以降はまれ)だが小児期にミオトニアや眼瞼下垂などの顔貌で気づかれることもあること、古典型の主症状は遠位筋の筋力低下で下垂足・歩行障害に至ることを確認した。閲覧 2026-09-24
  7. 7.Clinical Characteristics of Anti-TIF-1γ Antibody-Positive Dermatomyositis Associated with Malignancy(Journal of Clinical Medicine・2022)全文(PMC8999723)で、久留米大学病院の抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎14例の後方視的解析において悪性腫瘍を合併したのは12例で、原発巣は肺3・子宮2・胃1・大腸2・乳房2・卵巣1・リンパ腫1であり、2例では悪性病変が検出されなかったことを確認した(抄録はこの2例を「unknown」と記載している)。閲覧 2026-09-24
  8. 8.Polymyositis: an overdiagnosed entity(Neurology・2003)筋炎と診断された165例の後方視的追跡研究で、初診時に多発性筋炎(PM)と診断された9例のうち追跡評価で5例が典型的な封入体筋炎の所見を示し、残る4例もPMに典型的とされる所見に合致しなかったこと、孤立性の非特異的筋炎65例のうち26例は結合組織病を合併していたことを確認した閲覧 2026-08-27
  9. 9.Inclusion Body Myositis: Update on Pathogenesis and Treatment(Neurotherapeutics・2018)全文(PMC6277289、ブラウザUAでのPMC HTML)で、封入体筋炎が50歳以降で最も多い後天性ミオパチーであること、進行性でしばしば非対称の筋力低下が大腿四頭筋と手指屈筋を優位に侵し、股関節屈曲より膝伸展、手指伸展より手指屈曲が弱いことが疑いを強めること、細胞質5′-ヌクレオチダーゼ1A抗体と関連しうることを確認した。閲覧 2026-09-24
  10. 10.2017 European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology classification criteria for adult and juvenile idiopathic inflammatory myopathies and their major subgroups(Annals of the Rheumatic Diseases(Lundberg IE, Tjärnlund A, Bottai M, et al.)・2017)抄録と全文(PMC5736307)で、各項目に重みづけ点数を与え合計点を特発性炎症性筋疾患である確率に換算する方式であり、確率55%(筋生検なしで5.5点、筋生検ありで6.7点)以上を「probable」として分類の最低線に推奨し、90%以上(7.5点、生検ありで8.7点)を「definite」、50%以上55%未満を「possible」、50%未満(5.3点未満、生検ありで6.5点未満)で除外とすること、項目は発症年齢・筋力低下(近位の対称性筋力低下、頸部屈筋が伸筋より弱いなど)・皮膚所見(ヘリオトロープ疹、Gottron丘疹、Gottron徴候)・嚥下障害・検査(抗Jo-1抗体、CK・LDH・AST・ALTの上昇)・筋生検所見(筋内鞘の単核球浸潤、筋周膜・血管周囲の浸潤、筋束周囲萎縮、縁取り空胞)からなり、分類樹で下位分類することを確認した。閲覧 2026-09-24