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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

悪性高熱症

Malignant hyperthermia

別名
悪性高熱MHmalignant hyperthermia
臓器系
運動器全身
科目
PharmacologyAnesthesiologyInternal Medicine
トピック
薬理学 A9:中枢性・末梢性骨格筋弛緩薬薬理学 A14:吸入麻酔薬麻酔科学 B-17:吸入麻酔薬麻酔科学 B-18:オピオイドと筋弛緩薬薬理学 Core8:薬物有害反応内科学 L-70:発熱と高体温、不明熱
鑑別疾患
悪性症候群
合併症
横紋筋融解症急性腎障害
治療薬
ダントロレン
原因薬剤
サクシニルコリンセボフルランイソフルランデスフルラン
症状
筋強直発熱頻脈
検査値
クレアチンキナーゼカリウム乳酸

🧠 全体像は、RYR1遺伝子変異などにより骨格筋のCa²⁺放出制御が生まれつき壊れている人だけが、に曝露されたときだけ牙をむく、麻酔科領域の的救急である。誘因薬への曝露から数分〜数時間というごく短い時間で、説明のつかない呼気終末CO2上昇・頻脈という「静かな」兆候から始まり、全身の・急激なへと進む。と症状が重なるが、誘因が麻酔薬という一点と、発症までの時間が分〜時間という速さが最大の見分け方になる。治療は誘因薬の即時中止との迅速投与に尽き、対応が遅れれば数時間で致死的になりうる。

病態

RYR1(頻度は低いがNA1S・STAC3も報告される)の変異は、骨格筋の膜にある(Ca²⁺放出チャネル)の構造を変え、誘因薬存在下でのCa²⁺放出を制御不能にする1

flowchart TD
    A["RYR1(まれに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary artery calcium'>CAC</span>NA1S・STAC3)の遺伝性変異"] --> B["骨格筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoplasmic reticulum'>筋小胞体</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ryanodine receptor (RyR)'>リアノジン受容体</span>の異常"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volatility'>揮発性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhalational anesthetic'>吸入麻酔薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='succynylcholine'>サクシニルコリン</span>への曝露"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoplasmic reticulum'>筋小胞体</span>からのCa2+放出が制御不能に"]
    D --> E["持続的な骨格筋収縮(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myotonia'>筋強直</span>)"]
    E --> F["ATP需要の急増・枯渇"]
    F --> G["酸素消費増加・CO2産生増加<br>=呼気終末CO2の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surge'>急上昇</span>"]
    F --> H["熱産生の急激な増加<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperthermia'>高体温</span>"]
    E --> I["筋細胞膜の破綻"]
    I --> J["K+・CK・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobin, Mb'>ミオグロビン</span>の血中への漏出"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperkalemia'>高カリウム血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyolysis'>横紋筋融解症</span>"]

💡 は結果であって、初期のではない。 骨格筋という体内最大の代謝臓器が誘因薬をきっかけに一斉に暴走し、ATPを枯渇させながら酸素を消費しCO2を産生し続けるため、体温上昇より先に呼気終末CO2の説明できない上昇と頻脈が現れる1の病態が中枢の遮断という「神経の異常」に始まるのに対し、は骨格筋細胞そのものの「受容体の異常」に始まる点が対照的で、この違いが誘因薬・発症速度・治療薬(に直接効く)の違いに直結する。

臨床像

誘因薬への曝露から数分〜数時間というごく短い時間で発症する。 直後に始まることもあれば、手術中盤や術後で顕在化することもある。

早期の徴候は地味で見逃されやすい。

時期 所見
最早期 説明のつかない呼気終末CO2上昇、頻脈
早期 頻呼吸、低酸素血症、の呼吸性・代謝性アシドーシス、
全身の投与後のが先行することがある)、不整脈、血圧低下
遅発 (急激に上昇しうるが、しばしば他の徴候より遅れて出現する)

⚠️ は単独では判断材料にならない。 投与後のそのものは比較的よくみられる反応だが、これに代謝性・や体温上昇などの全身の高代謝所見が伴えば、を疑う必要がある1だけを理由に手術を中断するかどうかは、全身状態を見ながら判断する。

進行するとによる筋細胞膜の破綻からカリウム・CK・が血中に漏出し、、それに続くへと進展しうる。

診断

診断は特異的を欠き、術中のから疑い、即座に治療を開始しながら確定させていくという時間との勝負になる。

  • 確定検査の主体はによる筋収縮試験(CHCT)である。 生きた筋線維をに曝露し、収縮反応の異常を評価する1。侵襲的で実施施設も限られるため、急性期の治療判断には用いない。
  • 臨床グレーディングスケールが急性期の判断を補助する。 麻酔科・などの11名の国際パネルがで開発した多因子スケールがあり、・高代謝所見・体温上昇・心血管所見などを総合し、確定検査によらず「この事象がらしいか」「この患者が感受性である」を段階的なとして示す2。数値そのものより、複数の系統的所見を漏れなく確認する枠組みとして使う。
  • (RYR1変異など)はの普及で価値を増しているが、高額で実施可能な施設が限られる。 陰性であっても他の未知の変異を否定できないため、家族歴が強ければ陰性結果だけで安心しない1

鑑別診断

麻酔薬曝露から分〜時間という発症速度、全身の、説明のつかないETCO2上昇が三本柱になる。 と臨床像が重なるが、誘因薬と時間軸で区別できる。

疾患 発症速度 誘因 神経筋所見
(本症候) 誘因薬曝露から数分〜数時間 全身のが先行しうる
数日〜2週間で緩徐に完成 の急な中止 の持続的
24時間以内、多くは数時間 SSRI・MAO阻害薬・などの併用 、下肢優位

このほかクリーゼ、敗血症も・頻脈・アシドーシスを来しうるが、いずれも麻酔薬曝露との時間的一致を欠く点で除外できる。麻酔中に原因不明の頻脈・ETCO2上昇をみたら、まずを第一にし、他疾患の除外を並行させる姿勢が要る。

治療

誘因薬の即時中止との迅速投与が治療の柱で、他はすべて支持療法である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malignant hyperthermia, MH'>悪性高熱症</span>を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volatile anesthetic'>揮発性麻酔薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='succynylcholine'>サクシニルコリン</span>を直ちに中止<br>応援要請"]
    B --> C["100%酸素で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperventilation'>過換気</span><br>非誘因性の麻酔法へ切替"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dantrolene'>ダントロレン</span>2.5 mg/kgを急速静注"]
    D --> E{"ETCO2・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myotonia'>筋強直</span>・心拍数は改善したか"}
    E -->|"改善しない"| D
    E -->|"改善した"| F["積極的冷却(過冷却は避ける)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperkalemia'>高カリウム血症</span>・アシドーシス・不整脈を是正<br>Ca拮抗薬は避ける"]
    G --> H["利尿を確保し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobin, Mb'>ミオグロビン</span>腎症を予防"]
    H --> I["ICUで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>・臓器障害を24〜48時間監視"]
  • 2.5 mg/kgを直ちに急速静注し、ETCO2低下・軽減・心拍数低下が得られるまで反復する。 持続する攣縮・には10 mg/kgを超える投与が必要になることがあり、それでも症状が改善しなければ他の診断を再考する3。術後も1 mg/kgを4〜6時間ごと24〜48時間継続し、を防ぐ1
  • を外し、可能ならを装着し、非誘因性の麻酔法(などはいずれも誘因薬ではない)に切り替える。
  • 積極的に冷却するが、体温がある程度下がった時点からは過冷却を避ける。は代謝の暴走の結果であり、は機序上無効である。
  • ・アシドーシス・不整脈を是正する。投与中はを避けるを助長しうる)。
  • 腎症・を防ぐため、十分な輸液とで尿量を確保する。
  • 症状が落ち着いた後もICUで24〜48時間、・臓器障害を監視する。

家族・周術期のフォローアップ

は常染色体優性の遺伝形式をとることが多く、発症した患者・疑わしい経過をとった患者では、本人・への遺伝とCHCTまたはの検討が望ましい。感受性が確認された、または強く疑われる患者が今後手術を受ける場合は、を避けた非誘因性麻酔プロトコルを用いる。

予後

は成人でおよそ10万人に1人、小児でおよそ3万人に1人の頻度とされる1。早期認識との普及により死亡率は5%未満まで低下したとされるが、北米のレジストリには現代の診療下でも心停止・死亡に至った症例が記録されており、「稀だから」「治療法が確立しているから」と油断できる病態ではない1

まとめ

  • はRYR1などの変異により骨格筋のCa²⁺放出が制御不能になる遺伝性疾患で、への曝露が誘因になる。
  • 誘因薬曝露から数分〜数時間という速い発症が特徴で、最早期の徴候は説明のつかない呼気終末CO2上昇と頻脈であり、体温上昇はしばしば遅れて出現する。
  • 進行すると全身のから・DICへ進展しうる。
  • 確定検査は筋収縮試験だが侵襲的で急性期には使えず、臨床グレーディングスケールとを組み合わせて判断する。
  • 鑑別の中心は、数日〜2週間、)と、24時間以内、)で、誘因薬と発症速度で区別する。
  • 治療は誘因薬の即時中止との迅速投与が柱で、冷却・・尿量確保などの支持療法を並行する。
  • 頻度は成人10万人に1人、小児3万人に1人とまれだが、現代でも死亡例が報告されており早期認識が予後を左右する。

出典

  1. 1.Malignant Hyperthermia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)悪性高熱症がRYR1(まれにCACNA1S・STAC3)の変異により骨格筋筋小胞体からのCa2+放出が制御不能になり持続的な筋収縮・ATP枯渇・酸素消費とCO2産生の急増を来す疾患であること、誘因が揮発性ハロゲン化麻酔薬とサクシニルコリンであり亜酸化窒素・キセノンは誘因とならないこと、最も早期の徴候が説明のつかない呼気終末CO2上昇と頻脈であり咬筋攣縮を伴いうること、確定検査の主体がカフェイン・ハロタン筋収縮試験(CHCT)であること、ダントロレンを2.5 mg/kgで直ちに静注し最大10 mg/kgまで反応が得られるまで投与し術後は1 mg/kgを4〜6時間ごと24〜48時間継続すること、成人ではおよそ10万人に1人・小児ではおよそ3万人に1人の頻度であり迅速な治療下でも死亡率は5%未満とされる一方で北米のレジストリには現代の診療下でも心停止・死亡に至った例が記録されていることを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Managing a Crisis(Malignant Hyperthermia Association of the United States (MHAUS)・2026)悪性高熱症の治療でダントロレンを2.5 mg/kgで急速静注し、ETCO2低下・筋強直軽減・心拍数低下といった反応が得られるまで反復投与すること、持続する攣縮・強直には10 mg/kgを超える投与が必要な場合があり、それでも症状が改善しなければ他の診断を再考すべきことを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.A clinical grading scale to predict malignant hyperthermia susceptibility(Anesthesiology(Larach ら、Delphi法による国際専門家パネル)・1994)悪性高熱の臨床診断を支援するため麻酔科・薬理学などの専門家11名からなる国際パネルがDelphi法を用いて多因子からなる悪性高熱臨床グレーディングスケールを開発し、個々の麻酔関連事象が悪性高熱である尤度(MH event rank)と、その患者が悪性高熱感受性である尤度(MH susceptibility rank)を、確定診断検査によらず段階的に判定できるようにしたことを確認した閲覧 2026-08-10