薬理学

薬理学 · Core8

薬物有害反応

Core8: Adverse drug reactions

前提:病態
Core7:集団レベルでの用量反応関係
応用トピック
薬剤性有害反応:スルホンアミドアレルギーとその特徴薬剤性有害反応:セロトニン症候群薬剤性有害反応:起立性低血圧薬剤性有害反応:出血薬剤性有害反応:血栓症薬剤性有害反応:骨髄障害薬剤性有害反応:腎毒性薬剤性有害反応:聴器毒性薬剤性有害反応:肝毒性薬剤性有害反応:QT延長薬剤性有害反応:徐脈・房室ブロック薬剤性有害反応:便秘・下痢・嘔吐薬剤性有害反応:粘膜障害薬剤性有害反応:体重増加・減少薬剤性有害反応:鎮静薬剤性有害反応:てんかん性発作製品概要(添付文書/SmPC)
疾患
悪性高熱症

🧠 全体像:の分類は A=Augmented(増強型)/B=Bizarre(奇異型)/C=Chronic(慢性型)/D=Delayed()/E=End of use(中止後型)/F=Failure(型) のベット順で覚える。⚠️ ただしこれは Rawlins-Thompsonの2型分類(A・B)を後から拡張したもの で、唯一の枠組みではない。型を当てる前に「用量との関係」「いつ起きるか」「誰に起きるか」の3つを押さえるほうが実用的である。

用語の整理:副作用と有害反応

  • 副作用:意図しない作用。治療上有益なこともあれば、有害なこともある。
  • /(ADR):有害で。治療を制限したり、合併症を起こしたりする。
  • ADRは、軽く自然に治まる副作用よりも一般に重症で臨床的に重要である。
  • 💡 「副作用」と「」を言い換えとして使わない。 意図しない作用のうち有害な部分だけがであり、この区別が中止・減量の判断の出発点になる。

分類①:Rawlins-Thompson分類とその拡張

の薬理学的分類は、が確立した反応 を対象に、 と 既知の薬理からの性 という2つの軸だけで分ける枠組みから始まった。RawlinsとThompsonの提案(先行する同趣旨の提案もある)に基づくものである。1

型 由来 特徴 対応
A Augmented(増強型) で、その薬の既知のから予測できる 減量または中止
B Bizarre(奇異型) 用量に依存せず。免疫学的またはが多い 中止し、以後避ける

その後、この枠にベット順で4型が加えられた。1

型 由来 原著の記述 対応
C Chronic(慢性型) 用量と時間の両方に依存する慢性反応。が関与する 減量または徐々に中止
D Delayed() 遅発反応。時間をおいて出現する 治療が難しいことが多い
E End of use(中止後型) 再導入してゆっくり
F Failure(型) 治療の失敗。予期しない効果の欠如で、用量不足や相互作用が原因になりやすい 増量または相互作用を確認

⚠️ 「B型は用量に依存しない」という書き方は、提案者自身が誤解を招くと述べている。 AronsonとFernerは、薬物の作用はすべてどうしの相互作用であり質量作用の法則に従う以上、免疫学的反応も含めて あらゆるは用量に関係する と論じ、逐語で「It is therefore misleading to suggest that type B adverse drug reactions are not dose dependent」と書いている。原著が挙げるの免疫反応の例は、花粉量に応じた、B型肝炎ワクチンへの免疫応答、抗原(など)を増量して行う、IV型過敏による皮膚反応の4つである。1

💡 試験問題としてはA=・/B=用量非依存・予測不能で答えてよいが、臨床では「B型だから用量は関係ない」と読まないこと。

分類②:DoTS分類(3軸)

A〜F分類は 薬物側の性質だけ で定義されており、同じ反応が複数の型にまたがってしまう(による悪心・嘔吐はでA型だが、薬理学的には予測できないのでB型とも読める)。AronsonとFernerは2003年に、・時間関連性(Time relatedness)・患者感受性(Susceptibility) の3軸で記述するDoTS分類を提案した。1

軸 区分 中身
用量関連性(Dose) 治療量を超える用量で起こる
標準治療量で起こる。治療作用とは別のによるものと、治療作用と同じ機序が他の組織で出るものを含む
感受性のある患者では治療量未満でも起こる
時間関連性(Time) 時間非依存性 治療期間によらずいつでも起こる。作用部位の濃度が変わったとき(腎機能悪化時の)や、濃度が変わらないまま反応性が変わったとき(下の)に起こる
下表の6亜型に分かれる
患者感受性(Susceptibility) 遺伝・年齢・性・生理的変化・外因・疾患の6つ 遺伝:、感受性、、多型/年齢:新生児の、高齢者の/性:アルコール中毒、の、阻害薬による咳、/生理的変化:妊娠中のフェニトイン/外因:薬物相互作用、とで代謝される薬/疾患:腎不全下の、肝硬変下のモルヒネ

時間依存性反応の6亜型[^aronson-bmj-dots-2003]

亜型 起こり方 例
rapid() 投与が速すぎたときだけ起こる バンコマイシンのred man症候群
first dose(初回投与) 治療開始の初回投与で起こり、その後は必ずしも起こらない 阻害薬初回投与後の低血圧、I型過敏反応
early(早期) 開始直後に起こり、治療を続けると軽快する(耐性がつく) による頭痛
intermediate(中間) 少し遅れて起こるが、一定期間起こらなければその後のリスクは小さい による血小板減少(II型)、ペニシリンによる間質性腎炎(III型)、アンピシリン/アモキシシリンの性発疹
late(晩期) 開始直後はほとんど起こらず、曝露の継続・反復でリスクが上がる 副腎皮質ステロイドの多くの、ドパミン受容体拮抗薬による
delayed(遅発) 薬物を中止したあとになって現れる 催奇形性(のアザラシ肢症)、(子宮内曝露後の腟腺癌)

💡 は独立の型ではなく、late反応の一種として扱われる——長期投与のあとに薬物を中止するか減量したときに起こるもので、オピオイド・症候群、/中止後の高血圧、β遮断薬中止後のが挙げられている。1 A〜F分類のE型はこれに対応する。

型ごとの代表例

  • A型:、による、の。
  • B型:、、。
  • C型:副腎皮質ステロイドによる軸抑制。
  • D型:催奇形性、、。
  • E型:、β遮断薬中止後の。
  • F型:による経口避妊薬の効果不十分。

重篤な過敏反応

反応 特徴 主な誘因
/ 好酸球増多と全身症状を伴う薬物反応。発熱・広範な発疹・・臓器障害 、抗微生物薬、
SJS/TEN のと、 抗菌薬、、
様反応 アルコール摂取後の・頭痛・悪心 メトロニダゾール+アルコール
  • SJS/TENは連続体で、でしうる表皮がの10%未満=SJS、10〜30%=オーバーラップ、30%超=TEN と区分する。TENでは敗血症性ショックやのリスクがある。詳細はCore54:薬剤性:。
  • ⚠️ いずれも最初にやることはの中止である。 皮膚痛、暗赤色・病変、水疱・びらん、口腔/眼/陰部の、、臓器障害の徴候があれば、が小さくても緊急に扱う。

因果関係評価と報告

Naranjoスケール

  • ある事象が本当に薬剤によるものかを判定する には、標準化尺度が使われる。代表がNaranjoらが1981年に発表したADR確率スケール(Naranjoスケール)である。2
  • 10項目の質問に「はい/いいえ/不明」で答えて点数化し、合計点(-4〜+13点)で 9点以上=/5〜8点=可能性が高い(probable)/1〜4点=可能性あり(possible)/0点以下=疑わしい(doubtful) に分類する。3
  • 💡 Naranjoスケールは特定の国の制度ではなく、どこでも使える評価ツールである。これに対し、誰が・いつ・どこへ報告するかという 報告制度そのものはごとに別 で、日本(PMDA)・(EMA)・米国()で要件が異なる。⚠️ 本ノートは特定の国の報告制度を記述していないので、実習先の規定は個別に確認すること。

自発報告は大きく過少報告される

⚠️ 12か国37研究・43件の推定値を統合した系統的レビューでは、自発報告システムへの過少報告率の中央値は94%(82〜98%)だった。 一般診療と病院ベースで中央値に有意差はない。特定の重篤・重症なと薬剤の組合せを調べた19研究に限ると中央値は85%まで下がるが、それでも大半が報告されていない。4

💡 したがって ファーマコビジランスの自発報告データだけで頻度(分母つきの)を評価しない。 自発報告が答えられるのは「そういう反応が起こりうるか」であって「何%に起こるか」ではない。

まとめ

  • 副作用(意図しない作用)と(有害で)を区別する。
  • A〜F分類は、RawlinsとThompsonの2型(A=・/B=用量非依存・予測不能)に、C(慢性)・D(遅発)・E(離脱)・F()を後から足したものである。唯一の枠組みではない。1
  • ⚠️ 提案者自身が「B型は用量に依存しない」という書き方を誤解を招くと述べている。免疫学的反応も含め、はすべて用量に関係する。1
  • DoTS分類は用量関連性・時間関連性・患者感受性の3軸で記述する。反応はrapid・first dose・early・intermediate・late・delayedの6亜型に分かれ、はlateの一種である。1
  • 重篤な過敏反応(、SJS/TEN)では、まずを中止する。SJS 10%未満/オーバーラップ10〜30%/TEN 30%超というの区分は連続体の目盛りであって、小さいから軽いという意味ではない。
  • のNaranjoスケール(1981年、10項目、-4〜+13点)は国に依存しないツールだが、報告義務を定める制度は国ごとに違う。23
  • 自発報告は中央値94%が報告されない。頻度の評価には使えない。4

用量関連性という軸はCore7:集団レベルでののを前提にしており、との距離を指標化したものがCore9:である。個別のはCore51以降で扱う。

出典

  1. 1.Joining the DoTS: new approach to classifying adverse drug reactions(BMJ・2003)全文(PMC274067)で確認した。現行の薬理学的分類はRawlinsとThompsonの提案に基づき「type A=用量依存性で既知の薬理から予測可能」「type B=用量非依存性で予測不能」の2型に分けるものであり、その後「type C(用量と時間に依存する慢性反応)・type D(遅発反応)・type E(離脱反応)・type F(治療の失敗)」へアルファベット順に拡張されてきたと述べている。同時に、同一の反応を1つの型に割り当てられないことがあり(エリスロマイシンの悪心・嘔吐は用量依存だが薬理学的に予測できない)、この分類は薬物側の性質だけで定義されていると批判し、用量関連性(Dose relatedness)・時間関連性(Time relatedness)・患者感受性(Susceptibility)の3軸によるDoTS分類を提案している。逐語で「It is therefore misleading to suggest that type B adverse drug reactions are not dose dependent」と述べ、用量関連性は治療量超(toxic effects)・標準治療量(collateral effects)・感受性のある患者における治療量未満(hypersusceptibility reactions)の3区分に分けるほうが明確だとしている。時間関連性は時間非依存性と時間依存性に分かれ、後者はrapid・first dose・early・intermediate・late・delayedの6亜型からなり、離脱反応はlate反応の一種と位置づけられている。感受性の要因として遺伝・年齢・性・生理的変化・外因・疾患の6つを表1に挙げている閲覧 2026-08-27
  2. 2.A method for estimating the probability of adverse drug reactions(Clinical Pharmacology and Therapeutics・1981)書誌のみを照合した(本文は未取得)。CrossrefとPubMed(PMID 7249508)の双方で、Naranjo・Busto・Sellersらによる本論文がClin Pharmacol Ther 30巻2号239-245頁・1981年8月の刊行であることを確認した。いわゆるNaranjoスケールの原著はこの1981年の論文である閲覧 2026-09-21
  3. 3.Adverse Drug Reaction Probability Scale (Naranjo) in Drug Induced Liver Injury(LiverTox (NCBI Bookshelf)・2019)⚠️ 2026-09-21の実行ではNCBI Bookshelfが素のcurlでもWebFetchでもreCAPTCHAページ(8 KB)を返し、本文を再取得できなかったため下記は前回の実行の記録である。前回の記録は開発者をトロント大学のNaranjoらとしている(⚠️ 所属は本実行では未確認。なお前回の記録にあった「1991年」は誤りで、原著はClin Pharmacol Ther 1981;30:239-45である)。ADR確率スケール(Naranjoスケール)が10項目の質問(はい/いいえ/不明)への回答を点数化し合計点を-4〜+13点の範囲で算出すること、合計点9点以上を「確実(definite)」、5〜8点を「可能性が高い(probable)」、1〜4点を「可能性あり(possible)」、0点以下を「疑わしい(doubtful)」に分類することが記録されている閲覧 2026-08-27
  4. 4.Under-reporting of adverse drug reactions : a systematic review(Drug Safety・2006)抄録で確認した(出版社全文は未取得)。12か国から集めた37研究・43件の過少報告率推定値を統合した系統的レビューで、自発報告システムへの薬物有害反応の過少報告率の中央値が94%(四分位範囲82〜98%)であったこと、一般診療と病院での中央値に有意差がなかったこと、そして中央値85%という値は「特定の重篤・重症な有害反応と薬剤の組合せ」を調べた19研究に限った値であって、重篤な反応一般の値ではないことを確認した閲覧 2026-08-27