薬理学

薬理学 · Core68

薬剤性有害反応:体重増加・減少

Core68: Drug-induced adverse reaction: weight gain/loss

前提:病態
Core8:薬物有害反応
前提:正常
エネルギー平衡・食物摂取と体重の調節インスリン分泌とその調節・中間代謝への作用
応用トピック
抗精神病薬非再取り込み阻害型抗うつ薬・双極性障害躁状態治療薬経口・非経口グルココルチコイドミネラルコルチコイド・外用グルココルチコイド・副腎皮質拮抗薬及びステロイド合成阻害薬膵ホルモンおよび注射用抗糖尿病薬経口血糖降下薬抗がん薬IV(ホルモン薬)脂質代謝に作用する薬・体重管理薬
症状
体重増加

🧠 全体像:薬剤性の体重変化は、食欲への作用・鎮静・・・糖の喪失・脂肪吸収の低下という6つの経路のどれか(しばしば複数)で起こる。増える側は食欲増加とと、減る側は・糖やカロリーの排出・吸収阻害、という対称構造で覚えると整理しやすい。⚠️ 同じ薬効群でも剤による差が大きく、「抗精神病薬は太る」のようなクラス単位の断定は、剤を選び直す機会を失わせる。

体重が動く6つの経路

flowchart TD
    A["薬剤"] --> B["食欲への作用"]
    A --> C["鎮静"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid retention'>体液貯留</span>"]
    A --> E["代謝率の低下"]
    A --> F["糖の喪失"]
    A --> G["脂肪吸収の低下"]
    B --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='energy intake'>摂取エネルギー</span>の増加"]
    C --> I["活動量の低下"]
    H --> J["体重増加"]
    I --> J
    D --> J
    E --> J
    F --> K["体重減少"]
    G --> K
    B --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='appetite suppression'>食欲抑制</span>なら摂取が減る"]
    L --> K

体重増加

群 例 主な機序
注射インスリン、(グリベンクラミド、、)、() 血糖低下に伴うの減少と。はの分化促進と。併用が助けになることがある
抗精神病薬 、(増加が大きい)、、(中等度)、、、(増加が乏しい) 食欲増加と。⚠️ 剤ごとの差が大きい(下記)
抗うつ薬 などの三環系、 H1遮断と5-HT2C遮断による食欲増加・
・ バルプロ酸、カルバマゼピン、 食欲増加、鎮静、
薬 、 食欲増加、鎮静
経口 、 食欲増加、体幹部への脂肪、糖新生とインスリン抵抗性
β遮断薬 、、 安静時代謝とβ3を介したの低下
、バルプロ酸(ジバルプロエックスナトリウム) 上記と同じ機序がの文脈で問題になる
抗ヒスタミン薬 特に第一世代 H1遮断 → 食欲増加+鎮静
避妊薬 デポ 機序は確立していない

抗精神病薬——「クラスで太る」ではなく「剤で違う」

  • 急性期試験の(402試験・53,463例、体重の解析は116試験・28,317例)では、対比の平均体重差はのマイナス0.16 kgからゾテピンの3.21 kgまで分布し、26剤中12剤だけがより有意に体重を増やした。ゾテピン・・セルチンドールが他の多くの薬剤より有意に大きかった1。
  • 長期曝露を集めた(307論文)では、・・の3剤だけが長期曝露でも体重変化がごくわずかで、他はいずれも程度の差はあれ増加した2。
  • ⚠️ 抗精神病薬の使用歴がない患者では、どの薬でも増加がはるかに顕著になる2。初回導入時がいちばん危ない。

⚠️ 「太ったから別の抗精神病薬へ切り替える」は期待したほど効かない。 同じは、・・へ切り替えても体重減少は得られなかったとし、として「体重を減らす目的での切り替えという理屈は過大評価されているかもしれない」と述べている2。予防(最初からどれを選ぶか)のほうが効く。

💡 急性期の順位と長期の順位は別物。 は急性期の試験だけを対象とし、治療抵抗性例・初回エピソード・再発予防試験を除外しているので1、のように長期投与が前提の薬の順位をそこから読み取ることはできない。2つの解析を「どの集団を見たか」で読み分ける。

抗うつ薬——増えるのは三環系とミルタザピン

  • 無作為化試験のでは、対比で有意に体重を増やした抗うつ薬は(1.8 kg)と(1.5 kg)で、とはむしろ1.3 kgの減少だった3。
  • ⚠️ を一律に「体重増加の薬」と書くのは、試験データと合わない。 同じ解析では、・・は臨床的に意味のない程度の減少(エビデンスの質は低い)、・・・は有意な体重変化なしである3。
  • ただし試験は数週〜数か月で終わる。英国の10年コホート(約29万人・1,836,452人年)では、5%以上の体重増加のが抗うつ薬処方なし8.1/100人年に対し処方あり11.2/100人年(調整1.21)で、上昇は少なくとも6年間続いた4。
  • ⚠️ 後者は観察研究であり、著者自身が「関連は因果とは限らず、残余が関連を過大評価している可能性がある」と明記している4。短期試験では見えない/長期観察では見えるという所見の食い違いは、どちらかが誤りなのではなく観察期間とデザインの違いとして読む。

β遮断薬・抗ヒスタミン薬——「増える」の根拠の強さが違う

  • β遮断薬は、6か月以上の8件の系統的集計で、体重差の中央値1.2 kg(範囲マイナス0.4〜3.5 kg)とされる。増加は最初の数か月に起こり、その後は対照群との差がそれ以上広がらない5。
  • ⚠️ 一方、54薬剤を対象としたは「や抗ヒスタミン薬を含む他の多くの薬剤では、体重変化は統計学的に有意でないかエビデンスの質が非常に低かった」と述べており、抗ヒスタミン薬についてはのデータしかなくの可能性が高いとしている3。
  • ⭐ H1遮断で食欲が増えるという機序は成り立つが、「で体重増加が示されている」とまでは言えない。 機序の説明と、実測された体重差は分けて覚える。
  • 同じ理由で、とは有意差なしでの可能性があるとされ、カルバマゼピンの1.0 kg増加も確信度は低い3。デポもエビデンスの質が低くの可能性があるとされる。

⭐ 体重増加はを下げうる。 の当事者を対象とした郵送自記式調査(277例)では、肥満( 30超)の回答者はの回答者に比べ、過去1か月に服薬を欠かしたと答えるが2.5倍(95%信頼区間1.1〜5.5)で、体重増加への苦痛が非の主要な媒介因子であった6。⚠️ ではない自己申告調査である点は割り引いて読む。体重増加とその後の代謝異常は長期的な心血管疾患リスクの一因ともされる。

体重減少

群 例 主な機序
受容体作動薬 、 中枢での増加、食事摂取低下、
GIP/受容体作動薬 に加えにも作用する二重作動薬
阻害薬 、 尿中への糖排泄によるカロリー喪失、代謝シフト
中枢性に食欲を抑える配合 + 食物の低下、
・ 、、プロトリプチリン 、、増加
薬 食欲低下と抑制
食事性脂肪の吸収を阻害

「有害反応」から「適応」へ位置づけが変わった薬がある

  • 糖尿病のないの成人1,961例を対象としたSTEP 1試験では、週1回皮下2.4 mgを生活介入にして68週間投与し、体重はマイナス14.9%対マイナス2.4%(推定治療差マイナス12.4ポイント)、実重量でマイナス15.3 kg対マイナス2.6 kg、15%以上の減量達成は50.5%対4.9%であった7。
  • ⭐ この規模の体重減少は、もはや「」の枠では扱えない。同じ薬効群がの治療そのものとして使われる文脈へ移っている。
  • ⚠️ 副作用が無いわけではない。 同試験で最も多い有害事象は悪心と下痢で、消化器症状による投与中止は群4.5%(プラセボ群0.8%)であった7。

数字で見る比較(プラセボ対比の平均体重変化)

無作為化試験257件・54薬剤・84,696例を統合した推定値3。

方向 薬剤と
増える 2.8 kg、グリベンクラミド 2.6 kg、 2.6 kg、 2.4 kg、 2.2 kg、 2.2 kg、 2.1 kg、 1.8 kg、 1.8 kg、 1.5 kg、 1.1 kg、 0.8 kg、 0.55 kg、ナテグリニド 0.3 kg
減る 7.7 kg、 3.8 kg、プラムリンチド 2.3 kg、 1.7 kg、 1.3 kg、 1.3 kg、エキセナチド 1.2 kg、 1.1 kg、ミグリトール 0.7 kg、 0.4 kg

💡 同じ薬効群の中でも幅がある。 は2.1〜2.6 kgでまとまるが、全体ではの+2.6 kgからエキセナチドのマイナス1.2 kgまで4 kg近い開きがある。阻害薬(+0.55 kg)はほぼ中立で、この幅の中央付近に位置する。

まとめ

  • インスリン、、ステロイド、抗精神病薬は体重増加の代表である。ここに(+2.6 kg)を加えると、の中の方向の違いが見えやすい3。
  • 受容体作動薬、阻害薬、、は体重減少を起こす。では68週でマイナス14.9%に達し、位置づけがから適応へ移っている7。
  • 鎮静は活動量を下げることで、間接的に体重増加を促進しうる。 抗ヒスタミン薬・三環系・一部の抗精神病薬でこの経路が重なる。
  • ⚠️ クラスで断定しない。 抗精神病薬は26剤中12剤だけがより有意に増やし、ゾテピン・・セルチンドールが突出する一方、・・は長期でもほぼ変わらない12。
  • ⚠️ 抗うつ薬で試験上明確に増えるのは三環系とで、は短期試験ではに近い3。一方10年規模の観察では抗うつ薬処方群で5%以上の体重増加が多く(調整1.21)、著者は因果を主張していない4。
  • ⚠️ 体重が増えると服薬が続かなくなる。 肥満の回答者では飲み忘れのが2.5倍で、主要な媒介因子は体重増加への苦痛であった6。体重は「副作用の一つ」ではなく治療継続そのものの問題である。
  • β遮断薬の体重増加は中央値1.2 kgで、最初の数か月で起きてその後は頭打ちになる5。

出典

  1. 1.Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis(The Lancet・2019)全文(PMC6891890)を取得して確認した。402試験・53,463例のネットワークメタ解析。体重増加のデータが使えたのは116試験・28,317例で、逐語で「12 (46%) of 26 antipsychotics caused significantly more weight gain than placebo with mean differences ranging from 0.54 kg (95% CrI 0.15-0.95) for haloperidol to 3.21 kg (2.10-4.31) for zotepine」、さらに逐語で「Zotepine, olanzapine, and sertindole produced significantly more weight gain than most other drugs」と述べる。プラセボ対比の平均差の下端はジプラシドンの-0.16 kg(-0.73〜0.40)である。7%以上の体重増加で見た順位も同様だったとしている。⚠️ 本解析は急性期治療の試験に限られ、逐語で「We excluded studies in patients with treatment resistance, first episode, predominant negative or depressive symptoms, concomitant medical illnesses, and relapse-prevention studies」とあるため、長期投与や治療抵抗性例での順位を示すものではない。閲覧 2026-09-22
  2. 2.Almost all antipsychotics result in weight gain: a meta-analysis(PLoS ONE・2014)全文(PMC3998960)を取得して確認した。307論文を組み入れ、うち257論文が体重変化を報告している。抄録の逐語は「Almost all AP showed a degree of weight gain after prolonged use, except for amisulpride, aripiprazole and ziprasidone, for which prolonged exposure resulted in negligible weight change」であり、体重変化がごくわずかだったのはアミスルプリド・アリピプラゾール・ジプラシドンの3剤である。さらに逐語で「Contrary to expectations, switch of AP did not result in weight loss for amisulpride, aripiprazole or ziprasidone」「In AP-naive patients, weight gain was much more pronounced for all AP」と述べ、結論は逐語で「The rational of switching AP to achieve weight reduction may be overrated」である。⚠️ ルラシドンはメタ解析に**含まれていない**。逐語で「AP with a single reference, blonanserine, fluphenazine, levopromethazine, lurasidone, melperone, pimozide and zuclopentixol, similarly could not be included」と除外理由が書かれ、参考として挙がる値は単一試験の「lurasidone 0.9 kg (<6 wk, n = 90)」だけである。⚠️ ミルタザピンは抗精神病薬ではなく、本論文の全文に一度も現れない。閲覧 2026-09-22
  3. 3.Clinical review: Drugs commonly associated with weight change: a systematic review and meta-analysis(The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism・2015)全文(PMC5393509)を取得して確認した。無作為化試験257件・54薬剤・84,696例を統合し、プラセボ対比の平均体重変化を推定している。体重増加側はアミトリプチリン1.8 kg、ミルタザピン1.5 kg、オランザピン2.4 kg、クエチアピン1.1 kg、リスペリドン0.8 kg、ガバペンチン2.2 kg、トルブタミド2.8 kg、ピオグリタゾン2.6 kg、グリメピリド2.1 kg、グリクラジド1.8 kg、グリベンクラミド2.6 kg、グリピジド2.2 kg、シタグリプチン0.55 kg、ナテグリニド0.3 kg。体重減少側はメトホルミン1.1 kg、アカルボース0.4 kg、ミグリトール0.7 kg、プラムリンチド2.3 kg、リラグルチド1.7 kg、エキセナチド1.2 kg、ゾニサミド7.7 kg、トピラマート3.8 kg、ブプロピオン1.3 kg、フルオキセチン1.3 kg。抗うつ薬については逐語で「There was a nonclinically significant weight loss supported with low-quality evidence for sertraline, venlafaxine, and duloxetine and a nonsignificant weight change with the use of citalopram, escitalopram, paroxetine, and nortriptyline」。カルバマゼピンは1.0 kgの増加だが確信度は低く、リチウムとラモトリギンは有意差なしで体重中立の可能性があるとする。抗ヒスタミン薬はシプロヘプタジンのデータしかなく体重中立の可能性が高いとされ、メドロキシプロゲステロンもエビデンスの質が低く体重中立の可能性があるとされている。逐語で「For many other remaining drugs (including antihypertensives and antihistamines), the weight change was either statistically nonsignificant or supported by very low-quality evidence」。⚠️ インスリン・経口ステロイド・β遮断薬の個別推定値は本論文には無い。閲覧 2026-09-22
  4. 4.Antidepressant utilisation and incidence of weight gain during 10 years' follow-up: population based cohort study(The BMJ・2018)抄録(PMC5964332、オープンアクセス)で確認した。英国のプライマリケア診療データベース(2004〜14年)で男性136,762例・女性157,957例を追跡した集団ベースコホート研究。1,836,452人年の追跡で、5%以上の体重増加の発生率は抗精神病薬などを調整したうえで抗うつ薬処方なし8.1/100人年に対し処方あり11.2/100人年(調整率比1.21、95%CI 1.19〜1.22、P<0.001)で、リスク上昇は少なくとも6年間持続した。正常体重者が過体重・肥満へ移行する調整率比は1.29(1.25〜1.34)。⚠️ 著者自身が逐語で「Associations may not be causal, and residual confounding might contribute to overestimation of associations」と述べており、観察研究であって因果を示すものではない。閲覧 2026-09-22
  5. 5.Hypothesis: Beta-adrenergic receptor blockers and weight gain: A systematic analysis(Hypertension (American Heart Association)・2001)抄録(PMID 11230280)で確認した。6か月以上続いた前向き無作為化比較試験8件を系統的に集計し、いずれも試験終了時の体重がβ遮断薬群で対照群より高かった。逐語で「The median difference in body weight was 1.2 kg (range -0.4 to 3.5 kg)」であり、さらに逐語で「A regression analysis suggested that beta-blockers were associated with an initial weight gain during the first few months. Thereafter, no further weight gain compared with controls was apparent」と、増加が初期に起きてその後は頭打ちになることを示している。人口統計学的特性と体重変化の関連は認めなかった。⚠️ 本文は取得しておらず、抄録に記載された数値までを根拠としている。閲覧 2026-09-22
  6. 6.Obesity as a risk factor for antipsychotic noncompliance(Schizophrenia Research・2004)抄録(PMID 14693352)で確認した。統合失調症の当事者団体を通じて配布された自記式の郵送調査で、BMIを正常(25未満、73例)・過体重(25〜30、104例)・肥満(30超、100例)に分け、過去1か月に抗精神病薬を飲み忘れたかを自己申告させている。肥満群は正常体重群に比べ飲み忘れの報告が2倍を超えて多く(オッズ比2.5、95%信頼区間1.1〜5.5)、包括モデルでは体重増加への主観的苦痛が非アドヒアランスの主要な媒介要因であった。⚠️ 無作為抽出ではない郵送調査で、服薬状況もBMIも自己申告に基づく。閲覧 2026-09-22
  7. 7.Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity(The New England Journal of Medicine(STEP 1 試験、NCT03548935)・2021)抄録(PMID 33567185)で確認した。糖尿病がなくBMI 30以上(体重関連の併存症が1つ以上あればBMI 27以上)の成人1,961例を2対1で無作為化し、週1回皮下セマグルチド2.4 mgまたはプラセボを68週間、いずれも生活介入に上乗せして投与した二重盲検試験。ベースラインから68週までの体重変化の平均はセマグルチド群マイナス14.9%に対しプラセボ群マイナス2.4%(推定治療差マイナス12.4ポイント、95%信頼区間マイナス13.4〜マイナス11.5、P<0.001)、実重量ではマイナス15.3 kg対マイナス2.6 kg。5%以上の減量達成は86.4%対31.5%、10%以上は69.1%対12.0%、15%以上は50.5%対4.9%であった。最も多い有害事象は悪心と下痢で、消化器症状による投与中止はセマグルチド群4.5%対プラセボ群0.8%。⚠️ 本論文は承認の経緯には触れていない。閲覧 2026-09-22