薬理学

薬理学 · B34

抗がん薬IV(ホルモン薬)

B34: Drugs used in cancer treatment IV (Hormonal agents)

前提:病態
Core5:受容体理論:作動薬・部分作動薬・拮抗薬・逆作動薬Core59:薬剤性有害反応:血栓症Core68:薬剤性有害反応:体重増加・減少Core71:薬剤性有害反応:性機能障害
応用トピック
がんの全身療法子宮体部腫瘍の放射線・外科・薬物治療前立腺癌・膀胱癌の外科治療と薬物療法乳癌の外科治療と薬物療法外科的腫瘍学 II:治療の基本原則
薬剤
アナストロゾールアパルタミドエンザルタミドオクトレオチドゴセレリンジアゾキシドタモキシフェンダロルタミドデガレリックスビカルタミドフルタミドフルベストラントプレドニゾロンランレオチドリュープロレリンルテチウムオキソドトレオチド(177Lu)レトロゾール

🧠 全体像:ホルモン薬は「腫瘍が使うホルモンの燃料を断つ」と覚える: ①乳癌:エストロゲン作用を止める・②前立腺癌:アンドロゲン作用を止める・③上流ので性ホルモン産生を止める・④内分泌腫瘍/リンパ系でホルモンを抑える。

⭐乳癌は /SERD/アロマターゼ阻害、前立腺癌は AR拮抗/作動薬・拮抗薬 のペアで覚える。

乳癌:エストロゲン受容体・産生を止める

:乳房ではER拮抗、骨/子宮では部分作動

  • — :乳房ER拮抗、子宮/骨では部分作動|適応:ER陽性乳癌の治療・予防
    • ⚠️・・
    • 💡閉経前でも使用可
    • 💡によりへ変換される。を強く阻害する(等)を併用すると濃度が大きく低下しうるため、対策にを足す際は阻害の弱い薬剤(等)を選ぶべきという議論がある1

⚠️ のを「全適応に共通する禁止」と読まない。 米国の添付文書はの表題からして適応を限定しており、 対象は〈()の女性〉と〈乳癌高リスクの女性〉、すなわちリスク低減(発症予防)の場面である。 そしては最後に 「すでに乳癌と診断された女性では、の利益がリスクを上回る」 と明記して終わる。 ⚠️ このを平坦化すると、治療機会を誤って失う方向に倒れる。の実数・NSABP P-1 由来の表・逐語は B15:エストロゲンとが正本なのでそちらを見る。 💡 ここ(B34)で押さえるのは 「でどの薬を並べるか」 と 「閉経前での」 の2点である。

SERD:ERを分解する

  • — 選択的ER分解薬→ERを分解|適応:
    • 💡「受容体をブロック」ではなく受容体そのものを壊す
    • 💡では、に限らずやを含む全般に(等)を併用するのが現在の標準治療になっている2

:エストロゲン産生を止める

  • — アロマターゼ阻害→末梢でのアンドロゲン→エストロゲン変換↓|適応:閉経後乳癌
    • ⚠️・関節痛・(とは逆向きの毒性プロファイルで、強いエストロゲン抑制のため骨密度低下・骨折・関節痛の頻度が高い3)
      • ⚠️ ただしATAC試験の骨データは「と比べて」ではなく「と比べて」の値である。 側は骨密度がむしろ上がるので、差の一部はの骨保護に由来する。数値と比較の向きはB15:エストロゲンとが正本
    • 💡閉経前単独では、性腺のフィードバック亢進で卵巣が代償するため無効であり、の併用が必須。基本は閉経後(または併用)4
      • ⭐ を併用すれば、閉経前でもがに勝つ。 4試験7,030人の個々患者データで、を併用した閉経前女性のは乳癌再発率をより有意に下げた(0.79、95%CI 0.69〜0.90、p=0.0005)4。⚠️ なしでは成り立たないなので、「閉経前でもが良い」とだけ覚えない

前立腺癌:アンドロゲン受容体を止める

拮抗薬「-lutamide」

  • — 非ステロイド性AR拮抗薬|薬と併用または単独
  • — AR結合・・結合を阻害|/転移性前立腺癌
  • — AR阻害薬|非転移性/
  • — AR拮抗薬|
  • ⚠️共通:疲労・・骨折リスク。/は痙攣リスクやCNS副作用も意識(AFFIRM試験では群8005人(0.6%)に痙攣が報告された5)
  • 💡語尾 「-lutamide」= 遮断

⚠️ AR拮抗薬の肝毒性は「クラス共通」ではない。 米国の添付文書で(肝障害)をもつのはだけで、 の肝炎はではなく・使用上の注意(5.1)に置かれている——同じ「重篤な肝毒性のリスクが高い」と括らない。 ⚠️ の米国の適応は 50 mgを(LHRH)類似薬と併用してD2に用いるだけで、 添付文書は逐語で CASODEX 150 mg daily is not approved for use alone or with other treatments と述べる。 💡 どちらも肝障害は最初の3〜4か月に集中するので、監視を厚くするのはその期間である。 詳細(監視間隔・中止基準・シプロテロンのリスクなど)はB14:アンドロゲン・・が正本。

⚠️ ・は強いでもある。 副腎皮質ステロイドを服用中の患者で開始するとが増え、の誘因になりうる(→B14・Core23:)。

アンドロゲン「合成」を止める:CYP17阻害薬

  • — CYP17(17α-水酸化酵素/)阻害→副腎・精巣・腫瘍内のアンドロゲン合成そのものを遮断(AR拮抗ではなく合成阻害という別の)|・転移性高リスク去勢感受性前立腺癌
    • ⚠️⚠️ ステロイドの併用は「付け足し」ではなく適応の文言に含まれている。 米国の添付文書の適応は逐語で indicated in combination with prednisone、EUのSmPCは「またはと併用して」である67
    • 💡 なぜ要るのか。 CYP17を止めるとコルチゾール合成が落ち、()が上流から押し返して副腎の産生が増える——これが高血圧・・として出る。のSmPCは逐語で「併用する副腎皮質ステロイドはの作用を抑え、それによってこれらのの頻度と重症度を下げる」と機序まで書いている7。⚠️ 米国の添付文書は「CYP17阻害によって上がった濃度の結果」とだけ述べ、という語を使っていない6。既治療58例のも、単独投与で生じた二次性過剰症状が5 mg 1日2回の併用で軽減したと報告している8
    • ⚠️ ステロイドの用量は適応で違う。平坦化しない。
併用ステロイド(米国)6 併用ステロイド()7
転移性前立腺癌 1,000 mgを1日1回 5 mgを1日2回 または1日10 mg
転移性高リスク去勢感受性前立腺癌 1,000 mgを1日1回 5 mgを1日1回 または1日5 mg
  • ⚠️ 類似薬の併用(または両側精巣摘除済み)が前提である——は副腎・腫瘍内の合成を止めるが、精巣由来のアンドロゲンを止める仕組みを別に要する6
  • ⚠️ 空腹時服用。 服用前2時間と服用後1時間は食事をとらない(食後だと曝露が上がる)67
  • ⚠️ 監視は血圧・・を月1回、は開始前と最初の3か月は2週ごと・以後月1回(EUのSmPC)7。肝毒性は重篤・致死的になりうる6
  • ⚠️ 塩化ラジウム-223との併用は、米国とで重みが違う——米国は「骨折と死亡が増えるため推奨しない」(5.4)、EUは 4.3 の禁忌である67
  • ⚠️ :はを250 mg 1日1回へ減量(米国)、はでは禁忌67
  • 💡 にも注意する。ストレスのかかる場面では前後でステロイドの増量を要しうる6

GnRHで上流から性ホルモンを止める

作動薬:最初だけ、その後

拮抗薬:フレアなしで即効

その他:ステロイド・ソマトスタチン類似薬

⭐ 高頻度ポイント:乳癌は=(乳房拮抗・子宮作動→/。⚠️は・高リスクのリスク低減の場面が対象で、すでに乳癌と診断された女性では「利益がリスクを上回る」と明記されている)、=SERD(ER分解)、=アロマターゼ阻害(閉経後・)。前立腺癌は-lutamide=AR拮抗(⚠️肝障害のはだけ。150 mg単剤は米国で未承認)、=CYP17阻害でアンドロゲン合成そのものを止める。⚠️(はも可)の併用が適応の文言に入っており、用量はで1日10 mg・去勢感受性で1日5 mgと適応で違う。を介した過剰を抑えるのが目的。GnRHは/=作動薬で初期フレアあり、=拮抗薬でフレアなし。=ソマトスタチン類似薬でNET症状/GHを抑える。

📋 まとめ表

薬剤 系統 機序 適応・注意
乳癌: 乳房ER拮抗、子宮/骨で部分作動 ER陽性乳癌・⚠️/(⚠️はリスク低減の場面が対象)
乳癌:SERD ERに結合して分解 ・受容体を壊す
乳癌:アロマターゼ阻害 アンドロゲン→エストロゲン変換↓ 閉経後乳癌(閉経前はの併用が必須)・⚠️/関節痛(⚠️ATACの骨データはとの)
前立腺癌:AR拮抗 遮断 米国は50 mg+(LHRH)類似薬の併用でD2のみ(⚠️150 mg単剤は未承認)・⚠️肝炎は(はだけ)
/ / 前立腺癌:強力AR阻害 AR結合//結合を阻害 ・⚠️疲労/骨折
前立腺癌:アンドロゲン合成阻害 CYP17阻害→アンドロゲン合成そのものを遮断 転移性/高リスク去勢感受性前立腺癌・⚠️併用が適応の文言に含まれる(は1日10 mg、去勢感受性は1日5 mg。はも可)・空腹時服用・⚠️Ra-223併用はで禁忌
/ 作動薬 持続刺激→→/↓ 前立腺癌/乳癌・⚠️初期フレア
拮抗薬 →/即時↓ 前立腺癌・💡フレアなし
グルココルチコイド GR作動→抗炎症/リンパ球抑制 リンパ系腫瘍/併用療法・⚠️感染/高血糖
ソマトスタチン類似薬 GH/GI・膵ホルモン分泌↓ NET症状・・

出典

  1. 1.CYP2D6 genotype, antidepressant use, and tamoxifen metabolism during adjuvant breast cancer treatment(Journal of the National Cancer Institute・2005)CYP2D6野生型ホモ接合体でのタモキシフェン投与4か月後の血中エンドキシフェン濃度は78.0nMだったのに対し、ヘテロ接合体で43.1nM、変異型ホモ接合体で20.0nM(いずれもP=.003)と低下し、野生型でもCYP2D6を強く阻害するパロキセチン(SSRI)を併用した群は非併用群よりエンドキシフェン濃度が58%低かった(38.6nM対91.4nM、P=.0025)ことを確認した。弱いCYP2D6阻害薬であるベンラファキシン併用ではこの低下が軽度だった。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Targeted Therapies for Each Subtype of Breast Cancer(MedComm・2026)HR陽性乳癌のサブタイプ別標的治療をまとめた総説が、進行例では内分泌療法(フルベストラント等のSERD、アロマターゼ阻害薬、タモキシフェンなど)にCDK4/6阻害薬またはPI3K/AKT/mTOR阻害薬を併用する枠組みが標準治療になっていると報告したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Aromatase inhibitor-associated bone and musculoskeletal effects: new evidence defining etiology and strategies for management(Breast Cancer Research・2011)アロマターゼ阻害薬に特徴的な骨・筋骨格系有害事象を扱った総説が、タモキシフェンと異なりアロマターゼ阻害薬は強いエストロゲン抑制作用のために骨密度低下・骨折・関節痛の頻度が高く、これがアドヒアランス低下や治療中止の主要因になっていると報告したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Aromatase inhibitors versus tamoxifen in premenopausal women with oestrogen receptor-positive early-stage breast cancer treated with ovarian suppression: a patient-level meta-analysis of 7030 women from four randomised trials(The Lancet Oncology・2022)ABCSG XII・SOFT・TEXT・HOBOEの4試験7,030人の個々患者データ統合解析(Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group)が、アロマターゼ阻害薬は閉経前女性では卵巣機能抑制なしには無効であるとの前提のもと、卵巣機能抑制を併用した閉経前女性でアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール・エキセメスタン・レトロゾール)はタモキシフェンより乳癌再発率を有意に下げた(率比0.79、95%信頼区間0.69-0.90、p=0.0005)と報告したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Increased survival with enzalutamide in prostate cancer after chemotherapy(The New England Journal of Medicine・2012)化学療法後の去勢抵抗性前立腺癌患者1199人を対象とした二重盲検プラセボ対照第III相試験(AFFIRM)が、アンドロゲン受容体拮抗薬エンザルタミド群800人中5人(0.6%)に痙攣が報告されたと確認した(プラセボ群では報告なし)。閲覧 2026-08-27
  6. 6.ABIRATERONE ACETATE tablet(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed/NorthStar Rx LLC)・2025)アビラテロン酢酸エステル錠の米国添付文書(NorthStar Rx LLC。印字された改訂表示は Revised: 12/2025)を取得して確認した。適応は逐語で "indicated in combination with prednisone" =**プレドニゾン併用が適応の文言そのものに入っている**。用量は⚠️ 適応で違い、転移性去勢抵抗性前立腺癌は "1,000 mg orally once daily with prednisone 5 mg orally twice daily"、転移性高リスク去勢感受性前立腺癌は "1,000 mg orally once daily with prednisone 5 mg administered orally once daily" である。投与中はGnRH類似薬を併用するか両側精巣摘除を済ませていることが前提で、服用は空腹時(服用前2時間と服用後1時間は食事をとらない)、錠剤は粉砕・咀嚼せず水で丸のみする。5.1 は逐語で "Abiraterone acetate may cause hypertension, hypokalemia, and fluid retention as a consequence of increased mineralocorticoid levels resulting from CYP17 inhibition" とし、血圧・血清カリウム・体液貯留を少なくとも月1回監視し、開始前と治療中に高血圧を管理し低カリウム血症を補正するよう求める。5.2 が副腎皮質機能不全(ストレス時には前後でステロイド増量を要しうる)、5.3 が重篤・致死的になりうる肝毒性、5.4 が塩化ラジウム-223との併用で骨折と死亡が増えるため推奨しないこと、5.6 がチアゾリジン系・レパグリニドを服用中の糖尿病患者での重症低血糖である。⚠️ 12.1 は逐語で "Inhibition of CYP17 by abiraterone can also result in increased mineralocorticoid production by the adrenals" と述べるだけで、**ACTHという語は米国のこの文書には出てこない**(ACTHを介する機序はEUのSmPCが明記している)。中等度肝機能障害(Child-Pugh B)では開始用量を250 mg 1日1回へ減量する。閲覧 2026-09-23
  7. 7.Ficha técnica ZYTIGA 500 mg comprimidos recubiertos con película (abiraterona)(Agencia Española de Medicamentos y Productos Sanitarios(CIMA、登録番号111714003)/European Medicines Agency・2024)EUの製品概要(SmPC)をスペインAEMPS CIMAのHTML版で取得して確認した。⚠️ 10項(本文の改訂年月)は空欄なので、year はEMAのEPARランディングページの Product information が "Last updated: 18/10/2024" であることから採った(Revision 28)。適応は逐語で "ZYTIGA está indicado con prednisona o prednisolona" =**プレドニゾンまたはプレドニゾロンとの併用**で、米国がプレドニゾンだけを指定するのと表記が違う。用量は転移性ホルモン感受性前立腺癌で "5 mg de prednisona o prednisolona al día"、転移性去勢抵抗性前立腺癌で "10 mg de prednisona o prednisolona al día"(米国の5 mg 1日2回と1日総量は一致する)。4.4 は逐語で "ZYTIGA puede causar hipertensión, hipopotasemia y retención de líquidos ... como consecuencia del aumento de las concentraciones de mineralocorticoides resultantes de la inhibición del CYP17. **La administración simultánea de un corticosteroide suprime el efecto de la hormona adrenocorticotrópica (ACTH), reduciendo con ello la incidencia y la gravedad de estas reacciones adversas.**" =併用ステロイドはACTHの作用を抑えることでこれらの有害反応の頻度と重症度を下げる、とACTHを介する機序を明記する。⚠️ 4.3 の禁忌は有効成分・添加剤への過敏症、妊婦または妊娠の可能性がある女性、**重度肝機能障害(Child-Pugh C)**、および "ZYTIGA con prednisona o prednisolona está contraindicado en combinación con Ra-223" =**塩化ラジウム-223との併用が禁忌**である(米国は 5.4 で「推奨しない」にとどめており、規制上の重みが違う)。監視はトランスアミナーゼを開始前・最初の3か月は2週ごと・以後は月1回、血圧・血清カリウム・体液貯留を月1回とし、うっ血性心不全のリスクが高い患者は最初の3か月は2週ごとに監視する。閲覧 2026-09-23
  8. 8.Phase II multicenter study of abiraterone acetate plus prednisone therapy in patients with docetaxel-treated castration-resistant prostate cancer(Journal of Clinical Oncology・2010)ドセタキセル既治療の去勢抵抗性前立腺癌患者58人を対象とした第II相試験が、アビラテロン酢酸エステル(CYP17阻害薬)単独投与で生じる二次性ミネラルコルチコイド過剰症状(高血圧・低カリウム血症)が低用量プレドニゾン(1日2回5mg)の併用により軽減されたと報告したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 9.The efficacy and safety of degarelix: a 12-month, comparative, randomized, open-label, parallel-group phase III study in patients with prostate cancer(BJU International・2008)前立腺癌患者610人を対象とした12か月無作為化第III相試験(CS21)が、GnRH拮抗薬デガレリックスはGnRH作動薬リュープロレリンより速くテストステロン・PSAを抑制し、デガレリックスには臨床的フレアを防ぐための抗アンドロゲン薬併用が不要であった一方、リュープロレリンでは初期フレア対策が必要であったと報告したことを確認した。閲覧 2026-08-27