薬理学

薬理学 · Core5

受容体理論:作動薬・部分作動薬・拮抗薬・逆作動薬

Core5: Receptor theory - agonist, partial agonist, antagonist, inverse agonist

前提:病態
Core4:薬物の分子標的
前提:正常
シグナル伝達:受容体・Gタンパク質・セカンドメッセンジャー
応用トピック
コリン作動性・アドレナリン作動性伝達とそのシナプス前調節オピオイド静脈麻酔薬・周術期薬剤ベンゾジアゼピン非ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬コリン作動薬神経変性疾患治療薬(錐体外路系・脳代謝賦活薬)ムスカリン受容体遮断薬カテコールアミン間接型交感神経刺激薬・選択的α1作動薬α2作動薬およびイミダゾリン受容体作用薬α受容体拮抗薬β受容体拮抗薬中枢性・末梢性骨格筋弛緩薬カリウム保持性利尿薬・ADH拮抗薬・浸透圧利尿薬ミネラルコルチコイド・外用グルココルチコイド・副腎皮質拮抗薬及びステロイド合成阻害薬アンドロゲン・蛋白同化ステロイド・抗アンドロゲン薬・性機能作用薬エストロゲンおよび抗エストロゲン薬甲状腺・抗甲状腺薬・下垂体ホルモン・視床下部ホルモン及びその類似体・拮抗薬骨ミネラル恒常性に作用する薬(カルシウム・ビタミンD・副甲状腺ホルモン・カルシトニンなど)選択的β2刺激薬およびその他の気管支拡張薬ヒスタミンおよび抗ヒスタミン薬平滑筋作用薬・子宮収縮作用薬抗がん薬IV(ホルモン薬)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)作用薬耐性・タキフィラキシー・依存薬力学的相互作用:拮抗作用解毒薬:定義と例薬剤性有害反応:悪性症候群有効性と力価

🧠 全体像:受容体に結合する薬は、その受容体がもともと持っている活性を上げるのか、下げるのか、動かさないのかで並べ替えると整理できる。作動薬は反応を増やし、はを下げ、はどちらにも動かさず作動薬の場所を奪うだけである。はEmaxが低いので、が同時にあるときだけその拮抗薬のように振る舞う。⚠️ はを下げることで区別されるので、のある系でしかと見分けられない。

作動薬と拮抗薬

結合後の作用 ・ 例
受容体を活性化し、を起こす Emaxが最大(=1)
受容体を活性化するが、には到達できない Emaxが低い(は0と1の間) に対する
純粋/ 単独では反応を起こさず、作動薬の結合・作用を遮断する はゼロ(も変えない) 、に対する
不活性な受容体状態を安定化し、を下げる が負(より下げる) のない系では、古典的には拮抗薬と区別がつかない

部分作動薬

  • 受容体をしきっても 最大未満の反応 しか起こせない。
  • ⚠️ この「拮抗薬にもなる」は条件付きである。 が同時に存在するとき、はを 置換 して全体の反応を下げる。つまりがいなければ作動薬として働き、いれば拮抗薬として働く。の治療で、がまだ効いているうちにを導入するとが起きるのは、この置換が正味の受容体刺激を下げるからである。
  • ⭐ かどうかは組織にも依存する。 出典は、を出すのに受容体の100%をする必要がない系を をもつ系と呼ぶ1。受容体が大きい組織では、の低いリガンドでもに届き、同じ薬が組織によってにもにも見える。

二状態受容体モデル

  • 受容体には2つのがある。
    • Ra:。
    • Ri:。
  • リガンドがなくても、一部の受容体は ()を示すことがある。出典は「GPCRは作動薬が無くても基礎的な(な)シグナルを示しうると分かったときに、という語が作られた」と述べている1。
  • 作動薬 は Ra に結合・安定化し、反応を増やす。
  • は両状態に同程度に結合し、作動薬を遮断するが、は変えない。
  • は Ri を安定化し、を低下させる。1
flowchart TD
  A["受容体は Ri(不活性)⇄ Ra(活性)の平衡にある"]
  A --> B["リガンドが無くても一部は Ra<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activity'>構成的活性</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal activity'>基礎活性</span>)"]
  B --> C["作動薬:Ra を安定化<br>→ 反応が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal activity'>基礎活性</span>より上がる"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutral antagonist'>中立拮抗薬</span>:Ri と Ra に同程度に結合<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal activity'>基礎活性</span>は変えず、作動薬だけを遮断"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inverse agonist'>逆作動薬</span>:Ri を安定化<br>→ 反応が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal activity'>基礎活性</span>より下がる"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activity'>構成的活性</span>が無い(または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neglect'>無視</span>できる)系では<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inverse agonist'>逆作動薬</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutral antagonist'>中立拮抗薬</span>は区別できない"]
  • ⚠️ という区分は「のある系」でしか意味を持たない。 出典はを「拮抗薬と同様に受容体応答を抑えうる」「実際、拮抗薬が性を示すことがある」と書いている1。がゼロの系では、下げるべきものが無いのでと同じ曲線になる。逆にが高い系では、同じ薬が「反応を基礎値より下げる」ためとして現れる——薬の性質だけでなく、測っている系の性質で決まる。
  • 💡 。 同じ受容体でも、リガンドによってGタンパク質経路とβ経路を選択的に活性化する場合があるとされる1。2020年に承認されたオリセリジンはGタンパク質経路選択性を謳うド作動薬とされるが、その機序自体はその後の研究で議論になっている2。

拮抗の種類

  • :作動薬と拮抗薬が同じ(正所性)結合部位を競合する。
    • 出典は「正所性拮抗は作動薬曲線の平行なとして現れる」と述べ、判定の問いとして「どのでも同じに達するか」を挙げている1。つまり 作動薬を増やせばは取り戻せる。
  • :作動薬の結合部位(正所性部位)ではなく、同じ受容体の別部位に結合して作動薬の結合や効果を修飾する。
  • :作動薬を増やしてもが戻らない。
    • 💡 正体は「離れない結合」である。 出典は、試験の時間内に実質的に解離しない結合(pseudo-irreversible)か、共有結合による不可逆的結合が起きたときにになるとし、そのとき「正所性かかを問わず、高濃度では作動薬のが基礎値まで完全に抑えられる」と書いている1。
    • ⚠️ 「別部位に結合する=Emaxが下がる」ではない。 同じ出典によれば、作動薬の親和性だけを下げる修飾薬では、曲線は右へ動くが途中で頭打ちになりは保たれる。が下がるのは、修飾薬が作動薬の有効性そのもの(を起こす能力)を下げる場合である1。かどうかと、Emaxが下がるかどうかは別の軸である。
  • :共有結合などで受容体を持続的に不活化する。新しい受容体が作られるまで効果が続く。
    • 受容体レベルの代表例は、αに共有結合する。
    • ⚠️ アスピリンの阻害も不可逆だが、これは受容体ではなく酵素のである(同じ「不可逆」でも標的の種類が違う → Core4:薬物の分子標的)。
  • 生理学的拮抗():同じ受容体を奪い合うのではなく、異なる受容体・経路を介して逆向きの生理反応を起こして打ち消し合う。

まとめ

  • = Emaxが最大
  • = Emaxが低い。が同時にいるときだけ拮抗薬として働く
  • 拮抗薬 = 活性化せずに遮断する
  • = より下げる。ただしのある系でしかと区別できない
  • 曲線の読み方:=平行に(は戻る)/=解離しない結合でが下がる。かどうかとは別の軸。
  • 生理学的(機能的)拮抗・化学的拮抗は受容体競合ではない ので、この曲線の読み方の外にある。

出典

  1. 1.Pharmacological Characterization of GPCR Agonists, Antagonists, Allosteric Modulators and Biased Ligands from HTS Hits to Lead Optimization(Assay Guidance Manual, NCBI Bookshelf・2019)NCBI Bookshelf本体は素のcurl・ブラウザUAとも reCAPTCHA を返すため、Wayback の id_ 付きURL(2025-02-01保存)で本文を取得して確認した。逆作動薬について逐語で "The term inverse agonist is coined when it is realized that GPCRs may exhibit basal (constitutive) signaling in the absence of an agonist"、"A bound inverse agonist can shift the conformational equilibrium to the inactive state, thereby suppressing the receptor response"、"An inverse agonist acts similarly to an antagonist in that it can also inhibit receptor response" と述べる。競合的(正所性)拮抗は "Orthosteric antagonism is seen as a parallel rightward shift of the agonist curves"、非競合的拮抗は "When the test compound binds so tightly to the receptor that it does not appreciably dissociate over the time course of the assay incubation (i.e., pseudo-irreversible), or when the test compound binds irreversibly to the receptor via covalent bonds, non-competitive antagonism results. Whether the test compound is orthosteric or allosteric, the effect is a complete suppression of maximal agonist response to basal level at high concentrations of the test compound" と定義している。受容体予備能は "If activating less than 100% of the tissue/cell receptors are required to achieve maximal efficacy, the tissue/cell system is said to have 'receptor reserve', or 'spare receptors'" と説明され、バイアスドシグナリングも扱う。なお本章に partial agonist の記述はほとんど無い(全文で1回のみ)。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Oliceridine: Examining the clinical evidence, pharmacology, and contested mechanism of action of the first FDA-approved biased opioid agonist(Journal of Opioid Management・2025)Europe PMC(PMID 41123260)で抄録を取得して確認した(全文は未取得)。逐語で "Oliceridine is the first Food and Drug Administration-approved biased opioid agonist, approved in 2020 for managing moderate to severe acute pain in adults in controlled clinical settings."、"Further research has led to questions as to the actual mechanism of action of the drug, leading to additional questions about whether it is a genuinely biased opioid agonist." とあり、Gタンパク質経路選択性という機序そのものが後続研究で疑問視されていると述べている。閲覧 2026-09-21