薬理学

薬理学 · A15

静脈麻酔薬・周術期薬剤

A15: Intravenous anesthetics. Perioperative medication

前提:病態
Core5:受容体理論:作動薬・部分作動薬・拮抗薬・逆作動薬Core50:化学構造と複雑さによる薬物分類Core65:薬剤性有害反応:徐脈・房室ブロックCore69:薬剤性有害反応:鎮静
応用トピック
麻酔科学III:静脈麻酔薬
薬剤
アトロピンエトミデートガストログラフィンケタミンチオペンタールデクスメデトミジンフェンタニルプロポフォールミダゾラムメトクロプラミドヨード造影剤
疾患
抗コリン薬中毒

🧠 全体像:大きく 【】 と 【周術期の補助薬】 に分ける。 の大半は -A増強(・・・)。覚えるべき例外は2つ→ =NMDA拮抗、=α2作動。

は、麻酔補助に使う鎮痛・抗コリン・ と覚える。

⭐ を選ぶ場面はほぼで決まる。循環が不安定なら心血管抑制の小さいか交感神経を刺激する、安定していてすぐ覚めてほしいなら、という軸で押さえる。

静脈麻酔薬

GABA-A増強系

⚠️ PRISで死亡と独立に関連していた因子は、成人と小児で違う。 108件の論文に報告された168症例の構造化レビューでは、成人でECG変化・低血圧・・の合併・平均5 mg/kg/h超が、小児で発熱・が、それぞれ死亡と独立に関連していた(脂質異常・発熱・は小児に、とは成人に多い)。は、成人例に限って症状の数と障害臓器数の多さに関連した1。

⭐ 疑うきっかけは3つ。 原著は「説明のつかない代謝性アシドーシス・ECG変化・」を見たらPRISを考えよと述べ、管理としてはの早期検討を推奨している1。

💡 を理由にした一律の回避は、根拠より強い可能性がある。 のをもつ小児28例・投与43回の11年間の後ろ向き検討では、反応は卵アナフィラキシー既往のある1例に生じた非アナフィラキシー性の1回だけ(43回中1回、2%)だった。⚠️ 原著のは「卵アナフィラキシーの既往が無い児の大多数では安全と考えられる」という条件付きのもので、アナフィラキシー既往例を免責してはいない3。⚠️ 大豆アレルギーについてはこの研究から何も言えない——コホートに大豆アレルギー児が1例も含まれていなかったためである3。

💡 敗血症での単回投与を巡る議論。 でを投与された敗血症患者について、865例を含む5試験ので死亡の統合が1.20(95%CI 1.02-1.42)、1,303例を含む7試験で副腎不全の統合が1.33(95%CI 1.22-1.46)と、いずれも有意に高かった2。⚠️ ただしこれは観察研究を含むであり、重症度による適応を排除できない。単回投与を一律禁忌とする合意には至っていない。

NMDA拮抗系

💡 「解離性」とはどういう状態か。 はNMDA受容体をに遮断し、を抑えながら辺縁系を抑えないため、・自発呼吸・気道反射が保たれたまま外界から切り離される。他ののようなの「なだらかな意識低下」ではないので、深度の評価にやBISのような指標をそのまま当てはめられない。はこの解離状態からの離脱過程で生じる。

⚠️ 交感神経刺激は「循環に優しい」だけではない。 心拍数・血圧・心筋酸素消費が上がるので、やコントロール不良の高血圧では不利に働きうる。が枯渇した重症患者では、直接の作用のほうが表に出て血圧が下がることがある。

⚠️ 抗うつ適応で承認されているのはではない。 などを適応として製剤化されているのは()の鼻腔スプレーである。としての位置づけと添付文書上の射程はCore50:化学構造と複雑さによる薬物分類に整理してある。

α2作動系

周術期薬

鎮痛(オピオイド)

抗コリン薬(前投薬)

  • — |適応:抑制()・徐脈・の解毒

制吐薬

術前の絶飲食

⚠️ 「深夜0時から」は現在どの指針も支持していない。 欧州麻酔科学会の2011年指針が、成人・小児とも清澄水は麻酔の2時間前まで可・固形物は6時間前までという枠を示して以降、は短縮される方向で更新され続けている4。

対象 清澄水 固形物・非清澄液体 根拠
成人 2時間前まで。さらに「2時間を切る運用を認める施設プロトコルを整備すること」自体が推奨されている 固形物は6時間以上(大量・高脂肪の食事なら8時間以上)、ミルク・乳製品・も6時間 2026年 国際多職種コンセンサス5
小児 1時間前まで(母乳は3時間前まで) 成人に準じる。術後は早期の経口摂取を許容 2022年 ESAIC小児指針(GRADE 1Cまたは1B)6

💡 紅茶・コーヒーの少量のミルクは「清澄水」に数えてよい。 2026年のコンセンサスは、全量の5分の1までのミルク添加を非清澄液体の扱いから除外している5。ほかに、飴やチューインガムなどの刺激は手術室への移動まで使用可、術後の経口摂取は臨床的に可能になりしだい再開、訓練を受けた者による術前の胃超音波は追加情報が要る場面で臨床判断に用いてよい、とされる5。

⚠️ 小児の数値を2011年の指針から引かない。 2011年指針は成人と小児を1本で扱って清澄水を2時間としているが、小児については2022年のESAIC指針が1時間へ短縮している6。⚠️ 一方、2026年のコンセンサスは学会のガイドラインではなく、2011年指針を廃止するとも述べていない。施設のプロトコルがどちらに準拠しているかを確認する。

⭐ 高頻度ポイント:静脈麻酔の機序は大半が-A増強。覚える例外=(NMDA拮抗・交感刺激・気管支拡張) と (α2作動・呼吸を保つ)。循環不安定の導入=()または。=PRIS・、=頭蓋内圧低下()。

📋 まとめ表

薬剤 分類 機序 特徴・適応
静脈 -A増強 導入+維持・鎮静・。⚠️ ・
静脈 導入・・頭蓋内圧↓
静脈 -A増強(心血管抑制最小) 循環不安定例の導入・
静脈 短時間ベンゾジアゼピン ・・重積・健忘
静脈 NMDA拮抗→ 気管支拡張・交感刺激・・頭蓋内圧↑。抗うつ適応はの
静脈(α2) 中枢性α2作動 /・呼吸抑制が少ない。⚠️ 徐脈・低血圧
周術期(鎮痛) μオピオイド作動
周術期(抗コリン) 分泌抑制・徐脈・解毒
周術期() D2拮抗+促進 (PONV)・・

出典

  1. 1.Propofol infusion syndrome: a structured literature review and analysis of published case reports(British Journal of Anaesthesia・2019)抄録(British Journal of Anaesthesia 2019;122:448-459)で確認した。108件の論文に報告された168例を構造化解析し、死亡と独立に関連した因子は逐語で "fever and hepatomegaly in children, and electrocardiogram changes, hypotension, hyperkalaemia, traumatic brain injury, and a mean propofol infusion rate >5 mg kg−1 h−1 in adults"。小児と成人の臨床像の違いは逐語で "Lipidaemia, fever, and hepatomegaly occurred more frequently in children than in adults, whilst rhabdomyolysis and hyperkalaemia were more frequent in adults"。累積投与量については逐語で "The cumulative dose of propofol was associated with an increased number of clinical features and the number of organ systems involved in adult cases only" と成人例に限定されている。疑うきっかけは逐語で "Clinicians should consider propofol infusion syndrome in cases of unexplained metabolic acidosis, ECG changes, and rhabdomyolysis"、管理は逐語で "We recommend early consideration of continuous haemofiltration"。⚠️ 小児で長期鎮静に用いられなくなったため、原著は小児例と成人例を別のモデルで解析している閲覧 2026-08-27
  2. 2.Etomidate is associated with mortality and adrenal insufficiency in sepsis: a meta-analysis(Critical Care Medicine・2012)敗血症患者を対象にエトミデートの単回投与と死亡率・副腎不全の関連を検討したメタ解析で、死亡の統合相対リスクは5試験865例で1.20(95%信頼区間1.02-1.42)、副腎不全の統合相対リスクは7試験1303例で1.33(95%信頼区間1.22-1.46)であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Allergic reactions to propofol in egg-allergic children(Anesthesia & Analgesia・2011)抄録(PMID 21467558、Anesth Analg 2011;113(1):140-144)で確認した。IgE介在性の卵アレルギーがある小児28例・プロポフォール投与43回の11年間(1999-2010)の後ろ向き検討で、生じた反応は逐語で "one nonanaphylactic immediate allergic reaction (n = 1 of 43, 2%) that occurred 15 minutes after propofol administration in a 7-year-old boy with a history of egg anaphylaxis" の1件のみ。⚠️ 原著の結論は逐語で "Propofol is likely to be safe in the majority of egg-allergic children who do not have a history of egg anaphylaxis" と、卵アナフィラキシー既往が無い例に限定した条件付きの書き方である。⚠️ 大豆アレルギーについては逐語で "No child with a soy allergy who had propofol was identified" =コホートに1例も存在しないため、この研究から大豆アレルギーでのリスクは判断できない閲覧 2026-08-27
  4. 4.Perioperative fasting in adults and children: guidelines from the European Society of Anaesthesiology(European Society of Anaesthesiology・2011)成人・小児とも予定手術の2時間前まで清澄水の摂取を推奨し(紅茶・コーヒーへの少量のミルク添加を含む)、固形物は6時間前から禁止するとした。深夜0時からの一律絶飲食を支持しない。⚠️ 2011年の本指針は成人・小児を1本で扱っているが、小児については2022年のESAIC小児指針が清澄水を1時間へ短縮しているため、小児の数値をこの文書から引かない。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Peri-operative fasting in adults: an international, multidisciplinary consensus statement(Anaesthesia(Rüggeberg, El-Boghdadly, Bilotta, Vaz ら。2026;81(6):840-851)・2026)PMC13161736の全文で確認した。68名の国際的・多職種のステークホルダーによる3ラウンドのデルファイ法で8つの推奨に合意した。固形物は逐語で "Patients should fast for at least 6 h from solid food before the start of anaesthesia or sedation. For large, fatty meals, fasting for 8 h or longer may be necessary"、非清澄液体(ミルク・乳製品・経腸栄養剤など。紅茶やコーヒーに加える全量の5分の1までの少量のミルクは除く)も6時間。清澄水は逐語で "We recommend encouraging clear liquids until 2 h before the start of anaesthesia or sedation, unless institutional protocols allow for more liberal liquid intake" で、さらに逐語で "Institutions may implement protocols that allow the emerging practice of clear liquid intake < 2 h before the start of anaesthesia or sedation" と、2時間より短い施設プロトコルの整備を積極的に推奨している。ほかに、飴やチューインガムなどの唾液分泌刺激は手術室への移動まで使用可、術後の経口摂取は臨床的に可能になりしだい再開、訓練を受けた者による術前胃超音波は追加情報が要る場面で臨床判断に用いてよい、とする。⚠️ 本文書はコンセンサスステートメントであって学会のガイドラインではなく、2011年のESA指針を廃止するとは述べていない閲覧 2026-09-22
  6. 6.Pre-operative fasting in children: A guideline from the European Society of Anaesthesiology and Intensive Care(European Society of Anaesthesiology and Intensive Care・2022)抄録(Eur J Anaesthesiol 2022;39(1):4-25)で確認した。ESAIC初の小児単独の術前絶飲食指針で、主要な結論は清澄水の絶飲時間を1時間へ短縮すること、母乳を3時間へ短縮すること、術後の早期経口摂取を許容することの3点であり、いずれもGRADE 1Cまたは1Bとされる。胃の超音波が臨床判断に有用でありうること、摂取量を管理できる場合には「軽い朝食」が忍容されうることも述べている。閲覧 2026-09-22