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Disease Atlas · 精神 · 疾患

気分障害(うつ病・双極性障害)

Mood (affective) disorders: depression and bipolar disorder

臓器系
精神
科目
Psychiatry
トピック
精神医学 A-10:気分(感情)障害の病因・診断・亜型・経過・鑑別精神医学 A-11:気分(感情)障害の急性期・長期治療精神医学 A-04:精神薬理学II:抗うつ薬・気分安定薬・抗認知症薬・刺激薬
鑑別疾患
パーソナリティ症群強迫症甲状腺機能低下症心的外傷後ストレス障害身体症状症・変換症・病気不安症精神作用物質使用症(アルコール以外)注意欠如・多動症(ADHD)統合失調感情障害統合失調症認知症不安症群(パニック症・全般不安症・恐怖症)不眠障害・ナルコレプシー
関連疾患
アルコール使用障害自殺と自傷行為重篤気分調節症摂食症(神経性やせ症・過食症)線維筋痛症反抗挑発症肥満症
治療薬
セルトラリン(es)シタロプラムフルオキセチンデュロキセチンブプロピオンミルタザピンアミトリプチリンリチウムバルプロ酸ラモトリギンカルバマゼピンクエチアピンオランザピンアゴメラチンエスケタミンヒペリシン (Hypericum perforatum)ミアンセリンミルナシプランモクロベミドチアネプチントラゾドンベンラファキシンボルチオキセチンルラシドン
原因薬剤
アルコール
症状
妄想幻覚不安不眠悪夢
適応薬
イソカルボキサジドトラニルシプロミンフェネルジン
禁忌薬
(PEG)-インターフェロンアルファアルファインターフェロンダポキセチンテトラベナジンデューテトラベナジンバルベナジンフルナリジン

🧠 全体像を見分ける幹は「今どんなエピソードか」ではなく「生涯を通じて躁病・があったか」である。躁病が1回でもあれば双極I型、の組合せで躁病歴がなければ双極II型、そのどちらでもない反復性ののみならと整理する。治療もこの軸で分岐し、うつ病ではと抗うつ薬を軸にする一方、では抗うつ薬単剤によるを避け、を軸に据える。どちらの病型でも自殺リスクと不能の評価が最優先である。

概要・定義

は、気分・活動性・活力の持続的な変化を中核とする一群の疾患であり、大きく「のみを反復する病態(うつ病性障害)」と「躁病・を伴う病態()」に分けて理解する。診断の出発点は個々の気分エピソードの定義であり、これを土台に各疾患単位(、双極I型、双極II型、など)が組み立てられる。

エピソード 中核と期間 機能・
(MDE) または興味・喜びの喪失を含む5症状以上が同じ2週間に存在 苦痛または機能障害を生じ、物質・身体疾患で十分説明されない
気分の高揚・と活動性・活力の増加が通常1週間以上持続。入院が必要ならば期間は問わない 著しい機能障害、入院の必要、またはのいずれかを伴い得る
同様の気分変化が4日以上続き、他者からも明らかな変化として認識される 明白な機能変化はあるが、著しい機能障害や入院を要さず、も伴わない

では、、興味・喜びの喪失、食欲・体重の変化、睡眠障害、または制止、・過剰な、集中力・決断力の低下、死や自殺についての反復思考という9症状を評価する。

躁病・では、気分変化に加えて、、睡眠欲求の低下、多弁・または精神運動活動の増加、損失を招き得る活動への熱中、のうち3症状以上を確認する。気分の変化がのみの場合は4症状以上を要する。

⚠️ 「の既往があれば双極I型」という理解は不正確である。にあれば、そのエピソードはではなく躁病そのものと判断する。一方で、中にのみがある場合は、それだけで自動的に双極I型と診断してはならない。

病因・病態

の病因は単一の神経伝達物質の不足だけでは説明できない。、幼少期の逆境体験、慢性ストレス、神経回路・・炎症系の変化が相互に作用して発症に至ると考えられている。などの身体疾患もうつ症状の原因となり得るため、病態の一因として常に念頭に置く。

は遺伝的寄与が以上に大きいが、それだけで発症・再発が決まるわけではない。睡眠・の乱れ、ストレス、物質使用、薬剤(特に抗うつ薬単剤投与)も発症や再発の誘因となる。は本質的に再発性の経過をたどり、無治療では躁・・うつ・混合症状を繰り返しやすい。

分類・臨床像

うつ病性障害

は1回以上のをもち、躁病・の既往がない病態である。患者がを明言せず、感、頭痛、腹痛、筋緊張といったを前景に出すことも多く、見逃しに注意する。

臨床像はいくつかの特徴づけ()で記述される。

特徴づけ 典型像
著しい喜びの喪失、、症状の、精神運動変化、食欲・体重低下、過剰な
・体重増加、、対人的拒絶に対する過敏性
精神病性の特徴 またはを伴う重症のうつ病
特定の季節と発症・寛解が反復して対応する

は、成人で2年以上、小児・青年では1年以上、またはが大半の日に持続する慢性病態である。食欲、睡眠、活力、自尊心、集中・決断、希望という6領域から2症状以上を伴い、無症状の期間が一度に2か月を超えないことが条件である。慢性の経過ゆえに「性格の問題」と誤解されやすいが、治療可能性を過小評価してはならない。

その他のうつ病性障害として、以下の2つがある。

  • :月経前に感情不安定、不安などの症状が周期的に反復し、前方視的な症状記録でとの対応を確認して診断する。
  • :発達水準に不釣合いな激しいかんしゃくが週3回以上あり、かんしゃくの間欠期にも持続的なを伴う状態が、12か月以上・複数場面にわたって続く。診断年齢は6〜18歳で、発症は10歳以前でなければならない。

双極性障害

flowchart TD
    A["気分エピソードの生涯歴を聴取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='manic episode'>躁病エピソード</span>あり"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar I disorder'>双極I型障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='major depressive episode'>大うつ病エピソード</span>は診断に必須でない"]
    A --> D["躁病歴なし・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypomanic episode'>軽躁病エピソード</span>あり"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='major depressive episode'>大うつ病エピソード</span>あり"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar II disorder'>双極II型障害</span>"]
    D --> G["完全なエピソード基準を満たさない気分変動が2年以上(小児・青年は1年以上)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclothymic disorder'>気分循環性障害</span>"]
病型 中核所見 学習上の注意
が少なくとも1回ある を伴うことが多いが、診断に必須ではない
があり、躁病歴はない 「I型より軽症」とは限らない。の負荷と自殺リスクは大きい
成人で2年以上(小児・青年は1年以上)、完全なの基準は満たさない気分変動が反復する 観察期間の半分以上に症状があり、無症状期間は一度も2か月を超えない

診断・鑑別診断

診断は生涯にわたる気分エピソードの聴取に基づく縦断的なであり、現在の症状像だけで確定してはならない。特に、抑うつをに受診した患者では、過去の躁病・を見落とさないことがを左右する。

他の疾患との鑑別では、以下の点に着目する。

手掛かり
気分エピソードがない時期にもが持続する。躁病・中に限局するとして説明できる
への反応性が強い短時間の感情変動と、な自己像・の不安定性が中心
物質・薬剤誘発性の気分症状 アルコール、刺激薬、ステロイド、抗うつ薬などの開始・増減と時間的に一致する
身体疾患 、感染症、自己免疫疾患、睡眠障害などがうつ症状・気分変化の原因になり得る
正常な反応 喪失に結びついた波のある感情が中心。ただしが併存することもあり、だからとを除外してはならない

⭐ すべての抑うつをとする患者で、過去の、多弁、活動性の増加、浪費・性的逸脱行為、抗うつ薬によるの家族歴を必ず尋ねる。これらの既往があれば、単純なとしてのは誤りになり得る。

治療

初期評価と緊急対応

を決める前に、必ず安全性の評価と生涯の気分エピソード歴の確認を行う。

flowchart TD
    A["抑うつ・躁・混合症状を認める"] --> B["自殺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='harm to others'>他害</span>念慮、食事・水分摂取、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decision-making capacity'>判断能力</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychosis'>精神病症状</span>を評価"]
    B --> C["切迫したリスクまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='self-care'>セルフケア</span>不能"]
    C --> D["緊急精神科評価・必要なら入院"]
    B --> E["躁病・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypomania'>軽躁病</span>の生涯歴を確認"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unipolar depression'>単極性うつ病</span>として治療"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar disorder'>双極性障害</span>として治療"]

うつ病性障害の治療

急性期

治療法は重症度、既往の治療反応、併存症、自殺リスク、妊娠可能性、本人の希望を共有したうえで選択する。軽症では、能動的経過観察、などが選択肢となる。中等症〜重症ではと抗うつ薬の併用を検討する。

薬剤群 代表薬 機序 主な有害事象・注意点
SSRI 5-HT 多くの患者で・安全性から第一選択。開始初期の不安・、不眠、低Na血症、出血リスク、に注意
SNRI 5-HT・NA SSRIと同様の副作用に加え、は併存する疼痛にも配慮して選択され得る
その他 :NA・DA:α2遮断・特定5-HT は不眠・低下があり摂食障害では避ける。は鎮静・食欲・体重増加が目立つ
・関連薬 、アモキサピン 5-HT・NA+M1/H1/α1など 、鎮静、時は致死的となり得るため、専門的な後方選択として扱う
MAO阻害薬 分解阻害 、多くの薬剤相互作用。SSRI・SNRI・TCAとの危険な併用()を避ける
など 重症度と本人の希望に合わせて選択し、中等症〜重症では薬物療法と併用することが多い

抗うつ薬は即効薬ではなく、効果判定には十分な用量・期間を要する。開始・増量の早期には副作用、の見落としがあった場合に特に重要)を再評価し、服薬状況も確認する。中止する際はを防ぐため急に止めず段階的に減量する。

⚠️ 開始前には必ず躁病・歴を確認する。抗うつ薬単剤投与によっての患者にが誘発され得るため、若年者を含め開始・増量早期の気分のの徴候を見逃さない。

(ECT)は、で迅速な反応が必要な場合、他の治療が無効な場合、過去に良好な反応があり本人が希望する場合などに検討する。適応の具体例は、生命を脅かす拒食・拒水、切迫した自殺リスク、である。全身麻酔との投与下に施行し、への副作用を含めた利益と不利益を継続的に評価する。

⚠️ けいれんを「30〜60秒」という固定値だけで捉え、それをもって有効性を判定してはならない。発作の質、臨床反応、副作用を専門チームが総合的に評価し、利益が副作用を上回らなくなった時点で終了を判断する。

維持期

  • 寛解後も通常少なくとも6か月は抗うつ薬を継続し、再発歴、、重症度に応じてさらに長期化する。
  • 再発予防には、継続的な薬物療法に加え、、睡眠・運動・ストレス管理を組み合わせる。
  • 精神病性うつ病では、抗うつ薬と抗精神病薬の併用を専門診療で検討する。
  • (十分量・十分期間の抗うつ薬2剤以上に反応不良)には、経鼻を検討する。米国では2025年1月、経口抗うつ薬との併用に加えとしての適応も追加された1・鎮静・があるため投与後は医療機関内で経過観察する。
  • は、慢性経過・併存症・小児期からの機能障害を評価したうえで、と抗うつ薬を単独または併用で用いる。定期的にを再評価する。

双極性障害の治療

急性躁病・混合症状

急性躁病では、安全の確保、刺激の低減、睡眠の回復、物質・薬剤誘発性の除外をまず行う。薬物療法は抗精神病薬を中心に選択し、反応が不十分な場合は別の抗精神病薬への変更、またはやバルプロ酸系薬の追加を専門的に検討する。重い興奮や不眠には短期のベンゾジアゼピンを補助的に用いることがある。抗うつ薬使用中に躁病が出現した場合は、その抗うつ薬の中止を検討する。

双極性うつ病

うつ病の治療には、ルラシドンの併用、などを、病歴・地域での承認状況・ガイドラインに応じて選択する。抗うつ薬の単剤投与はを招く懸念があるため避け、使用する場合は抗躁治療と併用したうえで専門的に監視する。

維持療法

薬剤 役割 主な監視項目・注意
躁・うつ両方の再発予防と自殺リスクの低減に有用。細胞内シグナル伝達・などへのが想定されるが、機序は完全には確定していない 血中濃度(維持療法の目標は概ね0.6〜0.8 mmol/L、安定後は3〜6か月ごとに測定)2、腎機能、、血清Ca、相互作用・脱水を定期的に監視する。中毒では悪心・下痢、、失調、、けいれんが出現し得る。脱水、腎機能低下、NSAIDs、ACE阻害薬/ARB、などで血中濃度が上昇するため、疑えば服薬を中止し緊急に血中濃度・腎機能を評価する
バルプロ酸系薬 主に急性躁病・混合状態と再発予防。GABA作用の増強、などへの作用による 体重増加、脱毛、振戦、肝障害、膵炎、血小板減少。肝機能・血算を監視する。妊娠可能性がある人では重大な催奇形性・神経があり、現行の地域に従って原則として回避する3
うつ病の治療とその再発予防に有用。急性躁病の治療薬ではない。抑制、抑制による 発疹、のリスクがあるため低用量から緩徐に増量し、発疹が出れば緊急に評価する
など。薬剤ごとに急性期・での適応が異なる 代謝系(体重・脂質・血糖)、の副作用を監視する

、再発の早期徴候の共有、家族介入、を組み合わせ、と規則的な睡眠・生活リズムの維持を支える。

その他の病態の治療

  • :SSRIを連日投与またはのみに投与する方法があり、特定のも選択肢となる。
  • 、睡眠・物質使用の調整を基本とし、症状・機能障害の程度に応じてに準じた薬物療法を専門的に検討する。
  • 、学校での環境調整を基盤とし、ADHD不安症・うつ病など併存する疾患を個別に治療する。

薬物療法を安全に組み立てる考え方

の薬物療法全般に共通する組み立て方を示す。

flowchart TD
    A["標的症状と診断を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar'>双極性</span>・物質使用・身体疾患・妊娠可能性を評価"]
    B --> C["効果と有害事象を共有したうえで薬剤を選択"]
    C --> D["基礎検査を行い、低用量から開始し漸増"]
    D --> E["症状・機能・副作用・服薬状況を再評価"]
    E --> F{"十分な用量・期間で反応したか"}
    F -->|"はい"| G["再発予防と定期的な監視を継続"]
    F -->|"いいえ"| H["診断・併存症・服薬状況・相互作用を再検討"]

抗うつ薬・とも、主な適応はうつ病・だが、抗うつ薬は複数の不安症、にも用いられ、一部はにも用いる。(特に)は、の気分エピソードや、へのとしても使われる。は短時間作用型のSSRIだが主用途はであり、通常のうつ病治療薬としては扱わない。

まとめ

  • を見分ける幹は、現在の症状像ではなく生涯にわたる躁病・の有無である。躁病が1回でもあれば双極I型、の組合せのみなら双極II型。
  • は2週間、躁病は通常1週間、は4日が期間の目安であり、躁病とは期間だけでなく著しい機能障害・入院の必要性・の有無で区別する。
  • 診断ではすべての抑うつ患者に過去の躁病・症状と家族歴を必ず尋ね、身体疾患・物質/薬剤誘発性・・正常なとの鑑別を行う。
  • うつ病性障害の急性期は重症度・希望に応じてと抗うつ薬(SSRIが第一選択となることが多い)を選び、必要に応じてECTを検討する。寛解後も少なくとも6か月は薬物療法を継続する。
  • では抗うつ薬単剤投与を避け、急性躁病には抗精神病薬を中心に・バルプロ酸系薬を、うつ病にはルラシドンなどを、維持療法にはを中心としたを用いる。
  • は血中濃度・腎機能・甲状腺機能・Caの定期的な監視を要し、バルプロ酸系薬は妊娠可能性がある人での催奇形性に厳重な注意を要する。

出典

  1. 1.What is the optimal serum level for lithium in the maintenance treatment of bipolar disorder? A systematic review and recommendations from the ISBD/IGSLI Task Force on treatment with lithium(ISBD/IGSLI Task Force on Treatment with Lithium・2019)維持療法における目標血中濃度が成人で概ね0.6〜0.8 mmol/L、安定後の測定間隔が3〜6か月ごとであること閲覧 2026-08-02
  2. 2.Valproate and related substances - referral(European Medicines Agency・2018)妊娠可能性がある人にはバルプロ酸を妊娠防止プログラムの条件を満たさない限り使用してはならないという現行のEU規制が続いていること閲覧 2026-08-02
  3. 3.SPRAVATO (esketamine) approved in the U.S. as the first and only monotherapy for adults with treatment-resistant depression(U.S. Food and Drug Administration(Johnson & Johnson発表)・2025)2025年1月、経鼻エスケタミンが2剤以上の経口抗うつ薬に反応しない治療抵抗性うつ病に対し、米国で単剤療法としても承認されたこと閲覧 2026-08-02