精神医学

精神医学 · A-04

精神薬理学II:抗うつ薬・気分安定薬・抗認知症薬・刺激薬

Psychopharmacology II: Antidepressants, mood stabilizers, anti-dementia medications and stimulants: mechanism of action, indications, effects and side effects

前提:病態
モノアミン再取り込み阻害薬非再取り込み型抗うつ薬・気分安定薬神経変性疾患治療薬
疾患
セロトニン症候群リチウム中毒気分障害(うつ病・双極性障害)

🧠 全体像:抗うつ薬は系を調節し、は躁・うつの再発を防ぎ、は認知・生活機能を補助し、刺激薬はやの覚醒・注意を改善する。投与前には、妊娠可能性、自殺・中毒リスク、身体合併症を確認する。

抗うつ薬

群 代表薬 主な作用 重要な有害事象・注意
SSRI 、、、 5-HT 悪心、、不眠、低Na血症、出血、
SNRI 、 5-HT・NA 様+、
三環系・関連薬 、、アモキサピン 5-HT・NA+M1/H1/α1遮断など 、鎮静、、;過量で致死的
阻害薬 、、 分解阻害 で、相互作用、
その他 NA・DA 不眠、低下;摂食障害では避ける
その他 α2遮断、特定5-HT 鎮静、食欲・体重増加
新規機序(2019年以降米国承認) 点鼻1、ズラノロン(産後うつ専用、経口)2、・配合錠3 NMDA受容体拮抗(・)、-A受容体陽性(ズラノロン) はまたは・自殺行動を伴うに限り医療機関内で投与、ズラノロンは14日間限定の産後うつ専用コース;いずれも従来の系抗うつ薬とは異なる機序・使用形態

主な適応はうつ病、複数の不安症、、PTSDであり、一部はにも用いる。効果判定には通常数週を要し、気分・不安の改善に伴って睡眠や食欲も改善し得るが、薬剤自体が鎮静性か性かで初期反応は異なる。

💡 21種類の抗うつ薬を比較したでは、いずれもより有効だったが(1.37〜2.13)、薬剤間の優劣はプラセボ対照試験と対照試験で変動し、エビデンスの確実性は中〜非常に低い水準にとどまった。「どの抗うつ薬が一番効くか」を一律には決めがたい4。

⚠️ 中止・減量後に生じる(中断症候群)は、従来「1〜2週間で自然に軽快する」と説明されてきたが、24件の研究を統合した系統的レビューではが平均56%(範囲27〜86%)、うち約半数が最重症の症状を訴えており、この推定を巡っては論争が続いている5。急な自己中断は避け、する。

も短時間作用型だが、主用途はであり、通常のうつ病治療薬として扱わない。開始前に躁病・歴を確認し、若年者を含め開始・増量早期には、、を観察する。

気分安定薬

薬剤 主な作用 得意な局面 主な有害事象・監視
細胞内シグナル・などへの;機序は完全には確定していない 急性躁病、維持療法、うつの一部;自殺リスク低下6 振戦、、腎障害、体重増加、中毒。血中濃度、腎機能、、Ca、相互作用・脱水を監視
バルプロ酸 作用増強、などへの作用 急性躁病・、維持 体重増加、脱毛、振戦、肝障害、膵炎、血小板減少。肝機能・血算を監視し、濃度は無効・服薬不良・毒性時などに測定。妊娠中・妊娠可能性では重大な催奇形・神経があり、現行の地域に従って原則回避する7
抑制、抑制 うつの再発予防 発疹、。低用量から緩徐に増量し、発疹時は緊急評価
カルバマゼピン 抑制 躁病・維持の選択肢 低Na血症、血球減少、肝障害、発疹、薬物相互作用。血算、Na、肝機能、濃度、遺伝的リスクに応じを確認

はが主な適応で、のや、などはのにも用いられる。薬剤ごとに躁病とうつ病への有効性が異なり、は急性躁病の治療薬ではない。

では悪心・下痢、、失調、、けいれんが出現し得る。脱水、腎機能低下、、阻害薬/、などで濃度が上がるため、疑えば服用を止めて緊急に血中濃度・腎機能を評価する。

認知症治療薬

群 代表薬 位置づけ 主な有害事象
、、 の軽度〜中等度を中心に認知・生活機能を補助;一部は重度にも使用。では/を中心に検討 悪心、下痢、、不眠、徐脈、失神、体重減少
中等度〜重度、または阻害薬不耐。型では阻害薬が不耐・禁忌の場合に検討 めまい、便秘、頭痛、

これらは症状改善薬であり、を止める薬ではない。では、、Parkinson病認知症またはの併存が疑われる場合に限って阻害薬またはを検討する。には通常用いない。は適格な早期の一部でを目的に用いられるが、確認、監視、ARIAや抗凝固薬などのリスク評価を要し、地域の承認・専門施設基準に従う。

中枢刺激薬

薬剤群 機序 主な適応 有害事象・注意
DA・NA 、 食欲低下、体重減少、不眠、血圧・心拍上昇、・不安、誤用
系 DA・NA+再取り込み抑制 、 同上、、精神病・の誘発、依存リスク

開始前に心血管歴、血圧・脈拍、体重、物質使用、、精神病・を評価する。治療中は成長・体重、睡眠、血圧・脈拍、効果の、流用・誤用を定期確認する。

薬物療法を安全に組み立てる

flowchart TD
    A["標的症状と診断を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar'>双極性</span>・物質・身体疾患・妊娠可能性を評価"]
    B --> C["効果と有害事象を共有して薬剤選択"]
    C --> D["基礎検査・低用量開始・漸増"]
    D --> E["症状、機能、副作用、服薬状況を再評価"]
    E --> F{"十分量・十分期間で反応したか"}
    F -->|"はい"| G["再発予防と監視を継続"]
    F -->|"いいえ"| H["診断・併存・服薬・相互作用を再検討"]

まとめ

  • 抗うつ薬は、、三環系、阻害薬などに分類され、効果発現に数週を要し、開始・増量早期には、、を観察する。
  • はが主な適応で、・バルプロ酸・・カルバマゼピンは躁病とうつ病への有効性が薬剤ごとに異なる。バルプロ酸は妊娠中・妊娠可能性では原則回避する。
  • は脱水、腎機能低下、、阻害薬/、などで血中濃度が上がることで生じ、悪心・・失調・けいれんを来す。
  • (、)は症状改善薬でありを止める薬ではなく、には通常用いない。
  • (、系)は・に用い、開始前後で心血管歴、成長・体重、血圧・脈拍、流用・誤用を確認する。
  • 薬物療法開始前には、妊娠可能性、自殺・中毒リスク、身体合併症を確認する。

出典

  1. 1.SPRAVATO (esketamine) nasal spray, for intranasal use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed(Janssen Pharmaceuticals)・2026)エスケタミン点鼻がNMDA受容体非競合的拮抗薬であり、治療抵抗性うつ病(単剤または経口抗うつ薬併用)、および急性希死念慮・自殺行動を伴う大うつ病(経口抗うつ薬併用)に適応を持つこと閲覧 2026-08-26
  2. 2.ZURZUVAE (zuranolone) capsules, for oral use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed(Biogen)・2026)ズラノロンがGABA-A受容体陽性アロステリック調節薬であり、成人の産後うつ病に適応を持つこと、用法が1日1回50mgを14日間(脂肪を含む食事とともに)であること閲覧 2026-08-26
  3. 3.AUVELITY (dextromethorphan hydrobromide and bupropion hydrochloride) extended-release tablets — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed(Axsome Therapeutics)・2026)デキストロメトルファン(NMDA受容体非競合的拮抗薬・シグマ1受容体作動薬)とブプロピオン(CYP2D6阻害薬としてデキストロメトルファンの代謝を遅らせる配合設計)の合剤が成人の大うつ病性障害に適応を持つこと閲覧 2026-08-26
  4. 4.Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis(The Lancet・2018)522試験・116,477例を統合した21種抗うつ薬のネットワークメタ解析で、全ての抗うつ薬がプラセボより有効であった(オッズ比1.37〜2.13)が、実薬同士の比較では効果・忍容性の推定により大きな変動があり、エビデンスの確実性は中〜非常に低い水準にとどまったこと閲覧 2026-08-26
  5. 5.A systematic review into the incidence, severity and duration of antidepressant withdrawal effects: Are guidelines evidence-based?(Addictive Behaviors・2019)24件の研究の系統的レビューで、抗うつ薬の中断症状の発生率が27〜86%(加重平均56%)、severity評価で最重症と回答した割合が加重平均46%であり、英米ガイドラインが記す「1〜2週間で自然軽快する」という説明はエビデンスと乖離しているとして、この推定を巡り論争になっていること(Jauhar・Hayesによる批判とDavies・Readの反論が別途公表されている)閲覧 2026-08-26
  6. 6.Lithium in the prevention of suicide in mood disorders: updated systematic review and meta-analysis(BMJ・2013)48件のランダム化比較試験(6,674例)のメタ解析で、リチウムがプラセボに比べ自殺既遂を減少させた(オッズ比0.13、95%信頼区間0.03-0.66)こと、単極性うつ病でも同様に自殺リスクを下げたこと(オッズ比0.36)閲覧 2026-08-26
  7. 7.Valproate and related substances - referral(European Medicines Agency・2018)妊娠可能性がある人にはバルプロ酸を妊娠防止プログラムの条件を満たさない限り使用してはならないという現行のEU規制が続いていること閲覧 2026-08-26