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Disease Atlas · 神経 · 中毒

リチウム中毒

Lithium toxicity

別名
リチウム毒性
臓器系
神経精神腎・泌尿器
科目
PsychiatryInternal MedicineNeurology
トピック
精神医学 A-04:精神薬理学II:抗うつ薬・気分安定薬・抗認知症薬・刺激薬内科学 N-02:尿細管間質性疾患・嚢胞性腎疾患内科学 E-01:下垂体・視床下部疾患神経内科 G3-13:振戦の鑑別診断神経内科 G2-09:小脳の機能系と小脳障害の徴候
鑑別疾患
セロトニン症候群悪性症候群
合併症
急性腎障害尿細管間質性腎炎
関連疾患
気分障害(うつ病・双極性障害)
治療薬
ポリエチレングリコール
原因薬剤
リチウム
症状
振戦小脳性運動失調構音障害眼振錯乱痙攣発作意識障害昏睡悪心嘔吐下痢多尿筋力低下徐脈
検査値
クレアチニンカルシウム甲状腺刺激ホルモン高ナトリウム血症

🧠 全体像:を理解する軸は⭐ 「血中濃度は毒性の場所を教えてくれない」という一点にある。は脳へゆっくり入り、ゆっくり出る。だから急性は濃度が高いのに元気で消化器症状だけ、慢性は濃度が低いのにで歩けないという逆転が起こる。⚠️ 数字だけを見て「1.8 mEq/Lなら軽症」と判断すると、慢性中毒の患者をやとして帰してしまう。治療も同じ理屈で、は無く、腎から抜く(輸液)か機械で抜く()しかない。の薬理・適応・平時のモニタリングはの項に委ねる。

なぜ中毒が起きるのか

⭐ は蛋白結合せず代謝も受けず、ほぼ全量が腎から排泄される。 糸球体で自由に濾過されたあと、でNa⁺の輸送経路を介して80%が再吸収される1。

💡 この一文からリスク因子がすべて導ける。 腎はをNa⁺と同じように扱うので、体が「Na⁺を惜しむ」状況ではも一緒に惜しんで再吸収してしまう。脱水・嘔吐・下痢・発熱・・利尿薬は、どれも同じ経路で濃度を押し上げる。

機序 具体例
腎機能の低下 、、高齢
体液・Na⁺の欠乏 脱水、嘔吐・下痢、発熱、、誘発性の
薬物相互作用 、()、阻害薬、
摂取量の過剰 、、処方量の誤り

以上は同一の出典による1。⚠️ はのを下げるため、のでも中毒を起こしうる。 「痛み止めを買って飲んだだけ」の患者が数日後にで運ばれる——これがの典型的な入り方である。

3つの型

⭐ 急性・・慢性の3型を分けることが、この疾患の診療そのものである。

型 状況 臨床像 濃度と症状の関係
急性 定期服用していない患者が摂取 高濃度でも無症状のことが多く、まず消化器症状で発症する 濃度が高くても組織にはまだ入っていない
中の患者が追加摂取 組織にすでに蓄積した状態にされる 濃度と症状が乖離しやすい
慢性 長期投与中にが落ちて発症。最も多く、通常は非 ⚠️ 比較的低い濃度でも神経障害が強い 濃度が低くても組織には多い

型の違いはすべて同じから出ている1。

💡 「濃度は血の中の話、症状は脳の中の話」と割り切る。 の中枢神経への分布は緩徐で、脳内濃度は血中に遅れて動く。⚠️ したがって血中濃度が下がりつつある時期に神経症状が現れることがある1。透析で数字が良くなっても患者が良くなっていない、という場面はここから生まれる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lithium'>リチウム</span>内服"] --> B["消化管から吸収<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bioavailability'>生物学的利用能</span>80〜100%"]
    B --> C["血中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lithium'>リチウム</span>濃度の上昇"]
    C --> D["緩徐に中枢神経へ移行<br>(脳内濃度は血中に遅れる)"]
    C --> E["糸球体で濾過"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal tubule'>近位尿細管</span>でNa⁺経路により80%が再吸収"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body fluid volume'>体液量</span>・Na⁺は保たれているか"}
    G -->|"脱水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salt (sodium) restriction'>減塩</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>・利尿薬"| H["再吸収が増え血中濃度が上昇"]
    H --> D
    G -->|"保たれる"| I["尿中へ排泄<br>半減期18〜24時間<br>(高齢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repeated/chronic dosing'>慢性投与</span>では48〜58時間)"]
    D --> J["神経毒性<br>⚠️ 血中濃度が下がっても遅れて出現しうる"]

臨床像

中枢神経が最も侵されやすく、とくに慢性中毒でその傾向が強い。

⚠️ を処方されている患者が嘔吐・・を呈したら、否定されるまでとして扱う。 血中濃度測定の閾値は低く保つ1。

血中濃度の読み方

臨床的な中毒所見は血中濃度1.5 mEq/L超で多くみられ、に軽症1.5〜2.5、中等症2.5〜3.5、重症3.5 mEq/L超と区分されてきた1。

⚠️ この区分をそのまま重症度判定に使ってはならない。

  • 初回値が最高値とは限らない(とくに徐放製剤では吸収が続いている)。
  • とくに慢性中毒では濃度と臨床的重症度が相関しない1。
  • ⚠️ ヘパリン採血管を使うとが出る1。「症状が無いのに濃度だけ異常に高い」ときにまず疑う。

測定は治療中2〜4時間ごと、濃度が低下し始めてからは6〜12時間ごとに繰り返し、腎機能(クレアチニン)・電解質(とくに血清Na⁺)・と併せて評価する1。心電図では延長・房室ブロック・・徐脈がみられうる。

治療

⭐ は無い。 中毒の程度に応じて、①中止、②輸液で腎から抜く、③で機械的に抜く、と段階が上がる。

重症度 対応
軽症 の中止のみで足りることが多い
中等症 支持療法とでを上げる
大量摂取直後 、による(⭐ とくに徐放製剤で考慮する)
重症 ()

以上は同一の出典による1。⚠️ は無効である——はに吸着しない。他剤の併用摂取が疑われるときに限って投与する1。

輸液中はと血清Na⁺を注意深く監視する。⚠️ を併発している患者では、輸液そのものがを招きうる1。

血液透析の適応(EXTRIP 2015)

EXTRIPワークグループは2015年の系統的レビューで、が透析可能であること(A)を確認したうえで次を勧告した2。

強度 内容
推奨(1D) 重症
推奨(1D) があり血中濃度が4.0 mEq/L超
推奨(1D) 血中濃度によらず、の低下・痙攣・がある
提案(2D) 血中濃度5.0 mEq/L超、著明な、または濃度を1.0 mEq/L未満へ下げるのに要する見込み時間が36時間超
終了(1D) 臨床的改善が明らかになるか、血中濃度が1.0 mEq/L未満になるまで継続
継続時間(1D) 血中濃度を速やかに測定できない場合は最低6時間継続
様式(1D) が第一選択。は許容される代替

⚠️ 推奨の強さと根拠の質を混同しない。 採用文献の大半が症例報告で、すべての推奨のエビデンスの質は「非常に低い(D)」である(418例を検討し、うち228例で個々の患者データを抽出)2。数値は判断の出発点であって、を上書きするものではない。

⚠️ 透析後のリバウンドに備える。 組織から血中へがするため、1回の透析で終わらず反復セッションを要することがある1。

転帰と入退院の目安

中で血中濃度2.0 mEq/L超なら入院を、重症・生命を脅かす所見または4.0 mEq/L超ならを考慮する。臨床的改善が得られ血中濃度が1.5 mEq/L未満で安定したことが退院の目安になるが、製剤によっては数日を要する1。死亡率は1%未満と推定されている1。⚠️ なでは急性の評価と治療を併せて行う1。回復後にを再開するかは標準的な指針が無く、(うつ病・)のリスクと中毒の再発リスクを、患者を交えたな議論で個別に決める1。

SILENT——不可逆に残る小脳症状

⚠️ SILENT(syndrome of irreversible lithium-effectuated neurotoxicity)は1965年以降報告されている、治療後に永続的な神経障害が残る症候群である。 の血中濃度が確認されていなくても、また中止後にも生じうる。主体はで、失調・・が中心となる。まれだが過少報告と考えられている1。

💡 SILENTがあるからこそ「濃度が正常だから大丈夫」と言えない。 中毒を疑ったら濃度の数字ではなくの推移で判断し、が遷延する例では回復を待たずに神経内科と協働する。

慢性投与に伴う臓器影響

中毒エピソードとは別に、長期の投与そのものが腎・甲状腺・副甲状腺へ影響する。385研究を組み入れたによる3。

臓器 所見
腎() ⭐ が正常最大値の15%低下( −158.43 mOsm/kg、95%CI −229.78〜−87.07)。これがとしての多尿・の実体
腎(濾過) の平均低下は −6.22 mL/分(95%CI −14.65〜2.20)で有意ではない。を要したのは3,369例中18例(0.5%)
甲状腺 臨床的甲状腺機能低下症のがより高い(5.78、95%CI 2.00〜16.67)。は平均4.00 iU/mL上昇
副甲状腺 血清カルシウム +0.09 mmol/L(95%CI 0.02〜0.17)、 +7.32 pg/mL(3.42〜11.23)
体重 より体重増加が多い(1.89、1.27〜2.82)

💡 腎障害の像は「濾過が落ちる」より「濃縮できない」である。 数値上、の低下は有意でなくに至るも小さい一方で、の低下は明確で一貫している3。⚠️ は多尿を通じて脱水を招き、脱水が濃度を押し上げる——慢性中毒が「勝手に悪化していく」自己はここにある。長期例ではとしての慢性腎障害も問題になる。

⭐ が一貫して高頻度にみられたため、治療開始前と治療中にカルシウム濃度を確認することが勧められている3。

鑑別

意識変容とを来す他の病態と分ける。⚠️ とはどちらも服用患者に起こりうるうえ致死的なので、とくに重要である1。

病態 見分けかた
とが下肢優位に強い。発症が急(数時間)。の追加・増量が先行する
と高熱・上昇。抗精神病薬の開始・増量が先行し、発症は数日単位
低血糖・・電解質異常 血糖・甲状腺機能・電解質で除外する
脳卒中・・ や発熱があれば画像・へ進む

💡 に固有なのは「が前景に出ること」である。 発熱とが前面なら、下肢優位のなら、振戦と失調とならを疑う、という順で当たるとよい。

まとめ

  • は蛋白結合せず代謝も受けず、でNa⁺経路により80%が再吸収される。脱水・・・・阻害薬はすべてこの経路で濃度を押し上げる。
  • 急性・・慢性の3型に分ける。⚠️ 慢性型が最も多く、比較的低い濃度でも神経障害が強い。急性型は高濃度でも無症状で消化器症状から始まる。
  • 中枢神経への分布が緩徐なため、血中濃度が下がりつつある時期に神経症状が出現しうる。濃度の数字は重症度の代用にならない。
  • ⚠️ ヘパリン採血管によると、徐放製剤で初回値が最高値でないことに注意する。
  • 治療は中止・・(大量摂取では)・。⚠️ は吸着しないので無効。
  • ⭐ EXTRIP 2015は、+4.0 mEq/L超、または濃度によらず意識低下・痙攣・があれば透析を推奨(1D)、5.0 mEq/L超・著明な・1.0 mEq/L未満まで36時間超なら提案(2D)とする。⚠️ 全推奨のエビデンスの質はDである。
  • SILENTはの濃度が無くても残りうる不可逆の群で、失調・・が中心になる。
  • 長期投与ではが正常最大値の15%低下し、甲状腺機能低下症(5.78)とが増える。の低下とのリスクは小さい。

出典

  1. 1.Lithium Toxicity(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2026)リチウム中毒に急性・急性増悪(acute-on-chronic)・慢性の3型があり、急性は定期服用していない患者の摂取、急性増悪は慢性投与中の患者が追加摂取した場合、慢性は長期投与中に生じるものであること。慢性型が最も多く通常は非意図的で、体液喪失・リチウム誘発性尿崩症・薬物相互作用・併発疾患による腎クリアランスの低下が主な原因であること。リチウムは蛋白結合せず代謝も受けず、糸球体濾過と近位尿細管でのNa共役再吸収(濾過量の80%が再吸収される)によりほぼ全量が腎から排泄されるため、体液量・腎灌流・Na balanceのわずかな変化が血中濃度を大きく動かすこと。危険因子として腎機能低下・高齢・体液/Na欠乏・NSAIDs・サイアザイド系利尿薬・ACE阻害薬・ARB・過量摂取が挙げられること。経口吸収の生物学的利用能が80〜100%、最高濃度到達時間が速放製剤で1〜2時間・徐放製剤で4〜5時間、吸収完了が6〜8時間であること。中枢神経への分布は緩徐で脳内濃度が血中に遅れるため、血中濃度が下がりつつある時期に神経症状が出現しうること。消失半減期が単回投与で18〜24時間、高齢者や慢性投与では48〜58時間に延びうること。急性中毒は高濃度でも無症状のことが多く消化器症状で発症する一方、慢性・急性増悪では組織蓄積により比較的低い濃度でも神経障害が強く出ること。神経所見は傾眠・粗大振戦・構音障害・反射亢進・興奮・筋力低下・眼振・失調で、重症では意識障害・痙攣からせん妄・昏睡へ進むこと。腎では尿濃縮能低下による多尿・多飲、心では徐脈・QTc延長・不整脈がみられること。臨床的な中毒所見は血中濃度1.5 mmol/L超で多く、伝統的に軽症1.5〜2.5・中等症2.5〜3.5・重症3.5 mmol/L超と区分されるが、初回値が最高値とは限らず、とくに慢性中毒では濃度と重症度が相関しないため臨床所見と併せて解釈すべきこと。リチウムヘパリン採血管を用いると偽高値が出ること。リチウムを処方されている患者が嘔吐・錯乱・小脳症状を呈したら、否定されるまでリチウム中毒として扱うこと。血中濃度は治療中2〜4時間ごと、低下してからは6〜12時間ごとに測定すること。軽症は中止のみで足り、中等症では支持療法と等張輸液を行い、大量摂取後(とくに徐放製剤)では胃洗浄やポリエチレングリコールによる腸管洗浄を考慮すること。リチウムは活性炭に吸着しないこと。慢性投与中で血中濃度2.0 mmol/L超なら入院を、重症・生命を脅かす所見または4.0 mmol/L超なら集中治療室を考慮し、臨床的改善と1.5 mmol/L未満を退院の目安とすること。血液透析が体外循環式治療の第一選択で持続的腎代替療法が代替となるが、透析後のリバウンドのため反復セッションを要することがあること。死亡率は1%未満と推定されること。SILENT(不可逆性リチウム惹起性神経毒性症候群)は1965年以降報告があり、中毒域の血中濃度が無くても、また中止後にも永続的神経障害を残しうるもので、失調・構音障害・測定障害といった小脳機能障害が主体であること。鑑別としてセロトニン症候群と悪性症候群がとくに重要であること閲覧 2026-09-02
  2. 2.Extracorporeal Treatment for Lithium Poisoning: Systematic Review and Recommendations from the EXTRIP Workgroup(Clinical Journal of the American Society of Nephrology(Extracorporeal Treatments in Poisoning [EXTRIP] workgroup)・2015)採用文献の大半が症例報告で、全推奨のエビデンスの質が非常に低かったこと(418例を検討し、うち228例で個々の患者データを抽出)。リチウムが透析可能であること(エビデンスレベルA)。体外循環式治療を重症リチウム中毒に推奨すること(1D)。腎機能障害があり血中リチウム濃度が4.0 mEq/L超の場合、または血中濃度によらず意識レベルの低下・痙攣・生命を脅かす不整脈がある場合に推奨すること(1D)。血中濃度5.0 mEq/L超、著明な錯乱、または血中濃度を1.0 mEq/L未満まで下げるのに要する見込み時間が36時間を超える場合には提案にとどまること(2D)。臨床的改善が明らかになるか血中濃度が1.0 mEq/L未満になるまで継続すべきこと(1D)。血中濃度が速やかに測定できない場合は最低6時間継続すべきこと(1D)。血液透析が第一選択の様式で(1D)、持続的腎代替療法が許容される代替であること(1D)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Lithium toxicity profile: a systematic review and meta-analysis(The Lancet・2012)385研究を組み入れたシステマティックレビュー・メタ解析で、リチウム投与により尿濃縮能が正常最大値の15%低下したこと(加重平均差 −158.43 mOsm/kg、95%CI −229.78〜−87.07、p<0.0001)。糸球体濾過量の平均低下は −6.22 mL/分(95%CI −14.65〜2.20、p=0.148)で有意ではなく、腎代替療法を要した患者は3,369例中18例(0.5%)と絶対リスクは小さかったこと。臨床的甲状腺機能低下症の有病率がプラセボと比べ上昇し(オッズ比5.78、95%CI 2.00〜16.67、p=0.001)、TSHが平均4.00 iU/mL上昇したこと。血清カルシウムが+0.09 mmol/L(95%CI 0.02〜0.17、p=0.009)、副甲状腺ホルモンが+7.32 pg/mL(3.42〜11.23、p<0.0001)上昇したこと。体重増加がプラセボより多かったこと(オッズ比1.89、1.27〜2.82、p=0.002)。先天奇形・脱毛・皮膚疾患の有意なリスク上昇は認めなかったこと。高頻度に副甲状腺機能亢進が一貫して認められたため、治療前と治療中にカルシウム濃度を確認すべきとしていること。⚠️ 抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-02