症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

眼振

Nystagmus

別名
眼球振盪眼球震盪
臓器系
神経耳鼻咽喉科眼科
科目
ENTNeurology
トピック
耳鼻咽喉科 07:前庭系の解剖生理と調和性・非調和性前庭症候群耳鼻咽喉科 08:神経耳科学の基本的診察法耳鼻咽喉科 21:BPPV・前庭神経炎・メニエール病の鑑別診断神経内科 G2-09:小脳の機能系と小脳障害の徴候神経内科 G1-29:ウェルニッケ・コルサコフ症候群
関連疾患
Leber先天黒内障アルコール使用障害メニエール病延髄外側症候群眼皮膚白皮症視隔膜異形成症視神経低形成多発性硬化症中枢神経系腫瘍(成人・小児)内耳炎(迷路炎)傍腫瘍性小脳変性良性発作性頭位めまい症・前庭神経炎

🧠 全体像:眼振はのように「動かない・ずれる」所見ではなく、「勝手に律動的に動き続ける」所見である。診療の骨格は2段階しかない——①生理的に起こる眼振を病的と取り違えないこと、②病的なら性か中枢性かを取り違えないことである。急性のめまいに眼振が伴うとき、末梢性に見える所見だけで安心し、脳幹・を見落とすことが最大の落とし穴になる。のように「眼球運動そのものが制限される」所見はに譲り、このノートは律動的な往復運動という所見自体の読み方に絞る。

定義と用語の整理

眼振は不随意・律動的な眼球の往復運動で、方向はの向きでする(右向き眼振といえばが右へ動く)。

波形 代表例
(病的な偏位)と、それを戻す速い矯正相()からなる非対称な往復 眼振の大半、眼振
両方向がほぼ同じ速度の様の往復で、明確な矯正相を欠く 先天性眼振、視力障害やに伴う後天性のもの

💡 は眼振ではない。 どちらも眼球運動の間欠的なずれであり、一定の周期で往復を繰り返す律動性を欠くため、定義上は眼振に含めない。混同すると局在の読み方を誤る。

生理的眼振と病的眼振

次の3つは正常でも起こり、それ自体は疾患を示さない1

誘発条件 眼振の性質
正中から30〜40度を超える極端な側方視 低振幅・低頻度の)で、視線を中心20〜25度以内へ戻すと消える
大きな視覚環境が視野を流れ続ける 追従すると戻りのサッケードからなる。刺激が止まれば直ちに消え、に抑制できる
・回転刺激による前庭誘発 検査そのものに用いるで、疾患の徴候ではなく検査反応そのもの

⚠️ 極端な側方視で数拍だけ出る眼振を病的と決めつけない。 正中に近いでも持続する、非対称に強い、随伴症状を伴う、のいずれかがあって初めて病的眼振として扱う。

末梢性か中枢性か

病的眼振に気づいたら、次の対比で性()か中枢性()かを仮説立てる。

末梢性( 中枢性(
方向 で固定。方向を変えてもは変わらない 方向でが変わる(
性状 水平+回旋の混合が多い 純粋な、または純粋な
抑制されやすい 抑制されない
経過 を伴い、反復すると疲労して弱まる 疲労せず持続する
随伴症状 めまい・悪心が強く、難聴・を伴いやすい( めまいは軽くてもが強く、など脳幹徴候を伴う

⚠️ 見逃してはいけない眼振

  • 急性で持続する回転性めまい+眼振()では、が正常であることをかえってと読む。 は末梢障害で低下し、中枢性病変では保たれるため、「補正サッケードが出ない=異常なし」ではなく「正常なのに眼振が持続している」という食い違いそのものが中枢性を示唆する2、純粋な眼振、のいずれか1つでも陽性なら・眼振・(HINTS)は中枢性ありと判定し、脳卒中として緊急評価する2
  • 眼振+失調+意識・注意の変容の徴候になりうる。三徴が揃わなくても疑い、検査結果を待たずを投与する。ブドウ糖を先行させると依存性のをさらに消費し、症候を顕在化・増悪させうる。
  • は、で急激に悪化する前から、眼振・失調という緩徐な所見だけで気づかれることがある。
  • によるでは、内転できない眼の対側眼に外転時の眼振が出る。局在の読み方はそのノートに譲る。

型と病巣の対応

眼振の型そのものがの手掛かりになる。

特徴 主な・原因
下方視・側方視で増強しやすい 頭蓋移行部(延髄移行部)。欠乏、1
上方視で増強しやすい ・延髄の。橋の脳卒中、、延髄腫瘍1
振子様・眼振 正中から離れた方向で出現・増強する 偏心を保持する脳幹・小脳の神経回路がうまく働かない状態。、脳幹脱髄、鎮静薬でも生じる1
の頭位眼振 頭位を変えるたびにの向きが反転する
数分ごとに自然に方向が反転する水平眼振 の障害。などが症状そのものを抑えうる1
一方の眼が挙上・し、他方が下降・する動きをに繰り返す 視床-中脳移行部・。下垂体腫瘍、など1

薬剤・中毒による眼振

・アルコール・鎮静薬はに眼振を来すため、眼振の有無と程度が血中濃度の手掛かりになる。

薬剤・物質 手掛かり
フェニトイン 血中濃度10〜20 mg/Lで軽度の水平眼振、20〜30 mg/Lで明らかな眼振、30〜40 mg/Lでが加わる。眼振の増悪はへの接近を示す早期の手掛かりになる3
カルバマゼピン 同様にの眼振を来す。は治療域でも軽度に、では状を伴って出る
アルコール・鎮静薬 、慢性のを介して眼振・失調を来す。鎮静薬は眼振の一般的な原因で、中止すれば改善する

小児の先天性眼振

先天性眼振(乳児眼振症候群)は生後6か月以内に発症し、振子様の波形をとることが多い。眼球の動きが最小になるがあり、それを正面近くに持ってくるため、患児は顔を傾ける・あごを引く(または上げる)といった特徴的なをとる。片眼をすると悪化する「顕在-」へ移行することもある1。白子症、先天性のなど視覚入力そのものが障害される疾患を背景に伴うことがあり、眼振の評価と並行して視覚系の精査を進める。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["眼振に気づいた・指摘された"] --> B{"急性〜亜急性か、慢性・先天性か"}
    B -->|"先天性・乳児期から"| C["先天性眼振として評価<br>視覚入力障害の合併を検索"]
    B -->|"急性〜亜急性"| D{"生理的な誘発条件で説明できるか"}
    D -->|"できる(極端な側方視・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Optokinetic'>視運動性</span>・温度/回転刺激)"| E["生理的眼振として除外"]
    D -->|"できない"| F["眼振の方向・性状を確認<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gaze'>注視</span>方向で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fast phase'>急速相</span>が変わるか"]
    F --> G{"難聴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tinnitus'>耳鳴</span>を伴うか、脳幹・小脳徴候を伴うか"}
    G -->|"難聴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tinnitus'>耳鳴</span>のみで中枢徴候なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral vestibular system'>末梢前庭</span>性として評価・管理"]
    G -->|"中枢徴候あり、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute vestibular syndrome'>急性前庭症候群</span>が持続"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head impulse'>ヘッドインパルス</span>・眼振・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='skew deviation'>斜偏倚</span>(HINTS)"]
    I --> J{"中枢性所見が1つでもあるか"}
    J -->|"あり"| K["脳卒中として緊急評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior fossa'>後頭蓋窩</span>はCTで見えにくいためMRIを選ぶ"]
    J -->|"なし"| H

所見への対応

眼振そのものを標的にした治療が成立する型は限られる。に対するなど、型が決まれば症状そのものを抑える選択肢がある例外はあるが1、大半は原疾患の治療に委ねるのが基本線になる。

  • 性ならと原因治療を優先する。
  • 中枢性なら脳卒中・脱髄・腫瘍としての緊急性の高い評価と治療を優先し、眼振自体の対症療法を急がない。
  • 生理的眼振・薬剤性眼振は、誘発条件の除去やの減量・中止が対応の中心になる。
  • 先天性眼振の多くは非進行性で、背景にある視覚系疾患の評価と屈折矯正、が中心になる。

まとめ

  • 眼振は不随意・律動的な眼球の往復運動で、方向はする。律動性を欠くは眼振に含めない。
  • 極端な側方視・刺激・温度/回転刺激による眼振は生理的で、病的眼振と取り違えない。
  • 末梢性はで抑制される・難聴を伴いやすく、中枢性はで抑制されない・が強い。
  • が正常なのに眼振が持続する所見は、かえって中枢性を示唆する。HINTSで中枢性所見が1つでもあれば脳卒中としてMRI評価に進む。
  • 下眼瞼向きは頭蓋移行部、上眼瞼向きは橋・延髄、は傍鞍部というように、型そのものがの手掛かりになる。
  • フェニトインなど一部の薬剤は血中に眼振を来し、程度がへの接近を示す手掛かりになる。
  • 先天性眼振は振子様の波形でによりをとり、視覚入力障害を背景に伴うことがある。

出典

  1. 1.Nystagmus Types(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)終末位眼振・視運動性眼振・温度/回転刺激誘発性眼振が生理的で疾患を示さないという分類、下眼瞼向き眼振(頭蓋頸椎移行部・Chiari奇形・マグネシウム欠乏・小脳変性)と上眼瞼向き眼振(橋背側・延髄病変)の局在、注視誘発性眼振が「漏れのある神経積分器」を反映し鎮静薬・小脳変性・脳幹脱髄で生じること、周期交代性眼振(数分ごとに反転しバクロフェン等に反応)とシーソー眼振(視床-中脳移行部・傍鞍部病変)の特徴、先天性眼振が生後6か月以内に振子様の波形で発症し静止位により代償頭位をとること、を確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Central Vertigo(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)前庭動眼反射の利得が末梢障害では低下する一方、中枢性病変では保たれるため、急性の持続性めまいでヘッドインパルスが正常であることはかえって中枢性を示唆すること、方向交代性眼振・純粋な垂直性眼振・斜偏倚のいずれかが中枢性を示す所見であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Phenytoin Toxicity(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)フェニトインの血中濃度10〜20 mg/Lで軽度の水平眼振、20〜30 mg/Lで明らかな眼振、30〜40 mg/Lで運動失調・構音障害が加わるという、用量依存的な神経毒性の閾値を確認した。閲覧 2026-08-03