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Disease Atlas · 運動器 · 先天性疾患

Mainzer-Saldino症候群

Mainzer-Saldino syndrome

別名
円錐骨端腎症候群conorenal syndrome
臓器系
運動器腎・泌尿器眼科小児
科目
PathologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
病理学 C/90:骨の先天性疾患発生学 9.5:骨格系:臨床
上位概念
線毛病
鑑別疾患
Ellis-van Creveld症候群短肋骨胸郭異形成症(Jeune症候群)短肋骨多指症候群頭蓋外胚葉異形成症(Sensenbrenner症候群)
合併症
ネフロン癆慢性腎臓病網膜色素変性
症状
眼振

🧠 全体像:Mainzer-Saldino症候群は、同じ骨系統のである(Jeune症候群)やと表現型の重心が逆という点で覚える。⭐ 骨格所見(指骨の)はこの群でもっとも目立たない一方、と腎不全は必発に近い。 「胸郭で呼吸を落とす」Jeune症候群、「+心臓」のに対し、Mainzer-Saldino症候群は「眼と腎臓」が主戦場であり、名前どおり「conorenal(円錐+腎)」症候群と呼ばれる理由もここにある。

位置づけと分類

Mainzer-Saldino症候群(MZSDS)は、の複合体Aの機能障害によるのである。2012年にIFT140の変異が原因として同定されるまで独立疾患として記載されていたが、現在は・(Jeune症候群)・・頭蓋(CED)とともに、GeneReviewsが並べる「骨系統の」5疾患の一つに位置づけられている1。16家系の検討では7家系(44%)にIFT140のまたはホモ接合変異が同定され、原著論文はMainzer-Saldino症候群を「Jeune症候群・に続く、IFT機構の破綻に起因する骨系統のの最後の1つ」と位置づけている2。はIFT140が主で、ほかにIFT172・WDR19も報告されている13。報告例はこれまで30例に満たない、きわめてまれな疾患である3。

病態機序

flowchart TD
    A["IFT140(IFT-A複合体の構<span class='jp-term jp-term-diagram' title='etiology'>成因</span>子)の両アレル機能喪失"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary cilium'>一次線毛</span>内での蛋白の逆行輸送障害"]
    B --> C["変異IFT140蛋白の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal body'>基底小体</span>への局在が低下し<br>細胞質染色が増加"]
    C --> D["線毛の形成障害・線毛を欠く細胞の増加"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphyseal plate'>骨端軟骨</span>・腎尿細管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>光受容体</span>という<br>線毛シグナルに依存する組織で機能不全"]
    E --> F["指骨の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cone-shaped epiphysis'>円錐状骨端</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephronophthisis'>ネフロン癆</span>型の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic renal failure'>慢性腎不全</span>"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early'>早発</span>性・重度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal dystrophy'>網膜ジストロフィ</span>"]

⭐ IFT-A複合体は線毛の「先端から基部へ戻す」逆行輸送を担う。 IFT140が両アレルで機能を失うと、患者由来線維芽細胞ではの局在が部分的〜ほぼ完全に失われて細胞質染色が増加し、対照に比べて線毛を欠く細胞の割合が高くなることが確認されている2。💡 同じIFT-A複合体の破綻でも、どの遺伝子(IFT140・IFT172・WDR19など)がどの程度機能を残すかで、骨格・腎・網膜のどれが前面に出るかが決まる——これは全体を貫くの一例である。

臨床像

⭐ 骨格所見は「あるが目立たない」。 指骨のがMainzer-Saldino症候群のもっとも特徴的な骨格所見で、異形成(小さく扁平な、短い頸部)・・を伴うことがあるが、(Jeune症候群)のような狭い胸郭・呼吸不全は本症の特徴ではない1。・は「まれな例」に留まるとされる3。

⚠️ 腎病変は型で、乳児期に発症すると急速にへ進む。 ある症例報告では生後20か月時に上昇・蛋白尿・代謝性アシドーシスが発見され、約3歳半でに至った。は一般に生存期間中央値13歳でに至るとされるが、乳児発症例はそれよりはるかに速く進行しうる3。

⭐ はこのの中で唯一「必発」とされる所見である。 が2〜30歳の間で最も高頻度な眼所見であり3、眼振を伴うことがある1。GeneReviewsは本症の骨格表現型を「この群でもっとも目立たない」と位置づける一方、は「必ず存在する(invariably present)」と記す1。肝疾患を伴うことがあるが頻度はまれである1。

診断

骨X線での指骨の確認、腎機能検査・による型腎病変の評価、によるの確認を組み合わせ、IFT140を中心とした(IFT140・IFT172・WDR19など)で確定する13。診療ガイドラインは確立していない。

鑑別

疾患 見分け方
(Jeune症候群) 胸郭低形成によるの呼吸不全が中核。腎・肝病変は乳児期以降に前面に出るが、Mainzer-Saldino症候群ほどは目立たない1
(98%)と(66%)が中核。腎不全・は目立たない1
高度の胸郭低形成・多発奇形を伴いが高い、はるかに重症の型1
頭蓋(CED、Levin-Sensenbrenner症候群) ・狭い胸郭・・肝疾患・を伴い臨床像が近いが、と(・)を伴う点で異なる1

まとめ

  • Mainzer-Saldino症候群は、IFT140を主因とするIFT-A複合体の機能障害によるの骨系統ので、報告例は30例に満たない。
  • ⭐ 骨格所見(指骨の)はこのでもっとも目立たない一方、腎(型)と網膜(、2〜30歳で最も高頻度)が主戦場である。
  • Jeune症候群のような狭い胸郭・呼吸不全は特徴ではなく、のような・も本症の中核ではない。
  • ⚠️ 乳児期発症の腎病変は急速に進行しうる——ある症例は生後20か月で腎障害が判明し3歳半でに至った。
  • 診断は骨X線・・に加え、IFT140を中心とするで確定する。診療ガイドラインは無く、腎・眼科の定期的な経過観察が管理の軸となる。

出典

  1. 1.Ellis-van Creveld Syndrome(GeneReviews (NCBI Bookshelf)・2023)Europe PMC経由でNBK596643の全文XMLを自分で取得して確認した(2023年10月26日初版掲載)。手の軸後性多指症・不均衡な四肢短縮型低身長・爪の異栄養/低形成・歯と口腔の異常・先天性心疾患・特徴的なX線所見(狭い胸郭と短い肋骨、短く太い管状骨、尺骨近位端と橈骨遠位端の球状肥大、手根骨・中手骨の癒合、指骨の円錐状骨端、小さい腸骨稜、寛骨臼の棘状突出=三叉状腸骨、脛骨プラトーの外側傾斜)を特徴とすること、Table 2に掲げる頻度(5報の集計)が手の軸後性多指症98%〈95%超で両側〉・四肢短縮83%〈出生前からの短縮36%〉・爪の異栄養/低形成78%・低身長73%・先天性心疾患66%〈80%超が心房中隔欠損〉・胸郭狭小66%・歯の異常59%・短指症35%・足の軸後性多指症34%〈90%超で両側〉・上口唇の欠損28%・発達遅滞9%であること、ほぼ全例が両手6本指で一部は7本指であること、成人身長が両親中間身長を下回ることが多く109〜152 cmの範囲であること、心疾患があるときはほぼ必ず心房中隔欠損を含み(単独のことも他の奇形と併存することもある)心室中隔欠損・単心房・左上大静脈も比較的多く概要の一覧には房室中隔欠損も挙がること、逆に左心室低形成・肺動脈弁狭窄/閉鎖・大動脈縮窄はHillsら2011に基づきまれとされること、Hillsら2011の報告として心疾患をもつ例の半数弱が何らかの程度の心不全を来すと記していること、知的障害は本症候群に典型的ではなく通常は正常知能で、発達遅滞/知的障害を示すのは一部かつ多くは軽度〜中等度であること、外反膝が脛骨外側骨幹端の骨化遅延によること、頭蓋と脊椎は通常正常で筋力も正常であること、5%未満のまれな所見として泌尿生殖器奇形・中枢神経奇形(Dandy-Walker奇形・脳梁低形成・小脳低形成)・感音難聴があること、原因遺伝子の内訳がEVC 49%・EVC2 38%・DYNC2LI1 3%・DYNC2H1 2%などで大半が常染色体潜性、PRKACAとPRKACBによる2%は常染色体顕性であること、2023年改訂のGenetic Skeletal Disordersの分類では「線毛または線毛シグナルの異常による骨系統疾患」(Group 10)に置かれ「chondroectodermal dysplasia (Ellis-van Creveld)」と呼ばれること、分子診断が確定した報告例は約250例でPennsylvania州Lancaster郡のAmishに創始者バリアントEVC c.1886+5G>Tがあること、鑑別として短肋骨胸郭異形成症(Jeune)・短肋骨多指症候群・Weyers顔面末端異骨症・頭蓋外胚葉異形成症・Mainzer-Saldino症候群という骨系統の線毛病が並ぶこと、診療ガイドラインは存在せず初回評価として骨格X線全身検索・心エコー・歯科診察・呼吸評価・腎骨盤超音波・聴力評価・発達評価を行い、余剰指の切除は希望に応じて、外反膝は必要に応じて手術し、新生児期や高度拘束性肺障害では人工呼吸を要しうること、経過観察として小児期は少なくとも年1回の成長計測と年1回の歯科評価、発達は成人まで各受診時に確認すること、骨盤・股関節の異常をもつ妊婦には帝王切開が勧められることを確認した。あわせて2026年9月7日にNCBIのライブページ(本文HTML)を自分で取得し、Differential Diagnosis節のTable 4(Skeletal Ciliopathies of Interest in the Differential Diagnosis of Ellis-van Creveld Syndrome)が骨系統の線毛病5疾患について原因遺伝子・骨格所見・骨格外所見・Ellis-van Creveld症候群との相違を列挙していることを確認した——①短肋骨胸郭異形成症(SRTD。表は formerly asphyxiating thoracic dysplasia, or Jeune syndrome と注記する)はCEP120・CFAP410・DYNC2H1・DYNC2I1〈WDR60〉・DYNC2I2〈WDR34〉・DYNC2LI1・DYNLT2B〈TCTEX1D2〉・GRK2・IFT122・IFT140・IFT172・IFT43・IFT52・IFT80・IFT81・KIAA0586・KIAA0753・TRAF3IP1・TTC21B・WDR19・WDR35 が挙がり、骨格は胸郭低形成(軽症型から致死型まで幅広い)・handlebar clavicles・short trident pelvis/ilia・短い管状骨・短指症・円錐状骨端・軸後性多指症(まれ)、骨格外は網膜変性・肺低形成・肝膵腎の嚢胞性病変・腎不全・肝不全で、Comments欄が胸郭異常による呼吸障害はSRTDのhallmarkでありEVC症候群よりはるかに高頻度かつ高度であること、腎と肝もよく侵されること、多指症はSRTDではまれであることを述べる。②短肋骨多指症候群(SRPS)はDYNC2I1・DYNC2I2・DYNC2LI1・IFT122・IFT80・IFT81・INTU・NEK1・TRAF3IP1・WDR19 で、高度の胸郭低形成・多指症(軸は一定しない)・長管骨末端の球状肥大・橈尺骨の彎曲・脛骨低形成、骨格外は胎児水腫様外観・舌の過誤腫・二分舌・心肺喉頭蓋腎膵生殖器の奇形・鎖肛・全前脳胞症で、EVC症候群よりはるかに重症で周産期死亡率が高いこと。③Weyers顔面末端異骨症(WAD)はEVC・EVC2 で、軸後性多指症・軽度の低身長・軽度の短指症を伴う短い手、骨格外は爪の異栄養・歯の異常(円錐歯・部分無歯症・萌出遅延)・多発する小帯で、EVC症候群の軽症型(骨格所見がより目立たない)とされ足の軸後性多指症はEVC症候群より多いこと。④頭蓋外胚葉異形成症(CED、Levin-Sensenbrenner)は頭蓋縫合早期癒合・狭い胸郭・四肢近位部の短縮・高度の短指症・軸後性多指症(まれ)、骨格外は外胚葉異形成・前頭部突出と低位耳介の特徴的顔貌・皮膚と関節の弛緩・進行性腎不全・肝疾患・網膜変性で、EVC症候群と違って頭蓋縫合早期癒合・腎不全・肝疾患・網膜変性を伴うこと。⚠️ CEDの遺伝子欄は誌上の表で IFT122 IFT40 IFT43 WDR19 WDR35 と印字されているが IFT40 というヒト遺伝子は存在せず(同じ表のSRTD欄・MZSDS欄はいずれもIFT140を挙げる)IFT140の誤植と考えられるため、本ノートには確実な4遺伝子だけを「など」を付けて書いた。⑤Mainzer-Saldino症候群(MZSDS)はIFT140・IFT172・WDR19 で、頭蓋縫合早期癒合、低身長、指骨の円錐状骨端、大腿骨異形成(小さく扁平な骨端、短い頸部)、骨格外は小頭症、歯の異常、眼振、網膜色素変性、進行性腎不全、肝疾患(まれ)で、骨格の表現型はless pronouncedである一方 retinal dystrophy is invariably present、腎不全と腎奇形もきわめて多いこと。さらにMolecular Pathogenesis節が、EVCとEVC2は一次線毛の基底小体で複合体をなす膜蛋白をコードし線毛上のHedgehogシグナルの伝達因子として必須の機能を持つこと、そのシグナルが one of the fundamental drivers of the development of the orofacial region, the endochondral plate of the axial skeleton, and cardiac morphogenesis であることを述べているのを確認した閲覧 2026-09-07
  2. 2.Mainzer-Saldino Syndrome Is a Ciliopathy Caused by IFT140 Mutations(The American Journal of Human Genetics(Perrault I, Saunier S, Hanein S, et al.)・2012)PMC3555764として公開されている全文を自分で取得して確認した。Mainzer-Saldino症候群を「指骨の円錐状骨端・慢性腎不全・早発性で重度の網膜ジストロフィ」を特徴とする疾患と定義していること、16家系の検討で7家系にIFT140の変異(複合ヘテロ接合またはホモ接合)を同定したこと、変異型IFT140蛋白は基底小体への局在が部分的〜ほぼ完全に失われ細胞質染色が増加すること、患者線維芽細胞で対照に比べ高い割合の細胞が線毛を欠くことを確認したこと、Jeune症候群・短肋骨多指症候群に続く「IFT機構の破綻に起因する骨系統の線毛病」の系列に本症を位置づけていることを確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.IFT140 Mutation and End-Stage Renal Disease in Mainzer-Saldino Syndrome: A Case Report(Cureus(Marhoon SE, Ali AH, Husain A, Alsudan AA, Elshabrawy EG)・2024)PMC10925067として公開されている全文を自分で取得して確認した。指骨の円錐状骨端がMainzer-Saldino症候群の最も目立つ所見の一つであること、報告例では低身長・運動失調を伴わなかったが「まれな例」ではこれらも起こりうると文献を要約していること、生後20か月時に血清クレアチニン上昇・蛋白尿・アニオンギャップ開大を伴う代謝性アシドーシスが偶然発見され約3歳半で末期腎不全に至ったこと、若年性ネフロン癆は一般に生存期間中央値13歳で末期腎不全に至るが乳児発症例はより急速に進行しうると文献が述べていること、網膜色素変性が2〜30歳の間で最も高頻度な眼所見でありこの患児は4歳時の眼底検査で陽性であったこと、患児がIFT140遺伝子のホモ接合病的バリアント(NM_014714.4:c.634G>A、p.Gly212Arg)を有し両親が近親婚であったこと、原因遺伝子としてIFT140のほかIFT172・WDR19が挙げられること、本症候群の報告例がこれまで30例に満たないことを確認した。閲覧 2026-09-07