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Disease Atlas · 眼科 · 先天性疾患

網膜色素変性

Retinitis pigmentosa

別名
網膜色素変性症RP
臓器系
眼科
科目
GeneticsHistology
トピック
遺伝学 4.1:単一遺伝子遺伝遺伝学 4.4:常染色体優性遺伝(AD I)組織学 17.1:感覚器:眼
鑑別疾患
Leber先天黒内障
症状
夜盲
検査値
網膜電図
画像所見
嚢胞様黄斑浮腫
元疾患
Joubert症候群Senior-Løken症候群Usher症候群
原因となる疾患
Bardet-Biedl症候群

🧠 全体像(RP)は、のうち杆体から先に、周辺から中心に向かって変性していく遺伝性の網膜ジストロフィーである。この「どこから」「どの順で」侵されるかが臨床像をそのまま決める——薄暗い場所で先に見えにくくなるが最初の症状になり、周辺網膜の杆体が失われるにつれて輪状が形成され、さらに進行すると視野)に至る。は100種類以上に及び遺伝形式も多様だが、約2〜3割はの一部として現れることを忘れてはならない。RPE65両アレル変異という特定の遺伝子型には、視覚回路そのものを修復する遺伝子治療(ボレチゲン ネパルボベク)という例外的な選択肢がある。

病態

網膜のは、暗所での感度が高く周辺視野を担う杆体と、・中心視力を担う錐体に大別される。RPの多くはまず杆体が変性し、後になって錐体が二次的に障害される杆体錐体ジストロフィーという経過をたどる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='causative gene'>原因遺伝子</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span><br>(100種類以上、遺伝形式は多様)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>光受容体</span>の機能・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='structural protein'>構造蛋白</span>の異常"]
    B --> C["杆体の変性が周辺網膜から始まる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='night blindness'>夜盲</span>(最初の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='awareness (subjective)'>自覚</span>症状)"]
    C --> E["周辺網膜の杆体機能低下が<br>環状に広がる"]
    E --> F["輪状<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scotoma'>暗点</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='concentric visual field constriction'>求心性視野狭窄</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular'>管状</span>視野)"]
    C --> H["錐体も二次的に変性"]
    H --> I["末期に中心視力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='color vision'>色覚</span>も低下"]

💡 杆体が周辺網膜に多いという解剖学的な分布が、症状の進む順序をそのまま決めている。 網膜の最周辺部は杆体が優位であるため、変性はまず視野の周辺部・から始まり、に杆体が少なく錐体が優位な領域は比較的遅くまで保たれる。この「周辺から中心へ」という進行パターンこそが、→輪状という臨床経過の解剖学的根拠である。

臨床像

症状は→輪状の順に進むというのが、RPを理解するうえで最も重要な骨格である1

  • :暗の遅延・低下としてされる最初の症状で、多くは小児期〜青年期に始まる。
  • 輪状:中間周辺部の杆体変性が環状に広がることで生じる
  • がさらに周辺・中心へ広がり、最終的に視野に至る。中心視力は比較的長く保たれることが多いが、末期には錐体機能も低下し中心視力・も障害される。
  • :中間周辺部の骨小体様色素沈着(変性した細胞が血管周囲に移動して生じる)、の狭細化の蝋様蒼白1。これら三徴は病初期には目立たないことがある。

診断

機能をに評価する検査で、診断・重症度評価の中心になる。早期には杆体反応の振幅低下・延長がみられる一方で錐体反応は保たれるが、進行に伴い振幅はさらに低下し、末期には検出不能となる1。眼底所見・視野検査・家族歴と組み合わせて診断し、可能であればを同定する遺伝学的検査を行う。

遺伝形式

RPのは100種類を超え、遺伝形式も一様ではない。 が約5〜20%、常染色体優性が約15〜25%、X連鎖劣性が約5〜15%を占め、残る約40〜50%は家族歴を伴わない孤発例とされる1。この遺伝形式の多様性そのものが、を1つに絞り込めない本症の性質を反映している。

症候群性RP

⚠️ RPの約2〜3割はで、の一部として現れる。 網膜変性だけを診て終わらせず、随伴する所見から症候群を疑う視点が要る。

症候群 網膜変性以外の主な特徴
Usher症候群 感音難聴を合併。RPに合併する症候群として最も頻度が高く、RP患者全体の約18%を占める1
杆体錐体ジストロフィー・・体幹性肥満・を伴う全身
Senior-Løken症候群 に伴う網膜変性

では、網膜変性が診断の主徴の一つであり、大多数の患者が10代半ばまでに高度のに至る。 ・肥満のような目立つ所見の陰で進行する網膜変性を見落とさないことが、この症候群の診療における要点になる。

RPE65と遺伝子治療

RPE65の両アレルには、視覚回路そのものを修復する遺伝子治療という例外的な選択肢がある。 RPE65サイクルの酵素をコードし、その両アレル欠損はRPおよびLeber先天の原因となる。ボレチゲン ネパルボベクを用いて機能的なRPE65遺伝子を細胞へ送達する遺伝子治療で、2017年に米国FDA、2018年に欧州EMAで承認された、眼科領域で最初の遺伝子治療である2。適応はRPE65の両アレル変異が確認され、かつ治療に応答しうる生存網膜細胞が十分に残っている患者に限られる2

合併症:嚢胞様黄斑浮腫

⚠️ RPはを合併することがあり、これはで漏出所見を示さないことがある。 通常のCMEがの破綻による血管性の漏出であるのに対し、RPに伴うCMEは内への直接的な液貯留という別の機序で生じるため、造影検査が陰性でもCMEを除外できない3。治療には局所など)が用いられ、中心黄斑厚を減少させると報告されている4

まとめ

  • は杆体から周辺網膜優位に始まる進行性の変性で、症状は→輪状の順に進む。
  • 眼底のは骨小体様色素沈着・狭細化・蒼白で、網膜電図では杆体反応から先に振幅低下・消失が進む。
  • は100種類以上、遺伝形式も常染色体優性・劣性・X連鎖・孤発例と多様である。
  • 約2〜3割はで、Usher症候群(感音難聴、最多)、、Senior-Løken症候群を伴いうる。
  • RPE65両アレル変異には、機能的遺伝子を送達するボレチゲン ネパルボベクという遺伝子治療が承認されている。
  • を合併することがあり、蛍光眼底造影で漏出所見を示さないことがある点で通常のCMEと機序が異なる。

出典

  1. 1.Retinitis Pigmentosa(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)最初の症状が通常は夜盲であり、続いて視野の狭窄が生じること(Introduction節)、眼底の古典的三徴が骨小体様色素沈着・血管狭細化・視神経乳頭の蝋様蒼白であること(History and Physical節)、網膜電図で早期には杆体反応の振幅低下・潜時延長がみられ錐体反応は正常にとどまるが、進行すると振幅がさらに低下し最終的に検出不能となること(Evaluation節)、常染色体劣性が約5〜20%、常染色体優性が約15〜25%、X連鎖劣性が約5〜15%、残り約40〜50%が孤発例であること(Etiology節)、Usher症候群がRPに合併する症候群として最多で全RP患者の約18%を占め、Bardet-Biedl症候群・Senior-Løken症候群も代表的な症候群性の型であること(Differential Diagnosis節)を確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Voretigene neparvovec for inherited retinal dystrophy due to RPE65 mutations: a scoping review of eligibility and treatment challenges from clinical trials to real practice(Eye (London)・2024)ボレチゲン ネパルボベクが2017年に米国FDA、2018年に欧州EMAで承認された最初の眼科領域の遺伝子治療であること、適応が*RPE65*の両アレル病的バリアントによる遺伝性網膜ジストロフィーで十分な生存網膜細胞を有する患者に限られること、機序がアデノ随伴ウイルスベクターで機能的な*RPE65*cDNAを網膜色素上皮細胞へ送達し視覚回路を回復させることであることを確認した(Introduction節)。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Cystoid macular oedema without leakage in fluorescein angiography: a literature review(Eye (Nature)・2023)網膜色素変性に伴う嚢胞様黄斑浮腫は血液網膜関門の破綻ではなくMüller細胞内への液貯留という別機序であり、フルオレセイン蛍光眼底造影で漏出所見を示さないことがあると報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-11
  4. 4.Efficacy of carbonic anhydrase inhibitors in management of cystoid macular edema in retinitis pigmentosa: A meta-analysis(PLOS ONE・2017)網膜色素変性に伴う嚢胞様黄斑浮腫の治療として局所炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド等)が中心黄斑厚を減少させると報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-11