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Disease Atlas · 眼科 · 先天性疾患

先天停在性夜盲

Congenital stationary night blindness

別名
CSNB先天停止性夜盲
臓器系
眼科小児
科目
Medical Genetics and Immunology (Genetics)Medical Biophysics
トピック
遺伝学 4.8:伴性遺伝生物物理学 22.08:光感覚の反応過程
鑑別疾患
Leber先天黒内障眼皮膚白皮症網膜色素変性
合併症
弱視
症状
夜盲近視眼振斜視
検査値
網膜電図

🧠 全体像:(CSNB)を理解する一点は⭐ 「光を受け取る杆体・錐体自体は壊れていない。壊れているのはその先、へバトンを渡す“シナプス”である」ことである。だからのようにそのものが変性していく病気とは違い、生まれつきの症状のまま一生変化しない——これが「stationary(停在性)」という名前の由来であり、との鑑別点でもある1。⚠️ もう一つの急所は、ERGの波形が診断そのものになることである。 眼底は正常に見えるため、後のスコトピックERGでよりが小さい「陰性波形」を確認しないと診断にたどり着けない2。

病態——光受容体から双極細胞への「シナプス」が壊れる

⭐ CSNBの根本的な機序は、杆体・錐体からのON型へのグルタミン酸の障害である1。自体の変性ではなく、が放出するシグナルを次の細胞が受け取れないという「伝達の断絶」が本態である。

flowchart TD
    A["杆体・錐体<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>光受容体</span><br>(光を受け取る機能は正常)"]
    A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic'>シナプス前</span>部でグルタミン酸を放出"]
    B --> C["ON型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar cell'>双極細胞</span>のグルタミン酸受容体<br>(TRPM1・GRM6・NYX・CACNA1Fが関与)"]
    C -.->|"遺伝子変異でこの伝達が障害される"| D["ON型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar cell'>双極細胞</span>が興奮できない"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scotopic vision'>暗所視</span>の情報が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ganglion cell'>神経節細胞</span>へ伝わらない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='night blindness'>夜盲</span>・ERGの陰性波形(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='a-wave'>a波</span>は正常、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='b-wave'>b波</span>が著明に低下)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>光受容体</span>自体は変性しないため<br>非進行性に経過する"]

は病型ごとに異なり、いずれも—間のグルタミン酸シグナル伝達に関与する2。

病型 遺伝形式 障害される
Riggs型 RHO 常染色体優性 (自体の機能低下)
Schubert-Bornschein完全型 GRM6・TRPM1・NYX (GRM6・TRPM1)/X連鎖(NYX) ON型のみ
Schubert-Bornschein不完全型 CACNA1F X連鎖 ON型・OFF型の両方

2

⭐ X連鎖型が臨床上もっとも重要で、NYX(完全型、約45%)とCACNA1F(不完全型、約55%)の2遺伝子で大半を占める。 NYXは杆体シナプスのGPI結合タンパク質ニクタロピンを、CACNA1Fはをコードする1。

臨床像

  • ⭐ :障害としてされ、特にNYX型(完全型)で顕著1
  • :軽度(-0.25D程度)から高度(-10.00D以上)まで幅があり、まれにもある1
  • 眼振・:患者の50〜70%にみられ、振り子様・・斜め方向・高頻度低振幅という特徴的な性質を示す12
  • :正常(重症例でも軽度の異常にとどまる)1
  • 眼底:Riggs型・Schubert-Bornschein型とも通常正常。があれば性変性を伴うことがある12

⚠️ 視力の程度は病型で異なる。 Riggs型は視力20/20を保つことが多いが、Schubert-Bornschein型(特に完全型)ではがみられる2。不完全型(CACNA1F)では72%の患者で・眼振・のいずれか1つ以上が欠けており、「3徴すべてが揃わないと否定できる」わけではない1。

💡 2歳未満で眼振が誘発されるとを来しうる。 乳児期の視力不良が眼振の引き金になり、視覚経験の乏しさがそのままとして定着する2。

診断——ERGの「陰性波形」が本体

⭐ 全視野ERGが診断の中心であり、や通常の画像検査だけでは正常に見えるため診断が遅れやすい2。

病型 暗所0.01(杆体単独) 暗所3.0/10.0(混合応答) 明所3.0 30Hzフリッカー
完全型 消失 b:a比低下(陰性波形) 正常、幅広い谷、に立ち上がる 正常振幅、延長しうる
不完全型 振幅低下 b:a比低下、二峰性のピーク 振幅低下 振幅低下

2

⚠️ 「」という言葉に注意する。 これはが正常に保たれるのにだけが著明に低下し、よりの振幅が小さくなる波形を指す——Schubert-Bornschein型(完全型・不完全型とも)に共通する所見で、Riggs型(自体が平坦化する)とは区別できる2。診断確定には、この特徴的なERG所見に加えて家族歴によるX連鎖遺伝パターンの確認、での同定を組み合わせる1。

鑑別診断

⭐ 最大の鑑別軸は「進行するかどうか」である。 CSNBは定義上非進行性で、やのように進行する疾患とはこの一点で区別できる1。

鑑別対象 分けかた
進行性の病型ではERGが生後早期から著明に振幅低下し最終的に記録不能となる点でCSNBと異なる
で初発する点は似るが、進行性でが経過とともに悪化・消失する
青錐体一色型 を伴い、フォトピックERGが著明に低下する
X連鎖若年 眼底にまたは分離を認める
I型 ・黄斑低形成を伴う
眼底白点症 に散在する小白点を眼底に認める
Oguchi病 眼底に灰白色の金属様光沢を認める

12

⚠️ 「非進行性」という定義そのものが絶対ではない。 近年、GRM6・CACNA1F変異の一部で視機能・網膜所見の悪化が報告されており、真に「stationary」と言えない例もあることが指摘されている2。進行性の網膜萎縮や視機能低下を認めたら、Åland島眼疾患やX連鎖のような進行性疾患を疑う1。

管理

  • :・コンタクトレンズによる・の矯正が基本1
  • :眼振のnull point(眼球運動が最も少なく視力が良い方向)を機能的な位置へ移すために計画されることがある1
  • 定期眼科検査:特に幼少期は毎年のを含む眼科検査での早期発見・矯正を行う1
  • 💡 遺伝子治療は研究段階の選択肢として挙げられているが、の合併が治療効果を限定する要因になりうる2

まとめ

  • CSNBは自体ではなく、からへのが障害される疾患で、非進行性に経過する点が最大の特徴。
  • ERG所見でRiggs型(暗所で自体が平坦化)とSchubert-Bornschein型(正常・著明低下の陰性波形)に大別され、後者はさらに完全型(ON型のみ障害、NYX・GRM6・TRPM1)と不完全型(ON型・OFF型とも障害、CACNA1F)に分かれる。
  • 臨床的にはX連鎖型(NYX・CACNA1F)が中心で、・・眼振・を呈するが正常な・通常正常な眼底を伴う。
  • 診断は全視野ERGの陰性波形が本体で、眼底・通常の画像検査は正常に見えるため見逃されやすい。
  • 鑑別の要は「進行するかどうか」——やは進行性でCSNBと区別できるが、近年一部の遺伝子型で非進行性の定義に反する報告もある。
  • 管理は・・定期眼科検査が中心で、乳児期に眼振が誘発されるとを合併しうる。

出典

  1. 1.X-Linked Congenital Stationary Night Blindness(GeneReviews (NCBI Bookshelf)・2019)X連鎖先天停在性夜盲(X-CSNB)が視力低下(20/30〜20/200)・防御的でない暗順応障害・屈折異常(多くは近視、軽度〜高度)・眼振/斜視(50〜70%)・正常な色覚・通常正常な眼底所見を特徴とすること、原因遺伝子がCACNA1F(シナプス前カルシウムチャネル、約55%)とNYX(杆体シナプスのGPI結合タンパク質ニクタロピン、約45%)でいずれもX連鎖遺伝であること、根本的な機序が杆体・錐体光受容体から内網状層のON型双極細胞へのシナプス伝達障害であること、完全型(NYX)は夜盲が重症でERG b波が著明に低下または消失し振動電位も消失する一方、不完全型(CACNA1F)は72%の患者で近視・眼振・夜盲のいずれかが欠落し低下の程度も軽いこと、診断が暗順応後の明るいフラッシュに対するスコトピックb波振幅低下とa波よりb波が小さい「陰性波形」(Schubert-Bornschein型)の確認、家族歴によるX連鎖パターン、分子遺伝学的検査による確定からなること、鑑別として青錐体一色型色覚異常(色覚障害を伴いフォトピックERGが著明に低下)・X連鎖若年網膜分離症(眼底に黄斑分離または周辺部網膜分離)・眼皮膚白皮症I型(虹彩透光性・黄斑低形成)・常染色体劣性CSNBが挙げられること、管理が屈折矯正(眼鏡・コンタクトレンズ)と眼振のnull pointを機能的位置へ移す斜視手術、幼少期の毎年の屈折検査を含む定期眼科検査からなること、本症最大の特徴が非進行性であり進行性の網膜萎縮や視機能低下をみたらÅland島眼疾患やX連鎖錐体桿体ジストロフィーを疑うべきことを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Congenital Stationary Night Blindness: Clinical and Genetic Features(International Journal of Molecular Sciences(Kim AH, et al.)・2022)CSNBがERG所見によりRiggs型(暗所での平坦なa波、a波・b波とも低下、明所反応は正常)とSchubert-Bornschein型(a波は正常でb波が著明に低下する「陰性波形」)に大別されること、Schubert-Bornschein型がさらに完全型(ON型双極細胞のみ障害)と不完全型(ON型・OFF型双極細胞の両方が障害)に分かれること、原因遺伝子と遺伝形式がRHO(Riggs型、常染色体優性)・GRM6とTRPM1(完全型、常染色体劣性)・NYX(完全型、X連鎖)・CACNA1F(不完全型、X連鎖)であり、GRM6・TRPM1・NYXは双極細胞—光受容体間のグルタミン酸シグナル伝達に関与すること、臨床像として夜盲・近視・眼振(振り子様・非共同性・斜め方向・高頻度低振幅と表現される)・斜視が共通し、Riggs型は視力20/20を保つ一方Schubert-Bornschein型は視力低下を示すこと、乳児期に視力不良が2歳未満で眼振を誘発すると弱視が生じること、CSNBは定義上非進行性だが近年GRM6・CACNA1F変異で視機能・網膜所見の悪化が報告され真に「stationary」でない例もあること、眼底所見が鑑別に有用で眼底白点症は後極に散在する小白点、Oguchi病は灰白色の金属様光沢を呈する一方RiggsおよびSchubert-Bornschein型の眼底は正常であること、全視野ERGが診断に重要であり眼底検査や通常の画像検査が正常なため診断が遅れうることを確認した。閲覧 2026-09-07